希望を持つこと
「夕陽ー!遅いから迎えきたぞー!」
聞いたことある声が近ずいてくる
「友達が来たみたいなのでお先失礼しますね」
「ちょ、ちょっとまって!友達ってまさか」
彼女の手を引き止めて聞こうとしたところにちょうど顔をのぞかせた朝日ちゃんと目があった
「……先輩、私の友達になにしてるんですか?」
静かに、だが確実にその目は俺を睨んでいた
「ま、まて朝日ちゃん。これは違うんだ」
「私の友達にセクハラなんてサイテーですよ!」
「違うんだって!夕陽ちゃんからも何か言って!」
夕陽ちゃんに助けを頼もうとしたがなぜか夕陽ちゃんはうつむいて黙ってしまった
「えっ夕陽ちゃん??」
「先輩覚悟はいいですか?」
「あ、え、ちょま、まって!まっグフゥ」
おもっいきり腹パンされた。仮にも今日倒れた病人にする攻撃ではない威力だった。彼女は悪魔か
「朝日ちゃん。彼はセクハラしてきた変態さんじゃないよ。私にお金をくれた人だよ」
「お、お金?」
「まって朝日ちゃんそれには語弊がある!確かにお金は渡したけどそういう意味じゃ!」
「この変態!」
「がふぁ!」
同じところにまたグーパンチを浴びせられた
「い、いってくれれば私が………」
最後に何言ってるか聞き取れなかったが俺が復活するのを待ってくれていたのかその後にしっかりと事情を話したところ、朝日ちゃんは盛大に謝ってきた。
「ま、まぁいいよ誤解を招くようなことしたの俺だしさ」
「で、でも」
「はい、このことは忘れよう。オッケー?」
「はい」
「それでいい。しかし夕陽ちゃんの友達が朝日ちゃんだったなんて思わなかったよ」
なんて言ったって話し方やスタイルなども真逆で言っちゃ悪いが朝日ちゃんみたいなタイプと話すイメージが夕陽ちゃんにはないんだよなぁ。いや逆にアリなのか?
「高校からの友達で私の唯一の自慢の友達ですよ先輩」
「へ〜。あれ?でも朝日ちゃんて出身福島県って言ってなかったっけ?てっきり大学生になってから神奈川の方きたのかと思ったよ」
「親の都合で高校の時にこっちに引っ越ししたんですよ。その時が高校2年の冬の時でしたからなかなか友達ができなくて」
「そのズガズガと入ってくる性格なのに?意外だな」
「なにかいいました?」
「いや、なにも」
「まぁそんなこんなで馴染めずにいたら夕陽が話しかけてくれたんですよ。名前聞いた時はビックリしましたけど。朝日と夕陽で似てるね!って。そこからだんだん2人でいることが多くなったんですよ」
「へ〜。高校の時の朝日ちゃんどんなんだったの夕陽ちゃん」
「え?あ、えっとなんて言うんだろう。最初は暴れたくても暴れられない野獣?みたいな感じでしたよ」
どんなやつだよそれ
と、心の中でツッコミを入れた。さすがに初対面の子にズバズバ言うのは心が痛むしね。
俺の高校の時そんな雰囲気だしてるやついなかったぞ。ん?いやいたな1人。
「いいじゃないですか私の話は」
恥ずかしそうに朝日ちゃんが話しの流れを断ち切ろうとしていた。だがここで辞めたらきっと俺は後悔する、せっかく面白そうな話なのだから。
「いやもっと聞かせてくれ夕陽ちゃん。チームの一員として知れることは知っておきたいからさ」
「チームの一員?」
「あ、私今大学でフットサル部のマネージャーやってるんだ」
と恥ずかしそうに、だけど笑顔で朝日ちゃんは答えた
「フットサル?」
やっぱり、フットサルはまだマイナーなスポーツなのかな。サッカーと違って放送とかしないし、テレビでもっと取り上げてくれればいいのに
「簡単に言えばサッカーのミニコート版だね。動きはバスケに似てるけど」
まぁだいたいこの説明でなんとかなるだろ。見てくれるのが一番早いけどさ
「そうなんですか。楽しそうですねフットサル」
「ならこんど練習試合あるし見に来なよ!」
せっかく興味を持ったんだ。見に来て貰えばきっと好きになる
「せ、先輩それは……」
「ごめんなさい葉さん。私あまり長く外に出れないんです」
彼女は笑顔で言った。なんで笑顔なのかはこの時は分からなかった
「そ、そっか。ごめん」
もっと考えて言えばよかった、ここは病院だ。しかも彼女は俺の一時入院と違ってちゃんとした入院だ。なにかしらの病気にかかっているのはわかりきっているのに。
「大丈夫ですよ。体が良くなったらぜひ見せてください葉さん」
「うん。夕陽ちゃん」
俺は彼女の目を見ることができなかった。
突然誰かのケータイが鳴った。
「あ、もうこんな時間?私帰りますね!先輩、夕陽を部屋にお願いできますか?」
「うん、大丈夫だよ。今日はありがとう朝日ちゃん」
「早く治して戻ってきてくださいよ先輩!夕陽もまたくるね!それじゃ!」
急用だったのかな?すごい駆け足で帰っちゃった。それよりもだ。この気まずい中どう話を盛り返すか、ここを間違えたら彼女と今後話す時に気まずくなりかねない。それは避けるべきだ、こんな可愛い子と話せる機会なんてそうそうないぞ。そうだ、高校の話が途中だったな。夕陽ちゃんの高校の時の話を聞こう
「そういえば夕陽ちゃんは高校の時どんなことしていたの?」
「私ですか?あまり学校にはいけてなかったんですよ。朝日ちゃんと会った時はたまたま調子が良く学校に通えてた時期だったので。でもまた体調崩して入院生活に戻ってしまったんです」
「そ、そうだったのか」
ミスッたーーー!これ地雷ふんだかも、いや踏みつけてるでしょ確実に。やっちまったよ高梨葉。この選択は確実にミスでしょ。盛大に失態だよどうしようどう切り返せば
「あ、あのじゃあ卒業して今やりたいこととかあるの?」
これならどうだ、将来のことなら地雷を踏むこともないはず。ましてや「やりたいことないの?」ではなく「やりたいことあるの?」と強く言うのではなく優しく問いかける。完璧だ。さすが俺、これでさっきの失態は挽回できたは…
「私まだ卒業していないんです。1年留年中でして」
あ、これダメだ。なにやっても俺の空回りで終わる
「あ、じゃあ私部屋に戻りますね。今日はありがとうございました」
「え?あ、うんこっちこそ話してくれてありがとう」
……いやいやそうじゃないだろ。朝日ちゃんに部屋まで頼むって言われてるんだから送らなきゃ!
「まって夕陽ちゃん。部屋まで送るよ」
「大丈夫ですよ。一人でいけます」
ガタッ!
彼女は立ち上がろうとした途中で倒れてしまった
「大丈夫!?今医者を!」
「だ、大丈夫です。ただの立ちくらみですよ」
俺は彼女の病気を知らない。だから立ちくらみが本当かどうかもわからない。だけど今は1人にしちゃダメなのはわかった
「部屋まで送るよ。ほら乗った乗った」
俺はしゃがんでおんぶの格好をした
「でも」
「でもじゃない。ほら」
「……はい」
彼女の腕が首元に当たる。服で見えなかったけど細いな
「よいしょっと」
手の感触でわかる。足も細い。蹴ったら折れてしまいそうなほどだ
「重くないですか?」
「いや、むしろもっと食べたほうがいいぐらいだ」
「そう…ですよね。病院の食事って好きじゃなくてあまり食べないんですよ」
「あ〜やっぱ美味しくないのか病院のご飯って。でも食べなきゃさっきみたいに貧血起こしちゃうよ?」
「分かってはいるんです食べなきゃって。でも箸が進まないんですよ」
入院生活は大変そうだな。簡単に外には出れないし、好きなものを食べれないのか。一時入院とはいえ俺も経験することになるのか。憂鬱になりそうだ、早く治そう
「夕陽ちゃんの病室はどこ?」
「えっと、406号室です」
「406号室ってゆーと4階か、なかなか階段登ることになるな」
「やっぱり歩いていきます」
「大丈夫!フットサルで足腰は鍛えてるからさ!」
ここでいかなかったら男じゃない。こういった時の為の筋トレだ。踏ん張れ俺、いけるぞ俺。
「よしっ」
「はぁはぁはぁ、ふぅ」
長かった。おんぶしてからの階段は予想よりキツかった、てゆーかエレベーター使えばよかった。
「大丈夫ですか?」
彼女の声が耳元で囁かれた。
疲れているせいかドキッとした。
「うん、大丈夫だよ。406ってあそこの部屋か」
部屋についてドアを開けると合同部屋ではなく個室だった。
「よいしょっ」
彼女をベットの上に下ろし椅子に座る。
「ありがとうございます。葉さん」
面と向かって言われると照れるな
「体の調子はどう?もう平気?」
「今は大丈夫です。心配かけてすいませんでした」
彼女は頭を下げお辞儀をした。綺麗な黒髪がなびく。本当にツヤのある髪の毛だ。サラーってやってみたいな。
「え?」
彼女は赤く頬をそめてこっちを見てきた。
「ん?え?もしかして口に出てた?」
「は、はい」
あ、これはやばいやつだ。場合によってはセクハラになりかねん。なんとか訂正しなきゃ
「ほ、ほら思わず綺麗な黒髪だからさ、見とれちゃって」
さっきと言ってること変わんないじゃないかこれじゃ!やばい冷や汗がでてきた。
「ありがとうございます」
「へ?」
怒られると思ったけど違った。
「母に「女の子に生まれたんだから綺麗な髪にしときなさい。髪は女の武器になるんだから」と言われていたので」
彼女は髪を触りながら笑顔で言った。
「そ、そうなんだ」
よかった。これ以上地雷は踏みたくないからね
「葉さん、私の病気知りたいですか?」
急な問いかけだった。入院しているってことは重い病気なんだろう。それを口にすることは辛いんじゃないか?でも…でも俺は彼女のことを知りたかった。
「うん」
彼女の口がゆっくり動いた。
「実はよくわからないんです」
「え?」
思わず聞き返した。よくわからないってなんだ?
「治せないらしいんです私の病気。このまま体が弱っていくのを待つしかないんですよ。笑っちゃいますよね」
なんで彼女は笑顔で話しているんだ?普通悲しい顔を浮かべるはずだろ
「な、なんで夕陽ちゃんは笑顔でその事を話せるんだ」
彼女は俺の目を見ながら話した。
「私は生きている意味がわからないんです。なにをしたい訳でもなく、ただ起きることに身を任せて流れに逆らわずなにも変わらない日々をこの病室で過ごす、そんな生活に悟っちゃったんでしょうか。全てがどうでもよくなったんですよ」
彼女は淡々と告げる。
「お医者さんにも言われました。あまり長くはないって。だからあまり物事に深く入り込みたくないし入り込ませたくないんです。朝日ちゃんはズバズバときましたけど」
彼女の笑顔が乾いて見えた。
死を待つしかない人生。なにもかもに意味を見出せない人生。やりたいこともできず、やりたいことを作らないようにする。なにもできないまま終わる。それは…それは
「悲しすぎる」
自分の考えていたことがちっぽけに思えた。今俺はやりたいことをやることができる。自分の意思で。こんな子がいるのに何を悩んだいたんだ俺は。バカだ。
「いいんですよ。これが私の運命です。しょうがないんですよ。どうすることもできません」
俺は意味のない日々を過ごしていた。だけど俺は…
「決めた」
「は?」
「夕陽ちゃん。俺は決めた」
変える時だ。今ここが俺と彼女の意味のない日々を変える時だ。
「なにをですか?」
「俺が君の日々をを楽しくしてやる。死にたくないと思わせてやる。最後に…最後に楽しかったと言わせてやる」
「え?」
「君の願いを言ってくれ。俺が全身全霊をもってぜんぶ叶えてやる」
俺は彼女の前に手を差し伸べた。
彼女は数秒止まった後理解したのか俺の手を取ろうとはしなかった。
「無理ですよ葉さん。そんなこと…」
「無理じゃない!君はそれで満足なのか?不満はないのか?違うだろ!その笑顔は作り物だ。俺が本当の笑顔を作らせてやる。だから俺と一緒に……」
言葉が詰まる。自分も一緒だったからだ。日々の生活に満足はしていないけど不満もない。夢も希望もない。だけどそんな自分が変われるなら、彼女の為に何かできるなら
「俺と一緒に2人で希望を見つけよう夕陽ちゃん」
彼女は手を握りしめていた
「なんで、なんで今日あったばっかりの人にそんなこと言えるんですか?私とあなたは仲のいい友人でもなんでもありません。ただの他人ですよ?それなのになぜそんなことを言えるんですか?」
彼女の声が震えながらも強くなる。
「私のことをなにも知らないのに……なんで……」
「夕陽ちゃん。俺もきみと一緒で変わらない日々に嫌気がさしいていたんだ。なにかいいこと起こらないかなってずっと願っていた。だけど待っていてもなにも変わらないし変えられない。けれど今日君と会って、君と話して変われるかもしれないと思ったんだ。卑怯だよね、君を理由に変わろうだなんて。」
大きく深呼吸をした。この言葉は大きな勇気がいる。すごく恥ずかしい。だけど彼女が変われるなら、変えようと思えるなら、そんな小さな羞恥心は捨てよう。
「俺は今日君に一目惚れをした。好きなってしまった。好きな女の子には笑顔でいてほしいんだ。偽物の笑顔じゃなくて本当の笑顔で。だから君を本気で変えたい。俺の人生を賭けて君を笑顔でいっぱいにしてやりたい」
「そんなこと……無茶ですよ」
「無茶でもなんでもいいんだ。変わろう一緒に」
彼女の膝に一粒の涙が落ちた。
「……いいんですか?私これでもけっこうわがままな方なんですよ?」
「気にするな。言ったろ?ぜんぶ叶えてやるって」
「叶えてくれなかったら許しませんよ?」
「うん」
「叶えてくれなかったら大きな声で泣きますよ?」
「うん」
彼女はゆっくりと俺の手を取り顔を上げた
「それじゃあ最初のお願いです葉さん」
「私の残りの人生を笑顔でいっぱいにしてください」
彼女は涙を流しながら笑顔でそう言った
返す言葉は一つだ
「まかせろ」