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28 ツインテールの彼女

「髪の毛、結んでいい?」


 次の日の朝、すぐに小屋にやってきたロザリーは、わくわくした顔でそんなことを言った。


「――髪」


 寝起きだったエマはただ繰り返す。ロザリーは頷き、エマの髪の毛に触れた。気持ち悪さを感じ、エマは反射的にその手を払う。力の加減が出来ず、ロザリーの手の甲に引っ掻いた傷が浮かんだ。一筋血が浮き上がるのを、アリスが見て眉をひそめる。こいつは暴力にうるさい。


「エマ」

「うるさい、死ね」


 咎めるように言うアリスにそう答える。すると、またロザリーが手を伸ばしてきた。エマはぎょっとして彼女を睨むが、彼女は平然と微笑んでいる。


「どうして髪の毛伸ばしてるの? リルベルさんみたいに一つに結んだら?」

「めんどくさいから」


 切るのも面倒だし、結ぶのも面倒だ。わざわざ結んでくれるような、甲斐性のある人間は、エマの周りにはいなかった。


「じゃあ、結びたくないってわけじゃないのね!」


 ロザリーは嬉しそうに言い、髪に触れてくる。エマはまた振り払おうとしたが、視界の端にいるアリスが睨みつけてくる。そちらの方が面倒で、エマは溜息を吐いて、好きなようにさせることにした。まるで幼児と一緒にいるような気分だ。


 ロザリーが髪の毛を触っているのは放っておいて、鞄の中を整理する。拳銃に弾を込めなおし、短剣は錆がないかチェックする。着たばかりの、洗い立ての衣服に、破れがないか確認する。袖のところを少し前に破っていたのを、どうやら誰かが縫い合わせてくれたようだ。気の利くことだ、と思いつつ、ホルスターを腰にセットする。鞄を締め直していれば、ロザリーが声を上げた。


「よしっ! いいんじゃないかしら」


 その声に、近くにいたリルベルが顔を上げる――そして、ぷっ、と噴き出した。


「やだ、可愛い」

「――は」


 リルベルの笑い声に気付き、他の面子もこちらを見る。そしてそれぞれがニヤニヤ笑って見せた。


「な……お前何したッ」


 後ろでニコニコしているロザリーを振り返って言えば、さっと鏡を差し出された。

 見れば、赤茶色の髪が、両耳の上で結ばれている。いわゆる、ツインテール、というやつだ。しかも、そこまで髪が長くないので、髪の先が肩に触れており、それがさらに幼さを助長した。

 もともとエマは身長が低く、童顔である。こうしてみれば、幼い女の子にも見えた。


「な……」


 思わず言葉を失うエマに、ロザリーは満足げに微笑む。


「年相応で可愛いわ」

「と、年相応って――」


 耐えきれなくなったロバートが腹を抱えて笑いだす。エマはそちらを本気の殺意を込めて睨んだ後――その時にアリス以外の面子もげらげら笑っていることに気付いてさらに殺意を高めながら――ロザリーに向き直った。


「お前、私を幾つだと思ってんだ」

「え、十二とか、十三とか……」

「それより五、六は上だよッ」


 エマは吼えるように言えば、ロザリーはえぇっと素っ頓狂な声を上げた。


「じゃあ、私と変わらないくらいじゃない……」


 ややあってから、ごめんね、という優しい声がした。エマはわざとらしく盛大な溜息を吐いた後、わざわざ髪を解くのも癪で、もう一度他の面子を睨みつけた。


 アリスだけが、


「似合うよ」


 と無表情に言葉を放っていた。

配分を間違えました。

短くなったので、次話も連続投稿します。

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