好きなカレは女好き
私の好きな人が恋をした。
それも誰もが憧れる学園のアイドルに…。
「あー、今日もイケメンだったなぁ…」
「男がそれ言うとキモイね。」
雅宗のつぶやきに冷やかな気持ちでつぶやき返す。
そう、雅宗は正真正銘同性に恋するホモなのだ。
今までも幾度となく好きな人を作ればキモイと振られ、それでも尚好きな人を作り続けた。
その代わり一人ひとりへの恋心は小さいものばかりで、誰かに本気で恋したことがなかったことで安心しきっていた。
それなのに…
「今日さ、家庭科でクッキー作ったんだけどそれを彼にあげたらめちゃくちゃ喜んでくれて!」
本気で女子のような会話をなげかけてくる。
男の話以外の雅宗とはまるで別人だ。
「今度は張り切ってパウンドケーキとか作って持ってこうかなぁ…。」
「好きにしなよ。」
とは言うものの、男なんかに負けるのは悔しいし情けない。
そして雅宗作ったクッキー私も食べたい!!
女として好きになってもらいたいけど、まず女性に興味なしという時点で負け組決定だ。
「本当俺の好きな人の話になるとお前って冷たいよなぁー、女子力もっと上げた方がいいぞ。」
女子力あげたら好きになってくれるんかい。
それならバリバリ女子力使いますよ!
「雅宗なんてむしろ女子力も男子力も皆無なんじゃない?」
精一杯の嫌味を返す。
「好きな人に愛されればそんなもの不要だ!」
あー言えばこー言うんだ。
ただいつも話す時とはやはり違う。
なんて言うか、恋してる顔だ。
いつも恋はしているが次元が違う。
あの陣内和哉という男は本当に顔だけではないという訳か…。
私は陣内和哉への接触を試みるため、奴のいるクラスへと足をのばした。
教室を覗くと、いかにもモテてますオーラ全開で女子に囲まれる男子生徒が目に付く。
その生徒が陣内和哉だという事はすぐに分かった。
「和哉はい、あーんっ」
「あーん…ん、美味しい。これ新作?」
「そーなの!めっちゃヤバくない?」
ヤバイのはこの状況だよ!どんだけの女子を従えているのか。
「里緒菜があーんしてくれるから美味しさも倍増かもね。」
「いやぁんもう和哉ったら!」
「里緒菜ずるーい!私のも食べてー!」わやわや
なんて奴…取り巻きの女子達にポッキーをあーんされたりボディタッチされたり、それにノリノリで乗っかるどころかむしろCome on状態じゃないか!!
あんなやつが好きなんて…納得いかない!
「あれ、愛華?」
背後から話しかけられ振り返る。
「あ!瑞穂ー!」
以前同じクラスだった谷屋瑞穂だった。
「うちのクラスになんか用?」
あ、そうか。
瑞穂は陣内和哉と同じクラスだ。
「雅宗が陣内君を好きになったからどんな奴かと観察にきた。」
「高尾君今度は陣内君に変わったの?」
「そーなの。しかも今回は厄介でガチなんだよね。」
瑞穂はマジかと大笑い。
「てかほんと愛華もよく同性愛者を好きでいられるよね。」
やっぱり変なのかな。
私は雅宗がどんな奴でも気持ちは変わらないと思ってる。
「雅宗は雅宗だから。雅宗が誰を好きだろうと私は雅宗が好きなの。」
「そっかー、そんなもんかぁ。」
「そー。」
瑞穂はまぁ頑張れと教室へ戻ってしまった。
それを目で追っているとたまたま陣内君と目が合う。
陣内君はニコッと笑うと私に手を振ってきた。
…なんっだあの女ったらし!!
私はあからさまに顔を背け、早足でその場から離れた。
あんなやつに雅宗は絶対に渡せない!
「…って訳だからあいつはやめた方がいい!」
帰り道、私は雅宗に今日の出来事を報告した。
「ふーん、てかなんで愛華が陣内君のクラスになんて行くんだよ。」
雅宗のことが好きでどんな奴か知りたかったなんて口が裂けても言えない。
「た、たまたまよ!瑞穂に用があったの!」
「へー、まぁいいけど。俺は陣内君が女好きだとしても気持ちは変わらないし。近くにいれればそれでいい。」
なんだそれ!私が雅宗に対する気持ちと全く同じじゃん…。
「雅宗はさ、陣内君をどうして好きになったの?」
「あれは雨の降る放課後だった。」
何故か突然語り口調で話し始める雅宗。
「傘を野球ごっこでぶっ壊してしまった俺は、家に帰ることもできず途方に暮れていたんだ。」
野球ごっこって子供か。
「空を眺め雨に立ち向かおうと決心した時、陣内君が現れたんだ。」
陣内と相合傘したとかいう好きになる瞬間あるあるですか?
「陣内君も女子に傘を奪われて傘を失っていたらしい。」
陣内君もかーーーーい!!!
「陣内君は俺に天使のような笑顔で一緒に走ろうと言ってくれたんだ。」
「…え、それだけ?」
雅宗は頬を赤らめて頷いた。
「毎日毎日陣内君が好きだって気持ちは大きくなる。これって変?」
「変だよ。」
答えたのは私ではなかった。
「陣内…君…。」
震えた声で雅宗がつぶやいた。
後ろに居て全く気が付かなかった。
まさか、陣内君が居たなんて…。
「高尾…お前俺のこと好きなの?」
少し引き気味の表情で陣内君が尋ねる。
隣を見ると雅宗はうつむいて唇をかみしめている。
あぁ、好きなんだなぁ…。
きっと知られたら嫌われてしまうから。
話すだけであんなに目を輝かせて、楽しそうで、今までとは違う自分の気持ちを雅宗は知ってしまった。
だからこそ、その気持ちを陣内君に知られてはいけない。
私が雅宗を守らなきゃ。
「陣内君。悪いけど雅宗は私と付き合ってるから。陣内君のことが好きとかありえないでしょ?」
え?と言う顔で雅宗が私を見てくる。
でもそんな事は気にしてられない。
「え、そうだったの?じゃあなんでさっき俺のことが好きとか…。」
陣内君が困惑している。
「友達としてだよ。最近仲良くなれてきて嬉しいって。」
「…なぁんだ!焦ったーー!」
焦ったのは私だ。
完全に見透かされると思っていたからまさかの展開に驚きを隠せない。
…案外陣内君もちょろいな。
私は立ちすくむ雅宗の手をとってその場から逃げ出した。
「ちょっと愛華!」
少し歩いたところで雅宗が足をとめた。
「なによ。」
言いたい事はわかってる。
「俺達付き合ってるって…。」
「あんたが陣内君を好きってバレたら絶対陣内君に嫌われるよ?そばにもいれなくなるんだよ?」
「そうだけど…」
「なら私とつきあったほうが近くに入れるだろうし、気持ちがバレることもない。」
そう。それが私にとっても、雅宗にとっても最善の策だ。
私は一つ大きく深呼吸をした。
「雅宗、私と付き合おう!」