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処遇

「なっ! おい! おいおい、ちょっと待て! 俺との約束はどうなるんだ!? それにさっき経緯は説明しただろう!」


 それを聞いたカラムが目の色を変えて叫ぶ。しかしイーリアスは冷たく突き放した。


「……元々約束を守るかはわからないという話でここまで生かして連れてきたんだろう。どの道連れて行っても、王女殿下を治療した者と判ってなお彼女らを襲ったのだ。ギルドでの判断は知らんが、国の法なら死罪はほぼ確定……先に死ぬか、後で死ぬかの違いでしかない」


「くっ……そ!」


「カラム……そんなことはさせない……!」


 カラムが歯を食い縛ると、ミラがそれに反応して怒りを露わにする。そのミラの意思に呼応するかのように、ゴポゴポと足元に水が蠢いた。

 事情がどうあれ、王族に手を出して軽い刑ということは無いか。古代中国ではどんな理由でだとしても王族やそれに順ずる身分の人間に、掠り傷ほどでも怪我を負わせたら即死罪だったこともあったらしい。


 しかしこの状況でそれは色々とまずい気がする。この様子ではミラがそれを許すとは思えないし、暴走でもされたら大変だ。

 フィズは知っていたが、イーリアスは精霊のことを知らないのだろうか。


「お待ち下さい! 彼らと約束したのはクロ様達です。勝手に彼らの処遇を判断するのは……」


 慌てたフィズがそう言うと、イーリアスは自分の方に向き直って頭を下げながら言った。


「畏れながら申し上げます。古竜様がそう仰っても、人間の国には人間のルール、法というものがあるのです。それを違えれば秩序は乱れ、人間の国は成立しなくなってしまう。

 古竜様が寛大な御心で恩赦を与えても、それとは別に我々は処遇を考えねばなりません。

 それに、古竜様が約束を違える訳ではありません。古竜様が約束通り彼らを解放した後、私共が彼らを法の裁きにかけるだけです。古竜様の誇りや尊厳は一切損なわれません」


「うーん……」


 ……言うことはわからなくもない。万引きをして捕まった場合、店の人が許すと言ったとしても、警察は許さない。法とは厳粛であらなければならない、そういうものだ。

 イーリアスの言う通り、処遇は後ほど決めると言ってここまで連れてきが、カラムはカラムで約束をちゃんと守り、情報も話したし、ミラも含めて大人しくしてくれている。仕事として誘拐犯となっている自分達を追って来はしたが、王女に直接手を出したという事実も無い。まだ弁護の余地はある。


 それに別に絶対ではないが、カラムの出会った古竜について詳しく聞いてみたいという思いもあった。

 これらのことや精霊が暴走する危険も考えるとやはり処刑はさせるべきではないと思ってしまう。少なくとも今ではないのは確かだろう。

 どうやってイーリアスを引き下がらせるかと悩んでいると、それを見兼ねた王女が判断を下した。


「イリアさんの言うことはわかりました。ですが、ここでの処断は許しません。

 彼にはまだ証言してもらわねばならないことがありますし、何より協力して下さっているクロ様の御判断です。それを差し置いて処遇を言い渡すのは義に反するでしょう」


「しかしそれでは……」


「よく考えて下さい。クロ様は古竜種……クロ様に人間の法、人間の都合や理屈を言っても無意味でしょう。そもそも生きる世界が違うのですから。

 クロ様がその気になれば、我々の国など容易く滅ぼせるでしょう。極論を言うならクロ様は一匹でも人間の国以上の力を有している。もしもクロ様に法を強制して拒否されればどうなりますか? 国同士であれば戦争ですが、相手は古竜……待っているのは戦争ではなく、破滅ですよ」


 まぁ星術の潜在能力を鑑みると、機嫌一つで王女の言うような事態が起こってしまう可能性も無いとは言い切れない。……今のところ自分にその気は全くないけども……。

 色々思うところはあるが、説得してくれているのだし、ここは黙っておこう。


「人間は一人では生きられない……国という枠組みや集団の中で生きる必要があるからこそ、法という秩序を作り出す必要があるのです。ですが、クロ様にその理屈は通用しません。

 人間種の我々には古竜種のクロ様を法に従わせる強さも、道理も持ち合わせてはいません。イリアさんにクロ様を捕らえ、罰を与えるだけの力がありますか?」


「ですが……」


「イリアさんの言うこともわかっています。示しは必要ということも……。

 人間同士の問題であるならば、国という枠組みから外れることはできません。なのでイリアさんの言う通り、処遇は法に委ねるべきこと。

 ……ではこうしましょう。クロ様が御赦しを与えるというのなら、彼らの身柄は私、王女の預かりとします。証言や今後の協力次第で恩赦も考慮しましょう。これならば無罪放免というわけでありませんし、処罰の必要を言われてもクロ様の意見を取り入れられます。

 それでどうでしょうか?」


 了承を得るために、王女は自分に向き直って問うた。

 まだどれだけの罰を受けるかは定かではないが、この場で処刑よりはいい。

 一応念は押しておこう。


「いいけど、殺すっていうなら僕が連れて行くよ。個人的に聞きたいこともあるし」


「わかりました。それで問題ありません。国外追放は刑としては軽いですが、クロ様が判断されたことです。私の判断も交えてのことですし、自由にではなく古竜様に隷属させるというなら示しはつくでしょう」


 ……それって竜に捧げる生贄……という扱いになるのだろうか……?

 竜に捧げる生贄の定番はお姫様とか若い娘とかなのに、筋肉質のオッサンじゃあ……いや、またアンナ達に睨まれるからやめておこう。


「……すまない」


「あ、ありがとう。私からも……」


 カラムが安堵の言葉を漏らす。ミラもぎこちなくだが礼を述べてくれた。

 正直隷属させる気は今のところ全く無い。カラム達は傭兵ギルドの規約に則り仕事を忠実にこなしていたというだけで、根っからの悪党というわけでもないし、野放しにしてはいけないといった類の人種でもないのだ。

 話を聞こうと思っている以外で連れまわす気はないし、そうなったらバークの伝手でも使ってギルドに預け、貢献させるのもいいかもしれない。それだけの実力はあるし。


「ではグループを分けるか。また私とアンナ、それからポロは残っているか? 荷物も預かっておくし、必要なら事が終わるまでどこかに隠れているぞ」


「あ……」


 メリエの提案にアンナが何か言い掛けたが、先は言わずに口を閉じた。何か気になったことがあるのかもしれないが、表情を見ると言う気はないようだった。


 さてどうするか。

 王女の予想では今や王城は敵の牙城。

 メリエの言う通り、アンナ達には残ってもらうべきかもしれない。それにスイやレアも連れて行くのは危険だ。

 現状ではカラム達を連れて行く必要はないしこちらも残ってもらおう。片付いてからゆっくり事情聴取でもすればいい。フィズはスイ達に付いていてもらわなければならない。


 達するべき目的は開戦の阻止、それには鍵を握っている王女の存在は不可欠。ここまで状況が進んだことを見ても、話し合いだけでこの一件を解決できる可能性は極めて低くなった。戻ろうとすればまた襲ってくる可能性が高いので、戦闘も考慮せねばならない。


 近衛騎士などの実力は高そうだし、カラムとミラ並みの人間との集団戦になるかもしれない。飛竜ともまたやり合うことになりそうだ。

 ライカがいたとしても、さすがにここにいる全員の安全を考えていては戦えない。

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