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重なる言の葉

「(!! 狙いは僕だけど、どんな攻撃をしてくるかわからないから油断しないで!)」


「(言われるまでもない)」


 ライカは目の色を変えた。射抜くような鋭い眼差しだ。

 ザワザワと金色の尾を靡かせているライカの後ろで、アンナとイーリアスも構える。


 こっちも悠長に分析している場合ではない。

 向かってくる男に首を向ける。

 動きは……速い。余力を感じさせるのに先程の男達よりも。


 だが、素直な突進。

 振り被るのは右手の黒い刃。

 体を低くし、やや半身になって横薙ぎを繰り出す姿勢。


 どうせこっちの正体はばれている。星術を隠す必要はない。

 反撃に使う星術を選びつつも、星素を防壁に集中し、激突に備える。


「あの竜語魔法だけじゃないだろう……さあ。お前の力を見せてみろ、古竜種」


(……!)


 受ける構えの自分に、無表情のまま躊躇うことなく横薙ぎを繰り出す。

 牽制のつもりか、力を測る目的か、やはり素直な攻撃だ。

 ゴギンという音を響かせ、側面から迫った黒い刃と防壁が激突して鬩ぎ合う。

 が───。


「ギャァ!? (!? 痛った!? 何だ!?)」


 熱感と衝撃。

 そのすぐ後に焼けるような痛みが走った。


「……翼だけか……やはり硬いな。やりよう次第では飛竜の首も落とせるまでに鍛えた俺の剣だが、未だ古竜の鱗は簡単にはいかんか」


 男は追い討ちをかけるでもなく飛び退いた。


(つぅ!!)


 痛みの元は左側面。左の翼の翼膜の一部が切り裂かれ、ベロリと捲くれている。そこから血が流れ出る。

 翼膜は鱗で守られている訳ではないが、それでも並みの斬撃程度では切り裂けない強度としなやかさがあったはず。


 黒い刃は防壁で確実に止めた。体にも触れていない。にも拘らず翼膜を切り裂かれたということは……。

 相手が引くのに合わせてカウンターをお見舞いしようと狙っていたが、それどころではなくなった。


 そして、初めてだった。

 竜の姿で血を流す程の攻撃を受けたのは。

 竜の血は人間のような赤ではなく、やや紫がかっていた。【竜憶】で知識としては知っていたが、赤紫色をしている古竜の血を、初めて自分の目で見る。


「クロさんっ!! 血が……!」


 アンナが焦った声を上げたが、今はそっちを気にする余裕が無い。


「ググゥ!! (くっ! まずい!)」


 戦いの中にあって裂傷による刺すような痛みは集中力を著しく削いだ。お陰で追撃にと狙っていた星術は発動できなかった。

 それに加え、竜の体で初めて負う目に見える傷。その焦りが一瞬、思考を塗り潰す。

 その僅かな間に───。


「ははーん。竜語魔法もやっぱり理論構成は似ている。害意が無い者はシールドで遮れないんだね。人間種の魔法と古竜種の操る竜語魔法の共通点……これは興味を惹かれるよ」


(っ!!?)


 取り付かれた。

 剣を振り抜いた男を警戒しつつ左翼に負った傷に気を向けた瞬間、エルフの声が右側面から響いた。

 傷を負った焦りに加え、それを一刻も早く治す為癒しの術を使おうと気を向けてしまっていたのは事実。

 しかし、それを差し引いても速過ぎる。


 無表情の男の動きは速かった。

 如何に肉体強化を施していたとしても後衛よりと思われたエルフがそれに追随し、ほぼ間を開けずに自分に取り付いてくるとは思っていなかった。

 いや、そもそも魔術師が竜に接近戦を挑んでくるとは考えていなかった。見た目通りの魔術師だったため、そんな先入観が働いてしまった。


「グル!! (このっ!!)」


 大きく身を捻り、右翼に飛び乗ったエルフを払い落とそうとする。

 が、張り付いたように落ちない。


「フフ───氷晶這う青を」


(!!)


 エルフが呟いた瞬間、エルフの手が触れている部分から冷気が翼に染み込む。

 魔法だ。


(くっ!! 斥力を!!)


「冷たく───」


 間に合わない。

 エルフが次いで言葉を発すると、冷気が強くなった。

 まず翼膜に霜がつき、徐々に痺れて動かせなくなる。


「冷たく───」


 更に冷気が翼を蝕む。

 右の翼の感覚が失われ、黒い鱗も凍り付いて白く変色する。

 周囲の空気も急速に熱を失ってゆく。


「冷たくなぁれ」


 エルフが手を離して飛び退くと、完全に氷結した右翼。

 表面だけではなく内部まで凍ってしまっているようで、全く動かせない。


「(いちち……)」


「(クロッ!! 大丈夫か!?)」


「(まだ平気。癒しの術でどうにかなる)」


 裂傷に凍傷、完全に両翼を傷めた。

 幸い二人は一撃入れた段階で距離を取っているので、この隙に癒しの術をかけておく。

 以前凍傷を負った経験が思いがけず役に立った。本来なら翼を失うことになるであろう凍傷も、この程度なら時間をかければ問題なく完治できる。


「……あれが3番の編み出した、魔法の鍵言を重複させて威力を倍化させる〝重言〟というやつか」


「そうだよ。見せるの初めてだっけ? 結構難しいんだよ?

 にしても……凄まじい耐性だ。結構本気出して三重の重ね掛けしたのに、全身どころか翼しか凍らなかったよ。飛竜なら一瞬で氷漬けにできるのに、信じられないバケモンだね」


「こっちも同じだ。翼膜は切れたが、鱗はダメだな。鱗でこれでは竜骨は更に硬いだろう」


「しかも傷を癒してる。竜種の生命力に厄介な耐性、そして竜語魔法……手が付けられないな。子供でこれって反則でしょ……どーする?」


「どうするも何も、やるだけだ」


「さすが戦闘狂。素晴らしい御答えで……ま。耐性があるって言っても完全に防げるわけではないみたいだし、ボクの魔法なら竜鱗も竜骨も関係無い。そっちの後に行くよ」


「……こんな風に役割分担をするなど何年ぶりだろうな。初心を思い出す」


 幸いいくらか動揺は落ち着いた。まだ翼は動かせないが、致命傷でもない。

 だが、エルフの魔法はともかくとして、男の剣撃がよくわからない。

 防いだはずなのに斬られるのはどういう理由なのか。心構えもできていなかったのに加え、あの一瞬では分析のしようもない。

 これでは防戦一方だ。


「(魔法はともかく、剣撃の方がよくわからない……まずは見極めないと)」


 剣そのものを防いだのに切り裂かれる。

 さっきは翼だけで済んだが、目や口を狙われると危険だ。癒せたとしても大きな隙ができる。それをエルフの方が見逃すはずが無い。


 思考を巡らせていると、動いた。

 また二刀の男が先だ。

 こっちの都合で敵は動いてくれない。当たり前だ。


「(クロ、平気と言うなら、もう一回攻撃を受けてみろ。私が視てやる)」


「(! ……頼むよ)」


 全方位を護る防護膜の術は集中のリソースを割くため、さっきは使用が容易な防壁にしていた。

 しかし今度は反撃は考えない。防護膜で全周をガードし、見極めることに専念する。

 それに加え、エルフの方の動きにも注視しておかなければ。


 向かってくる男の方は、先程と同じ、素直な突進からの横薙ぎ。

 力を読み合っているのは向こうも同じということか。それとも……。

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