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 丑三刻男に下された判決は当然の如く死刑であった。

 上告も一応してはいるが、覆ることはないだろう。

 虐められた側は昔の事でも一生覚えているというパターンも多いが、世間では『そんな昔の事で』となってしまうのも自明の理であり、刻男の主張をも通らない可能性が高い。

 しかし、そんな状況であっても彼はタダで死ぬつもりなど毛頭ない。

 むしろ、支給される食事で英気が戻ったことと、新たに現れた未刻という警官の罵倒によって刻男は生きる意味を再び見つけていた。

(捕まった事で新たな標的を見つける事ができたが、すぐにでも殺しに行けないのがもどかしいな)

 と、常々思っていたのである。

 その為、獄中では脱獄に使えそうな情報をひたすら刑務官にバレないようにしつつ集めていた。

 建物の構造や見張っている職員の性格や能力などのベタな情報や、外から聞こえるエンジン音等の些細な情報まで何から何まで集めていく。

 そして、僅かな隙をついて協力者数人と共に、トラックに隠れて脱走した。

 その数時間後、刑務所で受刑者数人がいない事に気づき、すぐにその情報が公開された。


 未刻は自分が捕まえた犯人であるというにもかかわらず、刻男の事などすっかり忘れている。

 彼は刻男が散々恨んできた未刻瑛太と似たような性格をしており、どちらかと言えば虐めの加害者気質である。

 加害者というのは自分が被害者にしたことを全く覚えていないというケースも多く、彼が被害者側の事を覚えていないのも別に何らおかしいところはない。

 さらに、最近では恋人ができてそちらにぞっこんだったので尚更であろう。

 この日は非番だった為、久しぶりに彼女を誘って食事へと行っていた。

 そろそろ婚約しようと考えていたので思い切って奮発した店選びをしている。

「どうしていつものお店と違うの? 随分と敷居が高そうなところだけど」

 その事について早速突っ込まれた。

「電話でしょっちゅう話していたからあまり遠くに感じなかったけど、俺たちって会うの久しぶりなんだぜ。だから、そのお詫びにと思ってな」

 未刻はそう言うと、真面目な顔を作った。

 そして重ねて、

「だけど、もうこんなに会えない日が続くのは嫌だ。お前と一秒でも長く居てぇって思う」

 と言った。

 タイミングを見計らってウェイターが小さな箱を持って来る。

 未刻はその箱を開けて恋人の方へと差し出し、

「結婚してください」

 と、言った。

 恋人は考える間も無く、

「嬉しい……、ありがとう。末長くお願いいたします」

 と、答えた。

 すると、周りから歓声や拍手が湧き上がる。

 店の人が気を回してくれたらしい。

 二人は幸せな雰囲気で食事を終えた後、駅で別れた。

 未刻としては彼女と泊まりたかったし、彼女もまんざらではなかったが、翌日の仕事があるからという事でこの日はそれぞれ自分の家へと帰っている。

 浮ついた足取りでアパートへと向かい、鍵を開けてすぐさま布団に飛び込む。

 そのまま布団に入りながらしばらくスマートフォンを弄っていたが、突然インターホンが鳴った。

(こんな時間に誰だよ……)

 面倒くさがりながら誰が来たのかを確認しに行こうとすると、到達する前にカランという音が宅配ボックスの中から聞こえた。

 音の感じからして軽い金属のようなものがそこに入れられたらしい。

 この程度では未刻はまだ驚かない。

 しかし、間髪入れずに響いて来たボトッ、ボトッという音には流石に違和感を感じた。

 音の感じからしてそこそこ重量があって且つ柔らかいものだろう。

「誰だ!? 何の用があって来た!?」

 声を荒げて問うがすぐには返答がない。

 少し間を置いた後、

「俺はお前とは一秒も長くいたいとは思わないがな」

 と、掠れた声が聞こえて来た。

 未刻は青ざめながら、恋人に電話をかける。

 が、繋がらない。

 彼が彼女の安否を確認しようと躍起になっていると、玄関の扉を蹴破るような音が聞こえ始めた。

 このままではドアを破られて不審者に中に入られてしまうが、現在身を守るのに役立ちそうな物を何も持っていない。まともに護身しようとなると部屋に一旦戻って準備する必要があるが、そうなると電話をかける回数が減ってしまう。

 護身か恋人か。

 どちらを優先すべきか結局決めかねたので、折衷案として近くにあったビールの空き瓶を手繰り寄せつつ電話をかけ続けた。

 しかし、相変わらず出ない。

 ついにドアから木が割れるような音がし始めた。耐久度の限界が近いらしい。

(仕方ねぇ、無事だと信じて一旦こっちに対処するしかねぇな。やられるよりはこっちから先にやってやる)

 未刻はビール瓶を持って自らドアを蹴破り外へと躍り出た。

 こうする事で不審者はドアと手すりに挟まれて身動きが取れなくなるという寸法である。

 が、ドアは何も挟む事なく手すりにぶつかった。

 直後、彼の左方から影が迫る。

 以降、未刻の視界は途絶えた。

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