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判別の理由

「では話が逸れたが、本題に入ろう」


「待って。その前に僕も一つ聞きたい」


 フィズが本筋に戻そうとしていたところだったが、そう割って入る。その声にその場にいた全員の目が自分に向いた。

 自分が発した声に、捕らえられ縛られてはいるが割りと平然と話していたカラムの表情に驚きと焦燥が浮かんだ。やや目を鋭くし、額に冷や汗を浮かべながら自分を見つめている。


「なぜすぐに僕が古竜種だとわかった?」


 違和感。

 確かにさっき、カラムの前でアンナ達と会話をしてしまっていたが、それだけで古竜だと判断するものだろうか。


 カラムが起きている時に使った星術はそれほど多くない。目で見えるようなものは火炎ブレスを真似たものだけで、切り札の一つである不可視の星術や防護膜など他は全て目に見えないものだった。自分が使った形跡すら残っていないのに、古竜種の使う竜語魔法だと判断するのは難しいだろう。現にカラムも精霊も戦いの中では自分以外の誰かが何かをしていると考えていた。


 ライカのように擬態を使える魔物が他にいないわけではないはずだし、母上の話しやアンナ達に出会ってから色々な情報を得て古竜種が希少(レア)な存在だということはわかっていた。少なくとも人間の住んでいる場所に姿を見せることは滅多にあるものではない。


 【竜憶】に残っている記録にも、人間の住んでいる地域に自ら入り込んだという古竜の記憶はあまり残っていなかった。あっても別の生き物の姿になっていたとか、ただ人間の住んでいる地域の高空を飛んで通り過ぎただけだったりといったものが殆どで、人間が古竜だと認識できているかも怪しい記録が大半だ。


 逆に人間が古竜の棲み処に入り込んできて戦いになったという記録は多く、それによって大規模な戦いに発展し、人間の国を滅ぼしたとか古竜が殺されたという記録が多く残っている。

 総じて古竜が人間に対して何かをするというよりは、人間が古竜に手を出すというケースが人間と古竜の歴史の殆どだった。


 今は姿も飛竜のものになっている。滅多に出会うことなど無い、それこそ物語にくらいしか登場しないような古竜種だと即断定できる要素があるようには思えなかった。

 しかしカラムは精霊を止めるために割って入った時に古竜だと断言していた。ということはカラムが古竜だと断定できる要因があったということになる。それがどうにも引っかかっていた。

 問いかけられたカラムはどう言うべきか逡巡しているような素振りを見せるが、意を決したのか顔を上げる。


「……無礼を承知で言わせてもらう。礼儀ってのが苦手なんでな、許してくれ。……それは、以前、あんたのお仲間に遭遇したからだ」


「!! ……別の、古竜に?」


 思いも因らぬ理由だった。


「……大分前の話だが、今でも覚えている……いや、脳裏に焼きついていると言った方がいいか……桁外れの強さと、野生にありながら人間よりも高い理性と知性を湛えた瞳、そしてその声だ……。

 あの時も同じだった。人語であるはずなのに、明らかに人では無い者の声……まるで心の中や考えの全てを覗かれている気分になる、頭の中に直接響く声だった。血気盛んだった俺は、初めて心臓を鷲掴みにされた気分ってのを味わった……その声を聞いて、一瞬で思い出したよ。あの時の光景を」


 自分と母上、そして森の翁以外の古竜。

 竜の森に自分以外の命の樹があったのを見たので、この世界に古竜が他にもいることはわかっていたが、出会ったことは未だに無い。

 そもそも絶対数が少ないのだ。


 竜の森にあった樹は大雑把に数えても精々百数十本。200には届いていないだろう。

 古竜の命の樹が竜の森だけにあるのなら、その数で古竜の全ての数と同じだということだ。例外はあるのかもしれないが、それでも誤差の範囲程度の違いだろう。

 母上や翁は他にもそうした場所があるということは一言も言っていなかったし、【竜憶】にも竜の森以外に同じような場所があるという記録は無い。


 この世界が地球と同じくらいの大きさだと仮定したとして、身体が大きいとはいえ百数十しかいない生き物に偶然出会える確率は一体どれくらいのものか。

 しかも古竜は様々な場所に棲み付く。大地のみならず、海洋や地底、高空、果ては他の生物に変じ、姿形すらも変えて……そうすれば確率は更に低くなる。


 地球で絶滅危惧種として指定されている種は殆どの場合で棲みよい環境にまとまっている。だから個体数が少なくても繁殖相手を見つけることができる。

 古竜種のように世界全てに散らばっていることなどない。これらを考えると偶然出会える確率は天文学的な低さになるはずだ。


 カラムはその天文学的な確率を引き当て、自分とは別の古竜と出会い、その経験から自分とその古竜の共通点に気付いたらしい。

 今は普通に話しているつもりだが、実際は【伝想】によって相手との言葉の壁を越えて会話をしている。それがカラムには直接頭に響くように感じているようだ。

 アンナやメリエは特にそういった事は言っていないので、カラムが敏感で【伝想】と実際の声との違いを意識してしまうためか、それとも他の要因か。


「その古竜に出会ったのはかなり前、俺がまだミラと出会うよりも前だった。……あんたよりも大きい、白銀の鱗を持つ成竜だ。

 当時俺は恐いもの知らずで、危機意識ってものがなかった。他の若い駆け出しハンターと一緒でな……何よりもまず手柄を上げてやるという野心に燃え、未開地にも積極的に踏み込んだ。

 そして北限にある極寒の山、雪と氷に閉ざされた未開地で、そいつに出会った……出会っちまった。俺はその時初めて、自分の力の小ささってのを思い知った。この世には覆らない力の差があるってな」


 言いながらカラムは焦点の合わない目を地面に向ける。その視線の先は落ち葉の溜まった大地ではなく、記憶の中にある過去に対峙した古竜を見ているのかもしれない。


「……腕には自信があった。名のあるハンターに師事して実力を上げてきたし、僅かな期間でランクも上位に食い込んだ。そのお陰で戦闘評価もハンターになって一年経たずに歴戦の連中と並んでいた。飛竜を倒せるくらいの実力があると自負していた。

 未確認だったが飛竜が出るって話を聞きつけた俺は北の小国の都市でギルドの依頼を請け負った。そこで五人の同じようなハンターに出会って飛竜討伐を共同でやることにしたんだ。面識もない偶然組んだ五人だったが、皆少なくない死線を潜り抜けてきた実力者だった。そいつらと組んで未開地だった雪山に飛竜討伐を目標として入り込んだ。

 飛竜はいた。はぐれ飛竜だった。運良く飛竜は食事に夢中でこっちに気付いていなかった。吹雪いていたってのも大きかったな。そんで、六人で協力して討伐することに成功した。……その直後だ」


 相変わらず下を向いたまま、視線は今ではなく昔を見るかのように焦点が合っていないまま、カラムは続けた。自分を含めた全員がそれに聞き入る。

 水の精霊だけは心配そうな表情でカラムに寄り添っていた。

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