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試験

 判定官のバークに付いて待合室を後にし、廊下を歩く。

 そのまま裏手にある出入り口を出ると王都の中心付近にあるにしてはかなりの広さがある訓練場に出た。

 訓練場では様々な人間が訓練に勤しんでいた。的に向かって矢を射る者、パーティーなのか数人で連携の練習をしている者、杖を構えて何かをしている者、教官のような人に怒鳴られながら剣を振っている者、実戦さながらに戦っている者。


 運動場のような場所なのに、やっていることが物々しいので殺伐とした印象を受ける。そんな訓練場の壁際を歩き、端にある一角に向かう。

 そこは土の地面が綺麗に均され石版が敷き詰められていて、地面には赤いラインで四角が描かれている。ここが戦闘試験の試合場(リング)ということだろうか。


 近くの壁には様々な武器が立て掛けられている。恐らくこれが貸し出してくれる武器なのだろう。剣や槍は勿論、メイスやハンマーに魔法用の杖、弓や投擲で使う投げナイフなど以前アルデルで訪れた武器屋並に揃えられていた。

 その武器が立て掛けられている試合場の壁のすぐ脇に二人の人間が立っている。


「ここが試験会場だ。まずは試験官を紹介する」


 バークがそう言うと試合場の脇にいた二人がこちらに歩いてくる。一人は直剣を背負った短髪の男で、バーク程ではないが結構と筋肉質な体格だ。見た目はまだ20台後半くらいだろうか。


 もう一人は耳が長いのでエルフかハーフエルフなのだろう。まだ10代くらいの幼さを感じる中性的で美形な顔立ちと肩口まである長めの髪のため、男性か女性かわからなかった。動きやすそうな服にねじくれた金属製の杖を持っている。


「剣を持ったでっかいのがラサイ、近接主体だ。杖を持ったちっこいのがダール、魔法主体だ」


「おやっさん……もちっとマトモな言い方はねーのかよ……」


「同感です……」


「あん? 分かりやすくていいだろうが。んじゃ試験官として挨拶してくれや」


 バークに紹介された二人は、バークのいい加減な紹介に辟易とした様子で訴える。苦言を呈されたバークは特に悪いという雰囲気も見せず、二人に場を譲った。

 前に進み出た試験官の二人は、並んで立つ自分達の方に体を向けると口を開いた。


「あー、俺が今回の試験官を任されたラサイだ。戦う以上は真剣にやるつもりでいる。そちらさんもそのつもりで臨んでくれ」


「同じく試験官のダールです。新たな同胞の実力、楽しみにしています」


 ラサイという男は正にイメージ通りの戦士タイプのようだ。雰囲気が親しみやすく、仲良くなったらアニキと呼びたくなってしまいそうだ。

 ダールは声音からすると男性のようだ。エルフの血族は魔法への適正が高いらしいし、それなりの実力を持った魔術師ということなのだろう。


 シェリアの『真実の瞳』の一件でエルフと思われるダールに警戒心を持ったのだが、今回は何かを感じ取っている様子は無かった。シェリアによれば『真実の瞳』はかなり希少な能力という話だったし、そこまでエルフを警戒する必要はないのかもしれない。


 試験官と判定官には自己紹介をされたが、試験を受ける側の人間は特に自己紹介をすることはないようで、そのまま場を引き継いだバークがまた話し出した。登録時の情報が既に伝わっているということか。


「じゃあこれからルールを説明する。一人ずつどちらの試験官と戦うかを決め、一対一で戦ってもらう。判定と立会人はさっき話した通り、俺だ。俺が開始と終了を宣言する。俺が止めるまでは終了じゃない、一回や二回ぶっ飛ばされたからってそこでやめるんじゃねぇぞ? 精神的な部分も判断材料だ。さっさと諦めるような奴は実戦じゃ即あの世行きだし、仲間も危険に晒す。評価は悪くなるぜ」


 バークの説明を黙って聞く新人側の人間達は、徐々に緊張の色が浮かんできている。ずっと無表情だった魔術師風の少女も幾分か目に緊張の色を宿していた。

 最初から緊張しまくりの獣人種の少年は肩が強張ってガチガチになっている。鎧を着けた若者も腕を組みつつ真剣にバークの説明を聞いていた。


 自分も手を抜いてもいいとはいえ、さすがに少し緊張してきているのを感じる。自分の戦いのこともそうだが、試験官や新人がどの程度なのかを観察する機会でもある。情報収集も含めて真剣にやる必要があるだろう。


 バークが説明を始めると周囲で訓練をしていた人達がこちらに集まってきた。試験場を取り囲むように立ち、周囲の人間と何かを話している。

 恐らく自分達新人の値踏みをしているのだろう。実力がありそうなら早めに目星を付け、パーティーに勧誘したり、仕事上のライバルとしてマークしたりするのではないかと予想した。


「さて。んじゃ始めるぞ。一番手はコージスだったな」


「は、はい!」


 緊張しきってやや裏返ったような声を上げたのは獣人種の少年だった。一番手の緊張と見られているという緊張で、もはやカチコチだ。


「まぁ気持ちはわかるが、深呼吸でもしてちっと肩の力を抜け。んで、どっちと戦うんだ?」


「すぅーはぁーすぅーはぁー……。え、えっと。自分は接近戦でお願いします!」


「よし。じゃあラサイだ。コージス、武器を選べ」


「は、はい! ……自分は剣で」


 コージスは壁際に並べられていた一番シンプルな片手でも両手でも持てるタイプの直剣を手に取り、試合場の中央に進む。既に試合場で待っていたラサイと向き合った。


「他の人間はラインの外まで下がれ。ここで貸し出す武器は刃引きされているが、当たればそれなりの怪我は負う。多少の怪我なら治療士が常駐しているから気にせずぶつかって行け。危険と判断したら俺が止める。じゃあ準備はいいか?」


 試験を行なう二人以外がラインの外に出たのを確認し、二人の様子を窺う。ラサイは剣を抜き軽い姿勢で構えているのに対し、コージスは強張った様子で剣を握っている。

 緊張のためか犬の尻尾もピンと伸びたまま固まっていた。これだと相手に精神状態が丸わかりになるので隠した方がいいと思うのだが。

 その時が近づくと周囲の人間の話し声も小さくなり、皆静かに開始の時を待つ。


「いつでもいいぜ、おやっさん」


「……」


「始め!」


 バークの開始の合図に最初に反応したのはコージスだった。


「うわぁぁぁぁ!!」


 静かに構えるラサイに正面から剣を振り被って突進する。何とも読みやすい攻撃であるため、あっさりとラサイに受け止められた。


「ほっほう。気合は良し」


 剣をぶつけたラサイとの力比べになるかと思いきや、ラサイはスルリと剣を傾け、コージスの押す力を受け流す。力で押し込んでいたコージスは押した力そのままにつんのめった。


「くっ」


「馬鹿正直すぎるぜ。魔物だってそんな風に切りかかられたら逃げるっての」


 言いながらラサイが静かに横薙ぎを繰り出す。見るからに手加減をしている動きだ。体勢を立て直して振り返っていたコージスが横薙ぎの剣を受け止めようとする。が───


「うぎっ!」


 ラサイは剣と剣がぶつかる直前にピタリと止め、反対側から蹴撃を繰り出す。コージスはフェイントに対応できず、革鎧で守られた脇腹に蹴りをもらった。


「剣を持ってるからって、剣だけで攻撃する必要はないんだぜ?」


「フゥー!」


 痛みを堪えて立ち上がったコージスは体勢を低くし、さっきよりも速い足運びでラサイの足を狙う。攻撃されたのに動きが良くなったコージスを見てラサイが少し感心したような視線を向けた。

 しかし、やはり攻撃は届かない。


 動きがわかりやすいコージスの攻撃を、ラサイがスイスイと回避していく。

 素人の自分から見ても、経験の少ない初心者が攻撃を当てようとがむしゃらに剣を振っているだけに見える。恐らく格闘技経験の無い人間だった頃の自分が、同じような動きをするのだろうなと他人事のように考えながら眺めた。


 数分間はコージスが剣を振り回し、ラサイがそれを避けるということが繰り返された。やがてコージスの息が上がっていき、動きにキレが無くなってくると、それを待っていたと言わんばかりにラサイが剣を振り被り、コージスの握りが甘くなった手から剣を弾き飛ばした。


「うあ!」


「それまで!」


 剣を弾かれたことで戦闘不能と見なしたのか、バークが終了を宣言する。

 息を荒げながら剣を弾かれた手を悔しそうに見つめるコージスに、ラサイが声をかける。


「動きや技術はまだまだだが、闘争心を失わないその心意気は気に入った。伸びしろは結構あるぜ。訓練を怠らずにがんばんな」


「……! あ、ありがとうございました!」


 悔しそうにしていたコージスも上級者に褒められた事で少し表情が明るくなっていた。負けて萎れていた獣人の尻尾も幾分か上向いている。

 コージスが試験場から出てくるとバークが声を上げる。


「よし、次はアルダだ。どっちとやるんだ?」


 次に動いたのは鎧を着ていた若者だった。


「俺も近接だ。武器はコレで行く」


 そう言って壁際に並べられた武器から短めの直剣と盾を取る。剣はコージスが使った物よりも細身で、片手専用のようだ。盾は上半身を隠せるくらいの大きさのカイトシールドに似た逆三角型のものだった。手に持つ動作も慣れた感じなので、コージスとは違いある程度は戦った経験があるのかもしれない。


「じゃあまたラサイだな」


「はいよ」


 連戦だが殆ど疲れを見せていないラサイが軽い足取りで試験場の中央に移動する。アルダも移動しラサイと向き合った。

 そのまま静かに腰を落とし、盾を前面に構える。


「準備はいいか?」


「いつでも」


「ああ」


「始め!」


「肉体の真価───ブースト」


 開始の宣言と同時にアルダが小声で何かを呟く。それを聞いたラサイは少し瞳に剣呑な雰囲気を宿した。


「へぇ……魔法も使えんのか」


 さっき呟いたのが何かの魔法なのだろうか? 見た目には何も変化は無いが……。

 その後暫くは二人とも攻撃する気配を見せない。静かにお互いを見据え、様子を窺っているようだ。がむしゃらに突っ込まずにまずは相手の出方を窺う作戦だろうか。

 そんなアルダの様子を見てラサイが言う。


「あー、言っとくが俺から先に仕掛けるつもりはないぜ?」


 対してアルダは何も応えず鋭い目付きのまま、動かない。

 その状態が数十秒続いたところでようやくアルダが動き出した。

 コージスの時とは違い、足運びが滑らかだった。


「ほぉ。構えといいその動きといい、誰かに師事してるのか? 間合いも考えているみたいだな」


 アルダはそんなラサイの声を無視し、苛立たしげに間合いを詰める。盾を前面に出しているのでラサイからはアルダの体勢や武器の動きは見えないだろう。そこまで考えて動いているという事か。

 ラサイはいつ攻撃されても対応できるように身構えつつも、未だ開始時の場所から動いていない。


「シィッ!」


 距離を詰めたところで盾の影から鋭い突きを繰り出す。盾でしっかりと体をガードしているのでラサイもカウンターを取りづらいのか、足を引いて回避する事にしたようだ。

 避けられても続けざまに攻撃を繰り出していくアルダ。対してラサイは武器では受けず、さっきのコージスの時の様にひらりひらりと回避していく。ラサイの動きには、やはりまだまだ余裕があるように見えた。


「クソがぁ!」


 自分の攻撃が当たらないアルダは額に青筋を浮かべている。コージスよりも持久力があるのか、かなり激しく動き回っているのに息切れをしている様子は無い。

 しかし余計な言動が多すぎる。これでは相手に心理状態を悟られてしまうだろう。


 野生で感情を剥き出しにしていては即座に足元を掬われる事になる。動物や魔物は意外と人間のそういう部分をよく観察している。怒り、怯え、油断、そうした心の動きを読み取って的確に隙を突いてくるのだ。

 まだまだそうした精神的な部分が未熟という事か。


 新人はこれくらいの力量なのかと分析しながら剣戟を眺める。

 この程度なら身体強化をしていない人間の姿の自分でも十分対処できるだろう。


 コージスよりも長い時間戦ってきたが、それでもやがてアルダの方に疲労の色が見えてくる。額に汗を浮かべ徐々に攻撃のキレが鈍ってきているように見えた。対してラサイの方はまだ軽い足取りで動き回り、息切れもしていない。人間だった頃の自分ではとっくにへたばっているくらいは動いていると思うが、さすがは上位の戦闘評価を与えられた試験官だ。


「……動きはなかなか、だが───」


 避けるだけで攻撃の様子を見せていなかったラサイだが、アルダが剣と体を引いた瞬間に動いた。

 疲れを見せ徐々に動きが鈍ってきていたアルダだったが、構えは崩すことなくいつ攻撃をされても防げるように盾でしっかりと前面をガードしている。


 しかしラサイは盾でガードされた真正面から突っ込む。剣での攻撃ではなく、腰を落としてタックルするような構えで突進し、半身からショルダータックルのように盾にぶつかった。


「うごっ!?」


 アルダは盾でガードはしたものの踏ん張ることができず、そのまま引っくり返る。地力の違いと疲労の蓄積もあり、ラサイの突撃(チャージ)に耐え切れなかったようだ。

 引っくり返ったアルダが起き上がろうと動く前にラサイは喉元に剣の切っ先を向ける。


「それまで!」


 ここでバークが終了の宣言をした。それでラサイは剣を引く。


「クソッ……」


「ふぅ……。構えや動きは騎士団で鍛えた人間の技術に近い。が、まだまだ未熟だな。技術に対して肉体が追いついていない感じか。補助魔法を使ってそれじゃあな。盾で防ぐ事を前提にするなら踏ん張れるだけの足腰が無いと逆に隙を晒すぞ。まぁこれは個人的な感想だが、今後ハンターとして魔物の相手を中心にやっていくなら騎士団の型に嵌った戦い方はあまりお勧めしない。騎士団の戦術は集団戦と対人戦に重きを置いているからな」


 自分の剣で肩をトントンと叩きながら倒れたアルダに声をかける。対してアルダは忌々しげに起き上がり何も言うことなく試合場の外に出た。

 やはりアルダが最初に呟いたのが何かの魔法だったようだ。言葉から推察するに星術の身体強化と同じようなものだろうか。しかし自分では何も感じ取れなかった。詳しく知るにはまだ情報が足り無すぎるか。


 今までの二人の動きはメリエの戦闘技術に比べるとまだ下のような感じだ。メリエならばもう少し相手と状況を判断して動くような気がする。今戦った新人二人ならポロのいないメリエでも勝てていただろう。


「これで二人。次はナイアだ」


 バークの声が響いた。

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