ネックレスと手作りクッキー
雅宗にフラれて2週間が経った。
相変わらず雅宗とは話せないまま。
私も学校での生活のほとんどを陣内君と過ごしていた。
クラスは違くても、休み時間になる度に陣内君は私のクラスへ来てくれる。
弱った私にはそれがとても嬉しく感じていた。
「あーいか。今日さ、デートしよ?」
放課後、いつものように陣内君が迎えに来てくれた。
「いいよー。どこ行く?」
「ちょっと行きたいとこあるんだよね。」
そう言って、陣内君はにやりと笑った。
「え、ここって…今から!?」
「そう!ナイトパス♡」
陣内君が連れてきてくれたのは夜の遊園地。
昼間とは違ってどこも装飾でキラキラしている。
「綺麗…!!」
「だろ?しかも夜だと人も少ないし、乗り放題だよ!」
「うわーテンション上がってきた!!何乗る?!」
「まぁ手始めに絶叫だろ?」
ジェットコースターにコーヒーカップ、絶叫系を制覇していた。
夜とは思えないぐらい、叫んだし、楽しかった。
「時間が過ぎるのあっという間だなぁ…。」
いつのまにか閉館の時間が迫っていた。
「やっぱり〆は観覧車っしょ!」
「陣内君て結構ロマンチストだよね。」
観覧車にも既に人はほとんどおらず、すぐに乗ることができた。
「こんなにスムーズに沢山乗ったの初めてかも。いいねナイトパス。」
「だろー?愛華が喜んでくれて良かったよ。」
陣内君は優しい。
こんな私にも、優しい。
「でも何で急に遊園地来ようと思ったの?」
そう聞くと、待ってましたとばかりに鞄の中をゴソゴソし始めた。
そして小さい紙袋を取り出すと、私にそれを差し出してきた。
「誕生日おめでとう、愛華。」
あ…。
誕生日、知っててくれたんだ…。
「あ、ありがとう…。開けてもいい?」
「いいよ。気に入ってくれるといいけど。」
丁寧に包装された紙を破かないようにゆっくり開く。
中にはハートのネックレスが入っていた。
シンプルなデザインのいかにも私が好きそうな。
「可愛い…めちゃくちゃ嬉しい!本当にありがとう…。」
私の反応を見て安心したのか、また笑顔になる。
「良かった…。」
「こんなに嬉しい誕生日久しぶりだー…。」
毎年、家でケーキを食べるぐらい。
次の日は必ず美緒がお祝いしてくれる。
なんで当日じゃないのかは分からないけど…。
でも、毎回そんな誕生日だった。
だからこんなサプライズしてもらったのは初めてで、感動通り越して泣きそうだ。
「愛華、幸せな1年にしてね。むしろ俺が幸せにしたいとこだけど。」
冗談ぽく陣内君は笑う。
その言葉が本当になればいいのに…。
私は本当に単純だ。
そんな幸せな気持ちのまま家に帰ると、毎年恒例のケーキが食卓の真ん中に用意されていた。
「今年のはまぁ高そうで…。」
私の好きなタルトケーキ。
今年はタルトの上に沢山の果物がこれでもかとばかりにのせられている。
「今年は張り切っちゃった♡パパのお給料も上がったしね♡」
「へぇ、出世したんだおめでとう!」
照れたようにお父さんが頷く。
お母さんは嬉しそうにケーキを切り分け始めた。
「あ、そういえば。雅宗君来てたわよ。」
「え?雅宗が?」
突然の雅宗。
それよりなんで雅宗がうちに?
あれから雅宗とは一言も話せていない。
むしろ向こうのが避けてるくせに…。
「これ、届けに来てくれたの。」
お母さんは棚から可愛いピンクの袋を持ってくると、それを私に差し出した。
「誕生日おめでとうって伝えてくれって。」
うそ…今まで1度も誕生日なんて祝ってくれたことなかったくせに。
私は袋を受け取るとリビングを飛び出した。
「ちょっと愛華!ケーキはー?!」
「後で食べるからとっておいて!」
「んもう!主役いなきゃ意味無いじゃない!」
両親には申し訳ないと思いつつも、早く袋の中を見たかった。
ドキドキが外へ飛び出してしまいそうなほど鼓動は激しい。
部屋に入るとすぐに袋を開けた。
開けた瞬間、部屋中に甘い香りが広がった。
「これって…もしかして手作り?」
背後からお母さんの声が聞こえて思わず袋を落としそうになった。
「ちょっと!急に後ろに立たないでよ!」
「だってー、あんなに嬉しそうな顔して部屋に飛び込むんだもん。気になるじゃない。」
「そ、そんなに嬉しかったわけじゃないし!」
あらそぅ、と言いながらもニヤニヤは消えない。
「それにしても手作りクッキーなんて、雅宗君のが愛華より女子力あるんじゃない?」
そう、雅宗からのプレゼントはなんと手作りのクッキーだった。
それも手の込んだような色とりどりのクッキー。
まさか…このために家庭科部でクッキー作りをしてたとか?
いや、雅宗にはフラれたんだからそんな訳ないか。
ただ、産まれて初めての雅宗からのプレゼントは何よりも嬉しくて。
さっきまで陣内君のことでいっぱいだった私の中をまた雅宗が満たしていく。
ああ、私ってやっぱり単純だ。
フラれたくせにまだ雅宗が忘れられない。