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似たもの

「(ライカ。相手が攻撃してきたらこっちも動くから、予兆があったら教えて。それまでちょっと準備する)」


「(いいぞ)」


 部屋の中の動きはライカに任せ、こちらは星素を集めていく。

 ただ制圧するだけならこれ以外にも方法はあるのだが、せっかくミクラ兄弟と戦って試すことができた星術だ。攻撃性の星術としては結構利便性も高いし、感覚を忘れない内に加減を完璧にしていつでも使いこなせるようにしておきたい。


 ミクラ兄弟の時のように、個人を狙う程度の規模であるならそこまで星素を必要としなかったが、百人を越える人間が入っている部屋全体を攻撃するとなるとそれなりの量が必要だ。

 残念ながら城のあるこの場所は星脈からは離れている。威力を抑えるとはいえ、部屋全体に十分な効果を及ぼすには小さな的を狙う量とは桁違いの星素が必要になる。周囲に漂う星素を必要量まで集めるのには少しだけ時間がかかった。


「(しかし……やはりクロと来て正解だったな)」


「(え?)」


 じっと集中していると、背中からライカの小さな声が届いた。

 また面白いものが見られるという意味だろうか?


「(……私もクロもヒトではないが、ヒトに興味を持った者だ。

 全ての生き物は己が見た一で、未だ見ぬ十を判断するものだろう? 我々のような者達が最初に出会う人間は、大抵印象が悪い者達ばかりだ。一部の腐った人間を見て、全ての人間が腐っていると判断して見境無く殺して回るヤツも数多くいる)」


 と思ったら随分と真面目な話しだった。

 だが、言うことはよくわかる。

 ニュースで政治家や教師などの不祥事を目にした際、その不祥事を起こした僅かな人のために同じ仕事をする多くの人に悪印象を持ってしまうということは誰でもあるだろう。

 それは人種、職種、地域、宗教など様々なもので差別や偏見を生んできた。


 ましてや今の自分は人外の存在。同じ人間同士ですらそれなのに、種族が違えばどうなるかなど明白だ。

 それでなくても人間として生きている時には少なからず自分もそうしたことをしてきた。自覚はなくとも無意識のうちに。

 蜂を見て人を刺す蜂か、刺さない蜂かを瞬時に判断できる人間などそうそういないだろう。となれば身を守る為には蜂を見たら種類を問わず避けるか、殺すしかない。それは人でも同じことが言える。


「(だが、クロはそうした輩とは違った。クロは同じヒトでも、倒すべき者とそうでない者とを分けている。自らを襲ってくる人間を何人も相手にしているというのに、だ。

 特に暴れ者の多い竜種、それも知識ある古竜種でありながら、知識に溺れず自分の見たもの聞いたもので相手を判断している。ヒトに限らず、私を含め出会った相手を種ではなく個で見ている。

 私以外にも……いや、私以上にそうした考え方をする者に出会えた。それが嬉しかったんだ)」


「(……まぁ僕は特殊な部類だからね。それに僕らみたいに相手を問わずに意思疎通ができたり、ライカみたいに相手の思考を読むことができるならまだしも、そんなことができない生き物にはどんなに自我や理性が強くてもこうした考え方は難しいよ)」


 今の自分には種の壁を越えて意思疎通が可能な手段と、力がある。

 だからこそ人間の時ほどの猜疑心を持たなくて済んでいるのだ。仮に襲われたとしてもどうにでもなるから。


 これはか弱い人間では難しいことだろう。自分だって人間の時にはそんなニュースを見る度に疑ってきた。真面目にやっている人間でもそうした疑いの目で見てしまったのを覚えている。

 それ以外に自分が被害に遭わないようにする手段が無かった。悪意から自分を守る為には疑うしかなかったのだ。でなければ、誰も助けてはくれないから。


「(まぁな。だが、理解できることと納得して行動に移せることは全く違うものだ。現に多くの知性ある生き物がそれを出来ずにいる。私と同じように思考の匂いを嗅ぎ取れるオサキの一族でも同様だ。クロと同じ古竜種でもそうだろう?

 だから、やはり嬉しく思う。アンナやメリエがクロに惹かれる理由が何となくわかったぞ。なあ、アンナ?)」


「(そうですね。クロさんは私みたいな人にも優しくしてくれました。出会った時はクロさんを見て恐がっちゃったんですけど、そんな私を気遣ってくれました。その後にはハンターの人達がクロさんを襲ってきたのに、同じ人間である私を見捨てずに一緒に居てくれた。

 そんなクロさんだったから、私、勇気を出そうって思えたんです。

 恐いっていうイメージしかなかった大きな竜でも、クロさんは違うって。私を受け入れてくれたクロさんだから、私も受け入れられるって。メリエさんもきっと同じですよ。一緒に居たいと思えない人と旅なんてできません)」


 自分はそこまで考えていたわけではなかったので、何ともむず痒くなる。元々は人間の価値観が色濃く出ているために、こうした性格になっているだけだし。


「(ほーう。私が言いたかったこととは意味が少し違うのだが、いや、アンナも意外と言うではないか。見直したぞ)」


「(え? いや、あの……あ、改まって言うと気恥ずかしいですね)」


 こんな時だが、アンナがもじもじとする。それを見てライカがニヤニヤとしていた。

 照れくさいのはこちらですよ。幸い竜の顔にはそうした感情が表れにくいので内心を悟られることは無いと思うが……。


「(ふふん。クロでも照れるのだな。知らん顔していても思考の匂いでわかるぞ)」


 そうでした。

 ライカは思考すらも推察する鋭い洞察力があるのだ。単純な心の機微などお見通しですか。


「(まぁこの話はあとでゆっくりすればいいな。さて、私や水妖との戦いの時には見られなかったクロの力の一端が見られることを期待するとしようか。あの不可視の術の原理も興味がある。楽しみだな)」


「(……それってライカ並みか、それ以上の力を持った奴が相手にいるってことになるよね……ライカみたいな強さを持ってる奴がそんなにいたら困るんだけど……)」


 もしもそんなのがゴロゴロといたら途端に状況が悪くなる。遠慮したいところだ。


「(わからんぞ? 私とは力の質も違うだろうしな。はてさて)」


 くつくつと笑うライカに呆れながら、アンナに言う。


「(ありがとね……アンナ。そろそろ敵も動くと思うからアンナも準備してて。僕が突っ込んだらアンナの守りに気を回せなくなるかもしれないし、武器だけじゃなく身体強化と防壁、それから電撃カウンターのアーティファクトも準備しておいて)」


「(はい。大丈夫です。クロさんも気を付けて下さいね)」


「(まぁアンナの方は私が見ていてやろう。力が使えないとはいえ、そこらの人間ごときに遅れは取らんさ)」


「(任せるよ)」


 さて、待っている間に十分な量の星素を体内に蓄えることができた。

 これなら残量を気にせず星術を使うことができる。仮に王都に来る前に使用した環境改変のような大規模な術でも数発は使うだけの余裕がある。それだけできればこの部屋どころか王都を更地にしてもお釣りが来る。

 あとは集中力と星素の調節、そして敵の強さの問題。


「(!! 来たぞ。殺気だ)」


「(待って。もう少し)」


 準備はできている。だが、少し間をあける。

 先に手を出してあれこれ言われるのは面倒だし、まずは王女に対して先に手を出したという既成事実を作る。どうせ防護膜で剣も魔法も届くことはない。それすらも突破されそうなら打って出るしかないが、恐らくその心配はいらないはずだ。

 先手は、くれてやるとしよう。その先は自由にはさせない。

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