表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
156/351

同胞の残した影

 思いがけずに未だ見ぬ同胞について知ることになった。

 カラムの話を聞きながら【竜憶】でその竜が残した記録についてを調べてみると、白銀の鱗を持つ竜の記録が一つだけ見つかった。


 しかし記録に残っている白銀の竜の情報はカラムの言っている竜と同じとは考えられない。

 残された記録を見ていくと竜の森の姿が今とは大きく違い、天を突く大樹の数や大きさも全く違っている。あれだけの大樹が育つのにはそれなりの時間が必要のはずだし、それを考えるとかなり昔の記録だということがわかる。


 生きた時代が今と数年か数十年程度の違いしかないのであればわからなかったが、さすがに数千年単位で違えば間違えようが無い。

 同じ色の鱗を持つ竜がいるというのは別におかしなことではないので、カラムの言う古竜と【竜憶】の古竜がたまたま同じ色だったというだけのことだろう。


 【竜憶】にカラムの出会った竜についての記録が無いのには二つの理由が考えられる。

 一つはカラムが嘘を吐いているということ。しかしこれは無さそうだ。

 まず嘘を言う理由が無い。そしてもし嘘であるなら自分を古竜種だと判断した要因が失われる。命よりも優先するミラという水の精霊の命運まで背負っている状況で嘘を言うとは思えなかった。ライカも何も言わないし、嘘をついているという線は薄いだろう。


 ということはもう一つの方の理由。

 それはその竜がまだ生きているから情報が引き出せないということ。

 竜核に残された情報が【竜憶】に記録されるのはその竜が死んでからだ。死ぬまでは記憶や技術はその竜のものであり、死んで初めて所有権が失われ、共有化される。白銀の竜が生きている限りは持ち主の記憶や情報は何も引き出せない。


 【竜憶】で見つかった白銀の鱗を持つ古竜が数千年間生き続け、カラムに出会ったという可能性は【竜憶】に記録が残されているという理由から排除される。

 とするとカラムに出会った竜は、まだどこかで生きていることは間違いない。


 白銀の竜についてはカラムの話し以上の情報を【竜憶】で得られることは無かった。だがいくつかわかったこともある。

 まず【竜憶】に今の時代を生きる白銀の竜の情報が何も無いということがわかった。〝何も無い〟というのも立派な情報だ。


 つまり、その竜に関わって死んだ竜がまだいないので情報は記録されていないと考えられるのだ。

 生んだ竜の視点での記録も無いので親の竜も生きているということだろう。そう考えるとまだかなり若い竜だろうか。


 古竜同士が偶然出会うことは稀だが、出会おうと思って探し回れば出会うことはできる。そうした仲間を探す星術もあるからだ。これは繁殖の時によく使われる星術で、特殊な使用条件があるため自由に使うことはできないが、パートナーを探すのに用いられる索敵の星術に似たものである。


 探そうとする相手によって少しずつ術をアレンジしなければならないため【竜憶】などのような固有名称はついていない。その術に頼らずに独自の方法で相手を見つける竜も結構といるらしいので、必須の術というわけではないようだ。


 もし同胞を探す手段が無いとなると、古竜は繁殖が極めて困難になる。母上が言った通り他種族間での交配も可能ではあるが、そればかりでは古竜という種は存続できない。

 純種の子を残す為にも同じ古竜同士で(つがい)となることは必須なのだ。そのための手段がちゃんと用意されている。


 母上は認めてくれたが自分のように価値観が著しく違い、古竜同士で番になろうと思わない竜は少数派である。なので成体となった古竜の多くは様々な方法で同族のパートナーを探そうとする。

 当然性格や棲む場所などが似通った相手を探すとなるとかなり苦労することになるが、繁殖可能な期間も長く寿命も他の生物に比べて長いので、時間をかければパートナーとなる古竜を探すことはそれほど難しくは無い。


 だが運よく探し出せたとしても番になれず、縄張りを侵す侵入者と見なされて戦いになったり、時には同じ古竜同士での殺し合いもあり得る。【竜憶】にはそうした出会いと戦いの記録もかなりの数が残っていた。

 他の野生生物でもパートナー探しをしていて戦いに発展することはままあることだ。探し出した異性に既に相手がいて取り合いになることもあれば、相手に気に入られず戦いになったりする場合だってある。それと同じだ。


 いくら知性や理性が高くても全ての古竜が母上や翁のように温厚な性格をしているわけではない。荒っぽい者は少なからずいる。もしも古竜同士が争って殺し合いをしたなら、殺された竜の記憶が【竜憶】に残ることになる。

 しかしそうした記録も全く無いので、さっき考えたようにパートナーもいないまだ若い竜か、あまり竜同士での交流をしない一匹狼の竜かのどちらかだろう。


「……わかった。ありがとう」


「まさか、古竜に礼を言われることになるとはな……何が起こるかわからんものだ。性格や大きさは違うがその強さは古竜のもので間違いない。一度でも殺そうとした俺達の話を聞いてくれるとは、あんたはあの竜とは違って随分と温和なんだな」


「……それは時と場合に因る。僕だって必要とあらば相手を殺すことは躊躇わない。状況が違えば自分を殺そうとしてくる者を生かしておいたかどうかはわからない。自分や仲間を守ろうとする防衛本能、それは生き物にとって当たり前のことであり、古竜や人間といった種族は関係ないさ。

 さっきも情報を得ようと思わなければ二人を殺していただろう。現にバーダミラは殺すつもりで攻撃し、頭を吹き飛ばした」


「……そうだな。理由はどうあれ、俺達がやろうとしたことは殺されても文句は言えないことだ。相手の命を奪おうとする者は、自分が命を奪われることも覚悟せねばならん。

 逆にこうして生かしておいてくれている……感謝してもし足りないな」


 ……そしてもう一つわかったこと。

 それは(たね)

 白銀の古竜は温情でカラムを見逃したわけではないし、偶然や気まぐれで見逃したというわけでもない。白銀の古竜はカラムを〝保険〟に利用するためにわざと見逃したのだ。いや、正確に言えば見逃してはいない。


 カラムが聞いたのに思い出せない会話の内容と『封ずる』という言葉。【竜憶】に共通点のある星術があった。編み出したのはかなり古い竜だ。

 自分でも使えないことはないが、正直なところあまり使いたくはない。これから先も使おうと思うことは無いだろう。

 恐らく白銀の古竜はそれをカラムに使った……カラムに〝種〟を植え付けたのだ。


 なら今余計なことを言うのはよろしくない。カラムに思い出させてはならない。種を芽吹かせてはならない。

 どんな内容で星術をかけられたのかにも依るが、状況から察するに良い結果を齎すものではない。これを解除する方法は、今は無い。

 今後カラムが同じ竜に会って術を起動されてしまったり、会話の内容を思い出したりしなければ問題はない。しかし何かの拍子に思い出してしまったら……。


「……クロさん?」


「ん?」


「あ、いえ。……やっぱり同じ古竜種のことですし、気になるんですか?」


「いや、まぁそんなところかな。僕も会った事がある同胞って少ないし」


 顔に出ていただろうか。竜の顔に表情はあまりでないはずだが、日頃から竜の姿を見慣れてきているアンナには僅かな違いがわかるようになってきたのかもしれない。

 まだ定かではないことも多いし、下手に口にするのはまずい部分もあるので、ここは言わないでおく方が良さそうだと判断し、適当に濁しておく。


「では、今度こそ本題に入ろう」


「あ、うん」


「そうですね」


 追求される前にフィズが話題を変えてくれた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ