第9話 魔王スライム再び
少し投稿が遅くなりました
今回は少し文字数多めとなっています
「ふざけるなーーー!!!」
寝ている間に森に置き去りにされ唐突にサバイバル訓練が始まった
そんなことがあれば思わず叫んでしまっても仕方ないだろう
暫く事態が呑み込めず天を仰いだまま固まっていたが、それでどうにかなる分けもなく伝言にあった荷物と装備のチェックを始める
タオル、歯ブラシ、雨具、砥石、アイテム袋(中身はお金、冒険者カード)、植物図鑑、地図、コンパス。
他には昨日買った装備を起きた時から装備していてマチェットも腰に差してあったが肝心な物が無かった
「・・・・食べ物は?」
《無いです》
「重要なことだからもう一度言おう、食べ物は?」
《重要なことだからもう一度言いましょう、無いです》
「ふざけるなーーー!!!」
つい、また叫んでしまったが仕方ないだろう。
サバイバルにおいて最も重要な食糧がないのだ、叫びたくもなるだろう
「最初っから食糧無しで頼りになるのは植物図鑑だけか」
植物図鑑なんて全部暗記したが、実際に探せるかは別問題だ!
そもそも、この植物図鑑は植物の特徴や、毒の有無、味について書かれていたが、肝心の生息地域が凄い曖昧(例、○○の森北部)に書いてあって図鑑を頼りに食べられる植物を探しても一日中探して見つからない未来しか見えない
つい、ぶん投げてしまいそうになるが我慢して状況を整理しよう
まず、地図とコンパスで現在位置の確認だ・・・・
「エイ、現在位置とか分かる?」
《正確な場所は不明、東に進めば迷宮都市アーバルに戻れると言われているので推定で現在位置は、アーバル西にある森の奥と思われます》
地図とコンパスもあるし夕方から朝(?)までの間に置き去りにするにも、遠くまで運べなかったと見ていいのかもしれない
そう考えると気が楽になったし、さっさとサバイバルを終わらせて帰ろうという気にもなってくる
サバイバル知識は昨日軽く教わっただけだが次の日に実践でやる羽目になるとは、夢にも思わなかったし昨日の夢にも出なかったな
《何うまいことを考えたつもりになっているんですか》
「ツッコミありがとう、エイ」
さて、気が動転していて気付かなかったが、よく見れば目の前に食べられそうな植物(野イチゴ?)があるので教わった簡単な毒物判別方法でも使いますか
毒物判別方法
その1、見た目で食べられそうか判断する(これは野イチゴで食べられそう)
その2、磨り潰して肌にくっ付ける。この時、肌がヒリヒリとするようなら毒
その3、ほんの少し舌の上で味を見て、ヒリヒリ痺れなければ食べられる
この野イチゴは、その2の段階で肌がヒリヒリしてきたので毒っぽい
《毒で正解です。》
寝床の近くにあったんだ罠かと思ったが案の定、罠だったな
恐らく置き去りにする際の寝床に食べられそうな見た目の毒物がある場所を選んだのだろう
(デドラのジジイのニヤケ顔が目に浮かぶ)
俺がコンパスを見て東へ進もうとするのと、そいつが現れたのは同時だった
そいつは大きなイノシシだった
推定で全長2.5m、全高1.2mほどの巨大イノシシ、牙が鋭くてヌメヌメしている
《ポイズンボアという魔物です、牙に毒があります》
多分、野イチゴ(?)を食べに来たんだろうと思われるが俺に気づいてターゲットを変更しやがった
野イチゴ(?)でも食べて腹壊せばいいのに
《ポイズンボアはレッドスネーク(野いちごと呼んでいた物)を食べても平気です》
そんなことはどうでもいいから10mほどの距離を置いて睨み合っているこの状況についてアドバイスをほしい
《魔法で牽制攻撃が妥当です》
鞘から抜いたマチェットに氷を生やして投げる魔法、氷の初級槍を使うがノーコンな俺が当てられるはずもなく外す
俺も当てられるとは思わないので両手で氷の初級槍を連射する
数撃ちゃ当たると思ったが見事に外れまくる
気のせいか狙われてるポイズンボアから呆れられてるような感じがする
《いい牽制魔法です》
「嫌味かコン畜生!」
エイに対して返事をしたとこで魔法が途切れ、その隙を狙うようにポイズンボアが突撃してきた
《一本鞘に戻して迎撃態勢!!》
なるほど当たらないなら当たる距離まで近づけばいいってことだな!
《身体強化10倍発動!》
突撃を片腕で抑えて止まったところで首を切り落とす!
《無茶です!!》
ドンとした衝撃とともに鼻を押さえて突撃を受け止めたはいいが、
足が地面を滑りながら後退していく
近くの木の根に引っかかり止まるが、片手で押さえつけたせいで攻撃のために重心を変えたら押し切られそうだ
《魔法!》
了解だ、魔法、刀状の氷!
次の瞬間、刀のような氷が地面からいくつも生えボイズンボアを貫いていく
「ふぅ、終わった」
そう思ってしまったのがいけなかったのだろう
気が付いたら最後の力を振り絞ったのかポイズンボアが刀のような氷を折って突撃してきた
終わったと思って油断した俺はその突撃を食らい牙を刺され吹き飛ばされる
ポイズンボアは満足したのか突撃したのを最後に動かなくなったが俺がやばぇ!
傷事態は大したことないが毒を貰ってしまった
《ポイズンボアの毒は初期》
「大丈夫か?」
エイの言葉を遮るように声が聞こえた
そちらを見てみると一匹のスライムが居た
バスケットボールより一回り大きいぐらいの黒い球体に、身体の約半分を占める大きな口が歯を見せながら笑っていた
「スライム?」
「そう、私の名はスライム。種族名として知られるほど分体を生み出した魔王。
序列2位、最弱で不死身などと呼ばれている魔王スライム、それが私だ。どうぞよろしく」
目の前にスライムの魔王、いや聞いた話だと魔王スライムが現れたが黒くて不気味なだけのスライムじゃんという印象だ
《毒は初期から抗体があるので平気です》
ポイズンボアの毒は平気らしい、さすが戦闘用のホムンクルスといったところなのかな?
「よくわからないが、よろしく。それと毒は抗体があるから平気らしい」
「ほう!抗体がすでにあるのか!さすが最高の戦闘用ホムンクルスといったところだな!」
「最高の戦闘用ホムンクルス?」
「自分のことなのに知らないのか?ホムンクルスとは通常、生まれたときは赤子並みの知能だが1年ほどで成人並みの知識を身に着ける。
戦闘用なら、それにプラスして戦闘技能も身に着ける。
君はそれらにプラスして前世の異世界の知識を身に着けている、これが最高の戦闘用ホムンクルスではないとすると何なのかね?」
《全て事実です。ご主人様は最高の戦闘用ホムンクルスとして作られました。》
「いや、俺も初めて知ったんだけど」
「そんな調子で序列1位の魔王、オントンを倒せるのか?
死にたいが自殺はできずに殺されることを願い人類種に敵対続ける魔王。
君が異世界に呼ばれた一因であり絶望した救世主」
「序列1位を殺して自分が序列1位になりたいのか?」
「ハーハッハハハハハ、序列なんてのは人類種が魔王を古い順から呼んだだけの小賢しい策だ。
序列を気にして魔王達が争うことなど無い、魔王はそれぞれの役目を負ってある目的を果たそうとしているだけだ。
その目的のための役目が、世主、情報収集、観測、守護、育成。
私が情報収集で、オントンが恐怖の救世主、
ついでに言うとオーガの魔王、名をセキエンというが彼が異世界人の育成、つまり君の育成を目的として何時か接触するだろうが怖がらないで鍛えられてほしい。」
勢いで凄いこと喋ってる気がするがいいのだろうか?殺されたりしないと思うのはオーガの魔王が異世界人を鍛えるとか聞いたからだが、そんな話を聞けば逃げるに決まっているし俺も出来れば逃げる予定だ
「デドラの訓練でもウンザリなのに魔王の訓練とか嫌だから出会ったら逃げることにするわ」
「・・・・ああ、逃げられるなら逃げるといいさ、こちらのことは気にせず全力で逃げろ」
すっごい笑顔で逃げろって言ってるから逃げられないって思っているんだろうな
《私も逃げられないと思っています》
うるせぇ!迷宮都市アーバルにさっさと戻って逃げる準備してからオーガのいる場所から反対方向に逃げるんだよ!
「逃げることにする、そのオーガはどこにいるんだ?」
「有名なオーガの森にいるな、場所はこの国の東、ガスタ王国との国境線近くにある森がそうだ。」
「そうか、なら反対方向に」
「いけないぞ」
《西に行くと港町イーマンスですが四日前に海龍に襲われて壊滅しています》
「港町イーマンスのこと知っているのか」
「イーマンスだけではない、イーマンスの南にある港町サーレンジも海龍に襲撃されているはずだ。
勘違いしそうだから言っておくが海龍は住処としていた海龍島が火山噴火したために近場の陸地に散っただけだ、私たち魔王が港町を襲わせたわけではない!」
「疑って悪かったな」
「素直なのはいいことだ!逃げるなら他の方角もあるが南は魔王オントン領、北は夏でも通過が難しい海で東に行くしか道はないぞ」
「なら暫くこの国で過ごす!」
「それがいい、オーガの魔王が鍛えずともデドラがやってくれるだろう。
私は君と話せて満足したので帰らせてもらうが、君も迷宮都市アーバルに帰りたかったらこの方角にまっすぐ進むといい、アーバルまで最も障害物が無く進めるぞ」
聞くとコンパス頼りに東へ進むと大きな崖に突き当たり迂回しないと進めないのだとか、デドラのジジイの嫌らしい罠があったもんだ
《置き去りにした場所も事前に調べた上で難易度高い場所を選んでいると思われます》
「ありがとうスライム色々助かった」
「なに私から君と二人っきりで話がしたかったのだ、例には及ばない」
「そうか、じゃあな」
「ああ、さようならだ異世界人よ」
こうして魔王と初めての対面は無事に終わり迷宮都市アーバルに帰ったが、帰ったばかりの迷宮都市はどこか殺伐としていた。
近くの店の人に聞いてみたが理由は分からなかった。
今度は冒険者ギルドに行って聞いてみたところ、ここから西南の港町サーレンジが海龍に襲われたらしい
スライムに聞いて知っていたが裏が取れてしまった。
これで切っ掛けで本格的に冬に餓死者がやってくる等の噂が広まってしまった
それが海龍と人間の生存を懸けた勝負の始まりとなるのだった・・・
作中にでている毒物判別方法はテレビで見た覚えた程度の知識なので実際どの程度信頼できる方法なのか分かりませんので注意してください