好きな人の好きな人は男の子
「私…ずっと雅宗のことが好きだったの!」
私の言葉に彼はとても優しい笑みを浮かべた。
「愛華…俺もずっとお前のことがすきだったよ。結婚しよう!」
そう言って雅宗は私の肩に手をおいてそっと唇を近づける。あぁ…ついに雅宗と…
「愛ちゃん!愛ちゃんってば聞いてるの!?」
そこで私は我にかえる。声のする方に顔を向けると怒った顔の友人が立っていた。
「なんだ美緒か…何か用?今いいところだったんだけど。」
「んもう!また一人妄想してんの?そんな事してるからいつまでたっても幼馴染み君にふりむいて貰えないんだよ!」
そう。さっきのは私の妄想です。登場人物である雅宗とは私の幼馴染みであり、好きな人。絶賛片想い中なのだ。
「わかってるよ!?でもいいじゃん!減るもんじゃないし!妄想でしかこんなことできないんだから!」
と言い訳をし続け早片想い歴12年。
「いつまでも幼馴染みでいいならそれでいいんだよ?でも変な妄想しちゃうぐらい好きなら告白でもして意識させなきゃ伝わらないって!」
「普通の男子なら無理チューでもして無理やり意識ぐらいさせたるわ!」
「無理チューは女子力皆無だからやめなさい。」
そう、普通の男子なら良かったんだ。普通の男子なら…。
「それはそーと美緒りんは私に何か用事があったのでは?」
「美緒りんはやめて。愛ちゃん今日放課後空いてる?」
「暇人です。」
「じゃあ私と一緒に探偵ごっこしない?」
こうして放課後私は訳の分からない喫茶店に美緒と訪れていた。
小洒落た喫茶店だ。
どこか和テイストなのか、あちらこちらに置いてある盆栽が気になる。
「ちょっと美緒りん?なにここ。私まったりお茶してる時間なんてないんだけど。」
こんなことしてるなら妄想してたい。
「これからここに裕樹が来るの。」
裕樹とは美緒の彼氏のことだ。
あんまり話題には出ないし興味もないのでよくは知らないが、他校の生徒で耳が穴だらけのチャラ男らしい。
正直美緒の好みを疑う…。
「え、それだけ?」
探偵ごっこ関係ないじゃない。
「探偵ごっこってなんだよって顔してる。」
「ビンゴ!」
否定はしない。
美緒はそういう私も受け入れてくれるから好きだ。
美緒は一つ大きな溜息をつくと目を細めた。
「いや、実はさ。最近ちょーっと裕樹から女の気配するのよ。」
「もしかして…浮気!?」
浮気しそうな容姿してるもんね、なんて言えるわけもない。
「でね。昨日たまたま今日ここにその相手と来るって内容のやり取りがトップ画面で見えちゃって。」
「だからその現場を抑えたいってことね!!!」
それは楽しそうだ。
我ながら人の不幸を楽しがるのは最低だと思うがそう思ってしまうんだから仕方ない。
「その相手と彼氏捕まえてしっかり説教してやろ!」
「愛ちゃんいると心強いわ。笑」
「その代わり、私の恋もしっかりケアしてね♡」
「見返り目当てかい。笑」
そんな話で盛り上がっていた時、店のドアが開く音が聞こえた。
楽しそうな男の人の笑い声が聞こえる。
「この声、裕樹だ。」
私たちは反射的に姿勢を低くした。
そしてそっと声のする方に目を向ける。
こちら側を向いて座っているのが裕樹君で、私たちに背を向けているのが相手だろう。
白いカーディガンをきて赤いニット帽をかぶっている。
2人は仲睦まじそうに笑いあっている。
そこでなにやら私の電波が反応したような違和感に襲われる。
あの背丈、後ろ姿、どこかで見覚えがある。
…ん?
「ちょっと美緒サン?」
「愛ちゃん。一度落ち着こう。」
私の息が荒くなっていることに気づいて美緒がなだめた。
落ち着きを取り戻すと、再び2人を見る。
女性にしては背も高く肩幅も広くておかしい。いや、むしろ見たことある。
間違いない。あの後ろ姿は!!!
「あいつ、ついに裕樹にまで手を出したか…。」
美緒も私の反応を見て正体が分かったようだ。
「ちょっと行ってくる。」
「え、ちょっと!愛ちゃん!?」
私は抑えきれない怒りと戸惑いを胸に、2人のもとへむかった。
まず、こちら側を向いて座っていた裕樹君と目が合う。
裕樹君は私の顔をみて言葉を失ったようだ。
「ん?ひろぽん?後ろになにか…」
そう言って振り向いた浮気相手は私をみて青ざめる。…やっぱりそうだ!
「ちょっと雅宗!?あんたこんなとこで裕樹君となにやってるの!!しかもひろぽんってきもちわるっ!」
そうです。
私の絶賛片想い中の雅宗が裕樹君と浮気してたというわけです。
これでおわかり頂けたと思いますが、彼は男を愛するいわゆるホモなのでした。
「なんでこんなとこにまでいるんだよ!俺が誰といたって俺の自由だろ!?」
反抗的な態度をとってくる雅宗。
こんなことは日常茶飯事で、恋愛体質な雅宗はタイプの男の子を見つけるとすぐに恋におちてしまう。
そんな彼のことを好きな私に勝ち目などないわけで、まず性別を変えなきゃ始まりもしない。
なんて可哀想なの自分っ!!
「あんた相手が美緒の彼氏って分かって手を出してんの!?」
「好きなのに誰のものとか関係ないないから!そんなん奪ってなんぼ…」げしっ!!!
私は雅宗のひざを思いっきり蹴りあげた。
「いって!!!なにすんだよ!!!」
「き、、キモイんだよばかぁあああ!!」
半泣きだった。
そんな私と雅宗とのやり取りをみていた裕樹君が突然立ち上がる。
そして雅宗の方を向いて低い声で一言。
「友達だと思ってたのに、そんな目で俺を見てたのか。ありえねぇ。」
とだけ告げて店を出ていった。
「え?あ、裕樹まって!」
そのあとを美緒が追いかけていった。
そして店に取り残された私と雅宗は、暴れたことが原因で店の出入りを禁じられ追い出されたのだった。
「ちょっと、なんにも悪いことしてないのに私まで怒られちゃったじゃない!」
「お前があそこででしゃばって出てくるのが悪いんだろ?!」
言い合いはお互いの家まで続いた。
そしていつものように、「また明日ね。」そう言って家に入った。
いつもそうだ。
どんだけ喧嘩をしても最後には「また明日」と言って別れて、次の日には元通り。
そんな日常が何より好き。
そしてそんな雅宗ももっと好き。
いつか雅宗に本当に大切な人ができたとしても、私のことは変わらず大切な幼馴染みとして一緒に居てくれる。そう思っていた…ハズだったのに!
「え?好きな人ができたぁ?」
「うん、今回はマジで。俺かなり真剣だから。」
「どこの馬の骨よ!!!!」
「オカンかよ!…隣のクラスの陣内和哉君。」
陣内和哉…
ついに恐れていたことが起きた。
陣内和哉と言う名前を知らない生徒はいない、それぐらい男女共に好かれるようなイケメンだ。
イケメンのくせに性格もかなりいいらしい。
そんな男を本気で好きになってしまった。
そんなん…
「無理だぁああああああああ!!!!」