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提案

 カラムの言葉に、思わず顔を見合わせる。

 冗談かこちらを混乱させる為に言ったのかという思いが脳裏を過りはしたが、その声と顔、目を見て違うと判った。


 さっきまでのようなチンピラ風の軽い口調ではなく、確固とした芯を感じさせる歴戦の戦士のような迫力を含んだ声音だ。表情もニヤニヤしていたものとは打って変わって真剣なものになっており、見上げる瞳にも決心の光が宿っている。まるで別人のようだった。

 そんな雰囲気から、嘘だと切って捨てることはできないと誰もが思ったはずだ。


「(ライカ。周囲の様子は?)」


 しかしまずは安全確保が先だ。カラムの提案には答えず、じっと目を見据えながらライカに問いかける。


「(隠れていた二人は殺した。襲い掛かってきたんでな。死体は森の中だ。

 他に今のところ気配はない。森の獣どももクロの派手な戦いの気配に怯えて離れて行ったようだな。静かなものだ)」


 ライカは軽く周囲を見回しながらそう答えた。

 こちらを窺っていた人間二人を始末してくれたのは有り難いが、両方とも殺したとなるとそちらから情報を得るのは難しくなった。あまりやりたくはないが、死体を検分すれば何かわかるかもしれないので後で見に行くか。


 ライカの言う通り、明るくなっていく森は静寂に包まれている。風が木の葉を揺らす音以外は何も聞こえてこない。獣はおろか、鳥や虫までもが息を潜めているようだった。

 カラム達以外に敵の影は無さそうだが、同じ場所に留まるのはまずい。まずは場所を変えるべきだ。


「(戦いの気配を察知してこの辺に人間が来ることも考えられるから、話は後にしよう。獣もいないみたいだし、少し移動した方がいい)」


「(この……二人? は、どうするんです? それに王女殿下と付き人は?)」


 王女はもう動かしても大丈夫だろう。ポロもいるし運ぶのは問題ないはずだ。戦いの間ずっとほったらかしていた近衛騎士も特に怪我をしたりはしていない。守られている王女のそばにいたので攻撃も飛んできてはいないし、こちらの激しい戦いぶりを見て少々呆けているくらいだ。

 やはり問題なのはカラムと水の精霊か。


「(瀕死の状態は脱したし、王女はもう動かせるよ。ミクラ兄弟の方はまだ意図が読めない部分もあるから、正直なところどうしようか迷ってるんだよね。みんなはどうしたらいいと思う?)」


「(……言葉が本当かはわからんが、さっきまでの戦意は感じられん。それにこいつの思考の匂いからは強い覚悟が感じられる。

 その覚悟は死に対するもの……では無さそうだな。どちらかと言うとさっきのアンナのものに近い気がする。

 ま、私はどちらでも構わんぞ)」


「(情報は欲しいですね。さっきも言いましたが、雇い主のことがわかればかなり核心に迫れるはずです。王女殿下も間もなく目を覚ますということですし、彼からの情報とを照らし合わせれば今後の動きの方針も固めやすいと思います。ライカ様がいれば隠している情報を引き出すこともできそうですし)」


 ライカはどちらでも、フィズは情報を得る為にも確保したいと言う。


「(だが、大人しく言うことを聞くタイプか? それに水の精霊の方は一筋縄でいくとは思えんが……)」


「(私はクロさんの判断に任せます)」


「(私達は……クロさんとライカさんがいれば安全だと思いますし、フィズさんが言うように話を聞く方がいいと思います)」


 メリエは確保を否定はしなかったが、やや難色を示した。そしてアンナはこちらに委ねるみたいだ。

 スイとレアはフィズと同じく情報を得たいようだった。しかしミクラ兄弟の実力を考えるとライカがいたとしてもあまり過信されると不安な部分がある。

 それぞれの意見を聞いて考え込む。


 かなりの手傷を負わせたはずだし、今の状態では抵抗するということはできないだろう。ならライカの幻術と合わせてカラムの情報を得るというのは確かに有意義だ。森に隠れている人間も死んでいる今、情報源となるのはカラムと眠っている王女だけとなる。


 王女がある程度の情報を持っているとはいえ、3ヶ月も昏睡していたのだ。その間にも情勢は動いているだろうし、王国上層部の勢力がどうなっているのかわからないままでは王女が目覚めても現状の打開をどうするのかを決めるには情報が足りないかもしれない。


 しかしメリエの懸念も尤もである。これだけの使い手によくわかっていない精霊、抱え込むには無視できない危険が付き纏いそうだった。

 それらを加味してどちらがいいかを天秤にかける。


「(……とりあえず拘束して連れて行こう)」


 多少の危険はあるが、対処できないということはない。それは実際に戦ってみてわかっている。常に星術を使えるようにし、ライカ共々二人から目を離さずにいれば滅多なことでは不覚を取ることもないはず。

 ならやはり情報は欲しいところだ。その後のことに関しては追々考えればいいだろう。王女が目覚めたらそれも含めて判断すればいい。


「(代表でフィズさんがカラムに言ってほしいんだけど、頼める? それから不審な動きを取ったらその場で殺すって忠告しておいて)」


「(わ、私ですか……わかりました)」


 王女を除いてこの中で一番身分が高いのはスイとレアであり、情勢に付いてもシラル程ではないがある程度は知っている。しかしカラムと話ができるかと言えばそれは難しいだろう。やはりある程度の迫力があった方がいいと思ったので、次に色々と内情を把握していて騎士でもあるフィズに頼むことにした。


「……そちらを信用するかどうかは別として、話は聞こうと思う。しかし不審な動きをしたら即座に死んでもらうことになる。それでもいいか?」


「……カラムは……死なせない……!」


 フィズの言葉に水の精霊が怒りを含んだ声で答え、ゴポゴポと身体を震わせる。

 フィズは一瞬ビクリとするも退くことは無かった。しかしやはり恐いようで頬には冷や汗が伝う。


「やめるんだミラ……相手は古竜種だぞ。竜語魔法はミラの使う精霊魔法をも上回る、神代の時代からこの世界を支えてきたと言われる魔法だ。例え上位精霊でも勝ち目は無い。……わかった、従おう」


「……カラム……」


「で、では、場所を移動する。移動の間、拘束させてもらうがそれでいいか?」


「構わん」


 精霊の方はかなり剣呑な雰囲気を漂わせているが、カラムの指示に逆らうような気配はない。カラムの方にも抵抗の意思は見られなかった。


「(しかし、拘束すると言っても縛り上げるような物は持っていませんが……)」


「(確かに……クロさんに付けていた手綱代わりの革紐はありますが、縛るには向きませんし)」


「(別にそんなもの無くても、クロの竜語魔法でどうにでもなるんじゃないのか? この人間はクロの正体が竜語魔法を操る古竜種だと気付いている。もう隠す必要もなかろう)」


 そう言えば片付いたと思ってからは普通に会話してしまっている。ブレスに見せかけていた以外の星術も水の精霊に使ってしまったし、竜の姿でそんな魔法を使える者は限られる。

 カラムもかなり実力のある人間であり、それだけ知識もあるのだろう。存在そのものが珍しい古竜についてや竜語魔法についても知っているような感じだ。


「(……そうだね。いざとなったらライカの幻術で記憶の操作でもしてもらおう。それじゃあやったことないけど、試してみるよ)」


 キョロキョロと周囲を見回し、丁度よさそうな物を見つける。

 一本の太い木の幹に巻きついている(つる)だ。ちょっと頼りない太さだが、それに植物を成長させる星術を使う。するとシュルシュルと伸びて太くなっていく。

 そのまま蔓の先端が伸びる方向をカラムの方に向けて成長させ続けると、カラムにグルグルと巻き付いて鎧の上からカラムを縛り上げた。即席の蔦製ロープである。


「(これって……クロさんがスイカボチャを育てる時に使っている……こんなこともできるんですね)」


 蔓がひとりでにロープのように巻き付いていく様を見て、アンナが何の星術を使ったのか思い当たったようだ。アンナの言う通り初めて試したが、やればできるものである。さすがは星術だ。

 十分に巻きついたところで、爪を使ってピッと切り離す。


「(初めてにしては上出来かな。念のため外れないように蔦を頑丈にする術もかけておくよ)」


 巻きつく蔦に驚きながらも逃げたりする素振りも見せず大人しくしているカラムの様子を見ると逃げる心配はなさそうだったが、念を入れておく。

 蔦に身体強化と同じ星術をかけて強度を上げる。これで簡単には千切れないはずだ。

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