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 ほくほく顔の露店の店主にお礼を言い、良さそうな服屋を探して歩き始める。

 さすがに王都というだけあって服を売っている店もかなりの数があった。それぞれの店で客層が違うらしく、貴族御用達のような高級そうな店もあれば、一般庶民が集まっているリサイクル品を専門に扱っているような店もある。他国から持ち込んだものなのか一風変わった種類の服なども露店で売られていた。


 今回はそれなりな物を買うということで、高すぎず安すぎずな中間くらいの店を選ぶことにした。

 男性用や女性用の専門店、また旅で使う服の専門店もあるのだが、今回は全て扱っている店を探す。そこなら街着も旅装束も置いているし、男性用も女性用も取り扱っているので三人分の服を揃えられるだろう。


「ここなんかいいんじゃないか? 華美でもなく、そこまで質の悪い感じもしない」


「そうですね。品揃えも豊富みたいですよ」


「じゃあ入ってみようか」


 そこそこ賑わった店を選び、メリエを先頭に扉を潜るとすぐさま店員が近寄ってきた。結構歳の行ったおじさんである。服屋というだけあって着ている物はぴしりとしたものだった。


「いらっしゃいませ。どういったものをお探しで?」


「旅装束一式と街着を見たい。あと、男性用のしっかりとしたフォーマルな街着などは置いているか?」


「はい。ございます。こちらにどうぞ」


 服については全くわからないのでここは女性二人と店員に丸投げすることにした。

 この世界の一般的な服がわからないということもあるが、人間だった頃もファッションや流行といったものには無頓着だった。そのため自分の美的センスというものに自信が無い。

 アンナとメリエは自分の服を後回しにし、サイズだけ確認すると早速男性物の服が置かれている場所であーでもないこーでもないと品定めを始めた。


「……これはどうだろう。落ち着いた感じがしていいんじゃないか?」


「そうですね……でもちょっと野暮ったい感じも……あ、これもいいですね。クロさんの髪色にも合いますし」


「ふむ。その系統の色なら少し明るいのも捨てがたいな」


 女性陣が選ぶところに割って入るのも気が引けるので、手持ち無沙汰に商品を流し見しながら待つ。

 そこまで外見に拘りもないし、上品に見られようとも思っていないから、そんなに真剣に選んでもらわなくてもいいと思いもしたが二人に悪いので口にすることは無かった。


 暫く待っているとアンナとメリエがそれぞれ選んでくれた服を持ってきてくれた。

 アンナの方はシャツ、ジャケット、パンツの三点セット。街着として着るのに丁度良さそうなものだ。色合いも若者向けというよりは大人びた感じで落ち着きがある。手触りは綿のような感じだが、かなりしっかりとした厚みがあって長持ちしそうだ。


「クロさんは雰囲気も落ち着いた感じがするので、その方向でまとめてみました。どうですか?」


「僕もあんまり派手派手なのは抵抗があるから、これくらいが丁度いいかな。これなら町の人に溶け込めそうだし」


 正直な所、どの程度が普通なのかもわからないのでコメントしにくい。まぁ見た目もおかしくはないしアンナが選んでくれたのだからこれでいいだろう。


「私は旅でも使えるようなものを選んでみた。これなら丈夫だしいいと思うぞ」


 メリエは黒を基調とした旅でも使えるものを選んでくれた。革っぽい素材で補強を施された上下に、ブーツもある。確かにこれなら旅で着ていても違和感はない。上から革鎧などを着ても良さそうだ。

 町の中で着るとハンターや傭兵などと認識されそうなものなので、悪目立ちすることも無いだろう。


「確かに頑丈そうだね。縫製もしっかりしてる」


「では、どっちを買うんですか?」


 ここでアンナが真剣な表情で問い詰めてくる。メリエも期待感を滲ませた顔をしている。

 さっき一着と言ったからどちらかしか買わないと思っているようだ。

 しかし、二人の様子からしてここでどちらか一方だけを選ぶのは、何やら危険な香りがする……。二人の期待に満ちた表情を裏切ればどうなるか……。メリエの方を選んだらアンナの機嫌が悪くなりそうだし、アンナの方を選んだらせっかくお礼にと服を選んでくれたメリエが落ち込みそうだ。


「んー、どっちも捨てがたいし……じゃあ両方買うよ。ありがとうね」


 自分の背筋に走った直感を信じ、ここは無難に両方買うことにした。別に2つあって困る事もない。

 選んでくれた二人にお礼を言うと、やや不満げな視線を残しつつも頷いてくれた。


 それにしても、さすが年頃の女性の二人が選んでくれただけあってセンスがある。こんな隠れてればいいやという思考の自分には馬子にも衣装ならぬ、竜にも衣装だ。


 アンナ達の服の予備は店員が選んでくれたものをそのまま買うようだった。王都で服を扱っている店の人が選んでくれるならコーディネートに失敗する事もないだろう。

 アンナは以前買ってあげたワンピースタイプのものに似た薄い緑の服と動きやすそうなパンツとシャツの街着を。メリエは実用性を重視した旅でも使えそうな上下を選んでいた。


 一通り選び終えたので、そろそろ服の購入も終わりにして武器屋に行こうかと思い始めた頃、メリエがおずおずと話かけてきた。


「な、なぁクロ。今後のことを考えると私もアンナのように変装したりする必要が出てくる場合もあると思うんだが……」


 指摘されて考えてみると確かにそうかもしれない。

 以前は正体さえバレないようにしていれば人間の姿の時に警戒する必要は殆ど無かった。人間が求めていたのは竜の自分であって人間の自分ではなかったからだ。


 しかし、シェリアの件で動き出せば敵対している人間側に自分達のことを知られてしまう可能性は出てくる。それにバークが指摘した教会の件もあるし、人間の姿の時でも付け狙われることを気にする必要がある。もし懸念した通り襲われるとなれば、一緒にいるメリエやアンナにまで危険が及ぶ可能性は否定できないだろう。


 一緒にいる時ならばどうにでもなるが、別行動をしたところを見計らって手を出されると厄介だ。

 今後も別行動をすることはあるだろうし、その時のための対策としてメリエにも変装できるアーティファクトを用意しておくのは良い考えかもしれない。


「……言われてみれば一緒にいるところを見られているだろうし、別行動をした時に人質にされたりしないようにメリエにも獣人とか他種族に変装できるアーティファクトがあった方がいいかな?」


 となるとメリエだけではなく、ポロも変装する必要が出てきそうだが、町の中で一緒に歩き回るということはあまり無い。町中でのことだけを考えるなら、とりあえずポロのことは後回しでもいいか。

 以前と違いアーティファクトで強化までしてある疾竜のポロなら例え襲われてもよっぽどの相手でもなければ返り討ちにできるはずだし。


「そ、それでな。私も猫耳のアンナの時のように、似合いそうな獣人種を考えてくれないか? それに合わせて変装用の服を仕立てようと思う」


「え? 僕が選ぶの?」


「……ダメか?」


「いや、それは別にいいけど……」


 じっとメリエを見つめて考え込むと、メリエは居心地が悪そうに顔を逸らしてモジモジとしている。

 メリエに似合いそうな獣人か……。アンナのような猫耳や、スレンダーな体型を生かし兎耳バニーにして可愛さの路線というのも合うと言えば合いそうではある。というか元が美人だし間違無く似合っているだろう。が、やはりメリエの雰囲気とは少し違う気がする。


 狐耳も捨てがたい。しかし、狐は賢いがいたずら好きな性格だと言うし、これも少しメリエの印象とは合わない。

 凛としたイメージのメリエだとやはり忠犬ぽいから犬の獣人がいいだろうか。

 ……いや、それだとどうも一緒に試験を受けたコージス君を思い出してしまう。悪くはないが自分の中で男性のイメージと被るというのもちょっと抵抗がある。となると……。


「……個人的な考えだけど、メリエに合いそうなのは狼かなぁ」


 狼は仲間想いで愛情深く、感情豊かな動物だ。そんな性格とメリエの雰囲気はよくマッチしているように思う。


「狼か……何だかあまり可愛気がないな……」


 あら。個人的には似合うと思ったのだが、余り乗り気ではなさそうだ。ちょっとションボリしている。

 アンナの猫耳が気に入っているようだったし、メリエも可愛い系がよかったのだろうか。

 しかしアンナで思ったのだが、他人を装ったり目立たなくするために変装するのに、可愛すぎて人目を集めてしまうというのも本末転倒になりそうだ。変装の意味がなくなってしまう。


「あ、いや、兎とか猫も可愛くて似合うとは思うんだけど、凛として仲間想いのメリエには狼が一番しっくりきそうだから。それにあんまり人目を惹く見た目になると大変だよ? それでなくても二人とも結構周囲の視線を集めてるのに」


 元々顔立ちも整っていて綺麗な髪を靡かせたメリエは言わずもがな。アンナも体が健康になってきたので美少女に磨きが掛かっている。素の状態でも二人を視線で追う男性はかなり多い。

 それにアンナの猫耳でアレだったのだ。メリエまでそんな見た目をしたら道を歩くだけで今以上に人目を集めることは想像に難くない。


「え!? そ、そうなのか? 自分ではこんなものなんだろうと思っていたんだが」


「少なくともその辺の町の女性よりは人目を惹いてるよ。外に出たらちょっと周囲を気にしてみたら? そうすればわかると思う」


 気付いていなかったのかい。

 アルデルでもタチの悪いハンターパーティに言い寄られていたのに自覚が無いとは。

 まぁ鏡が一般的では無いこの世界じゃ自分の容姿に無頓着になるのも仕方ないか。今までソロで活動していたメリエはあまり同性と行動する機会が無かったので、同じ女性が男性にどう見られているのかを知る機会が無かったのだろう。


 それにメリエにはお目付け役のポロもいる。いくらメリエが魅力的でも疾竜が警戒しているのを気にせずに接近してくる男性がそうそういるとは思えない。なので男性が自分に興味がないと勘違いしているのかもしれない。

 自分は気付いていた。アンナやメリエと擦れ違って思わず振り向く男が多いことに。一緒に歩く男の自分がいなければかなりの数の男達に声をかけられるのではないだろうか。


「う、そうだったのか……確かに目立ちすぎたらまずいしな。じゃあそれでいい。では狼の獣人種に合いそうな服を買っておくことにしよう」


「アンナも別な種族に変身するようにしようか? 見てる分には可愛くていいと思うけど、変装としては目立ってたし」


「え!? い、いえ。私はこのままでいいです! 折角買った服がもったいないですし! (……それにクロさんが可愛いって……)」


「そ、そう? わかった」


「む……と、ところでクロ。クロから見て私はどうなんだ?」


「どうって?」


「あ、その。よ、容姿というか、好みというか……」


 いや、だからさっきも言ったでしょうに。

 人間の価値観が色濃く残っている自分から見てもかなりの美形であることは間違いない。


「僕から見たら他の女性よりも魅力的なのは間違いないと思うけど、でも竜の意見だし参考になるかわからないよ? 種族で美醜や見た目の捉え方が変わるから、同じ人間種に聞かないと意味が無いんじゃない?」


「いや! そんなことはないぞ! ……そうか魅力的か……よし! じゃあちょっと服を探してくる!」


 メリエはさっきまでのしょんぼり顔を吹き飛ばした嬉しそうな笑顔で獣人種用の服を選びに行った。

 メリエの変わりようにやや呆気に取られたが、ふとアンナの方に視線を向けるとアンナがこちらを無表情でじっと見つめている。


「ア、アンナどうしたの?」


「いえ、別に。何でもありません」


「そ、そう?」


 表情が何でもなくなさそうなんですが。

 アンナはそれ以上何も言うことは無かったので、こちらも深くは突っ込まずにメリエが服を選び終わるのを待った。


 メリエが変装用の服を決めたところで今までに選んだ全部の服の代金を自分がまとめて支払う。

 質が良いだけあってアルデルで買った服よりも高かったが相変わらず懐が痛むということもない。メリエは悪いからと言っていたが、こちらの財布事情を知っているのもあり、最後は折れてくれた。

 買い込んだ服をそれぞれのカバンにしまうと、店員が見送る中、服屋を後にした。


「やはり大量に買っても嵩張らないこのカバンやリュックは反則だな。重さがそのままということを差し引いても市場に出せば凄まじい価値を生みそうだ」


「そうですよね。しかも私達は身体強化のアーティファクトまでもらってるので実質その重さすら気にする必要が無くなってますし……」


「挙句、無理に盗もうとすれば電撃でイチコロだしな」


「まぁ何はともあれこれでシェリア達に渡しちゃった服の予備も買えたし、次の店に行こうか」


「そろそろ昼時だ。昼食を済ませてから続きにするか?」


「そうだね。王都の料理店の味も気になるし。何か食べたら魔法商店と武器屋かな?」


「時間的にすごい混雑していそうですね。露店で済ませるのもいいかもしれません」


「じゃあちょっと歩きながら良さそうな店を探そうか」

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