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依頼/ピクニック

 メリエと別れた後、アンナと朝食を食べるために宿の一階に下りる。

 食堂は既に満席ギリギリの状態で、空いてる席を探すのに一苦労したが、何とか席を確保することが出来た。カウンターで今朝の献立である野菜スープ、パン、みかんのような果物、チーズを受け取り席についた。


「じゃあ食べようか」


「はい。いただきます」


 アンナといただきますをして食事を始める。野菜スープには麦のような穀物が入っておりちょっと物足りないかと思っていたが意外とお腹に溜まるボリュームがあった。濃い目の味付けなのでパンを浸して食べると丁度いい。チーズは何の乳で出来たものかはわからなかったがあっさりとしていて食べやすかった。デザートに果物を頬張りつつ、アンナが食べ終えるのを待ちながら紅茶のような飲み物をすする。


 美味しい食事に満足したところで食休みをしながら周囲の人たちを眺めていると、別の宿泊客がカウンターでお弁当のようなものを受け取っているのを見かけた。お弁当を作ってもらえるならアンナと依頼に出かけるのに丁度良さそうだと思い、カウンターで聞いてみることにした。


「すいません。お弁当って作ってもらえるんですか?」


 カウンターの奥で忙しなく動き回っていた料理長らしき人に声をかけると邪険にせず答えてくれた。


「ああ、宿泊費とは別料金になるが作れるぞ。メニューはこっちで勝手に決めちまうけどな」


「じゃあ二人分作ってもらっていいですか?」


「わかった。料金は受付で払ってくれ。出来た弁当も受付で受け取れるようにしておくから宿を出る時にでも寄ってくといい」


「わかりました。お願いします」


 弁当の注文をして、席に戻ると丁度アンナもデザート代わりの果物を食べ終えるところだった。アンナが食べ終えたところで食器をカウンターに持って行き、部屋に戻る。


「今日も美味しかったね」


「そうですね。見た目よりも量があってお腹いっぱいです。そういえばさっきカウンターで何を話していたんですか?」


「ああ、今日は二人で依頼に行くから、その時に食べるお弁当を頼んでたの」


 あ、料金を聞いてなかった。そこまで高くないことを祈ろう。


「お弁当ですか。そういえば今日受ける依頼はどんなものなんですか?」


「んっと。近くの森だか林だかに薬の材料になる木の実を取りに行くっていうのだったかな。まだ誰も受けてなくて残っていればなんだけどね」


「わぁ。何というかお仕事というよりピクニックという感じですね」


 確かにお弁当を持って木の実を拾いにいくというのは仕事というかレジャーのような気分になるかもしれない。報酬もそんなに高額ではないし、お気楽気分になってしまいそうだ。


「まーねー。一応仕事ではあるから手を抜かないようにするつもりだけど、気を張り詰めて仕事するよりはいいよね。じゃあ出る準備しようか」


 部屋に戻ると、アンナは町で購入した旅用の服に着替える。丈夫そうな上着にズボン、靴は革製のブーツを履き腰にポーチのような物入れをつける。肩掛けカバンを持って中にお金やナイフなど必要になりそうなものを詰めている。お手製のアーティファクト一式も身に着けて準備万端のようだ。


 自分も着替え中のアンナの方を向かないように買った服に着替えた。見た目は殆ど変わらず寝巻きのような見た目のままだがこの方が気兼ねなく動けるので気にしないことにする。色々と入れっぱなしの大きなリュックを背負い、アンナと部屋を後にした。


「すいません。お弁当を注文したんですけど」


 受付で例の狐耳のお姉さんに声をかけると笑顔で応対してくれた。


「はーい。お弁当二人分で銅貨6枚になります」


 よかった。そんなに高くないようだ。ついでに今日泊まる分の宿泊料金も払っておこう。


「今日の分の宿泊もお願いできますか?」


「ありがとうございます。大丈夫ですよ。では合わせて銀貨1枚と銅貨6枚になります」


 アンナの持っている肩掛けカバンからお金を出して支払う。これでお金の残りも僅かだが、今回の依頼で稼げば問題ないはずだ。

 次の宿泊予約も終え、宿を後にした。


 昨日は初めての依頼で緊張していたためあまり周囲に気を配る余裕が無かったが、今日はいくらか心にゆとりがあった。隣で楽しそうに歩いているアンナもいるためだろうか。まだ体力は回復し切っていないだろうから急ぎすぎないでのんびり行こうと思う。


 中央通りをアンナと並んで歩く。既に多くの人が行き交う賑々しい時間帯になっている。昨日よりも若干遅い時間に宿を出たので混雑時間に当たったようだった。人とぶつかるほどの密度は無いがぼーっと歩いているとアンナとはぐれそうだったので、また何の気なしに手を伸ばしてアンナの手を取った。


 手を取られてまた慌てているが、迷子にならないようにするためだし意識しないように笑顔を向けて歩く。アンナもびっくりしてか赤くなってはいるが嫌がっていないのでいいだろう。


 すれ違う人や店をアンナと見ながら総合ギルドに向かう。初めて見るドワーフのような種族や手足が長い種族などを見かけ、好奇心からつい目で追いかけてしまった。フサフサの尻尾を振りながら歩く狼の耳が生えた女性を目で追いかけたらアンナに睨まれてしまった。女性をじろじろ見るのはマナー違反だったか。


 総合ギルドに到着すると入り口の扉を開けて中に入る。ギルドにも仕事を探す人や依頼を出す人など多くの人がいた。メリエがいるかと思って見回してみたが見つけることはできなかった。

 アンナは初めて見るギルドの中を興味深そうにキョロキョロと見回していた。


 昨日と同じように掲示板の前にいる人にお願いして依頼を探してもらう。幸い受けようと思っていた依頼はまだ残っていたので予定通りその依頼を受けることにした。見たところ赤い依頼はよく無くなるのだが、青い依頼はあまり人気が無いのか手に取る人が少ないように思えた。


 今回の依頼はクラフターギルドから出されたもので、町を出てすぐにある小さな森で薬の材料になる実を50個集めてくるというものだ。報酬は銀貨2枚なので一日かかってしまっても十分な金額がもらえる。


 町の外での採集依頼なのに青い紙ということはそこまでの危険は無いか、あっても普通の人間で対処できるくらいのものだということだろう。町の外で畑仕事をする人間も普通の町人だし、ある程度は自衛できることがこの世界で生きていくのに必須なのかもしれない。

 依頼用紙を持って受付カウンターに行くと昨日と同じ女の担当の人がいた。


「すいません。この依頼をお願いします」


 依頼用紙と一緒に昨日渡された木でできたカードを渡す。相変わらず寝巻きのような姿だったが今回は特に変な顔はされなかった。昨日のことだし覚えていたようだ。


「あら。あなたは昨日の。今日は正式登録をなさいますか? 試験官が来るまで少し時間がかかりますが、それでもよければ試験を受けられますよ」


 危険な仕事を受けなくても宿賃くらいは稼げるので、今のところは慌てて正式登録する必要もなさそうだしまた今度にするか。今はアンナもいるし時間をかけすぎると行く予定の依頼が終わらなくなりそうだ。


「いえ。慌てて登録する必要もないので今日は依頼だけでお願いします」


「わかりました。でもできれば早めに登録をお願いしますね。こちらとしても人手はいつも不足しているので。では町の外に出る依頼なので通行証を発行しますので少々お待ちください」


 苦笑しながら人材不足だということを教えてくれた。確かに普通の人間で危険な仕事を率先して請け負ってくれる人は少ないのかもしれない。でもこちらも危険はできれば避けたいのだ。申し訳ないがこちらの都合でやらせてもらおう。

 受付の人はくるりと後ろを向いて何やらゴソゴソとしてからこちらに向き直った。


「こちらが通行証です。紛失されますと再発行できませんので通行税が発生してしまいます。ご注意下さい。それと依頼主から取ってきて欲しい木の実の絵が描かれた紙を預かってますのでこちらも一緒にお持ち下さい」


「ありがとうございます」


 木のカードと通行証、木の実が描かれた紙を受け取り、受付を後にする。未だキョロキョロとしているアンナの手を取って外に出る。


「初めてギルドに入りましたけど広いんですね」


「そうだね。色々な人が来るからだろうね」


 そんな当たり障りの無いことを話しながら歩いていると、アンナがふと足を止めた。アンナの視線の先に日向ぼっこをしている猫たちがいる。どうやら昨日仲良くなったと言っていた猫のようだ。


「(猫さんおはよう)」


 木の樽のようなものの上で眠そうに丸まっていた猫三匹にアンナが【伝想】を使うと猫がモゾモゾと動いた。自分も常に【伝想】を使っているのでアンナがどんなやりとりをしているのかは伝わってくる。


「(ん~? あ、おはよう。お出かけ?)」

「(ふぁ~ぁ)」

「(今日もいい天気だねー)」


「(うん。町の外に行くんだよ)」


「(そっかー。気をつけてね~。デートなんて羨ましいなー。ボクも早く(つがい)の相手が欲しいよ)」

「(そっちのお兄さんが昨日言ってた彼氏ー?)」

「(獣種ではないけど結構イケてるね~)」


「(違う! まだ違うから! で、デートじゃなくてお仕事に行くんだよ!)」


 猫に冷やかされて首まで真っ赤にしながら必死に訂正するアンナ……。傍から見ると猫に対して真っ赤になって怒る大人気ない人に見えてるだろうな。本人には言わないでおこう……。


 やはり年頃なのかそういう話題が好きなのね。しかし、その気は無いにしてもそこまで必死に否定されると傷つくものがあるなぁ……。人間だった頃もモテなかったし……。


「(アンナちゃん。お兄さん落ち込んでるよ)」

「(そんなに強く言ったらねぇ。かわいそう)」

「(誤解されちゃうんじゃな~い?)」


「(ええ!? えっと、あの、うぅー)」


 猫に泣かされる少女……。アンナ頑張れ……。猫に手玉に取られる人間とはこれいかに。


 猫に言い込められ目を潤ませるアンナをなだめつつ、おしゃべりも程々に中央門に向かう。

 中央門の出口側には入り口の時のような人の行列はできていなかった。入る時と違って出る時は面倒な手続きが少ないのだ。大きな荷物を運搬する走車などは入る時のようにチェックをしているが、旅人などのように荷物の少ない人は軽いチェックだけで通れる。


 今回は通行証を使ってまた町に戻ってくることになるので受付でその旨を伝えておかなければならない。出口側の受付に向かい中で記録をしてもらう。


「総合ギルドの依頼で町の外に出る者ですが」


「ん? あいよ。記録するから登録証と通行許可証を出してくれ」


 木のカードと受付で渡された通行証を手渡す。ファイルのような物にサラサラと何かを書き込んですぐ返してくれた。


「これでいいぞ。町に入る時はまた登録証と通行許可証を見せてもらうから無くさないようにな」


「はい。ありがとうございました」


「あ、ちょっと待った。キミらは本当にそんな格好で外に行くのか? 例え人通りの多い街道でも獣や魔物は出るんだぞ?」


 自分達の格好を見て心配してくれているようだ。確かに自分もアンナも武器らしい武器もなければ身を守るための防具などもつけていない。自分にいたっては寝巻きのような服一枚にサンダルだし格闘戦ができるような体格でもない。門から外に出る人を見ても、殆どの人が武装をしているし、していない場合でも護衛のような人が近くについているのだ。


「えっと。町のすぐ外で採集をするだけなので大丈夫です。一応逃げるための道具も用意してあるので」


 そんなものは持っていないが森で襲ってきたハンターが目潰しの石を使ってきたので、それっぽい道具は恐らく売っているのだろう。まさかアーティファクトで完全武装しているなんて言っても信じてはくれないだろうし、言うわけにもいかない。


「ふむ。この近くで鳥竜という危険な魔物の死骸が見つかったんだ。もしかすると獣や魔物の動きが活発になっているかもしれないから、危険を感じたらすぐに逃げてくるんだぞ」


「わかりました。ところでその鳥竜ってどんな魔物なんです?」


 そこはかとなく嫌な予感がするのだが……。


「ああ。真っ黒い羽毛が生えた飛竜種の一種だ。群は成さないがその代わり強力な個体が多く、危険度もかなり上位で討伐するならランカークラスのハンターや軍が出るくらいだな。そんなバケモノが翼の一部を残して焼死してるのが畑の方で発見されてな。周囲に戦闘痕や目撃報告も無いことから鳥竜を簡単に殺せるような魔物か獣が潜んでいるんじゃないかとみんなピリピリしているんだ。ギルドやこの町の領主も調査を行っているそうだ。くれぐれも気をつけるんだぞ」


 ……それってもしかして……。


「クロさん……。それって確か……」


「アンナ、しーっ!(ボソボソ)」


 うん。アンナも気付いたようだ。十中八九、空の上で撃ち落したアレだろう……。


「そうなんですか。十分気をつけます」


 半ば引き攣った笑みを浮かべて門兵の人にお礼を言うと中央門を後にした。

 やっぱりあの死骸は畑の近辺に落下していたのか。空中戦をした位置的に考えればそれもそうだよね。まぁあの死骸から自分のことについて足がつくことは無いと思うけど嫌な汗をかいてしまった。


 例の鳥モドキのことを頭の隅に追いやって街道を少し進む。

 町から伸びる街道はいくつかに分岐しており、近隣の村や町などに伸びている。

 人通りの多い場所は石で舗装されているがわき道に入るとすぐに凸凹道になる。舗装されていても石なので、走車は思い切りガタゴトと揺れながら走っていく。乗り心地は最悪だろう。都市間の移動に走車はやめた方がいいかもしれない……。


 今回は道を辿るのではなく町の近くの森に行くのが目的なのですぐに街道から外れ、道なき道を歩く。目的の森は街道を少し進むとすぐに見えてきたので迷うこともなかった。町から徒歩で一時間くらいの場所にある小さな森だ。

 休憩せずにずっと歩き通しだったが、アンナは癒しのアーティファクトをつけているので疲労は感じていないようだった。体力が幾分戻ってきているのもあるだろう。


 森の外縁に到着すると入る前に後ろを振り返る。迷わないように景色を覚えておこうと思ったのだ。森の入り口からアルデルの町が見えているので、変な方向から出なければ帰りも迷うことはないだろう。アンナも周囲を見回しながら来た方角を覚えているようだった。


 早速森の中に分け入ってみる。入ってすぐは明るくて綺麗な森だったが奥に進むと徐々に鬱蒼としてくる。あまりアンナと離れてしまうと迷子になりそうだった。受付でもらった木の実のイラストを二人で確認し、足元を見ながら歩き回ってみることにした。


「奥の方は薄暗いからまず森の入り口付近で探してみようか」


「そうですね。でも入り口付近だと他の人に取り尽くされているかもしれません」


「それもそうかー。じゃあ見当たらなかったら奥に行ってみよう」


 確かに取りやすい位置にあるものは誰かが拾ってしまっている可能性が高い。見つからなかったら奥に行くことも考えないといけないだろう。


 ザッシザッシと降り積もった落ち葉を踏みしめて森の中を歩く。今回はアンナも自分も靴を履いているので動き回っても足が痛くなったりすることもなかった。30分ほどイラストの木の実を探すが、なかなか見つからない。やはり森の外縁付近は取りやすいから残っていないのか。それとも目的の実をつける木が外縁部には生えていないのか。


「ないねー。ちょっと森の奥に入ってみようか」


「そうですね。小さい森らしいですけど迷わないようにしないといけませんね」


 アンナと相談して少し森の奥に行くことにした。外縁部から中に入り込むと、木の密度が上がり薄暗くなる。それに伴って虫やキノコなどが増え、不気味さが増してくるのでアンナが手を握ってきた。


 門では魔物や獣が出るという話だったが、今のところ一度も出てこないし気配も感じない。まぁきっと自分がいるからなんだろうけどね。出てこない方がいいのかもしれないけど、やっぱり嫌われ者の気分になってしまうので嬉しくはなかった。


 方向を見失わないようにしつつ森の中を動き回ると、やっとイラストと同じ木の実が落ちているのを見つけた。かなり大きな木にたくさん生っており、地面にもバラバラと転がっている。


「あ。ありましたよ! 結構たくさん落ちてますね」


「そうだね。だけど50個にはちょっと足りないかな」


 早速アンナと二人で拾い集める。アンナはカバンに入れてあったナイフでヘタを切り落とし、丁寧にリュックに入れていく。自分も比較的綺麗な実を選んで拾い、星術で斬撃を出してヘタを斬り飛ばし、リュックに詰めていく。

 落ちていて痛んでいないものを粗方拾い終わると大体30個ちょっとになった。


「半分は拾い終わったね」


「そうですね。残っているのは痛んだものばかりなので別の場所を探さないとダメですかね」


 確かに他の場所を探してもいいのだが上を見上げればまだたくさん実が生っていので、また動き回るよりは木に生っている実を取った方がいい気がする。


「木にくっついてるのを落とした方が早そうだからちょっと待ってて」


 アンナにそう言って実をつけた木の根元に近寄る。木に衝撃を加えて落とそうと思ったのだ。

 気分は木を蹴り飛ばしてカブトムシやクワガタを落とそうとしていた子供の頃のようだったが、今の力でそれをやると木を蹴り倒してしまうので注意しないといけない。


 木はかなりの胴回りがある大木だったが、竜の力なら問題なく揺らせるだろう。むしろ上手く加減して木を傷めないようにしないといけない。


「じゃあアンナいくよー」


「はーい。いつでもどうぞー」


 手に力を込めて太い木の幹に掌底を叩き込む。


「よっと」


 ズンッという衝撃が腕に伝わる。一発撃ち込んでみたがちょっと力が弱かったようだ。少し揺れはしたが殆ど実は落ちてこなかった。


「あら、弱かったか。もう一回、よっと」


 さっきの力加減を参考に、今度は結構強めに撃ち込んでみた。ズシンッというさっきよりも強い衝撃が腕から肩に伝わった。結果、太い木が台風で煽られているかのようにグラグラと揺れて実の雨を降らせた。

 あ、幹に痕が残ってしまった。今度はちょっと強すぎたか……。


「ひゃーーいっぱい降ってきました!」


 ボロボロバラバラと降ってくる実を見てアンナがはしゃいでいる。


「これだけ落ちれば十分だね。じゃあ残りを拾っちゃおうか」


 落ちた実の中で十分熟しているものを選んで同じようにヘタを切ってリュックに入れていく。50個でよかったのだが二人とも夢中になって70個近く拾い集めてしまった。まぁ多い分には怒られることは無いだろう。


「やー拾った拾った。ちょっと拾い過ぎちゃったね」


「私も夢中になってしまいました。こういう場所での採集は、本来なら獣や魔物に注意しながら行わないといけないんですけど、全然出てきませんね」

 相変わらず森の中は静かなもので、獣などの気配もしない。時折木の上で鳥が鳴いたり虫が鳴いたりするくらいだ。それ以外には自分達の歩く音と風が吹きぬける音が聞こえてくるだけで気持ちのいい森でしかなかった。


「まぁ出てこない方がいいしね。たぶん僕のせいで寄ってこないんだと思うよ」


「せっかくクロさんお手製のアーティファクトもつけてるのに使う機会がきませんね」


「使う時は危ない時だから、できれば使う事が無い方がいいけどね」


 この世界で生きてきたアンナにとって危険は当たり前のもののようだ。自分は気配に敏感だし殆ど気にしていなかったがアンナは周囲の状況に気を配っている。自分はよくても周囲の人間の安全を考えるならもうちょっと慎重になる方がいいのかもしれない。


 採集も終わったので森の外縁部に戻ることにする。途中、森の中に開けた場所があったのでそこでお弁当を食べることにした。

 転がっていた石に腰掛けてお弁当を開くと、野菜やチーズがパンに挟まったサンドイッチのようなものと、ブドウのような果物が紙に包まれていた。


「動き回ったからお腹減ってて凄い美味しそうに見えるね」


「ですね。見たらお腹が鳴りました」


 水を出す術で水玉を出すと、二人でバシャバシャと手を洗う。


「じゃあいただきまーす」


「いただきます」


 二人で頂きますをしてパンにかぶりついた。野菜とチーズしか入っていないので味気ないかと思ったら塩味の利いたドレッシングのようなものがかかっていてちゃんと味があった。パンもふわふわではなかったが実が詰まっていて食べ応えがある。暫く無言でお昼を堪能した。


「ごちそうさまー。このままちょっと休憩しようか。まだ時間も早いし」


「食べるの早いですね。私まだ半分くらいです」


 空腹に衝き動かされて慌てて食べてしまったので自分の分はすぐ食べてしまったが、アンナはちゃんとよく噛んでゆっくり食べていた。


「ゆっくり食べてていいよ。慌てて食べると体に悪いしね」


 自分のことは棚に上げておこう。竜の胃袋は頑丈なのである。……たぶん。

 アンナが食べ終わるまで落ち葉の絨毯に寝転んでゆったりした時間を過ごした。

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