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ホモ彼氏のオトしかた  作者: ろばてーる
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かくれんぼ

幼い頃、何度も雅宗と遊びに来ていた公園で再び迷った私はひたすら走っていた。

しかしいくら走っても走っても雅宗は見つからない。

どこ行ったのよ…。

私は走り疲れて案内板の隣に座り込んだ。

さっきまで居心地良かったこの静けさが、今はこの世界から全部消えて私だけ独りぼっちになってしまったような感覚に陥る。

耐えきれず涙が出てきた。

そして思い出す。

あの日もそうだった。

調子に乗って、わざわざ遠くへ隠れて、独りぼっちが怖くて。

一番に浮かんだのは雅宗の顔。

「雅宗…雅宗どこー?!寂しいよ…雅宗ぇ!うぐっ」

雅宗の名前を何度も何度も叫んだ。

雅宗は私を見つけるのが得意だ。

だから絶対また私を見つけてくれる。

そう自分に言い聞かせてひたすら名前を呼んだ。

「愛華!…みっけた!」

どれぐらい叫んでいたのだろう。

パタパタという足音と、聞き慣れた声で涙で濡れた目を開けた。

そこには、汗でびしょびしょになった笑顔の雅宗が私を覗き込んでいた。

そして優しく…

「愛華、…やっぱりここにいた。」

あの日と同じだ。

私は顔を上げて声のする方を見上げる。

そこには私の大好きな顔があった。

あの頃より、少しだけ大人になった雅宗が、

汗を流して、必死な顔で。

「雅宗…。」

堪えていた涙はもう止められなかった。

ボロボロと泣く私を雅宗は、またあの日と同じように優しく抱きしめる。

「突然いなくなるなよなぁ…」

「ごめん…雅宗に焼きそば買ってたの…。」

「焼きそばぁ?!…なんだよそれ…笑」

「なんか、デジャヴだね。」

「いくつになってもやっぱり愛華は愛華だわ。」

抱きしめながら私の背中を優しくさすってくれる。

その優しさにもっと甘えたくなる。

「あ、鼻水ついた。」

「!?まじかよー…」

そう言って私から離れる雅宗。

これでいい。これ以上甘えてしまったら、これ以上好きになってしまったら辛いのは目に見えてるんだから。


その後はふたりして高校生なのを忘れてしまうぐらい遊びはしゃぎつくして、デートは終わった。

帰り道、ふと雅宗が呟いた。

「あ、今日ナチュラルに抱きしめたけどあれは恋人らしいことにカウントできるの?」

確かに…でも何故かアレをカウントしてしまうのは勿体ない気がした。

「あれはノーカン。」

えー、と不満そうだが、やっぱりもっと違う形で抱きしめて貰いたいな。

「また今度、宜しくね。」

「まぁ今日思ったより楽しかったし、いっかー。」

私と雅宗だからこそできたデートだったなぁっと幸せな気持ちにほこほこした。


「愛華ー学校行くぞー。」

朝、いつものように雅宗が迎えに来てくれた。

「もう少しー!……おまたせ!!」

そしていつものように手を繋ぐ。

あたり前になっていく日常。

「今日からまた学校とかだる。」

「授業中寝ないようにね〜。」

これじゃまるで親と子の会話だ。

長年一緒にいすぎて会話が熟年夫婦のようにも感じる。

と言うか周りにそう言われるんだから間違いないだろう。

それ程一緒にいるというのに、この男の何が好きなんだろう私よ。

振り返ってみると雅宗といて散々な日々だった。

昔から女慣れしているせいかやたらと女子にもて、一緒にいる私は女子に何度も呼び出しをくらった。

ブス消えろと言う暴言を何度言われたことか…思い出すと泣けてくる。

その上雅宗は実は男が好きだと知り、雅宗繋がりで男子との繋がりも増えて更に女子の攻撃力が上がった。

そのくせ私が女子の攻撃を受けていることに気がつかない雅宗は、女子と仲良くしない私を好きな男子に言いふらして完全に孤立へと導かれた。

なのに私の気持ちにはいつまでも気がつかないし、それでも不意にみせるカッコ良さに死にそうになるし…私の寿命はだいぶ減ってしまっただろう。

どうしてこうも人生は上手くいかないんだろう。

幼馴染みじゃなきゃ、もっと可能性があったかも。

むしろ男に産まれていれば…!!


もんもんとそんなことを考えていたとき、突然肩に手を置かれて我に返った。

「中庭で1人黄昏てる美しいお嬢さん。昼ご飯でも一緒にどうかな?」

「…なぁんだ、陣内君か。」

「なんだとは何だ。」

いつの間にかお昼の時間になっていたのか。

しかも無意識に中庭へ移動していたらしい。

我ながらすごい能力だと思う。

陣内君は私の隣にどっかり腰をおろして、購買で買ったのだろうパンの数々を取り出した。

「陣内君…独りぼっちなの?」

陣内君の動きが一瞬止まった。

「んなわけあるか!ちょうど窓から愛華がぼっちなの見えたから可哀想だなと思って来てやったんだよ!」

なにもそこまで声を張り上げなくても…。

「別に頼んでないし、ぼっちだから1人でここにいたわけでもないんで。」

冷たく突き放す。

陣内君はその私の態度に何故か頬を赤らめた。

「なんか顔赤いよ?熱でもあるんじゃない?」

「熱なんてないから!ただ……」

「ただ?」

陣内君は逸らしていた目を再び私に向けた。

「んんんんんあぁっ!もうっ!」

そして叫ぶ。なにこいつ…。

「ただ愛華に会いたかったから探してたんだよ!そしたらたまたま1人でいたからラッキーって…俺何言ってんだろ恥ずかしっ」

また顔を逸らした。

もう、耳まで真っ赤。

何故かその陣内君の姿に私まで恥ずかしくなってくる。

「え、えっと…それはあり、がとう?」

自分でも何言ってるのかわからないぐらいにはパニックだった。

そんなもじもじしている私たちのもとへ、たまたま通りかかったのか雅宗が割り込んできた。

「ふ、2人でなにこそこそしてんの?」

明らかに私たちが2人で親密そうにしていることに動揺している様子だ。

「高尾には関係ないだろ。俺と愛華が何してたって。」

「陣内君…いつからそんなに愛華と仲良くなったんだよ…。」

そっか、雅宗は私と陣内君が話すようになったことを知らなかったんだ。

「愛華も、なんで教えてくんなかったの?」

雅宗は自分だけ仲間はずれにされたのが嫌だったのか、それとも私ばかり陣内君と仲良くしてるのが許せないのか、とにかく怒っていた。

「それは…雅宗が怒るというか…嫉妬すると思って」

雅宗は更に眉間にしわをよせる。

「嫉妬?なんだよそれ…。」

「おいおい高尾さぁ、確かにお前の彼女に手を出すのは悪いと思ったよ。でも俺だって愛華が好きなんだよ、それって仕方ないじゃん?」

え、ちょっと陣内君何言ってるの?

陣内君は実は雅宗が自分のことを好きだなんて思ってないだろうし、私たちは一応付き合ってるフリをしているから平気でそう言うことを言ってしまうんだろうけど…。

本当は陣内君のことが好きな雅宗にとって、その言葉はきっと刃物だ。

呆然とする雅宗…私はいても立ってもいられなかった。

雅宗の傷つく姿をみたくなかった。

「陣内君!!!もうやめて!!!」

思わず叫んでしまった。

でももう止められない。

「私が好きなのは雅宗だけだよ!今だって、これからだって!!!だからそれ以上なんにも言わないで…」

「なんで愛華がそんなに必死になってんの?俺は諦めるつもりなんてないよ。」

それでも尚、陣内君は諦めようとしない。

雅宗は俯いて何も言わない。

私はどうにか陣内君を諦めさせたかった。

でもどうすれば…。

ぐるぐると何が一番効果的に場を収められるか考えた。

しかし答えは出てこなくて、混乱しきった私は雅宗のネクタイを渾身の力で自分に向けて引っ張った。

私は自分の唇を雅宗の唇に押し付ける。

生まれて初めてだった。

いわゆる、ファーストキス。

離すタイミングもわからない。

目も恥ずかしくて開けられない。

唇の触れ合っている時間はとても長く感じた。

「…あ、愛華…?」

ゆっくり温もりが離れたあと、雅宗の声がして目を開ける。

そこにいたのは顔を真っ赤にさせて私をガン見している雅宗だった。



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