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世界がゲーム化しました  作者: 010110101011000110101
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世界が変わって

「せいやぁ! 」


 男が声を張り上げて、鬼の攻撃を防ぐ。

 男の名前は柴崎歩、御年21歳になる大学生だった。

 しかしそれは過去の話、今ではセーフティゾーンを守る騎士の一人だ。


「フレアマジック! 」


 女は叫ぶ、その声に応じて手に持った杖から拳ほどの炎が発せられた。

 それはまっすぐに、鬼の腹を打ち抜く。


「ふぅ……」


 誰からともなくため息をついて、地面に座り込んだ。


「すごいね、職業が騎士なのに戦いに出るなんて」


 歩は先程魔法を放った女性から声をかけられた。

 現在十人近くの規模で、セーフティゾーンとなった学校を守っている。

 この世界は数か月前に発生した、通称確変からゲームのような世界になっていた。

 まず人々は己の戦闘スタイルを選ぶことになった。

 何も知らない状況だ、当然失敗はある。

 例えば前衛職と呼ばれるスタイル。

 騎士や剣士といった近接武器を扱う物の事を指す。

 結論から言ってしまえば、前衛職は外れと揶揄されることが増えた。


 平和な日本で敵と、それも巨大で強力な化け物と戦う事になると予見できた者はいない。

 合わせて剣道や柔道を嗜む者も、実践となれば話が変わってくる。

 早い話が敵の前に出た瞬間、死の恐怖に取りつかれて本来のスペックを発揮する事が出来なかった。

 

 その結果、多くの前衛職が魔法使いなどの後衛職へ転職、もしくはセーフティゾーンの内側にこもるようになってしまった。

 中には敵から逃げる事さえできずに哀れな末路を迎えた者もいる。


「俺の妹、まだ10歳なんです。

魔法使いは攻撃は強いですけど、防御や近接戦闘は苦手ですからね。

だから、だから守り特化の騎士として前にでなきゃいけないんです」


 柴崎歩の本心はそこにあった。

 誰かを守らなければならない、それが彼を突き動かしていた。

 父は僧侶を選び、母は魔法使いを選び、妹は踊り子を選んだ。

 前に出て戦えるのは柴崎歩だけだった。


「私もね」


 家族の話が出た瞬間に魔法使い女の顔が曇った。


「私もね、弟がいたの。

20歳になったのにゲームにのめりこんで学校にも行かないような豚だったよ。

それがね、世界がこんなことになったら急に張り切って、剣士なんか選んじゃってね」


 何かを思い出すように、ぽつりぽつりと語りだした女の言葉を遮る者はいない。


「3日前、私をかばって死んじゃったの。

運動が苦手な癖に、大きな声出して一所懸命に前に出て敵の注意を引きつけて。

私が魔法を撃って数を減らして、けど私のミスで撃ち漏らしが出たの。

そのモンスターに襲われて、あぁ死んじゃうんだって思った瞬間にね。

弟に突き飛ばされたの。

それで地面をころころーって転がって、状況を確認しようと周りを見たら弟の首が転がってた。

さっきまで私が立っていた場所には弟の胴体があってね、助けられたって気持ちと助けられなかったって気持ちが同時に湧き上がってきたの」


 女の声には徐々に涙が混ざり始める。

 だが同情する者は一人もいない。

 彼女の身に怒ったことは紛れもない悲劇だ。

 だが、改変されたこの世界ではありふれた日常の一コマに過ぎない。


「私はね、逃げたよ。

弟の死体に目もくれずに一目散に。

おとといかな、そこに行ったときには弟の死体はなかった。

誰かに弔われたのか、モンスターに骨も残さずに食べられたのかはわからないけど血だまりは残ってたよ。

アスファルトの地面にどす黒く変色した血がね。

私は後悔している。

あそこで逃げなければ、あそこで頭だけでも持って帰ってやれれば、あの時油断しなければ、あの時弟が私を助けなければ。

全てに後悔している」


 女は悲しげな笑顔で、そう語った。

 世界のゲーム化、改変、そう呼ばれる事件が起こってわずかひと月の事だった。


 それから4日、柴崎歩はその女が死んだという話を聞いた。

 セーフティーゾーンの外で、血だまりの中に沈んでいたという。

 そこは彼女が語った弟の死に場所だったのか、それを知る者はいない。

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