14 岩から剣を抜くのは誰?
「アリス」
ミーシャと別れ、病室に戻ってくると、ユースが待っていた。彼はアリスと目が合ってにこりと微笑んでから、思い出したように暗い顔をした。
「……残念な知らせだった。けど、君が無事で良かったよ」
アリスは何も答えなかった。何と言えばいいかわからなかった。
正直――『勇者御一行』の戦闘能力はともかく、実戦への応用がまるで駄目だった。あれで先鋭だと言うならば、アリスがもっと上手く先導しようとも、『神の子』とやらを無事にこの特区まで連れ帰るのは難しいのではなかろうか。
アリスの考えを見透かしたように、ユースは憂鬱そうな顔をして溜息を吐く。
「彼らが亡くなって、とても悲しいだけじゃない、この島の未来も大きく揺らいだよ」
重い息を吐く彼の目の下には濃い隈があり、部下の死に哀しんでいるだけでなく、計画の頓挫にも悩まされているのだとすぐにわかった。
「これから……どうするんですか? 彼らでこの結果なら、その次に優秀な人たちを送り込むとしたって、結果は……」
アリスがそこまで言ったところで、ユースは首を横に振った。
「無駄に死なせるような真似はしたくない。とりあえず送り出す、といったことは絶対にしないよ」
アリスはほっとした。人がいるかぎり続投していく、と言ったらどうしようと思っていたのだ。ユースの言う通り、『勇者』であの有様なら、それより劣る人々は無駄死にするだけとなる。
「じゃあ、どうするんです?」
「……手がないわけじゃ、ない」
ユースは歯切れ悪く言った。その視線も泳いでおり、言い辛そうにしている。アリスは首を傾げ、しばらく黙って言葉を待っていたが、ユースはなかなか続きを口にしなかった。長い沈黙があってから、彼はまた溜息を吐きながら、ゆるゆると頭を振る。
「……君は気分を悪くするかもしれない。君の助けが必要ではあるが、どうしても嫌だというなら、今回は、同行してくれなくてもいい」
「え?」
「それくらい、君には言いづらいことなんだ。でも、もし君が、正義の心に従って――亡くなった仲間たちの分も、やり遂げようと思ってくれるのなら、ぜひ、同行して欲しい、とだけ伝えておく。でも、強制はしない」
「いったい、何をするつもりなんですか?」
アリスが驚いて聞けば、ユースは一瞬だけ言葉を詰まらせた後、覚悟したように言った。
「特区には……公式に訓練を受けている兵士と、自らの力で強くなった者とがいる。基本的に後者は……そうだな、『悪党』と言えるかもしれない。麻薬を吸ったり、犯罪を働いている者が多いから」
「――まさか……」
「そのまさかだ。その『悪党』どもに力を借りる」
アリスは息を呑んだ。『悪党』――思い浮かぶのは、アリスが特区を出て行こうとした時、路地で見かけた、麻薬に侵されていた男の姿だ。あんな訳の分からないような人間を、いくら強いと言えど外に連れ出して大丈夫なのだろうか。屍人に殺される前に、自滅してしまいそうな気がする。
「それ……本気なんですか?」
アリスが尋ねれば、ユースははっきりと頷いた。
「話が通じそうな『悪党』と面識のある人間が、知り合いにいるんだ」
その目は真剣だった。冗談を言っているわけではなさそうだ。『悪党』に頼らねばならないほど、この島の状況は緊迫しているのだろう。アリスは頷いた。
「とりあえず、会ってみます……」
「ありがとう、その、一つだけ先に伝えておくが、その『悪党』の中には……」
アリスはそこまで聞いて、嫌な予感がした。ユースがその提案をするのを散々に躊躇った理由。一つだけ、明確に思い当たる節があった。アリスが勘付いていることに気付いたのか、眉を寄せながら、ユース言った。
「君の兄を殺した少女もいる」
今回のタイトルは、映画とは無関係。
短くて済みません。




