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面談

「時間が無いと言っておいて恐縮なのですが……クロ殿。話に入る前にどうしても確認したいことがございます」


「何でしょう?」


「……シェリアや娘達からクロ殿のこと、そして救助に際してのことは詳しく窺いました。……が、私はまだ完全に信用できていない」


「! あなた……!」


「お父さん! 失礼だよ!」


「すまないシェリア。スイもな。お前達の話を疑っている訳ではないんだが、やはり話が突飛過ぎる。立場上、絶対の確信が持てないことは、やはり確認したくなるのだ。……そこでクロ殿、宜しければ私にも、妻や娘達と同じようにそのお姿を見せて頂く事はできないでしょうか?」


 まぁそれはそうだろう。自分がシラルの立場でも、シェリア達の話を聞きレアの目が治っていてもそう簡単に信じることはできない。

 ましてや将軍という他人の命を預かる地位に就き、誰よりも現実を見ていなければならないシラルでは尚の事だ。


 これから国の、そして自分や家族の命運を左右するかもしれないことを任せるのだ。確かめたくなるのは道理だろう。逆にすぐに信用してきたらそっちの方が不安になる。


「……話し合いの場をこのような場所にしたのも、そのためということですか」


 移動は仕方ないが、会談をするというのに窓も無い地下室を選ぶのは些か不審に思っていた。相手を持て成すというのなら部屋もそれなりな場所を選ぶのが普通のはずだ。シラルなりに考え、正体を知るために周囲の人間の目を気にする必要が無い場所を選んだということか。


「……気を悪くしたのならお赦し頂きたい……」


「いえ、そちらが信用してくれているというのはわかります。正体不明の人間を招いたのに護衛も付けていないんですからね。……わかりました。シェリアさんと約束もしましたし、あなたに正体を見せることは問題ありません」


「……感謝致します」


 シラルはそう言ってまた頭を下げた。だがどうしようか。

 きちんと正装した貴族を前に服を脱いで素っ裸になるというのは抵抗があるなんてものではない。今回はメリエが選んでくれたちゃんとした服だから破きたくはないし。


「あー、竜の姿に戻るには服を脱がないといけないんですけど……」


「シェリアに窺っています。あちらの部屋に破けても問題ないような服を用意してあります」


 そう言ってシラルは部屋の奥にあるドアに視線を向けた。そこまで準備してくれていたようだ。


「それはありがとうございます。では、ちょっと着替えさせてもらいますね」


 早速、奥の小部屋に入ると薄暗いクローゼットのようになっていて、湯浴み着のような簡素な服がハンガーにかけて置かれていた。

 服や装備を脱いでその服に着替える。人間の姿に戻る時には裸になってしまうが、小部屋に入るまでまた狼の姿になればいいだろう。


「お待たせしました。じゃあ変身します」


「お願い致します」


 着替えて部屋に戻り、テーブルから離れた位置に移動する。天井はやや低いが広さは問題ない。一応気配を探ってみたが、シラル達以外で自分達を監視しているような気配も感じない。

 シラル達が見守る中、心の中で静かに【元身】と呟いた。


 淡く光を発するランプに照らされ、人間の姿から黒鱗の竜の姿へと変化する。

 着替えた服は一瞬で破れ、長い尾と翼が生える。体が大きくなり首も長くなったのでシラル達を見下ろすかたちになった。しかし天井が低いので首を伸ばすことができず、やや前かがみ状態だ。

 明かりが十分ではない薄暗い室内に突然現れた異質な黒い竜は、普通の人が見ればタチの悪い悪夢の一幕のような光景かもしれない。


 上から見たシラルの表情は、今までに見せたことの無い険しいものに変わっていた。

 恐怖や畏敬ならわかる。しかしシラルの表情にはそれだけではなく、なぜか後悔するような色も見て取れた。


「……な……何と言う……魔力にも変化は無い……ということはやはり……」


「……これでいいですか?」


 立ち尽くすシラルに問いかけるが、他の人間と同じように驚愕で思考停止のようだった。

 スイとレアは前に見ているので特に驚いている様子は無い。父親が硬直しているのを「本当だったでしょ?」といった顔でちょっと誇らしげに見ていた。

 シェリアは何とも申し訳なさそうな表情をして頬に手を当てている。


「じゅ、十分です。クロ殿……いや古竜様。お手間を取らせてしまい、大変申し訳なく……」


 さっきまでよりも更に(へりくだ)るシラルに苦笑しつつ……といっても竜の時は表情が変わらないが……シェリアの時と同じように提案する。


「あー、シラル……様? もシェリアさん達と同様に、普通に話してもらって構いません。私は気にしないので。その代わり私も言葉遣いや作法ができていないのは大目に見てもらえたらと……」


「……わかり、ました……ではクロさんと……。クロさんもそこまで言葉遣いを気にされなくて結構です。ここには礼儀作法に煩い教師はおりません」


 良かった。あっさりとお許しをもらえた。

 これで少しは話しやすくなる。貴族の誰も彼もがシラルやシェリアのように応対してくれればいいのだが、そうもいかないだろう。今後のことも考えて、この世界の礼儀作法も少しは勉強すべきかもしれない。


 竜の姿から人間の姿に戻り、先程と同じように全員でテーブルに付いた。このまま治療についての話し合いを済ませなければならない。

 かと思いきや、何やらシラルが深刻そうに眉を寄せて治療に関することとは違うことを口にした。


「……お話の前に、クロさんに謝らなければなりません」


「え?」


「この度我々は、ヴェルタ王国は、クロさんの棲んでおられた双子山に軍を差し向け、クロさんの暮らしを脅かしました。この罪は軍を動かした者の、()いてはこの国の貴族の罪……本来であれば私共が口にしていいものでは無いのは重々承知しておりますが、何卒、罪無き民は御寛恕(ごかんじょ)頂きたく存じます」


 さっき自分の姿を見て後悔しているような表情をしたのはそれか。

 シラルは国の上層部にいる人間だ。ヴェルタ王国が軍を動かしたということは、当然その方面の事情も知っているということだ。


「……正直、思うところがないわけではありません。が、それをシラルさんだけにぶつけるのも違うということは理解しています。無論無関係な民衆全てに償いを求める気もありません」


 自分や母上を狙って人間達を動かす意思決定をしたのはギルドや王国の上層部だ。本当に償いを求めるとすればその意思決定をした人間達であり、従うしかなかった人間では無い。

 母上や自分の命を狙ったことに対して怒りが無いわけではない。むしろ報復するべきだろうとも思うし、それくらいの怒りは抱いている。


 しかし今すぐに貴族であり軍を動かす立場であったシラルを糾弾するべきかと言えばそれは違う気がした。

 まずシラルが言い出した張本人なのかがわからない。王国とて一枚岩ではないだろうし、将軍は軍を動かす立場だとしても国政の意思決定をする立場ではない。

 それに竜となった自分と人間達の立場の違いというものも考える必要がある。


 竜を魔物に近い存在と認識しているということは、いうなれば自分はヴェルタ王国の近くに棲み付いてしまった害獣ということだ。

 日本でも危険な野生生物が人間の住居の近くに出没すれば、例え何の被害を出していなくても駆除されたり捕獲されたりは日常茶飯事だ。人間の立場からすればそんな危険な害獣を放って置くことができないということも理解できる。


 また、誰も彼もが積極的に自分や母上を狙おうと思ったわけではないだろう。

 シラルもこうして謝るということは少なからず躊躇いの想いはあったということだ。大きな意思の流れに抗えない立場の人間だっているだろうし、そういう(しがらみ)があることくらい知っている。


 アルデルで竜についてロアと話をした時には、ロアは討伐にかなり消極的な様子だった。

 王国の方はどうかわからないが、以前のメリエの話だとギルドに関しては利益目的に討伐難易度のランク外として危険視している古竜を襲うということはしていないようだし、今回のことは危険を回避するためにやむなく手を出したか、王国に扇動されたという色が濃そうだった。


 勿論積極的に手を出してくればこちらも身を守るために容赦するつもりは無い。当然自分の私腹を肥やすために竜を狩ろうとした人間は、今後のことも考えて始末するべきだという思いも変わらない。

 しかしそのためには相手を良く見極めなければならない。怒りに任せて無関係な人間に当り散らすのは自分の考えていることからかけ離れている。……少なくとも、今はまだ……。

 これが母上や仲間の命を奪われるということになっていたら、自分はここまで冷静に怒りと向き合えていただろうか……。正直なところ、自信は無かった。


 とりあえず逆鱗に触れたというわけではないということがわかったからか、幾分シラルの表情から強張りが消えた気がした。

 ……そう言えば、自分に逆鱗ってあるのだろうか……。確か顎の下にある逆さまに生えた鱗のことだったはずだ。今度調べてみよう。


「ありがとうございます。しかし、この償いは何れ致しましょう」


「……わかりました」


「それから、再度感謝を述べさせて頂きたい。クロ殿が手を貸して下さるお陰で、我々ヴェルタ王国の民は戦火の難を逃れることができるかもしれません。この場は民を代表し、私から感謝を」


「いいえ、これはシェリアさんにも言いましたが、その言葉はまだ早いですよ。治療できるように場を整えてもらわなければ僕は協力できません」


「そうですね。ではこの言葉を再度言う事ができるように、本題に入りましょう。シェリア」


「畏まりました。私と娘達がクロさんに救助して頂いた際、クロさんへ王女殿下の治療を要請致しました。その際に条件として提示されたのは、クロさんの正体を知られないようにすること、そして報酬として王国が管理している情報を提供することです。これで相違ありませんか?」


「ええ、その通りです。あ、治療するには竜の姿に戻る必要があるので、さっき見せた体が納まるくらいの広さがある部屋も用意して下さい」


 事前に竜の大きさがどれくらいかを見せることが出来たので手間が省けたともいえる。


「わかりました。ではそれを踏まえた上で現状を説明していきたいと思います。……が、先程申しましたとおり私共はこの後すぐに王城へ出向かなければならないので、必要なことだけを掻い摘んでお話します」


「はい。お願いします」

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