Epilogue 「温泉にて」
十日後。温泉街ヴァルカン。
「ふはぁ~、生き返る~」
露店風呂は何度入っても気持ちがいいですね。温泉が疲れた体に沁み渡ります。
「あ~、アタシの工房にも温泉が欲しいぃ~」
隣ではリンネちゃんも溶けかかっています。
今、私は以前泊まっていたこの温泉宿にて住み込みで働かせてもらっています。
なにせ手元には魔装がありませんので、魔装士の仕事はお休みせざるを得ないのです。
リンネちゃんには魔導技師のお仕事があるはずなのですが、あの日以来、ずっとこの旅館に泊まっています。どうやらプロフェッサーさんの研究を応用して開発した独自の魔導技術を協会に高額で提供し、更には協会嘱託技師としての役職まで手に入れたようで、一気にお金持ち!
現在はセレブ気分を満喫中といったところでしょう。
「ねぇ、リンネちゃん。私に魔装作ってよ~。出世払いで~」
「だ~めっ。桜花絢爛をフィニスしたんだから、まずはその分きっちり支払って」
「え~、あれはお兄のだし~」
「ねぇアリマ~っ、サクラがそう言ってるわよ~!」
リンネちゃんが柵一枚隔てた男風呂に向かって叫びました。
「俺は今イグニス壊した分を稼いでんだよっ!」
お兄の必死な声が返ってきました。
ちなみにお兄は温泉に浸かっているわけではありません。絶賛、男風呂お掃除中なのです。
実は兄妹揃ってここで働かせてもらっています。
「てか、サクラ。それ直してあげたんだから、もう使っても大丈夫よ?」
リンネちゃんがそう言ったのは私の小指に嵌められた指輪型魔装ナハトムジークのことです。あの後、すぐに精神作用効果を失くしてもらったので確かに使えなくもないんですけど……。
「サクラはね、ボクに気を遣ってくれているんだよ。ボクがナハトムジークでやってしまったことは許されないことだから……」
私の中のセシリアちゃんが出てきて言いました。
あ~、やっぱりセシリアちゃんには隠し事ができません。
あの時、桜花絢爛の力を使ってプロフェッサーさんには想いを伝えました。
でも、刺したり切ったりはしていませんよ?
セシリアちゃんと一緒に、桜花絢爛を握ってもらっただけです。
後でその様子をお兄に結婚式のケーキ入刀みたいだったねって話したらすごく怒られましたけど。
伝えた想いはこんな感じです。
―――――
ある二人の兄妹を救う為、ボクは命を賭しました。
でもどうか、悲しまないでください。
ボクは、兄様の魔装でたくさんの人を笑顔にしたいと考えていました。
兄様の作る魔装でなら、それが出来ると確信していました。
そして、兄様と一緒にそうしたい、とも思っていました。
ボクの我儘……、ですよね。ごめんなさい。
けれど、あの二人が末永く笑い合い、支え合っていってくれることを切に願います。
兄様、いつも守ってくれてありがとう。ボクはとても幸せでした。
―――――
この想いを受け取ったプロフェッサーさんは何も言わずにどこかへ行ってしまいましたけど、セシリアさんの想いはセシリアちゃんによってプロフェッサーさんにちゃんと届けられたと思います。
そんなセシリアちゃんですが、唯一の望みを叶えた割には、まだ私の中にいるのです。
「なぁに、やっぱりサクラはボクに消えてほしいんだ。そうなんだ……」
「え、いや、そんなこと言ってないよ?
まだここにいるよって確認しただけっ」
セシリアちゃんは人格ができてそんなに日が経っていなかったので、セシリアさんよりもちょっと幼い感じらしいです。お話ししたコーエンさんがそう言っていました。
「傍から見たら一人芝居みたい。そうだっ、サクラ、セシリア!
それで大道芸とかやったら人気が出てお金儲けできるかもよ~。可愛いしさ、そんなにおっぱい大きいしさ、間違いないって!」
ん~、それはどうでしょうか。ただお話しているだけなので何とも言えません。
てか、リンネちゃんは一緒にお風呂に入ると必ず私のおっぱいの話をします。恥ずかしいのでできればやめてほしいです。
「ダメだぞ~、男たちの見せ物になるとか俺は認めないぞ~」
男風呂からそんな声が聞こえてきます。
「出た出た、アリマのサクコン」
「ボクもアリマはちょっと過保護過ぎると思うなぁ」
「え、そうかな?
お兄は普通だと思うけど」
「出た出た、サクラのアリコン」
「あ、そういえばサクラね、ボクにこう言ったんだよ。
『お兄は私の王子様だから、私の中にいるアナタのことも絶対救ってくれるよ』って」
「あ~あ~あ~っ!」
セシリアちゃん、それは言っちゃダメでしょ~、もう!
「お~い、アリマ。風呂入れてくれや~」
あ、この声は。
「お兄ちゃんだ」
コーエンさんですね。
「僕はもうへとへとなのだよ……」
どうらや小次郎さんも一緒みたいです。小次郎さんもリンネさんに作ってもらった魔装を壊してしまったので、今はコーエンさんのお仕事を手伝うことでお金を返すということになったらしいです。
らしいというのはですね、お兄が小次郎さんとは口を聞くなといつも厳しく言うのでご本人とは未だ会話をしたことがないからなのです。何故かわかりませんが、小次郎さんも私を見るといつも顔を真っ赤にしてどこかへ行ってしまうので、そもそもお話しする機会自体がありません。
まぁでも、私って髪の長い男の人ってちょっと苦手なので……。
さて、私もそろそろ上がりましょう。
この後はお兄と一緒にお散歩がてら、もっと面白そうなことを――じゃなくって。
元の世界に帰る方法を探しに行きますっ!
――第一章『ミッシング マイシスター』 完
【異世界の魔装士】
第一章「ミッシング マイシスター」これにて完結となります!
ここまでお付き合い頂きまして、心より感謝を申し上げます。
宜しければ感想など頂けましたら幸いです。
引き続き、第二章をお楽しみください!




