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森の奥

 十数分ほど草木を掻き分けて進んだところで水の流れる音が聞こえてくる。

 やがて本当に小さな小川が流れる少し開けた場所に出た。


「ここでいいだろう。あまり距離は離れていないが、これ以上進むと密林になる。遮蔽物が多すぎて不意打ちをもらう危険も高まってしまうぞ」


「(はいよ)」


 メリエが立ち止まって荷物を下ろすと、各々が同じように続いた。

 ポロの背中に乗せられていた王女をスイとレアがそっと降ろし、落ち葉が降り積もってフワフワになった天然のベッドに静かに寝かせた。フィズに連れられていた近衛騎士も王女の横に座らせる。

 カラムと精霊はやや離れた場所に座らせ、その近くに自分がドシンと座った。一応カラムはまだ縛ったままではあるが、突然何かされても大丈夫なようにアンナ達の方にはこっそりと防護膜をつくっておく。


「さて。では早速、色々と聞かせてもらおうか」


「……わかっている。約束だ。答えられることは全て答えよう」


 カラムとカラムに寄り添う精霊に向かってフィズが口を開く。

 他の面々も興味津々といった顔で耳を(そばだ)てた。


「……それにしても、今までとは随分態度が違うな。さっきまでの素振りは演技だったのか?」


 その疑問は誰もが思っていただろう。精霊の方はともかくとして、カラムの方は最初のチンピラのような態度はすっかり無くなり、今はどちらかというとフィズ達と同じ騎士のような風格がある。


「……そうだ。その方がミラの正体を隠すには丁度良かった。ミラにはある人物の性格を真似てもらっている。俺もそれに合わせるようにしていた。

 昔は俺もバカをやっていたんでな、ガラの悪いゴロツキの真似は上手かっただろう?」


 そう言いながらカラムはニッと口元を上げたが、フィズが一切反応しなかったのでややバツが悪そうに真面目な顔に戻った。


「名や素性も偽りか?」


「……半分は……だな。俺の名はカラム・ミクラで間違いないが、ミラが名乗っていたバーダミラってのは偽名だ。傭兵ギルドに登録しているのも俺だけで、ミラは登録はしていない。一緒に仕事をしているだけだ」


「……ではなぜ兄弟などと?」


「俺達はこの国に来て暫く経つが、自分達が兄弟だと名乗ったことは一度も無い。ミラの正体を知られないように人間に化けてもらった後、いつも二人だけで一緒に仕事をしていたら周りが勝手に言い出しただけだ。勘違いした奴が広めたんだろう。

 それなら正体を隠すには丁度いいとそれに合わせて兄弟のフリをしていた。勝手に広がった噂は真実を隠してくれる」


 アンナもハンターギルドに登録はしていないが、メリエと一緒に仕事をしに行ったことがあった。それと同じようにしていたということか。


「……それにしてもさっきお前達が言っていたこととは違うな? 傭兵は死んでも雇い主を裏切らないのではないのか? 素性が偽りではないのなら傭兵ギルドに登録して長いはず。上位のギルドランクに上がっているということはその気概も本物でなければならない。

 現に戦いの中ではまさしく上位クラスの傭兵だった。それが今、心変わりをしたのはなぜだ?」


「ああ……傭兵は、これで廃業だな……。

 そうだ。傭兵は死んでも雇い主を裏切らない。それを曲げるような奴に信用は無いから、高額な仕事も回ってこないし、ランクが上がることもない。俺が死んで終わりならそれでも構わなかった。だが、そうはいかなくなった」


 そう言ってカラムが水の精霊に視線を向ける。その視線には今までの言動とはかけ離れた優しさのようなものがあった。

 対して精霊の方はしょぼんとするように頭を下げた。


「……俺はミラをある場所に連れて行ってやるために仕事をしながら旅をしてきた。その場所を目指しながら今までミラと一緒にやってきたんだ。俺にとってその目的は何よりも重要だが、傭兵としての気概も勿論あった。少なくとも、命が惜しいからと仕事を投げ出すつもりは更々無い。

 あのままミラが死んだフリを続けていれば、俺は死んでいたかもしれんがミラは逃げられた。それなら俺は殉死を選んでも良かった。……ミラは強いし、直情的な面もあるが聡明だ……俺がいなくても一人でやっていけるし、目的地へも辿り着けただろう。

 ……だがミラは正体を明かし、戦うことを選んじまった。それも、勝ち目の無い相手に……。傭兵の誇りを捨ててでも、俺はミラを死なせるわけにはいかない……だから降伏を選んだ」


「……カラムは死なせない……一緒に行く……」


「言っただろうミラ。俺のことよりお前のことなんだ。忘れるんじゃない。いざと言う時は逃げろと言って聞かせてきたが、やはりダメだったか」


「……カラム」


 そう言うカラムの表情に迷いは無かった。

 自分と同じ、最優先させるべきものをしっかり定めている。傭兵としての誇りや自身の命より、ミラと呼ぶ精霊の命を第一に据えているということなのだろう。

 対して精霊の方は悲しげに目を伏せた。

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