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 索敵の術を使って暗い穴に意識を潜らせていくと、徐々に洞窟の全体像がわかってくる。といってもこの洞窟全てを把握することは不可能だった。


 まずこの直径15mはある大きな穴はかなりの長距離にまで伸びており、地下鉄トンネルのような感じで地中を走っているのがわかった。自分が把握できる距離を正確に測ったことはないが、少なくとも数十kmという規模はあるようだった。


 術で探る事ができる限界距離を超えて伸びているため、この太い大穴がどこまで伸びているのかはわからなかったのだが、穴に入って数十mくらいのところから大穴を幹のようにして細い横穴が枝のようにいくつも伸びているのがわかった。


 どうもこの長大な洞窟はオークが掘ったものではなく何か別のものが掘ったか、自然現象でできたもので、オーク達は元々あったこの大穴を利用して途中に自分達の巣を築いているようだった。

 ただ、今自分達が立っている大穴の出入り口以外に出入りできるような穴は見当たらないので、オーク達に非常口を作るような知能はないのかもしれない。もしくはまだ作っていないだけなのか。


 そして気配を窺っていると、今正に穴を掘り進んでいるような動きをしているもの達がいるのがわかる。この巣自体が最近できたばかりのもので、今も規模を拡大しようと工事をしているということだろう。


 というのもここは街道からそれ程離れていない。こんな場所に巣があっては頻繁に街道に魔物が出てくることになるため、街道での被害が増えることになる。大きな都市も近いという話だし、街道間際にある巣くらいは騎士団などが討伐しているはずだろう。


 そんなことを考えつつ、終わりの見通せない大穴から巣と思しき穴へと意識の重点を移し、中の状況を探る。枝分かれした細い通路は蟻の巣のように所々に部屋が在り、そこから生物の気配を感じ取ることができた。

 その部屋の気配を一つ一つ確認していくと、最奥に近い部屋に魔物と思われる数多くの気配に混じって人間と思しき5つの星素の気配があるのを感じ取った。


 恐らくこの5つの気配が攫われたという人間のものだろう。

 この長大な洞窟を自分の術の探索範囲を越えて移動したのだとしたら数十kmに及ぶ距離を移動せねばならず、かなりの時間を要するはずだ。


 しかし襲われた走車はまだそれ程時間が経っている様子も無く、この洞窟をざっと確認した感じでは途中で外に出られそうな横穴なども見当たらなかった。

 ということはもし攫われた人間がいて、この洞窟に入ったのだとしたらそこまでの長距離を移動はできず、外にも出られていないということだ。


 これらのことを考えると十中八九、感じ取った5つの人間の気配が攫われた人達ということになる。

 その人間の気配を取り巻くように何かの星素が集まっている。オークの星素の気配を感じ取ったことがないのでこの集まっている気配がオークのものだと断定はできないが、恐らくはオークのものだろう。


 だが、星素の気配はオークのものだけではなさそうだった。数が多いものとは違う星素の気配がいくつか混じっている。オーク以外の魔物も潜んでいると心に留めておくことにする。


 気配の様子から人間の気配にオークの気配が群がったりしている様子は無いのでまだ生きてはいるのだろう。だが動いている気配は無い。状態や怪我の有無はわからないが、生きている気配を感じ取れる今ならまだ間に合いそうだ。


「……やっぱりこの中に人間の気配があるね。まだ生きているよ。それから人間以外の生き物の気配もたくさんある」


「どうしますか?」


「急がないとまずそうだから救援を待っている余裕は無いね。人間の気配の周りにいっぱい気配があるから取り囲まれていると思うし、いつ襲われるかわからない」


「! では急いで助けに行きましょう!」


 アンナはムンッと拳を握りながら意気込む。これから魔物の巣に入ることになるというのにやる気満々である。盗賊などから身を守ってきた実績のあるアーティファクトを持っているという安心感もあるのだろうが、意外と肝が据わっているのかもしれない。


 今までに戦争に巻き込まれ、奴隷にされ、竜に出会い、魔物の群に襲われと、度々過酷な出来事に晒されたことで耐性がついてきているのだろうか。慣れるのはいいのだが、危機意識は持っていてもらいたいと思ってしまった。


「わかった。じゃあ乗って」


「はい!」


 アンナを背に乗せ、救助に向かうことにする。ただし、洞窟には入らず、そのまま土と石ばかりの荒地と草原の中を駆けて行く。


「あれ!? クロさん!? 助けに行かないんですか!?」


「ん? 助けに行くよ?」


「だってこっちは……」


「大丈夫。すぐにわかるから」


 アンナを乗せて荒地を駆けること数十秒。周囲に何も無い場所で足を止める。


「あの……どうしたんですか?」


「ここから助けに入るよ」


「え? 別の入り口とかは見当たりませんけど……」


 何かあるのかと周囲を見渡しながら困惑するアンナを他所に、術の準備をしつつ説明する。

 何もわざわざ正面切ってオークの巣に入る必要はない。


 人間の姿では索敵の術が使えなくなるので、できるなら竜の姿のままで入りたい。ただ、入り口から続いている大きな洞窟なら竜の自分でも十分な余裕を持って移動できるが、枝分かれしているオークの巣になっている穴はそこまで大きくは無いのでこの姿では移動しにくい。


 それに枝分かれしている道の先には蟻の巣のように小部屋があり、そこに何匹ものオークや魔物が(たむろ)していて一つ一つの部屋を潰していくのは効率が悪く、時間もかかる。いつ攫われた人間が襲われるかもわからない状況で無駄な時間を使うのはよろしくない。


 またオークも戦う気配を感じれば増援に来たり逃げたり移動したりするだろうし、攫われた人間の安全を確保できるまでは極力派手に騒ぎを起こさない方がいいだろう。


 これらのことから、竜の姿のままで中に入る必要があるが巣の中の狭さや移動の時間を考えると大きな図体で悠長に攻略している時間は無いし、派手に戦いながら進むのはまずい。

 ということで最短ルートを自分で掘るのが一番いいと考えた。

 わざわざオークの掘った道を通らないで、新しく直通の穴を掘ってしまえばいいのだ。


「───というわけだから、ここから直接攫われた人がいると思われる小部屋に向かおうと思います」


「そ、そんなことできるんですか?」


「うん。アンナも前に見たでしょ? 土を動かして穴を掘る術。ホラ、露天風呂を作った時にやったヤツ」


「ああ! なるほど」


 どうするのか考え込んでいたアンナだったが、お風呂を作る時や泉の森で使っていた術のことを話すと思い出したようだ。


「……メリエさんじゃないですけど、クロさんならもう何でもアリですね」


「まぁよく知らないけど人間の魔術師でもこれくらいならできそうだけどね。穴を掘るだけだし。ただちょっと困ったこともあるんだ……」


 竜の姿で術を使えるなら深く素早く穴を掘ることができるのでこれくらいは朝飯前。直接真上に出てしまうと攫われた人を潰してしまうのでややずらしはするが、これなら確実だし土木工事のように騒音が発生するわけでもないので気付かれる心配も少ないはずだ。


 深さも100mは超えていないと思われるので、そこまで時間はかからない。

 一度索敵の術を使って場所が合っているかを確認したので、問題なく囚われている人間の気配の真上あたりに来ている。

 このまま下に向かって掘っていけば囚われている人間のすぐ近くに出られるだろう。

 しかしこれには一つ問題があった。


「竜の姿を見られちゃうんだよねぇ……」


「でも竜の姿じゃないと早く穴は掘れないんですよね? かといって洞窟を進んでいたら時間がかかりますし、今回は人助けということで割り切るしかないんじゃないですか?」


「……まぁ仕方ないかぁ。問題になったらその時に考えよう」


 のんびり対策を考えている時間は無い。一応アンナは変装しているし、自分は人間の姿になってしまえばわからないだろう。見られても適当に誤魔化してその場を凌ぎ、二度と会うことが無いようにすればいいのかもしれない。

 それに面倒事が起こったらこの国を出て行くという手もある。


「じゃあ行くよ。アーティファクトの準備できてる?」


「はい。防壁も電撃も大丈夫です。怪我をしていたらすぐ治療できるように癒しのも準備してあります」


「よし」


 自分も一つ、星術を準備する。以前【竜憶】で見つけた術だ。かなり大規模な術だが試してみたいと思っていたのでこの機会に実験することにした。

 この術が上手く使えるなら似ている同系統の術も問題なく使えるはずだ。そしてこの種類の術を使えれば、文字通り国を滅ぼすことも可能になるだろう。まぁそこまではする気はないが、切り札は多い方がいい。


 自分とアンナの準備が整ったので、いよいよ真下に向かって穴を掘り進める。

 自分の足元の土を動かし、かなりの高速で竪穴をつくっていく。感じ的には下に下りるエレベーターに乗っている感じだろうか。


 モゴゴゴゴと石や土砂が術でかき分けられ、竪穴の壁に押し固められていく。崩落の危険が無いように竜の状態で操れる星素を大量に使い、かなりの力を込めて押し固めているので派手に術を使ってもそう簡単には崩れることは無いだろう。


 徐々に入り口からの明かりが遠ざかり、土の匂いと闇が濃くなっていく。それに比例してアンナから伝わる緊張感が強くなり、自分も意識を引き締める。


 数分とかからず足元に空間が広がり、小部屋まで穴が開通した。

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