第十三話 柚葉からのお願い
通学路の途中に少し広い場所があって、土管などが置いてあるったりする遊び場があると果桜に教えてもらった場所を通り掛かると、か弱い猫の鳴き声が聞こえたような気がした。寄り道をしたらいけないことはわかっていたけど、鳴き声に呼ばれるまま足が向かっていた。
「あっ、にゃんこ! ちっさい」
――どうしよう…… 家では飼えないし。
土管を見つめ途方にくれかけたとき後ろから声が聞こえた。
「あ、あの……松岡さん?」
「へ!?」
一瞬ビクッとしたが、そっと声のしたほうへ振り返ると
「あ、匠くん……」
匠君はただ私が抱いている子猫を見ていた。
「あ、あの……ここを通ったら声が聞こえちゃって……その、別に寄り道したかったわけじゃないんだけど、一目見たらかわいいんだもん!! 離れらなくなっちゃって……」
思わず、言い訳のように話している自分が恥ずかしくなった。
「でも……」
家では飼えないことを思い出した。これを匠君に話してみることにした。
「でもね……うちじゃ飼えないんだ……」
「そうなの?」
「うん……」
なんだか悲しくなってきたとき、匠君が
「じゃ、じゃぁ……僕が……ウチで飼うよ!!」
「え!?」
思わず笑顔が溢れ振り向いて、匠君の腕を掴んでいた。
「ほんと!! ありがとう。嬉しいよ!!」
「え!? あ、うん」
――やったぁ!!
この子を見つけてしまったことを後悔しなくて済むことや、猫の話題で匠君とこれからたくさん話すことができるかも……と思えて嬉しかった。
――この際、もうひとつお願いしてみようかな……
「それともう一つついでにお願いがあるんだ……」
「お願い? 僕に出来ること?」
「出来ると思うよ……」
「そうか……じゃぁ、なんだいそのお願いって?」
匠君を、少し見つめて
「その……私の事は名前で呼んで欲しい……柚葉って」
「え……!?」
「うん。できるよね? 呼んでみて」
ちょっと強引だったかな?
「えと……柚葉……ちゃん?」
「はい!! でもちゃんはいらないんだけど……」
匠君が考え込んでいるように見える。
「それはちょっと……」
匠君はブンブンと首を横に振って拒絶している。ここで引いたらダメって果桜が教えてくれた。
「えぇ~!? でも果桜ちゃんはそうしているのに?」
「え? 果、果桜は昔からだし……」
匠君が焦っているのが手に取るように伝わる。
――でも、諦めない! 果桜だけ呼び捨てして仲良しなんだもん。仲間になりたい。前の学校でできなかったことをこの学校で繰り返したくない!
「ゆ……柚葉……」
匠君が呼び捨てで呼んでくれた!
「や、やったぁ~!!」
「そ、そんなに嬉しいの?」
――この質問は恥ずかしくて答えられないから誤魔化しちゃおう!
「えっと……そ、そんな事より子猫ちゃんの事よろしくね!!」
そう伝えて走ってその場を離れた。
――あ!! 名前つけてあげるの忘れちゃった。きっと匠君が可愛い名前をつけてくれるはず! 明日、こっそり学校で聞かなくちゃ……
明日の学校が楽しみになってきた。
果桜と仲良くなってから、少しだけ積極的になった柚葉。これからの柚葉を楽しみにしてもらえたら嬉しいです。
by 菜須 よつ葉
次回は(匠side)です。
※ 次回も菜須 よつ葉先生に書いて頂きました(*^^*)




