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編成

「……クロ様。救出後に脱出してそこに身を隠すということですか? ですが、大所帯で王都から出るのは困難なのでは……恐らく王都の門も既に検問が布かれているかと……」


「クロ、私の幻術もこれ以上人数が増えるとそこまで完全に欺く事はできなくなるぞ」


「その辺はちゃんと考えているから大丈夫。よし、確認したい事は一通り確認できた。……絶対って断言はできないけど、何とかなると思う」


「ふむ。この孤立してしまった状況で光明があるならやる価値はあるだろう。で、どうするんだ?」


「まず二つのグループに分ける。僕とライカ、フィズさん、スイのグループ。それからメリエ、アンナ、レア、ポロのグループ」


「……さっきの質問、そしてポロがいるということは、身を隠す場所の確保が私達の仕事ということか」


「ク、クロさん。私は行けないんですか?」


 さすがメリエ。察しが良い。

 そして城組みでは無いと言われたレアがちょっと寂しそうな顔で聞いてきた。この人選は適当ではなく、ちゃんと理由があって分けている。仲間外れにしている訳ではない。


「どうしてこう分けたのかも説明するよ。

 まず僕達のグループだけどスイは王城の中のことを知っているからそうした情報でサポートして欲しい。ライカは幻術をかけてもらう必要があるからだね。フィズさんには情報の他にもやってもらいたいことがある。

 そしてメリエのグループだけど、メリエはハンターとしてこの辺りのことを知っているから、アンナ、ポロと一緒に隠れられる場所の探索をお願いしたい。で、レアだけど、レアの目が治っていることをお城の連中に知られるとまずいから今回はメリエの方に付いて行った方がいいと思う」


 レアの目のことを知られると狙われる可能性が高くなるため、今回は王城に行かない方がいいだろう。

 本来なら全員で動き、それを自分とライカが守り抜くというのが一番安全になるのだろうが、さすがに大所帯で敵陣である城に行くのは大変だ。なので今回は状況の中心から離れているメリエ、アンナ、ポロにはサポート役に回ってもらう事にした。


 それに国内でも上位の実力を持った人間が相手となるかもしれないなら、こちらにも気を割く余裕はないだろう。どの程度の実力があるかは知らないが、スイやレアは勿論、メリエやアンナでも荷が勝ちすぎるのは間違いない。離れていてもらえるならその方が安全だ。

 ライカの守りがあったとしてもアンナ達を庇いながら戦闘をし、目的を果たすというのは骨が折れる。渦中から距離を置いてくれている方がそちらに気を取られる心配がなくなるので作戦に集中できる。


「僕達のグループで城に行く。メリエ達には一足先に王都を出て隠れられる場所を探しておいくれる? さっきも言った通り一晩だけ凌げればいいよ。それにメリエ達は僕のアーティファクトも渡してあるから夜の森でも身を守ることはできるだろうしね」


「あ、あの……私はきっと中央門の検問で見つかってしまうと思うんですけど……」


 レアが申し訳無さそうに言う。

 確かにそれはそうだ。見す見す捕獲対象を王都の外に出してしまうようなことは推進派もしないはず。今までこの件に殆ど関っていなかったアンナやメリエは平気だと思うが、レアが何の対策も無しに中央門に行けば捕まることになる。

 それでなくてもスイとレアはハーフエルフで目立つ容姿をしているから、服装を変えた程度では隠し通せないだろう。しかし───


「それも大丈夫。僕のアーティファクトを貸すから」


「ア、アーティファクト!? それって……そんな軽々しく人に渡していいものでは……」


「あー、説明するの面倒だから、時間のある時にアンナ達に聞いておいて」


 そう言ってアンナやメリエ用に創っておいたのと同じ、【転身】を込めたアーティファクトをカバンから取り出す。鱗はまだまだたくさんあるので予備で作っておいた物だ。


「これを使えば肉体を別の種族に変える事ができるから、これで変装して外に出てもらう。服とかで誤魔化すよりも確実だからね。アンナ、試しに使って見せてあげてよ」


「あ、はい。いいですよ」


 アンナは自分のアーティファクトを使って変身して見せた。

 髪の色が黒に変わり、猫耳が生え、お尻にも可愛い猫尻尾が生えてくる。これだけの変化なのだが印象はガラリと変わってしまうので特定は難しいはずだ。服も獣人のものにすればほぼわからないだろう。


「騎士団でもアーティファクトを個人所有している者は僅か……それも肉体を変えるものとは……高位の魔法には姿を偽るものもありますが、肉体を変えることなど不可能なはず……一体どんな魔法が……」


「わー……人間から獣人になっちゃった……動いてる、本物の尻尾だ……」


 フィズとスイはアンナの変わり様に何度目かわからない驚きを口にする。もういちいち反応していたら話が進まないのでスルーしよう。そうしよう。

 顔立ちは殆ど変わっていないが、ここでは写真なんて物は無いし、髪や種族が変わるだけでも殆ど別人に見えるだろう。スイやレアがハーフエルフだという情報は探している騎士達にも行き渡っているだろうし、普通の魔法でも肉体まで変えるものはない。その先入観がより気付かれにくくしてくれるはずだ。


「レアにもこれと同じものを使ってもらう。これなら顔を見せて堂々と通っても誤魔化せるはず。今回は大丈夫だと思うんだけど、念のためにアンナとメリエも他の種族に変身しておいて」


「わかった」


 そう言えばメリエは今回の変身が初だ。メリエに似合うように調整しておいたものは、果たしてこちらの望み通りの姿に変えてくれるだろうか。ちょっと楽しみである。


「あ、そうだ。検問ってことはレアも身分証明とか必要になるのかな?」


 ヒュルの検問では入る場合も出る場合も身分証明が必要だと言っていた。今回も同じようになっているとしたらレアは正体こそばれないだろうが、変装していても止められて外に出られないということになる。

 そう心配したのだが、メリエはこれを否定した。


「恐らく平気じゃないか? ヒュルの場合は誰が犯人なのかわからないから全員の素性を確認し、疑いのある者全てを足止めしていたが、今回は探す対象がスイとレアだということがわかっている。となれば身体特徴を調べられたり人が隠れられるような荷物は改められたりするだろうが、身分証明まで含め念入りに調べるということはしないだろう。

 仮に村などから来た身分証明を持たない人間を全て門で止めているとなれば、この宿街などは王都を出られず急遽宿を探す事になった人間が押し寄せてパニックになっているはずだ。王都に出入りする人間はヒュルの比ではないからな。混乱も相当なものになる。

 それが無く落ち着いているという事は門での検問で足止めされてはいないということだろう」


 確かにメリエの言うことには一理ある。なら変身していれば大丈夫だろう。


「ああ、それから私から一つ聞きいておきたいんだが、私達が隠れられる場所を見つけたとして、どうやって脱出してきたクロ達はその場所を特定するんだ?」


「んー。前に渡した緊急を知らせるアーティファクトでどうにかなると思うんだけど、効果が切れる度に使ってもらう必要があるんだよね。面倒臭いけど、暫く置きに使い続けてもらおうかな」


 常時つけてもらっている自分のアーティファクトの気配も、都市内程度なら意識すれば平気だがさすがに離れすぎてしまうと気配を感知する事が困難になる。

 しかし以前メリエに渡しておいた強烈な気配を発するビー玉のようなアーティファクトを使ってもらえば離れていても大まかな方向などは知る事ができるはずだ。

 ただ周囲の星素を一気に集めて強い気配を放っているので効果が永続せず、暫くすると星素を集め直して再使用しなければならなくなるのがちょっと面倒くさいかもしれない。


「何だ。そんなものを使わなくてももっといい物がそこに置いてあるじゃないか」


 メリエと話しているところに串焼き肉を頬張っていたライカが言う。そんなライカに視線を向けると、ライカは壁の端に置いてあったあるモノを指差した。

 壁の傍に置いてあったのは王都に来る前に抜けた自分の角、古竜の角だ。カバンに入らないので相変わらず外套に包んだまま置いてある。


「壁のトコに置いてあるあれ? あれって僕の角だけど、どういうこと?」


「ほう。クロの角なのか。あれからは真姿(しんし)に戻った時のクロと同じくらいの凄まじい竜の気配が出ている。呪いの気配と違って不快感は無いが、強い気配であることに変わりはない。これを持っていれば細かな位置は無理でも方向くらいならすぐにわかると思うが、クロ自身は感じていないのか?」


「いや全く……意識すれば感じるけど普通にしてたら感じないよ」


「……これだけの気配なのに感じないとは……鈍感というより気配を察知する能力が著しく悪いんじゃないかと疑いたくなるな。いや、自分の気配だから気にならないということか?」


 他の自作アーティファクトに感じるのと同じくらいの気配で、特段角だけが強い気配を出している感じは無い。脱皮した鱗などと同じ程度に感じる。

 ライカが気配を感じる事に敏感だからだろうか? それともライカが言うように自分だとわからないのか?


 人間も自分の体臭や口臭は自分では気付けないことも多いし、それと似たような感じなのかもしれないと何となく考えた。

 でもこれは行幸だ。ライカが一緒に居てくれればメリエ達がどこに行ったかわかるということだ。大まかな方向だけでもわかれば追いかけることができる。あとは近付いた後に索敵の星術を使えば場所の特定もできるだろう。


「ならライカには脱出した時にこの気配を探ってもらっていい? その方が確実そうだし」


「いいぞ。それにこれだけの竜の気配を放っていれば、下等な魔物や獣は近寄っても来れないだろう」


 魔除けのお守り代わりにもなるのか。思わぬ効果が竜の角にはあったようだ。デカくて邪魔だけど。


「じゃあ皆で協力すれば何とかなりそうだね」


「で、ではこれで将軍と奥様の救出が可能という事ですね!」


 フィズは嬉しそうに言ったが、その言葉に厳しい視線を向ける。この作戦の目的が、フィズが口にしたことと違うからだ。


「フィズさん、それにスイとレアには申し訳ないけど、ちょっと違うよ。シラルさんもシェリアも今回は助けには行かない。というより、今は行かない方がいい」


「……? ど、どういうことですか!? 救助の話ではなかったんですか?」


「救助の話であってるけど、対象が違う。今回の目標はシラルさん達じゃなく、王女……今夜、王女セリスを王城から誘拐する」


「「「えぇ!?」」」

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