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お店の情報

「(ふー。腹がパンパンだー。久しぶりに楽しくて美味しい食事だったな)」


「(はいはい。口の周りの汚れを拭くので動かないように)」


「(わかったぞ)」


「(こういう時は『ありがとう』って言うんですよ)」


「(ありがとう!)」


 ライカはアンナに抱かれながら口の周りについた食べかすを拭ってもらい、また言葉遣いを直されている。これはもうアンナに世話を焼かれているというよりアンナに躾けられていると言うべきかもしれない……。

 結局ライカはアンナよりも小さい狐の体で一人前を平らげ、食べ切れず残すつもりでいたアンナの分まで完食した。

 一体どこにそれだけの量が入ったのかはわからないが、本人は満足気だしアンナやメリエも変に思ってはいないようだ。不思議に思う自分がおかしいのか……?


 ライカは自分は200年近くも生きているがまだ子供だと言っていた。今までにも子供っぽいところはあったが、こうして普段の様子を見てみると確かに子供のようだ。

 達観したように物事を語ったり、200年生きたと言われても納得できるほどの貫禄ある話し方をしたりする一方で、こうした子供っぽくも思える行動もしている。大人と子供が入り混じったような不思議な印象を受けた。


 一人で生き抜かなければならない状況では相手に弱味を見せるわけにはいかない。今まで気丈に見えたのはそうした理由からで、今アンナに見せている姿が素のライカなのかもしれない。

 生きた時間と精神の発達は必ずしも比例しないということなのだろうか。それとも長命なライカの種族の特性や野生に近い生活環境によるものなのだろうか。

 これも今の自分ではわかりようもなかった。


 そんなアンナとライカの様子をどう見ても飼い主とペットだよなぁと思いつつ、のんびりと歩いて一度ポロのところに戻る。

 まだ昼食を渡していないので武器屋に行くのは昼食を渡してからだ。宿が従魔に食事を出してくれるサービスをしているが、味はお世辞にも良いものではないということなので、可能な限りポロには自分達と同じものを食べられるようにしてあげている。

 どうしても無理な時だけ宿の食事サービスで我慢してもらい、その分あとで美味しいものを差し入れていた。


 特に何事も無くポロのいる走厩舎に行き、食事を今か今かと待っていたポロに遅くなったことを詫びて昼食を渡した。食事をするポロにまた出かけることを告げてメリエの案内で武器屋に向かう。


「じゃあ行こうか。どこの店に行くのか決めてるの? 前にメリエが行った店?」


「いや、決めていない。だからまず総合ギルドに向かおう」


「総合ギルドへ? 何で?」


「そこで紹介してもらうんだ」


 何だかよくわからなかったが、先導するメリエを追って総合ギルドの建物に向かう。

 総合ギルドに向かう道はお昼時を過ぎたということもあって、また行き交う人間が増えていた。時たま通りがかる貴族が使うような走車が、人ごみでもお構い無しにスピードを出して駆けて行くのを横目に総合ギルドの建物までやってきた。


「今回は依頼関係ではないから二階だな」


 いつも利用する依頼の受付とは違う場所らしい。

 様々な人間で溢れた一階の依頼受付のあるロビーを通り抜け、階段に向かう。

 そのまま二階に上がると、一階に比べて大分人が少なくなった。二階にも一階ロビーに似た場所があり、受付がいくつも並んでいる。しかしこちらの受付にはあまり人がいない。


 自分もアンナもまだ来た事が無い場所だったので周囲をキョロキョロと見回す。構造自体は一階と似ているが、人が少ないのに受付の数が一階よりも多い。

 ライカはあまり興味が無いようで、何も言うことなくアンナに抱えられたまま大人しくしている。


「ここは何の受付なの?」


「ハンター、クラフター、錬金術、商人など各ギルドの受付だ。依頼以外で各ギルドに用がある時にはここの受付を利用する」


「へー。で、ここで何をするの?」


「情報を買うんだ。まぁ付いてくればわかるさ」


 看板に何が書いてあるのかわからないので、何のギルドの受付なのかはわからない。

 こうしたシステムなどは自分では何もわからないのだし、ここはメリエに任せておこう。

 メリエはいくつも並んでいる受付の看板を見ながら歩いていき、ある受付の前で立ち止まった。


「ここだな」


 受付に座っているおじさんが近寄ってきたメリエに気が付くと、笑顔で応対してくれた。


「こちらは商人ギルドの受付になります。ご用向きは何でしょうか?」


「その人間に適した武器を見繕ってくれる店か武器商人を探している。王都内でそうしたことのできる店か武器商人を紹介して欲しい」


「畏まりました。紹介料が発生しますが宜しいですか?」


「ああ」


「では希望のランクを仰って下さい。要望を満たせるそのランクの武器商人の中から無作為に紹介させて頂きます。またMランクの紹介には紹介料の他に紹介状が必要になります。高ランクの商人になるほど紹介料が高くなりますのでご注意を」


「クロ、希望はあるか?」


「わからないから任せるよ」


「ふむ。ではそこそこの経験と実績があるCランクで頼む」


「Cランクですと紹介料は銀貨5枚となります」


 メリエは自分の財布から銀貨を取り出してカウンターに置く。

 紹介料だけで結構な額だ。SやMランクを紹介してもらうとなると凄い金額になりそうだった。

 銀貨を受け取った受付のおじさんは、足元から大きなファイルのような紙の束を取り出すと、その紙束をパラパラと捲っていき、ある場所で一度止まって考え込んだ。その止まった場所からまた何枚かパラパラと捲ると、ピッと一枚の紙を抜き取ってそのままメリエの前に差し出す。


「こちらが武器を扱っているCランク商人の情報になります。商人間での公平を期すために特段の理由が無いのであれば再紹介は行ないませんのでご了承下さい」


「わかった」


「何かありましたらまたこちらへお越し下さい」


 紙を受け取ったメリエは、早速紙に目を落としている。


「ここから少し離れているが、そこまで時間はかからない場所だ」


「今回は何でこういう手順を取ったの? 武器屋ならいくつもあるだろうし探すのは簡単じゃない?」


「出来合いの武器を探すなら手当たり次第に店を訪ねて見せてもらい、自分が気に入る物を探せばいい。前に私が師匠と行った店に行けば、わざわざ店を探す必要もなかっただろう。

 しかし今回のように相手を見て適した武器を判断したり、素材を持ち込んで新たに武器を鍛えてもらうならそれなりの実績がある者でなければならない。私が師匠と武器を買った時は既に自分に合う武器を決めていたから選んでもらったわけでもないし、前に利用した商人が相手に合う武器を選ぶ目を持っているかわからない。

 適当に店を選んでみて経験や実績の無い商人だった場合、アンナに適した武器をしっかりと選んでくれるかどうかわからないだろう?

 武器を作ってもらう場合も同じだ。経験や実績が無ければ希少な素材を使っての鍛造を失敗したりすることもある。

 そういう時は別に料金がかかるが、ギルドで紹介してもらう方がいい。これはハンターも同じで個人が指名依頼をする場合などに利用される」


「はー。成程ね」


 既にある武器を探すなら適当に店を選んでも問題はない。見せてもらって気に入らなければ別な店に行けばいいからだ。

 しかし、今回のような場合ではそうはいかない。選ぶ目も持っていない経験の浅い商人に適当に選ばれたらアンナの今後に関わる事になる。


 何件かの武器屋を巡るという手もあるが、都合よく熟練の武器商人に当たるかはわからないわけだし、こうして紹介してもらう方が確実だろう。

 ハンターでも指名依頼があるということは何度か耳にしていた。討伐が得意な者や採集が得意な者、特定の地域に精通している者などを斡旋してもらい、確実に依頼を完遂できるハンターをこうして紹介してもらうということのようだ。


 以前、アルデルでアンナのナイフを購入したときは店番をしていた女性がアンナの手を見ながら合いそうな物を選んでくれていた。しっかりとお客のニーズに答えてくれたという意味では商人としての力量はわからないが、アルデルのあの店は当たりだったということだ。だが、今回も当たるかはわからない。


「ギルドで紹介してもらったところに行ってみて、こちらの要望を満たせなかった場合にはもう一度紹介をしてくれる。

 それからギルドを介さずに商人同士の横の繋がりを利用するという手もあるぞ」


「繋がり?」


「そうだな……例えば武器を買いに行ったとするだろう?」


「うん」


「商人の中には武器は武器でも剣を専門に扱っていたり、弓を専門に扱っていたりと得意分野に違いがある場合も多い。また個人での商いではなく傭兵団のような大きな組織を相手にすることを専門にしていたりする商人もいるそうだ。

 ある商人を訪ねてみて専門外だとわかったら、その商人に自分が求める専門の武器商人を紹介してもらったりするんだ。こうした商人同士の横の繋がりは結構ある。信頼の置ける商人が紹介してくれた相手なら十分信頼できるから、ギルドを通さなくても腕のいい商人や職人を探すことができる」


「へぇー。さすがメリエ。よく知ってるね」


「これくらい常識……と言いたい所だが、受け売りだな。私も知らなかったんだが、以前護衛の依頼を受けた時に依頼主の商人が教えてくれたんだ」


 メリエの説明を聞いて考えてみると、これは利用者にメリットがあるだけではなく、売る側にもメリットがあることだ。

 利用者は紹介料を払わなくても自分の望んだ品物を扱っている商人を探す事ができる。

 そして商人側もお客からの信頼を得るのと同時に、お客を商人間で融通し合うことができる。自分が紹介してあげるということは、次は自分が誰かにお客を紹介してもらうことができるかもしれないということだ。


 客側はギルドを介さなくてもそうした信頼の置ける商人の知り合いを作っておけば、次からはその商人を頼ればいい。商人にとってもお客との繋がりは自分の売り上げを伸ばすだけではなく、協力関係にある商人とお互いに支え合うことになり、商売を円滑に進めることができるようになるということのようだ。


「確かにそうすればお客も商人も嬉しいですけど、紹介料をもらうギルドはあまり良い顔をしないんじゃないですか?」


 自分とメリエのやり取りを聞いていたアンナが、ライカの毛をモフりながら疑問を投げかける。ライカは相変わらず興味が無いようだ。アンナに撫でられて気持ち良さそうに目を閉じていた。

 うーむ。納得しかけていたが、アンナの考えていることも一理ある。


「それがそうでもないんだ。定住している者についてはアンナの言う通り、知り合いの商人を作っておけばその町でそうした情報に困ることは無くなる。しかし、利用するのはその町の店や商人を熟知している者だけではないだろう?」


「ああ、外から来た人か」


 ポンと手を打って思いついたことを口にする。


「そうだ。町の外から来て店を利用する者もかなりの数がいる。私達のようにな。そうした人間はその町の商人のことなど判らない場合が多いから、大抵はギルドで情報を買うことになる」


 インターネットで何でも欲しい情報が得られる日本とは違い、この世界にはそうした便利なものはおろか新聞や広告のような情報源も無い。ギルドや情報屋などを使わずに情報を得る手段といえばせいぜい人伝での噂話くらいだ。

 情報を求める人間にとっては今回利用したギルドでの紹介という手段が信頼も置ける合理的な方法となる。


「それからもう一つ。これは商人よりも鍛冶師やハンターなどの職人に多いのだが、MやSといった上位ランクの人間達はあまり人間関係を持っていないことがあるんだ。こう言うと偏見かもしれんが、人の寄り付かない場所に引き篭もっていたり、本当にそれ一本に没頭してしていてそれ以外のことに無頓着だったりする。

 そうした横の繋がりが乏しい職人達の情報は登録している各ギルドくらいしか持っていないこともある。そんな上位ランクの職人の紹介料もあるから、ギルド側はそれほど気にしていないらしい。

 それに個人での情報のやり取りを規制してしまうと信用と信頼を第一に考えているギルドの本質から外れることになるし、各国も警戒するようになってしまう」


「はー。色々なものが関係しているんですねぇ」


 説明を聞いたアンナが納得したといった感じで頷いた。

 確かに情報の独占は利益優先の意思と取られてしまうだろう。バークがギルドの説明の時にも明言していたし、独立性を保ち続けるには情報は大事だが独占はまずい。その辺を考慮して今のシステムがつくられたということの様だ。


「まぁ知りたいことは知ることができた。早速紹介してもらった武器屋に行ってみよう」


 メリエに促されて総合ギルドの建物を後にした。

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