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それぞれの意

「申し訳ありません、クロ様。僭越ながら、意見を述べても宜しいでしょうか?」


 どうするかを考えていたら王女が手を挙げる。

 堅苦しくしなくていいと言ったのだが、王女の態度は堅苦しいままだ。立場上仕方ないのかもしれないが、どうにもやり難さを感じてしまう。


「ん。どうぞ」


「私一人では本人か疑われることが考えられます。なので近衛であるイーリアスさんには同道してもらいたいのですが」


 王女がそう言うと、イーリアスが黙って頭を下げた。


「成程。じゃあ行くのは僕と王女様、それからイーリアスさん。

 今回は危ないしスイとレア、フィズさんは残ってもらおう。メリエ達もだね。カラム達のことも見てて。

 ライカは……残るグループの護衛をしてもらおうかな」


 まだスイやレアは手配されている。もしかしたら追手がそちらを狙ってくることも考えられるので戦える人材は残しておきたいところだ。

 しかしライカはそれに難色を示した。


「クロ、今回、私はクロに付いて行きたい」


「え? ……でも……護衛も欲しいんだよね。まだ追手が放たれているだろうし」


「クロ、最初に言ったことを覚えているか? 私は古竜でありながら人間と行動を共にするクロに興味があるのだ。だからこそ、一緒にいる。

 クロと彼女達との時間を見ているのもいいが、クロが敵対する人間を相手に何をするのか、どんな選択をするのか……それも見届けたい。

 彼女達の安全なら私が幻術を掛けて誰にも認識できないようにしておくこともできる。それでも付いて行ったらダメか?」


 何をするのかと言われても……何事も無ければ王女に任せるし、襲ってくるようなら撃退するくらいしか考えていないけど……。

 まぁライカは協力者という立場であり、指示に従ってくれるのは恩義を感じているからであって、こちらに強制権は無い。ならなるべく意に沿う形にした方がいいか。

 護りに関しては幻術を使っていてくれるらしいし、それに加えてアーティファクトもあるから、隠れているだけなら問題は無いだろう。それならライカを連れて行っても大丈夫そうだ。


「……わかった。じゃあライカもこっちね」


「無理言ってすまんな」


「……クロ様、申し訳ありません。私からもう一つ、提案したいのですが」


 ライカが待ち切れないとばかりに自分の背中に飛び乗ったところで、王女が再度手を挙げた。


「あ、はいはいどうぞ」


「……アンナさんを、共に連れて行くことはできませんか?」


「……!?」


 思いがけない提案にアンナも自分も一瞬呆けた。だがすぐに不穏な理由を予想し、厳しい目で王女を見据え、顔を近づけて問い質す。


「……理由は?」


「それも、後ほど詳しく説明致します」


「……言っておくけど、今僕は自分の意思で、スイ達との約束のために協力している。だけど、僕が最優先とするのはその約束ではなく、仲間の命だ。それを利用しようとしているなら……それなりの覚悟をしてもらうぞ」


 王女の治療だけならやり様次第で正体を隠したままでいられたかもしれないが、シラル達が捕まったことでそれは無理だと判断した。

 自分以外に推進派の戦力と正面からぶつかれる者は、ライカだけしかこちら側にはいない。そのライカもあくまで協力者という立場だ。あまり当てにしすぎるのも憚られる。


 戦いになれば自分が矢面に立つことになるのは間違いない。その場合、古竜であることを隠しておけないだろう。

 だから宿でスイ達に最後まで付き合うと決めた時に、自分の正体が知られてしまう覚悟はしてある。それもあってスイ達が王女に説明する時、星術のことを話す許可を出したのだ。


 自分は戦うことも、追われることも覚悟して臨んだ。そのための対策も考えている。

 だからメリエに言われ編成を考えた時に、戦いの渦中となるであろう王城には直接関係の無いみんなは連れて行かないと決めた。

 だから自分はいい。


 だが、アンナは別だ。

 今のアンナはお世辞にも戦いに参加できる実力ではない。それは王女の目から見ても明らかだろう。

 それをわざわざ危険に身を晒すよう言ってきたのだ。どんな腹積もりかはわからなかったが、自分の越えてはならない一線に踏み入ろうとしている。

 それをわからせるために怒気を隠さず、威圧感を発して警告した。


「……御安心下さい。利己的な意図はありません。またクロ様の御意思を軽んじている訳でも、御力を疑っている訳でもありません。これはクロ様達のため……後の話をスムーズに進めるために必要なことだと判断したからです。

 恐らく推進派は抵抗します。王城での戦いは避けられない……恐縮ですがクロ様の御言葉に甘え、御力に頼ることになるのは必至。

 クロ様の御力であればその場を収められるでしょう……しかしクロ様の御力を見た者達は皆思うはずです。〝その牙が何れ自分に向くかもしれない〟と。

 クロ様の言葉でそのようなとこは無いと言っても多くの者は内心で恐怖し続けるでしょうし、先に至れば新たな争いの火種にもなり兼ねない。助力して頂いた皆様の御手を余計に煩わせることになってしまう。それを防ぐためです。

 もしも、御気に召さないとあらば最後に私を殺して下さって結構。私の命を代償にクロ様の助力を請うたとして事を収めます」


「……」


 怒気に当てられ冷や汗をかくイーリアスとは違い、威圧感にも顔色を変えず、怯むことなく王女は答えた。

 怒りを発する竜に見据えられているのに、その瞳に恐怖や後ろ暗いものは感じない。華奢な上に今は痩せ細った身体だが目だけは強い意思に満ち、尋常ならざる迫力を放っていた。国を背負う王族という人種が持つ迫力に、脅しを掛けている自分の方が逆に気圧されそうになる。

 これでもし腹黒いことを隠しているのだとしたら、大した肝だ。


「クロさん、私も行きたいです。言われたからじゃなく、自分の意思で……私で役に立てるなら立ちたい。それに……」


 アンナはそこまで言うと王女を見詰める。そんなアンナの視線を、王女は正面から受け止めた。


「私が直接王女様に頼むのは失礼なことかもしれませんけど、今回のことが終わったら、私からお願いしたいことがあります」


「……私に出来る事であれば、協力は惜しみません。どのようなことでしょうか?」


 アンナは少し逡巡し、メリエやスイ達の方に視線を動かしてから、王女に向き直った。


「今はまだ話す時じゃないと思うので、全てが終わったらお話します」


「……わかりました。アンナさんは協力して下さっている立場です。遠慮なさることはありませんよ」


「クロさん……」


 怒気を収め、見上げるアンナの目を静かに見詰める。

 アンナの目にも、王女と同じ意思の光があった。誰に言われたからではなく、自分が決めたという強い意思。


「……わかった。じゃあそういうことだから、メリエ、そっちの方はお願いね」


「いいぞ。問題ない」


「! ありがとうございます!」


 アンナも何か考えがあってのことのようだ。それなら連れて行こう。

 同い年くらいのスイやレアには子どもではないから意見を尊重すべきと擁護したのに、同じように言ってきたアンナにダメと言っていたら親バカもいいところである。


 アンナは仲間。なら、できる範囲で意思は尊重するべきだ。そうでなくては仲間ではなく、ただ保護している子供になってしまう。

 アンナはそんな関係を望んでいない。言えば例え命を助けた自分でも本気で怒っただろう。

 アンナを気に入っているライカもいることだし、アンナ一人なら護るのも問題はないはず。


「お城に行くのは僕とライカ、アンナ、王女様、イーリアスさん。

 待っていてもらうのはメリエとポロ、スイとレア、フィズさん、それにカラム達」


「わかった。ここで待っていると追手が来るかもしれないから少し場所は移動しておく。合流はさっきと同じ方法でいいか?」


「そうだね。こっちにライカいるし。じゃあ戻ってくる時はライカお願いね」


「いいだろう。

 ああ、それから一つ言っておく。今回残る連中に幻術をかけておくが、距離が離れると維持に集中せねばならん。他の幻術もロクに使えなくなるし、戦いに集中することもできん。

 だから私は戦力に数えないでくれ。援護などもできないぞ」


「わかった」


 アンナの護りを任せたかったが、それも無理か。

 自分の星術もそうだが、離れた場所に術を使い続けるというのは大変なようだ。星術や幻術でそうなのだとしたら、人間の魔法にもそうした制約があるのだろうか。

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