補助席に座ってただけなんですが。
走馬燈のように景色がゆっくり流れていた。プツリと記憶が途絶えたと思ったら、白い場所にいた。死んだな、と思ったんだ。
僕は周りを見回して安堵した。何故なら知った顔があったから。同時にみんなもキョロキョロしている。誰かが言った。
「何この変な部屋」
「交通事故だね。俺たち死んじゃったんだろうな」
「そんな!?」
「他のみんなはどうしたんだろう? 私たち七人だけ?」
この場には確かに七人しかいない。僕たちは修学旅行のバスで移動中だった。山道を軽快に走っていたハズなのに、集中豪雨に晒された車内は騒然としていたんだ。スリップしてバスが飛んだから。気付けばこの白い空間ってわけ。何が何だかさっぱりだけど、状況はなんとなく理解した。アレだ。クラス転移。ラノベで流行ったやつ。今更感が半端ないんですけどー、なんて思うけど。
でもこの七人、一体なんの共通点があるんだろうね? あ、あれか。負け組的な何か。情けなさが強襲しそうだったから慌てて僕はこの考えを捨てようと思う。じゃぁ、なんだろう、共通点……。
結局答えはわからないから考えるのやめよう。思考を放棄して気持ちを切り替える。うん。ポジティブに行こう! クラスメイトと状況整理をしているうちについにイベントですよ!
僕達の目の前にはそれはそれは綺麗な女神様がおるんやで♪ てな具合で現れましたよ、神秘的な服装の女性。うん、ここまでテンプレ通りでしょうか。その方は言いました。
「ようこそ! 不幸に見舞われた皆さん。でも大丈夫! そんな皆さんには新しい人生を用意しました」
努めて明るく振る舞う女性、もうめんどくさいので女神様で通しましょう。この方がおっしゃるんですよ。僕たちはバスの事故で死んだって。日本で流れているニュースを見せられたら信じるしかないじゃないですか。横にいるクラスのアイドルのあの子が手で口を押さえて必死で涙を堪えている様子は見ていて辛いものがある。まぁ、出ないんですけどね、涙。
女神様が言うにはどうやら僕たちには地球ではないどこかの世界に転生させるという話でまとまっていたそうなんだけど、なんかのトラブルで転移になるんだって。死んでるのに? 細かいことは理解できないけど、まぁそういうことらしい。僕たち全員を転移させるという。
「あの、全員って? バスにいた全員?」
「他のみんなも!?」
女神様は頷く。
「ここには七人しかいませんけど……。みんなに会えるんですか!?」
女神様は顔を引き攣らせながらもコクコクと頷いた。うん、怪しい。問い詰めて行こう。僕は小さく手を挙げた。目ざとく察してくれた女神様は僕に発言を促す。
「あの……一体僕らに何をさせるおつもりなんでしょう?」
一斉にみんなが女神様を見る。注目を集める女神様は全員を見渡して言った。
「その質問に答える前にまず、知っておいて欲しい事からでいいでしょうか? まぁ勝手に話しますけれどね」
何故か僕にウィンクしてくる女神様にイラッとしつつも我慢する。
この方が語るのはこういう話だった。
これから行くことになる世界には魔法が存在する。そして魔族と人族の絶え間ない戦いが。両者は死力を尽くして戦い続けているそうな。そして、禁忌である異世界召喚を両者が強行に踏み切った。
ん? 両者が? 魔王を倒してくださいというアレじゃなくて? 話の腰を折ることも出来ずに、質問も出来ずに僕たちはあんぐりと話を聞いている。結論が見えない。
あろうことか魔族側も人族側も全く同じ古代の魔法陣を模倣し、それぞれの捕虜の血を使って陣を起動させた。
そして、指定された座標とは関係なく、二つの魔法陣がひしめき合い、反発し、融合し、分離した。そして人族側に十六人、魔族側に十六人が召喚された。
バスの中には三十九人いたはずなんだ。運転手とガイド、担任、副担任の大人四人と生徒三十五人。この白い空間にいる僕たち七人を入れると数は合う。召喚された? もう先に行ってるということかな?
「それぞれの側で勇者十六人と魔王十六人が召喚されたわけなんです」
ええ!? どういうわけですか? 理解が追いつかない僕たちをよそに女神様は続ける。
人魔大戦が最終段階に入っているものの、召喚された勇者や魔王はレベル1。今は停戦協定が結ばれているとか。それぞれで鍛え上げ、停戦期間が終わる頃に最終決戦が予定されているという。
異世界召喚とはいえ、僕たちは一度交通事故で死んでいる。例の「誘拐だ! 身の保証を要求する!」と言ったような、待遇改善不遜キャラを演じることも出来ない。まぁ、隣に座っていた僕の親友に、ラノベ大好きがいたはずだから、テンプレヤッホーしてるかもしれないけど。うん、たぶんテンション上がってるだろうね!
じゃぁ、この場所にいる僕たちは何故ここにまだいるんだろう?
ようやく女神様は僕たちの事を説明する段に入ったようで、一旦言葉を切ってから一人一人に目を配った。
「そこで、あなた方にはこの世界の審判者になってもらおうということになりました」
そう言ってから、良かったですねと僕たちに微笑んだ。何が良かったのかもさっぱりわからない。曰く、審判者とは世界の調律を担当し、理から外れた存在なのだとか。特典として、物理無効と魔法無効の体を要し、寿命以外では死なないのだとか。チートキタコレと僕の友人なら喜んでいた事だろうね。
魔王や勇者が世界を破滅に導かないよう、時には介入し、企てを挫き、そっとしておいたり、誘導したり、兎に角バランスを保つようにして欲しいらしい。そのための無敵の身体。
なんとなく説明は終わりの響きを帯びてきた。いよいよ世界に転移させられそうになる。いや、ちょっと待って欲しい! 何故、僕たちは普通に? ー召喚自体普通じゃないがー 召喚されなかったんでしょう?
困った顔で女神様は頬を掻き掻きした。
「いや、あのですね……そのぅ、実は魔法陣が交差してですね……」
バスの真ん中を境に人族側と魔族側に真っ二つに別れたんだって! 僕たちはそれにかからなかった七人なんだとか。なにそのミラクル!? せめぎ合ってた魔法陣の歪みに投げ出された僕たち七人の共通点がやっと見えた。
バスの真ん中に。
補助席に座ってただけなんですが。




