本当の好き
それからも花蓮ちゃんは度々雅宗に会いにくる。
「雅宗くーん!今日できたばかりのクレープ屋さん行きたいなぁ♡」
「悪い、クレープ嫌いなんだ。」
「え!そうなの!?じゃあ…パンケーキは?」
「悪い、パンケーキ嫌いなんだ。」
「えーー…じゃあお寿司とか!」
「悪い、お寿司嫌いなんだ。」
「そんなぁ…じゃあ etc...
とまぁこんな感じで花蓮ちゃんの誘いを全部断ってる。
「…じゃあ私の家に行きましょう!!!」
「………悪い、私の家嫌いなんだ。」
断り方を迷って結局それかい。
「ちょっと雅宗君!!適当に言ってない!?」
さすがにそれは雅宗がおかしい。
だけど前より防御を固めているのがよく分かる。
それは安心。
だが一方の花蓮ちゃんはそれが気に食わないのだろう。
「んもぅ!!あんた雅宗君に何か変なこと言ったんじゃないでしょうね!!」
私に八つ当たりするのは辞めて頂きたい。
「言ってないし、もう諦めたら?」
「私ね、ぶっちゃけフラれたことがないの。」
は、はぁ…。
「私がフラれるなんて有り得ない訳よ。わかる?」
自意識過剰すぎます。
「その自信は尊敬するけど、雅宗は多分難しいよ?」
「難しいことなんて最初から分かってたわよ!」
花蓮ちゃんの怒声が教室中に響く。
「花蓮ちゃん、イメージ崩れてきてるよ。」
我に返った花蓮ちゃんは一つ咳払いをすると落ち着きを取り戻した。
「クール&ビューティーなこの私にここまでさせるなんて…高尾雅宗恐るべし!」
「いや、私の彼氏ですしね。そんな簡単に落とされても困る…。」
もはや私の声は花蓮ちゃんには届いていないようだった…。
「愛華…俺さ、もう華園さんに疲れた。」
「あ…そうなんだ。」
帰り道、突然雅宗がボソッと話し始めた。
そう言えば最近なんだか顔も疲れてたもんね…。
「ハッキリ言ったんだよ。華園さんとは付き合えないって。でも毎日毎日…はあぁぁぁ!!」
相当疲れてるご様子。
こんなに女子に振り回されてる姿を見るのは初めてかもしれない。
大体いつも男絡みだったし…。
「ねぇ、愛華は仮にも俺の彼女でしょ?」
「仮だけど…ね。」
まだ仮ってつけますか…。
「助けてくださいー。俺にはもう無理でありますー。」
「頑張んなよ。たまにいるってそういう子も。」
頼りにして貰えるのは嬉しいが、仮って言葉にムカついて少し意地悪をしてみることにした。
「愛華ー。俺のこと助けてくれないの?」
私をみて目を潤ませる雅宗。
何度私はこの攻撃に負けて甘やかしてきたか…。
ダメだ!
ここは心を鬼にして自分で何とかさせなきゃ!!
「雅宗。もう私に頼るのはやめて。」
「愛華…?」
雅宗は驚いたように、繋いだ手を離した。
「雅宗は私に甘えすぎだよ!好きなヒトができたときだって、自分から動けなくていつも私が話しかけに行ってたじゃん!」
「愛華…急にどうしたの…。」
そうだ。
雅宗は私の気持ちなんて考えないでいつもいつも…。
「こんな時ばかり彼女とか言って、本当は私のことなんて何とも思ってないくせに!!!」
「…愛華は違うの?」
え?
「愛華は俺のこと仮の彼氏だって思ってるんじゃないの?」
何言ってるんだこの男は…。
こんなに近くにいて、こんなに触れ合って、
こんなに怒ってるのに…私の気持ちに気づいてなかったの?
鈍感すぎる!!!
「馬鹿なの?」
「は?」
「あんたは馬鹿なのかって聞いてるんじゃっ!!」
「あ、愛華…?」
私は雅宗に1歩近づく。
雅宗は私の迫力に1歩下がる。
「ちょ、待って!何どうしたの急に!」
「今まで私の何をみてきたの?!私の話全部しっかり聞いてましたか!?」
また1歩近づく。
雅宗は1歩下がる。
気づけば後ろは外壁だった。
雅宗は下がることが出来なくなり、混乱している。
「愛華っ怖いからさ、ちょっと落ち着こう?な?!」
私は壁に両手をつけ、完全に雅宗を腕の中へ閉じ込めた。
これぞ壁ドンである。
「愛華サン…?皆みてますよ…?」
私達の姿に微笑ましそうに笑い通り過ぎる人達。
しかし今、そんなのは関係ない。
「雅宗が鈍感で馬鹿なのはよーく分かった。だからもうハッキリ言わせてもらうね。」
恥なんて捨てた。
こんなに鈍感なやつにはきっとハッキリ言っても伝わらないかもしれない。
だったら言ってしまおう。
「私は仮の恋人なんて初めから嫌だった!ずっとずっと仮の彼女でいるのが辛かった!だって…だって私は雅宗のことがずーっと前から、初めて出会った12年前から、雅宗だけをずっと見てたから!!雅宗に片想いしてたから!!雅宗が男の子が好きだって知った時も、嫌いになれないぐらい、ずっと好きだったの!!」
しんっ…
死んでしまいたい!!!
我に返って恥ずかしさがまたこみ上げてきた。
私は赤い顔を雅宗に見られたくなくて、雅宗の胸に顔を押し当てた。
少しの沈黙の後、私の肩に雅宗のてが乗せられて、ゆっくり身体を離された。
「…愛華。」
緊張が走る。鼓動が外にも聞こえるんじゃないかってぐらい早かった。
「…ごめん。」
顔は見れなかった。
私の耳に大好きな雅宗の声だけが響く。
思考回路が追いつかなくてその言葉の意味が分からなかった。
ただそれだけ言うと、雅宗は私から離れて、そのままいなくなった。
少しして顔をあげた時、もう雅宗の姿はなく、
その瞬間ごめんの意味を理解した。
あぁ、私。はっきりフラれたんだ…。