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意外な一手

「させっかよ!!」


 竜の体で踏み潰そうとしたが、それよりも速くカラムが反応してきた。

 倒れたバーダミラを庇う必要があるのと、大きなタワーシールドが邪魔で攻撃を避けることはできないようだったが、カラムが声を発したのと同時にタワーシールドがそれに応える。


(!! また……! さっきの氷といい、こっちの盾もアーティファクト!?)


 大地に突き立てられ、自分達を覆うように水の壁を作り出している盾、それと同じようにカラムが構えたタワーシールドがまた水を吐き出す。

 今度は広がったりはせず、カラムとバーダミラを覆うように小さな球形を形作ると一気に凍りつく。

 踏み潰そうと飛び掛った自分の前足はまた氷に遮られ、ドシンという音が大地を震わせた。


「(くっ! 本当に守りに関しては隙が無い)」


 氷の球に閉じ篭ったカラムとバーダミラに自分の踏みつけは届かず、数tはあろうかという体重をかけても氷にヒビを入れることすら出来なかった。

 球は最も安定した形であり、外部からの圧力に耐えるのに最適な形でもある。それに加え、かなりの密度と厚みで氷の球体を形成したようだ。頑丈さが半端ではない。


 爪で引っ掻けばガリガリと氷を削り爪を食い込ませることはできるが、氷が厚すぎてとても貫けない。爪で削り取った部分もすぐに氷が埋めてしまう。

 仕方なくまた跳び下がって氷の中の二人を睨みつけた。


「(カラムが本当に厄介だなぁ)」


「(少数とはいえ上位ランカーを有するパーティー、その名は伊達ではないということか)」


 バーダミラの飛竜を屠る攻撃力も危険だが、それ以上にカラムの守りの堅牢さが煩わしい。

 カラムの防御を抜く手段をあれこれ考えながら様子を窺う。ここは火炎弾で氷ごと炙ってみるかと星素を操作しようと意識を傾けた。

 だが、それが間違いだった。足元に違和感を感じ、視線を落す。


「(げげっ!?)」


「(うわっ!? クロさんの足に!)」


「(土から水が!?)」


 星素と氷の球を意識しすぎて足元が疎かになってしまった。というよりこの状況で何かしてくるとは思っていなかった。

 ズゾゾゾと大地の中から幾本もの水の触手が伸び、こちらの四肢に絡みつく。そのまま足を締め上げてきた。まさかこんなことまでできるとは……。


「ハッハハハ!! 手こずらせやがって!! これで逃がさねぇぜトカゲ!!」


 バシャンとミクラ兄弟を覆っていた氷の球が溶け落ちると、カラムの笑い声が響いた。


「(クロさん!)」


「(来なくて大丈夫! こっちは自分で何とかするから! みんなも足元に注意してて!)」


 咄嗟に駆け寄ろうとしたアンナとメリエを思い留まらせる。

 狙いは間違いなく自分だ。ここで下手に近寄ってくれば巻き込むことになるのは確実。


「俺の攻撃をこうまでも凌いだのはお前が初めてだ……だが、それもここまで!!」


 びしょ濡れになったバーダミラが叫び、再度鎚を構えた。

 かなり強烈に吹き飛ばされ、強かに体を打ち付けたのにもう動けるとは、全身を鎧う筋肉は見掛け倒しではないということか。


 バーダミラの鎚にまた水が纏わりつく。

 今までと同じように水は徐々に形を変えていくが、今度は水塊でも水の剣でもなかった。

 円錐状に細く長く伸び、先端が針のように鋭く尖る。馬上槍や突撃槍と呼ばれる槍のような形に変わった。


 鎚や剣のように振り回したり斬り付けたりでは有効な攻撃を加えられない構造の武器だ。長く重いその形から狙って当てるのは難しいが、力の乗った突きが当たればその一点に収束した力によって対象に風穴を開ける槍。


 自分の竜の角がいくら頑丈でも突きによる攻撃を防ぐのは難しい。

 並々ならぬ膂力を備えたバーダミラが、四肢を縛られ動きを封じられた自分を狙うなら丁度いいと言うことか。

 だが、黙って刺し貫かれるつもりは無い。


「(ふんぬぬぬ!)」


 大地から這い出た水の触手を引き千切ろうと足を引っ張る。が、伸びるばかりで外れそうもない。

 やはり形の無い水、力でこの水の縛りを解くのは難しいか。となると星術を自由に使えない今は、操っている本人をどうにかするしかない。


「終わりだ!」


 本来であれば馬に乗り、その馬の突進力を利用することで高い威力を生み出すタイプの突撃槍(ランス)だが、バーダミラは軽々と構えこちらに突き出してくる。

 さっきの水の鎚や剣といい、アーティファクトで生成した水によって武器の重量が増している様子はその動きから見受けられない。攻撃には明らかに重量が加算されていたが、持ち主には重量によるデメリットを生じないのかもしれない。


 狙いは……自分の胸のあたり……避けられることを想定してか、急所ではなく身体の中心。これなら多少狙いが逸れても身体のどこかに命中する。


「(黙ってやられるわけないでしょうに!!)」


 動きを制限されていてもまだ防ぐ手はある。

 バーダミラの槍がこちらに届くよりも先に星術を使う。悠長に溜めをつくれば回避の隙を与えてしまうので、今回は威力よりも速度重視。

 口を開くとほぼ同時に火炎弾を発射した。速さ重視で小振りの火炎弾とはいえ、一瞬で水を蒸発させる熱量は持たせてある。鎚に纏わりついた水を消し去るくらい造作も無いはず。


「だぁからお見通しだってんだよっ!!」


 槍の軌道に合わせ、火炎弾を発射した直後、カラムが再度盾を操った。

 今までよりもずっと小さいが、火炎弾のすぐ前に水の壁を喚び出す。


(しまった!)


 火炎弾は水の槍とぶつかる前にカラムの出した水の壁に触れてしまう。

 途端に火炎弾の熱量は水の壁に吸収され、ジュボッと水を蒸発させて消えていく。

 これは、考えが安易すぎたか。


「シッ!!」


 その水蒸気を突き破ってバーダミラの水の槍が迫ってきた。


(……!!)


 打撃に関しては無傷で凌いだ。だがこの刺突攻撃はどうかわからない。もしも鱗ごと串刺しにされれば致命傷は確実だろう。

 これはもう正体がバレるなどと悠長な事を考えている場合ではなさそうだ。


 だが、全力でいくしかないと覚悟を決めようとした矢先、槍を持つバーダミラの腕に向かって迫るものを視界の端に捉える。

 それは狙い違わず槍を突き出しているバーダミラの二の腕の辺りに吸い込まれた。


「ぐ!?」


 自分の胸目掛けて突き出された水の槍は斜めに逸れ、ゴリリと鱗を掠めて通り過ぎる。

 バーダミラは自分の腕を押さえ、顔を顰めながら背後に跳び退(すさ)った。それと同時に水の槍も形を失って流れ落ちる。


 バーダミラの腕を刺し貫き、水の槍の軌道を変えたもの……それは一本の矢だった。

 その矢が飛んできた方向の先にいるのは……。


「(アンナ!?)」


「小娘……!」


「あ、わ、私……私……」


 アンナは矢を射った姿勢のまま息を切らし、涙ぐむ目でこちらを見ていた。

 そんなアンナの行動に驚いたのは自分だけではなかった。メリエも何が起こったのかを把握し切れていないといった顔で目を瞬かせている。

 そしてアンナに攻撃を台無しにされたバーダミラが、怒りに染まった目をアンナに向けていた。


 アンナの弓には精度を上げる細工はまだ施していない。

 だが、アンナは渡してあった身体強化のアーティファクトを使って動体視力と身体を強化し、自身の技術のみで狙いをつけてバーダミラに矢を射ったようだ。

 以前から少し弓の練習をしていたとは言っていたが、それでも簡単に当てられる距離ではない。それも高速で動く人間に当てるとは……偶然か、それとも……。

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