表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
120/351

確認

 ライカとそんなやり取りをしてからフィズに視線を向けると、「ひっ」と小さく悲鳴を上げてベッドの上で後ずさった。


「ク、クロ様……存じ上げなかったとは言え、疑うような事、そして試すような真似をして申し訳ありません。この無礼、平に御容赦を……!」


 フィズは震えながらそう言うと竜の姿を見せた時のシラルのような顔になり、ベッドの上で土下座のように頭を下げる。

 さすが強制認識。さっきまでのこちらを疑うような態度が嘘のようだ。というよりフィズの表情は驚愕を通り越して青ざめてしまっている。


 言葉を尽くすよりも強制的に記憶を送り込む方法なら理解は一瞬、ライカと自分が戦ったことをそのまま頭に送り込むということは疑似体験にも近い感覚なのかもしれない。戦いが本職の騎士とは言え、普通の人間のフィズが正面から一対一で竜と戦う疑似体験なんてしたら恐怖に駆られるのも仕方が無いか。


 それにしもてここまで怯えられるとちょっと傷つくものがあるな……。ライカと戦う自分の姿はそんなにも強烈だったのだろうか。戦っている姿なんて自分では見る事もできないし、想像するのも難しい。

 他の面々の時はここまでではなかったはずなのだが、それらの時は色々と大変な状況だったのもあり、インパクトがいくらか緩和されていたのかもしれない。


「ま、まぁ態度は気にしないので今まで通りでいいですよ。知らなければそんな態度になるのもわかりますし。でも僕の正体については人に言わないで下さいね。シラルさん達にも徹底してもらっているので。

 とりあえずこれで証明できたということでいいですか?」


「ももも勿論です。誰にも喋りません! このまま墓まで持っていきます!

 そしてクロ様のお力添えがあるのならば否やはありません。将軍がクロ様を重要視していた理由も十分理解できました……なのでどうか食べないで下さい!」


 いや、食べないから。何もしていないのに悪い事をした気分になるので泣きそうな声で懇願しないで欲しい……。生贄を要求する邪竜か何かとでも思っているのだろうか……今まで理性的に会話してきたじゃないの。

 いや、だがフィズの様子をよくよく見てみると……ベッドの上で20台半ばの美麗な騎士が涙目で怯える姿というのもそれはそれでそそるものがあるというかなんというか……。


 などとちょっとピンクでムフフな思考をした瞬間、アンナとメリエの方から冷たい空気が漂ってきた気がして、思わずゾワリと背中が粟立った。恐いのでそちらに視線は向けられない。

 か、顔に出てしまったのか?


「ラ、ライカちゃんの正体には驚いたけど、何かクロさんが既に飛び抜けすぎてるからもういいよね、うん! とりあえずこれで戦うということで全員の意志は統一できたし、私も自分のできることで協力しますから!」


 怯えるフィズを尻目に、スイがやる気に満ちた目で場をまとめた。

 フィズの態度には突っ込まないようだ。いや、こういう反応が普通だと思っているということか。

 そして自分……理知的に振舞ってるつもりなのに、ライカよりも飛び抜けてるんですね……。人間には幻獣種も古竜種も手に負えない存在と一括りにされているようだったので同じくらいだと思っていたが、幻獣よりも古竜の方が衝撃的なのか。


 ライカは散々狐の姿で幻獣らしくないところを見せていたのもあり、スイとレアは驚きはしたものの恐怖心は湧かなかったらしい。ライカも大して怖がられていない事には特に感じるものは無いようだ。

 怯えて涙ぐむフィズをレアが苦笑しながら宥めて落ちつかせ、話を本筋に戻す。


「じゃあ一応考えていた作戦を話そうかと思うんだけど、その前にみんなが考えていることとかある? こうしたらいいんじゃないかとか」


「いや、まずはクロの考えを聞きたい。私とアンナは殆ど蚊帳の外だったから、状況がどうなっているのかもわかっていない部分がある。意見しようにも難しい」


「スイ達は?」


「あー、私もあんまり考えていないかも……ただお城に行ってお父さん達を助け出すって漠然としか……」


 メリエ達はしょうがないとしても、スイは行き当たりばったりでやるつもりだったのか……。

 スイの言葉に苦笑しながらレアも申し訳無さそうに口を開いた。


「荒事に関してはあまりお役に立てないと思うので、クロさんの意見を尊重します」


「私も大隊長に抜擢されるまで矢面に立ってきた経験はありますからそれなりに戦う事はできるという自負はありますが、大勢を一度に相手にするなどはやはり無理です。ましてや近衛騎士や宮廷魔術師が出てくれば私では力不足としか……」


 何とか怯えから復帰して今まで通りに戻ったフィズも申し訳無さそうに目を伏せた。

 まぁ確かに相手はアドバンテージがいくつもあるわけだし、そう思うのも仕方が無い。それにフィズは元々逃げるべきだという考えだったし、スイ達は自分が持っている手札を殆ど何も知らない訳だから、意見を言うのも難しいかと思い直す。


「そっか。じゃあ今考えている事を言う前に前提として確認しなくちゃいけないことがあるから、それから確認していくよ。

 まずスイ達に聞きたいんだけど、お城の中がどうなっているかは知ってる? どこに何の部屋があるかとか」


 まずは地形関係で知っておかなければならないことを聞いてみた。これはお城に行ったことがある人間にしかわからないし、行動する上で最も重要になる。これがわからなければ殆どノープランで突っ込む以外になくなってしまう。

 索敵の術を使えばどこに人がいるかはわかるが、個々を識別できるわけではないので特定の誰かを探すのは困難だ。


「それでしたら私とお姉ちゃんがよくお城に行っていましたから半分くらいであれば部屋の配置とかはわかります。どうしても行ったことが無い部屋や王族などしか入れない場所があるので、そこはわからないですね」


「成程。フィズさんは?」


「何度か将軍に付いて登城したことはありますが、兵が待機する下層くらいしかわかりません。ですが将軍が捕らえられているだろう場所はわかります。屋敷に来た騎士達は拘束されたと言っていましたから、恐らく城の地下牢獄か聴取室でしょう。他に監禁しておけるような場所は無いはずです。そこならば何度か行ったことがありますので、ご案内できるかと」


「ふーむ……」


 王城内部を知る三人に確認した所、知りたいことは何とか把握できそうだった。

 そこにライカが続く。肉をかじりながら。


「私も城には入ったことがあるから少しは案内できるかもしれん。しかしどこが何の部屋かは知らんから、階段がどこにあるとかその程度しか教えられんな。一応天辺(てっぺん)まで遊びに行ったこともあるぞ。やたらと豪奢な部屋があったな。そこにあった寝床はフッカフカで寝心地も絶品だったぞ」


 そう言えばライカは城に入った事があるんだったか。スイ達の知らない上層の王族がいるエリアはライカが知っていそうだ。豪奢な部屋に居る人間なんて王族かそれに準ずる身分の大臣などだろうし。


 そうだ。

 ライカにも確認を取っておかなければ。


「わかった。じゃあ次の確認。ライカについてなんだけど、ここでこないだの貸しを返してもらおうと思う」


「む? 私を見逃してくれたことについてのか?」


「うん。その貸しで、今回の件が片付くまで全面的に協力して欲しい」


 ライカは自分達と行動してはいるが、立ち位置は中立だ。なので状況の観察はしていたが関係ないことには積極的に口出しや手出しはしていなかった。

 だが、できれば城への潜入にはライカの協力が欲しい。ライカの協力があると無いとでは難易度がかなり変わるので、ここで言質を取っておく必要がある。


「……それで見逃してくれた恩を返せるなら吝かではない。何をすればいい?」


「今考えている作戦の要になるのがライカの幻術なんだよ。気付かれずに城に近付くために幻術を掛けて欲しいのと、逃げる時にも幻術でサポートしてくれると助かる」


 気付かれずに近付くことができればかなり状況に余裕が生まれる。当然安全度や成功率も上がるだろう。


「……いいだろう。だがいくつか言っておかなければならないことがある。私の使う幻術も制約……欠点があるのでな。それを考慮した上で幻術が役立つというのなら、クロ達の目的が果たされるまで出来る限りのことは力を貸そう。拾った命だ、戦う事にも協力するぞ」


 ライカは即断で協力を承諾してくれた。

 その後にライカが使用できる周囲の人間に気付かれないようにする幻術、その大まかな仕組みや使う上で注意しなければならないことも教えてくれた。


 一通り説明してもらったところ、ライカの幻術の欠点と制約の関係上、考えている作戦に使うには少し見直さなければならない部分が出てきてしまったが、これなら修正すれば問題ないだろう。最終的な目標と動きに変わりは無い。


「わかった。少し動きを修正する必要があるけど、これなら何とかなる。ありがとう。ライカが協力してくれないと力技で強引に行くしかなかったから助かるよ」


「……古竜種に礼を言われる日がこようとはな……何があるかわからんものだ。まぁこれは借りを返すだけだ。礼を言う必要は無いぞ」


「まぁ僕の気持ちだから」


 これでライカの協力を得る事ができた。嬉しい事に戦闘でも助力してくれるようだ。そうなればライカに自分以外の守りを任せたりもできるので、追っ手がかかったとしても大分余裕が生まれるだろう。

 ただ何事も全て順調に行くわけではない。油断は禁物だ。


「じゃあ次の確認。メリエに聞きたいんだけど、この王都周辺で身を隠せそうな森とか山って無いかな?」


「身を隠せる……か。王都の近くとなると長期間身を潜めることができるような場所は無いな。どうしてもハンターや都市の人間などが採集や狩りをするために動き回るから離れないと無理じゃないか?」


「短時間でいいよ。最低で一晩隠れられればいい。それならどう?」


「それならいくつかあるな。王都の北西と南西、それから東側に人間の足で1日くらいの距離に比較的大きな森がある。

 徒歩ですぐの場所にも森はあるが、近場の森は人の手が入っていて安全になっているから夜間でも採集活動をしている人間も多い。だが、1日以上の距離があればそうした心配も無いはずだ。大勢が森に入って捜索するとなればいずれ見つかってしまうだろうが、一晩程度なら気付かれないだろう。

 あとは、少し離れてはいるが北に山と谷もあるな。こちらも短期間でいいなら身を隠す事もできると思うぞ」


 それなら何とかなるか……?

 人間の足で1日ならポロが走れば数時間で着く。竜に戻って飛んでいけば数十分だろう。追っ手がかかるにしても夜の暗影の中、すぐに居場所を突き止められるということは無いはず。気配に関してもライカの術である程度なら隠してもらえそうだ。夜が明けるまで隠れられれば何とかなる。

 そうなると問題になるのは追っ手だ。歩兵や騎馬なら速度的に考えても問題は無いだろうが……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ