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異世界の魔装士(ウィズリート)  作者: 秋川葉
第二章 ドールメイカー
31/33

--Sakura's Chapter-- 「デスペラード」

 これから向かうのは、主にこのフォレノスで亡くなった人が眠るという共同墓地だそうです。

 街外れの丘にあるそうで、今はダニエラおばあちゃんの孫――トーマスさんの案内で、街をてくてくと歩いています。


「トーマスさんが案内を買って出てくださって助かりましたぁ」

「いえ」

「フォレノスは結構見て回ったつもりだったんですけど、こっちの方はまだ来たことなかったんですよ」

「そうですか」

「……あ~、墓地があるってことすら知らなかったくらいでして」

「はぁ」

「…………観光とかだと、さすがにそういうところまでは行きませんし」

「ええ、まぁ」

「……………………」


 ホントに物静かな人だなぁ……。こっちも見てくれないし、うぅ~、話が続かないよぉ。

 ねぇエリシアちゃんっ、ちょっと変わってさっ会話を盛り上げてよ!


 ――う、うん、わかった。ボク、やってみるっ。

 

 そう意気込んだエリシアちゃんは「んんっ」と咳払いを挟み、

「あ、あのさっ……、優しいおばあちゃんだよねっ」

 と、声をかけました。

 すると、前を歩いていたトーマスさんがようやくスッと振り向いてくれます。

 いきなりエリシアちゃんと交替したので少し驚かせてしまったのかもしれません。


「はい。グランマはとてもお優しい方です。私はあの方を心より尊敬し、深く感謝をしております」


 ですが、今までで一番長く話してくれました。それもご自身のことをです。

 これは大きな一歩ですよぉ。この場はこのままお任せすることに致しましょう!!

 

 エリシアちゃんはてってってっとトーマスさんの横に並んで歩き出しました。


「ボクもすっごい感謝してるよ。この名前を貰ってホントに生まれ変わったような気持ちになれたから」

「グランマも喜んでおられました。ありがとうございます」

「えっやめてよ。お礼なんて言われること、ボクは何にもしてないんだから」

「いえ、この私個人と致しましても、お二人には丁重にお礼を申し上げたいと思っておりました」

「ほえっ?」

 

 ど、どういうことでしょう。トーマスさんに対して私やエシリアちゃんがここまで丁寧にお礼を言われるようなことなんて、何かあったかなぁ……?

 むしろ謝りたいことならあるんですけどね。さっきのお兄の態度とか……。


 もちろん、エリシアちゃんにも心当たりはなさそうです。

 頭の上にクエスチョンマークを並べていると、トーマスさんはやや申し訳なさそうにその意味を教えてくれました。


「わざわざ思い出させてしまう形となり恐縮なのですが――、エリシアさん、そしてサクラさんは、あの三人の素性をご存じでしょうか?」

「ボクが手に掛けてしまった――あの三人のこと、だね?」

「……ええ」


 ん~と確か、あんまり良い人たちではなかった、みたいな話を聞いた気がします。

 でしたよね、エリシアちゃん?


「うん。他人が倒した魔獣の魔晶石を奪い取ったりとか、弱い人を脅してたりとか、なんかそういう悪いことをしてた人たちだったって」

「その通りです。彼らは魔装士でありながらその力を活かさず、悪事に手を染めていました。あのような者たちは『デスペラード』と呼ばれ、その多くは徒党を組んで被害を拡大させているのですが――、この度、あの三人の遺品から、そのデスペラードたちに関する情報を得ることが出来たのです」

「あ、そうなんだぁ。じゃあトーマスはその悪者たちを捕まえに行くの?」

「ええ。デスペラード撲滅は――、私とグランマの悲願ですから。その足掛かりを、貴女方は与えてくれました」


 トーマスさんの表情が一瞬だけ、鬼気迫るものに変わっていました。

 悲願とまで仰るのですから、きっと正義感だけが為せる思いではないのでしょう。


「どうして――って、聞いてもいいのかなぁ?」

「悲願となった理由を、でしょうか。お耳に入れても気分の良い話ではないと思いますが」

「でもそれ、おばあちゃんの願いでもあるんでしょ?

 ボクのお願いを叶えてもらったんだもん。今度はボクがおばあちゃんのお願いを叶えたい。あ、でもね、出来るかはわかんないんだけど……」


 うん、そうだね。

 ダニエラのおばあちゃんに恩返しをしなきゃ!


「あの、咲良です。トーマスさんさえよかったら、聞かせて頂けませんか?

 協力できることならそうしたいんですっ。私も、エリシアちゃんも」


 二人掛かりで重ね重ねに言ってしまったせいか、トーマスさんはその場で立ち止まり、しばし悩まれているようでした。

 けれど、

「では、お祈りが終わりましたら少々お時間を頂戴致します」

 と、一礼してくださり、

「こちらが共同墓地となっております」

 そう言って、目の前へ手を差し伸べました。


 あらら、いつの間にやら目的地に到着していたようですね。


 長くうねった坂道を上った先、そこはフォレノスの街を一望する丘の上でした。

 傾斜には色鮮やかな芝生が植えられ、そこにいくつもいくつも建てられた半円状の白石が等間隔に列を作って並んでいます。


「これ、全部お墓だったんだ」


 そういえば、街中にもこの丘が目に入る場所がありました。

 ただ遠目からではお墓が白い点々にしか見えず、私はそれをお花か何かだと思っていました。


「彼らが眠るのは、あの段の右奥になりますので。私はこちらで」

「あ、はい。じゃあ行ってきますね」


 トーマスさんのお話も非常に気になるところではありますが、まずここで大切なのは、あの三人の方たちが安らかに眠れるようお祈りを捧げることです。

 

「たとえそれが悪い人たちだったとしても、ボクはボクのしてしまったことをこれからも覚えてる。ずっとずっと忘れない。そして――」


 ゼッタイに繰り返さない。


「うん。ボクはもう、そう誓ったんだ」


 ですね!

 さぁ行きましょう、エリシアちゃん。




     *****



「どうぞ、宜しければ」


 トーマスさんに差し出された包み紙の中身は、香ばしい香りを放つバケットサンドでした。

 私たちがお祈りをしている間に、わざわざ買いに行ってくれたのでしょうか。


「わぁ、ありがとうございますっ。いただきます!」


 正直言うと、ちょっと危ないかもなぁって思うくらいにお腹ペコペコだった私は、お礼もそこそこにガブリとパンに食らいつきます。

 ふむふむ。フォレノスのグルメはけっこう食べ歩いた私ですが、このサンドとはどうやら今日が初顔合わせのようですね。表面はカリッと、中はモチっと。挟まれた具はこんがりと焼かれたベーコンっぽいお肉にシャキシャキのお野菜。鼻に抜ける爽やかな風味は香草のペーストでしょうか。

 ……空腹補正を差し引いたとしても、これはっ!! 


「ヤバッ、美味しいっ。ね、エリシアちゃん?」

「うんっ。もしかすると今までで一番美味しいサンドイッチかも~」

「だよね~。あのあのっトーマスさんっ、これどこで買ってきてくれたんですか?」


 要チェックですよぉ!

 こんな美味しい店を知らないとあっては異世界グルメ通日本代表になんてなれませんっ――などと、ついつい興奮してしまったのですが。


「いえ、これは妻が持たせたモノです」

 と、トーマスさんは仰いました。


「ほえ……。じゃ、じゃあ、リュミエールさんのお手製?」

「ええ」

「貰っちゃってよかったんですか。トーマスさんのお弁当だったんじゃ……?」

「構いません。お二人のお口に合ったと聞けば妻も――、そして私の母も喜ぶと思います」

「ん、お母さん?」

「はい。それは元々、母の得意料理の一つでしたから。母はグランマから教わったと言っていました」


 どうやらトーマスさんのお母さんがグランマの実の娘さんということみたいです。

 代々受け継がれている『家庭の味』ってやつですね!


「ということは、トーマスさんのご両親もフォレノスへ一緒に来てるんですか?」


 お母さんも喜ぶ――と仰っていたので、私はてっきりそう思ってしまったのです。

 が、その問い掛けはトーマスさんの表情を見る見ると曇らせてしまうことになりました。

 

「……母は三年ほど前に亡くなりました。殺されたのです。デスペラードたちの手によって」




 先程グランマからのお話でも出てきましたが、三年前と聞いてまず思い浮かぶのはあの『原魔討伐作戦』のことでしょう。

 エリシアちゃんを始め、プロフェッサーさんにセシリアさん、それにコーエンさんとリンネちゃんもそうですが、加えてトーマスさん一家にまで深く関係しているとなると、それがいかに大きな出来事だったのかが嫌でも分かるというものです。


「私の母――ナタリアはあの作戦当時、魔導技師としてグランマの指揮下に入っておりました」


 結婚したばかりだったトーマスさんとリュミエールさんご夫妻も同じく、グランマの部隊にて魔獣の掃討に当たっていたそうです。

 通常の魔獣討伐任務では魔導技師の方が前線に立つことはあまりありませんが、任務が長期化する場合などにはどうしても魔装の消耗が発生してしまいます。ナタリアさんはそういった際の措置や怪我人の手当てなどをサポートする役割を担っていたのだと思われます。


「我々が担当していた地区は、発生した魔獣の数こそ多いものの、その一体一体は苦にするほどのものでもありませんでした。ですので集まった魔装士にも質より数が求められており……、そのほとんどがC級やD級で構成されていたのです」


 A級やB級を持つ魔装士は当然それだけの実力を持っていますから、受けられる任務も幅が出来ますし、その分報酬だって多くなります。

 ですが、C級――ましてやD級ともなるとそうはいきません。簡単な任務ほど報酬は少なく、且つ、競争相手もたくさんいる中で、生活するだけの収入を得ようとするのは決して容易なことではないのです。

 貧窮した末のことなのか、世の中に不満を感じていたのかはわかりません。

 わかりませんが、そういった中に『デスペラード』と呼ばれる方たちが生まれてしまったのでしょう。


「これは後から分かったことですが、四十名近い魔装士がいた中で、実にその半数がデスペラードでした。乱戦が予想されておりましたのでね、彼らとっては格好の餌場だったのです……。そしてデスペラードたちは無数に転がっていく魔晶石を拾い集めるだけで飽き足らず、怪我を装って母に近付き、襲いました。あの下郎共は、母が管理していた魔装を直す為の魔晶石までをも狙ったのですよ。護衛についていた妻も、その時負った傷のせいで魔装士を引退に追い込まれました」

「あ、リュミエールさんも被害を……」

「ええ……。妻は母を守れなかったことを今でも悔いております。私の不愛想は元々ですが、彼女が笑えなくなったのはそれ以降のことなのです」


 トーマスさんは感情をあまり表に出すタイプではないようにお見受けしますが、今は奥歯を噛み締めるようにして話してくれています。その痛々しい表情が彼の無念さを強く、色濃く映し出しているように感じられました。


 すると、堪らずといったようにエリシアちゃんが声を上げました。


「……そのデスペラードたちは捕まえたの?」

「いえ、力及ばず、数人は逃がす結果となりました」

 

 トーマスさんは首を横に振り、そして――。


「残りの者は全て殺しました。この私と、グランマの手で」

 

 静かにそう付け加えたのでした。

 


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