陣内和哉は諦めが悪い
「あーいか♡」
それはある平和な休み時間のこと。
教室で雅宗のことを妄想していた私の前に突然奴が現れた。
身長179cm、茶髪がかった猫毛に整った目鼻立ち。
容姿は完璧、ついでに頭脳明晰で運動神経も良い。
聞くだけではまさにオールパーフェクトな男、陣内和哉である。
聞くだけでは、ね。
「陣内くーん!」
「なんでうちのクラスにー??」
オールパーフェクトな男はモテる。
そんなのどんな世界でも共通のこと。
陣内君が我がクラスへ来たことにより、クラスの女子の目からは無数のハートが飛び散っていた。
「ごめんね、今日は愛華に用があってきたんだ。」
その一言で女子の以上なまでの殺意のある視線が私に突き刺さった。
「えー、なんで愛華?」
「愛華には高尾君がいるじゃん。イケメンばっかに色目使ってんなよ。」
「男好き。」
おいおい聞こえてるぞ。
酷い言われようである。
私はこんなにも雅宗一筋っていうのに。
「何の用?」
これ以上グチグチ言われるのはごめんだ。
さっさとあしらおう。
「今日俺とデートしない?」
「しない。」
こんなに即答で否定したのにまだ女子の視線が殺すぞと言っている。
「陣内君のお誘いを断るなんてありえなーい!」
断っても受けても嫌味を言われるなんて…。
「ありえなーい!」
陣内君は調子に乗って女子達の真似をした。
「そんなことのためにわざわざ教室までくるのやめてよね。あとウザイ。」
「即答って酷いな〜。どうしてもダメ?」
上目遣いで首をかしげて困った顔。
はい、女子の小悪魔テクニックですねー。
てかお前は女子か!
「はぁ…ちなみにデートってどっか行きたいとこでもあるの?」
その言葉に困った顔がぱあっと明るくなった。
「あるのあるの!だから行こう!」
「ちなみに、だから!行くとは言ってない。」
「なんでよー行こうよー!行ってくれたら少しは高尾とのこと応援しなくもないかもよー?」
うぐ…。
雅宗のことになると弱いのが私だ。
応援してくれるなら別に断る必要もない。
むしろ好都合だ。
「…少しだけだかんね!」
私のその一言でこの後どうなったかはご想像いただきたい。
えぇ、放課後まで消しカスから悪口だらけの丸まった紙などなど、色んなものが飛んできました。
消しゴムもう手元に残ってないんじゃねってぐらい。
雅宗も昔からモテたから、女子からの攻撃なんてもう慣れたもんだけどね。
「ちょっと…愛ちゃん大丈夫?」
美緒が見兼ねて声をかけてきた。
「いや、慣れてるし余裕だよ。てか消しゴム勿体無いよねー。」
「人気者幼馴染みとずっと一緒にいればそれもそうか。でも陣内和哉の取り巻きは怖いよ〜?」
だろうね…。数も圧倒的に多そうだし。
「なんでまたそんなやつの誘いにのるかなぁ。」
「確かに最悪やろうだけどさ、根は悪いヤツじゃないし断る理由もないからね。」
「愛ちゃんはお人好しすぎるって。」
そう言って美緒は笑ってくれた。
こんな状況でも私から離れず理解してくれる。
心から信頼できる相手がいればそれでいい。
「美緒もくる?てかむしろ来て。」
「ごめーん、今日は裕樹とデートなの♡」
裕樹…あぁ、まだ付き合ってたのか。
もともと雅宗が狙っていた美緒の彼氏である。(1話参照)
「まだ付き合ってたのとか思ってるでしょ!」
「バレた?」
「顔に書いてあるもん。裕樹が好きなんだから仕方ないでしょ。」
これに関しては私は文句も言えない。
そりゃあそーだ。
私だってホモが好きなんだから。
「いや、ただ私より彼氏かぁって思って。」
「もちろん!だって愛ちゃんには高尾がいるじゃーん。」
それが本当に彼氏彼女って立場なら、ここでにやけながらだよねー、と言えるとこなんだけどね。
私が陣内和哉と2人で出かけると言ったところで雅宗は陣内君にでなく、私に嫉妬するんだろう。
だって雅宗が好きなのは陣内君なんだし…。
「ほら愛ちゃん!そんな暗い顔しないのー。今日は陣内君とデート楽しんでおいで!」
陣内君とデート…。
響きは悪くないが相手が悪すぎる。
ああ、神様!どうか雅宗にだけはバレませんように!
放課後、すぐに陣内君は私のクラスまで迎えにきた。
「ちょっと!目立つから校門にいてよ!」
陣内君は私の心を見透かすような目で、微笑を浮かべた。
「だってここまでこなきゃ愛華逃げるだろ?」
「べ、別に逃げないし。」
「ふーん?」
「んで、行きたいところってどこ?」
何故か落ち着かなくて話題を変えた。
周りの視線はどこまでも痛い。
「んー?んーーーーー。」
「ん?」
「んーーーー。んーーー?」
は?
終始笑顔で唸る陣内和哉。これはまさか…。
「行きたいところが本当はなかったってことはないよね?」
「んーー。」
○ね。
「私帰るから。」
「あっちょっと待って!」
帰ろうとする私の腕を陣内君が掴んだ。
「なに?用がないならいいじゃん。」
「用ならあるよ!ほら、固めるには周りからって言うじゃん?」
にっこり首をかしげる。
だけど可愛こぶっても無駄である。
「意味わからないんだけど。」
「高尾だけに宣戦布告したって現実味ないじゃん?周りに俺が愛華にベタ惚れって知られれば周りも協力的になるし、なにより高尾にも本気が伝わると思う。」
確かに一理ある。
「でもぶっちゃけ私は迷惑。」
思わず声に出てしまった。
「...まぁ愛華は高尾が好きだし付き合ってるから迷惑かもしれないけどさ。愛華を好きで高尾から奪いたいくらい好きだったり、それってもう卑怯な手でも使うしかないじゃん?」
陣内君はそう悲しそうに微笑む。
こんなに好きと言われて、真っ直ぐにぶつかってきてくれる陣内君に正直揺れない訳ではない。
きっと陣内君と付き合った方が幸せになれる。
イケメンだし…イケメンだし!
でもそれじゃ私の気持ちに嘘をつくことになる。
真っ直ぐ陣内君はぶつかってきてくれるんだから、私も真っ直ぐ陣内君に返さなきゃいけない。
「陣内君の気持ちは嬉しいよ。すごく。でも私は雅宗が好きで、気持ち悪いとこも好きで、そんな気持ちで陣内君と付き合うなんてできない。」
「なら俺は全力で愛華の気持ちごと奪うよ。好きでいるぐらい自由だろ?」
何にも返す言葉がなかった。
私だって同じような立場にいるんだから。
「わかった。受けて立つ。」
陣内君は嬉しそうに笑った。
「ありがとう愛華。じゃあ今日はもう遅いしゲーセンでも行く?」
翌日、私が学校で何が起きたかなんて皆想像がつくであろう…
もう絶対あいつとはデートしない!
そう心に決めたのであった。