表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Color  作者: 菜須よつ葉 &藤谷 K介 &ひな月雨音
12/26

第十二話 ねこ

(匠side) by 藤谷 K介



挿絵(By みてみん)

 

 頭の中でグルグルと考える。

 ――果桜かおうのやつ……どういう意味いみだ?

 柚葉とふたりにさせてあげないからね――


「意味が分かんねぇよ……」

 先に帰ってしまった果桜の事を考えながら一人で帰り道をとぼとぼと歩いていた。


「にゃー……」


 考え事しながらだったから気のせいかと思った。どこからか分からないけど小さなき声が聞こえた。

「? なんだ?」


 帰り道はまっすぐ帰る事というのが先生から言われている事だったこともあるし、今迄いままで学校の決まり事をやぶった事が無い僕は、声がする方も気になるけど、そこに行ってみるといういう気もなかなか出せないでいた。


「にゃ~ん……」


 ――前の方から聞こえる……


 声は歩いて進む分だけ確実かくじつに大きくなっている。この先には道の左側に少し広い場所があって、土管どかんなどがいて有ったりする僕らにとっては格好かっこうの遊び場となっている。小さかった声はそこから聞こえてきているような気がする。

 さすがにこのままランドセルを背負せおったまま中に入って確認するわけにも――


「なっ!?」

 そのまま広場を通り過ぎようと思ったその時、その眼に飛び込んできた光景こうけいに思わず声が出た。すぐそばで見なくても分かる人がいた。土管の中でなにやら声をかけながらランドセルを背にしたまま、しゃがんでいる女の子。


 ――ま、松岡まつおかさん……?

 ドキリと胸の中でなにかがはずんだような感覚かんかくがした。顔は見えないけど確信に近い想いを持ったまま、その女の子の方へと歩いて行く。


「きゃ……ちょ……にゃ」

「にゃ~」

 下を向いていることもあって女の子は僕の事に気付いているそぶりはない。声は楽しそうに土管の中の何かに向けられている。


「あ、あの……松岡さん?」

「へ!?」

 おそるおそる声をかけた僕に、向こうを向いたまま体をビクッとふるわせて声を上げた女の子は、そっと僕の方へと振り返った。


「あ、たすくくん……」

 僕と気付いた彼女は笑顔を見せて、そのまま身体も僕の方へと振り返る。胸の前で交差こうさされた彼女のうでの中には小さな子猫こねこが「にゃ~」っと元気な声で鳴いていた。

 その姿に少し見惚みとれてしまった僕は何も声を出せずにいた。

 どうやら土管の中にはこの子猫しかいないみたいだ。


「あ、あの……ここを通ったら声が聞こえちゃって……その、別にり道したかったわけじゃないんだけど、一目見たらかわいいんだもん!! はなれなくなっちゃって……」

 松岡さんはあたふたと顔を赤くしながら猫を抱きしめた。


 ――あ、かわいい……猫もだけど……


「でも……」

 松岡さんは突然クルっと体の向きを変えて、土管の前にしゃがみ込んだ。その声は少し震えている。


「でもね……うちじゃえないんだ……」

「そうなの?」

「うん……」

 僕はその先の事を考える前に言葉にしてしまっていた。

「じゃ、じゃぁ……僕が……ウチで飼うよ!!」

「え!?」

 凄い笑顔を見せながら松岡さんは振り向いた。そして僕の両手をガシっとにぎる。

「ほんと!! ありがとう。うれしいよ!!」

「え!? あ、うん」

 ブンブンと両手を振りながらフフフと笑う松岡さんは本当に嬉しそうで、つい口走ってしまった言葉をもう引っ込める事は出来ないと思った。


「それともう一つ、ついでにお願いがあるんだ……」

「お願い? 僕に出来ること?」

 手をはなした松岡さんは自分の背中側に両手をまわして少しはにかんだような表情ひょうじょうで僕を見つめてくる。

「出来ると思うよ……」

「そうか……じゃぁ、なんだいそのおねがいって?」


 僕の方を見て少し黙り込む松岡さん。すると――


「その……私の事は名前で呼んでしいな……柚葉ゆずはって」

「え……!?」

「うん。できるよね? 呼んでみて」

 僕は体が熱くなった。たぶん顔まで真っ赤になっていると思う。

「えと……柚葉……ちゃん?」

「はい!! でもちゃんはいらないんだけど……」

 元気よく手を上げる松岡さん。


 ――これは……ずかしいな。

「それはちょっと……」

 僕は呼び捨ては出来ないとブンブンと首を横に振った。

「えぇ~!? でも果桜ちゃんはそうしているのに?」

「え? 果、果桜は昔からだし……」

 どうして果桜の名前が出て来るのか良く分からないけどすごく困る。


 でも松岡さんの顔はとても期待きたいあふれた表情で眼はキラキラとかがやいている。


 ――いうしかないのか……

 のどをゴクッと一つ鳴らしてつばを飲み込み、ようやく口を開けた。

「ゆ……柚葉……」


 松岡さんは眼をバッテンにして胸の前でグッとこぶしを握りぶるっと震えた。


「や、やったぁ~!!」

 片手をグッと突き上げてぴょんぴょんと飛び回る。

「そ、そんなに嬉しいの?」


「えっと……そ、そんな事より子猫ちゃんの事よろしくね!!」

 いうが早いかけ出すのが早いか、柚葉はそのまま走って行ってしまった。


「そんな事って……あ、ネコどうしよう……」


 残された僕は土管からネコを取り出すと胸の前でギュッと抱いてため息をついた。夕日がしずみゆくあかい町の中をそのまま子猫と一緒にてこてこと歩いてゆっくり帰って行った。


お読み頂いている皆様に感謝をm(__)m


何気ない日常の会話なんかも物語に入れていきますのでお楽しみください。

自分の小さい時などを思い出しつつ読んで頂けると嬉しいです(*^^*)

by 藤谷 K介


次回は(柚葉side)by 菜須 よつ葉先生です!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ