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手段

「(おっと、はじめるなら私は降りるか。力を出せぬ今の私では足手纏いだからな。今回はアンナと共に外から見物させてもらうとしよう)」


「(んー。……いや、降りなくてもいいよ)」


 やや残念そうにそう言ったライカに、少し考えてから言う。それを聞いたライカは怪訝そうな顔をした。


「(何? 私が乗ったまま()り合うのか? クロの巨体に潰されるのは御免だぞ)」


「(たぶん殴り合いみたいな戦いにはならないと思う。今回は初めから手加減するつもりはないし、いきなり大技でいくつもりなんだよね)」


 ミクラ兄弟のときのように、正体を隠したまま立ち回るのならライカには降りてもらう方がいいのだが、今回は既に正体を知られている。中の者達も自分の正体を知ったところで逃がすつもりはない。襲って来る者は返り討ち、逃げる者は近衛に捕まる。なら最初から星術を使って叩き潰した方が効率的だ。

 こちらの思惑通りにいけば、推進派の人間は誰一人としてこの部屋から出ることは無いだろう。


「(アンナも乗ってて。今回は下手に離れられるより一緒にいてくれる方がやりやすいから)」


「(え? 私もですか? でも、いいんですか? ライカさんみたいに戦うなんて無理ですけど……)」


「(うん。この部屋ごと攻撃できる星術を使うから、離れられると逆にやりにくいんだ。急に動いた時に振り落とされないようにしっかり掴まっててくれればいいよ。もしも一回目の攻撃で倒し切れなかったら、その時には降りてもらうかもしれないけど)」


 近衛騎士は入り口を固めているので中には入らない。ということは部屋いにいる王女とイーリアス以外は全て敵と見ていいだろう。中には推進派ではない人間もいるのかもしれないが、余計な抵抗さえしないでくれれば殺さずに済むはず。


 なら狙うのは個々ではなく、部屋全体が最も効率的。逃げる暇も与えず、全員片付ける。

 イーリアスも敵が動けば王女を庇うために動くだろうし、アンナ達が一緒にいてくれれば守るのは自分と王女だけで済む。離れられるとその分そちらの守りにも気を割かなければならないので集中が散漫になってしまう。

 もしもそれがダメだったら王女の元で下ろしてライカとイーリアスに守ってもらえばいいだろう。


「(ほう。どんな術なのだ?)」


「(さっき森でミクラ兄弟に使ったやつだね)」


「(あの擬態していた水妖の頭を一瞬で粉々にした不可視の攻撃か。それをこの部屋全体にか……下手をしたら建物ごと粉砕しないか?)」


「(さすがに手加減はするよ。森でミクラ兄弟に使ってみて力加減は何となくわかったから、思惑通りいけば一発で片付けられると思う。まぁ敵の動きによってはやり方を変えるとは思うけど。

 集中して上手く使えば余計な手間も減らせるし、関係無い人間を巻き込まなくて済むからね)」


 この攻撃は、自分で考えている限りでは防御することができないものだ。無論魔法がある世界なので自分の知らない防御方法がある可能性も捨て切れないのは確かなのだが、それでも防ぐのは限りなく難しいと思っている。あとは耐えられるかどうかなのだが、この星術の特性からすると普通の人間ならまず耐えられない。


 周囲全てが敵側の人間ならば一切の遠慮なく使えるが、部屋の石壁一枚向こうには近衛も待機しているし、城で働いている人間も行き来しているはず。そんな人たちを巻き込むのも気にせずに戦うのはさすがに気が咎める。廊下を歩いて何も知らない使用人達と擦れ違ったことでそれは自重しようと思った。


 部屋全体を対象にするのはミクラ兄弟の時のようにピンポイントを狙うほど大変ではないが、細かな調整をすることには変わりない。なのでできるだけ余計なものに集中を割きたくはない。できるなら王女やイーリアスも自分の防護膜に入れてしまいたいところだ。


 全員殺すのは簡単だが、それは必要に迫られた時の最終手段。自分は裁く者ではない。

 母上が教えてくれたように、そんな思い上がりを持ってはならない。染まってはならない。ならば加減も覚えなければならない。


「(そうか。なら乗ったまま、特等席で見物させてもらうとしようか。アンナも乗るといいぞ。急に動かれてもアンナを支えるくらいなら私がしてやろう)」


「(あ、ありがとうございます。じゃあ……よいしょ)」


 アンナが乗りやすいように身体を屈め、翼をやや広げて足場代わりにする。首付近に座っていたライカもするすると背中辺りまで滑り降り、登ろうとしたアンナに手を差し伸べた。


「(す、すみません)」


「(気にするな。だが、アンナも気を抜かぬようにな。これから赴くのは戦場だ)」


「(はい。念のため武器も準備しておきます)」


「(できれば使う場面は作りたくないけど、準備しておくことはいいことだね)」


「おお……命令することもなく……熟練の竜騎士ですら思い通りになどならぬというのに……やはり……いえ、これが契約者としての絆ということですか」


 ライカの手を借りながら自分の背に騎乗し、腰のナイフに弓と矢の確認をするアンナを見て近衛騎士の副団長と名乗った男が感嘆する。

 【伝想】で意思疎通ができるので、彼らからすればアイコンタクトだけで竜である自分を屈ませ、背に乗ったように見えるはず。


「あ、はは……その、あ、危ないので近寄らないで下さいね」


「ハッ! 我々のことは御気に為さらず。後方は御任せ下さい。聖女様の御力をこんなに御傍で拝見できるだけで、光栄至極というものです」


「えっと……はは……」


 先程よりも敬礼に力がこもっている。苦笑を浮かべるアンナに向けるその視線も、何か熱いものを含んでいた。

 自分は特に言うこともないので近衛騎士の方に声を掛けることもなく意識を集中する。

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