雅宗の告白
翌日、学校へ行くと案の定美緒が待ってましたとばかりに私のところへ誕プレを持ってやってきた。
「愛ちゃん!お誕生日おめでとう!!!」
そう言ってプレゼントを渡される。
何回目なんだろうこの光景。
てゆうか、なんでいつも次の日?
「あ、ありがとう…。」
「ん…?愛ちゃんなんか変。まさか…昨日なんかあった?」
ドキッ
やっぱり美緒には隠せないか。
美緒はこういうことにはめちゃくちゃ鋭い。
人の気持ちにはめちゃくちゃ鈍感なくせにね。
「私達、友達じゃん?私にぐらい相談しちゃいなよ。」
こういう時ばかり友達乱用しやがって〜…。
あんまり相談するという程のことではないんだけど。
「いや…昨日さ、陣内君と遊園地行ったのね。誕生日だからって陣内君が連れて行ってくれたの。」
「さすが陣内和哉!!女のことを理解している!」
美緒は興奮したように声のトーンをあげる。
「でね、最後に観覧車でネックレスをプレゼントしてくれたの。勿論、誕プレでね。」
「おおおおおおおお!!なにそれ!陣内和哉かっこよすぎか!」
ちょっと美緒サン声大きい。
「てことは、愛ちゃんはいつの間にか陣内和哉を好きになっていたと?」
「好きにってより、少し気持ちが傾いてたぐらいなんだけどね。でもその夜、家に帰ったらお母さんがさっきまで雅宗がいたっていうのね。それも誕プレを届けてくれるために。」
「うっそ!!あの高尾君が愛ちゃんにプレゼント?!」
美緒の興奮はだんだんエスカレートして、呼吸する事さえ大変そうだ。
本当にこのまま話してて大丈夫か?
「そのプレゼントがね、雅宗が放課後家庭科部で作ってた手作りクッキーだったの。」
「えええええええ!なにそれ女子力!!」
雅宗の女子力はお母さんや美緒が言う通り、そこら辺の女子よりは断然高い。
「それで愛ちゃんは傾きかけていた気持ちがまた高尾君に戻っちゃったと。」
「んー…なんか自分の気持ちもごちゃごちゃしちゃって、どうしたらいいのか正直わからない。」
なるほどー。と美緒が天井を見上げながら腕を組んで何か悩んでるご様子。
「なーんか引っかかるって言うかさ。雅宗君は本当に愛ちゃんをはっきりフッたの?」
確かに雅宗にはごめんとしか言われてないけど…。
でもあれからずっと避けられてるし…。
「分かんないけどさ、はっきりフラれた訳じゃないなら何か他に理由があるのかもよ。まぁ私は陣内君推しなんだけどね。」
他に理由…?
そんなもの、本当にあるのかな。
でも確かめなきゃわからないか。
「美緒、ありがとう。ちょっとだけ自分の気持ちに素直になってくる。」
頑張れ!と美緒に背中を押されて、雅宗に直接聞いてみることにした。
放課後、雅宗は一人机に頬ずえをついて外を窓から眺めていた。
他のみんなは足早に帰りの支度をして、部活や委員会に向かう。
「ま、雅宗。」
「…愛華、何か用?」
何か用って…用がなきゃ話しかけちゃダメってか。「久しぶりにさ、一緒に帰ろうよ。」
雅宗は一瞬ピタッと動きを止めて、すぐに私から目を逸らした。
そして一言。
「ごめん、今は無理。」
ズシンと大きな何かに押し潰されたような気分だった。
幼い頃からいつも一緒。なにをするにも、何処に行くにも、隣には必ず雅宗がいたのに…。
私達の関係は私の好きな気持ちがある限りもう戻れないの?
「雅宗なんて…好きになるんじゃなかった…!」
雅宗の顔を見ているのが辛くて、反射的に教室を飛び出していた。
背中から微かに私を呼ぶ雅宗の声が聞こえた気がしたけど、きっとこれも幻覚だろう。
きっとそう…。
どれぐらい屋上にいたのだろう。
空一面が真っ赤に染まって、校庭からは部活を終える野球部のありがとうございましたの声が聞こえてきた。
鞄は教室だ。
一度教室に戻ろう。
頭は真っ白。重い足どりで教室へ続く廊下を歩いていた時、誰かの話す声が聞こえてきた。
それも、その声は私の鞄のある教室から…。
誰にも会いたくないなぁ…。
そんなことを思いながら教室を覗いてみると、向かい合う2人の男子生徒が見えた。
「え…陣内君…と、雅宗?」
教室全体が夕日で赤く染まり顔はよく見えなかったけど、顔なんて見なくてもすぐ分かる。
何話してるの?
私は扉を少しだけ開けて耳を澄ました。
「高尾…マジで言ってるの?」
「…あぁ、だから陣内君の気持ち、はっきり聞きたいんだ。」
陣内君は手で頭を抑え、困惑しているようだ。
「いや…俺の気持ちもなにも、男と付き合うとか有り得ないから!」
「…うん、ありがとう。これですっきりした。」
まさか…陣内君に告白したの?!
まだ陣内君のこと好きだったんだ…。
「お前…本当にホモだったんだな…。」
「そうだよ。でも…陣内君にフラれたお陰で、大切なことに気づけた。だから、もう大丈夫。」
何が大丈夫よ…。
きっと凄く傷ついてるハズなのに。
今まで何度もフラれ続けて、その度に物凄く傷ついていることを私は一番知ってる。
一番近くで誰よりも雅宗を見てきたんだから。
本当は今すぐ抱きしめたい背中を、私はもう触れることすらできない。
それが何よりもどかしくて、辛くて、私はそこにいることができなかった。