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旅立ちの理由 その2

 前々からこのおっさんが王座を狙っていたってことは王宮にいるものはみんな知っていたんだけどな。

 けどさ人望全くないから誰も相手しなかったし、そういうことするだけの度胸もないヘタレだし、どう考えても成功するわけないから流石にそれはしないだろうって誰もがみんなそう思っていたんだけどさ、このおっさんを追いつめちゃう事件が起っちゃったんだな、これが。

 発覚した詳しい経緯まではよくわからないんだけどさ、ものすっごい悪いことしてたことが現龍王にバレちゃったのさ~。

 下級種族の者達をさらって他の都市に奴隷として売りさばいていたのよ、このおっさん。



 つまり奴隷売買に手を染めていたってわけ。



 さてここで話をちょっと元にもどすけど、さっき俺の上に二人の王位継承者がいたって話をしたじゃん。

 その一人がさ、その奴隷売買に関わっていたんだよなあ。

 いや、そいつ自身はそうとは知らずに手伝っていたみたいなんだよ。

 まさか龍の王族ともあろうものが奴隷売買なんていう外道の所業に手を染めているなんて思いもよらずに手伝っていたみたいなんだけどな、だからって、『はい、そうですか』って許せるわけないじゃん。

 なんせ、龍族の第一王位継承者なんだよ?

 それが奴隷売買って、絶対だめでしょ。 

 現龍王陛下大激怒だよ。

 だってそうだろ、よりによって龍族のしかも王族がこんな激悪な悪事に手を染めていたなんてことが世間に知れたら一大スキャンダル間違いなしだよ?

 折角代々の龍族の戦士達が命を張ってここまで『害獣』ハンターとしての地位を確立してくれたっていうのに、こんなことが世間に知れちゃったらまたまた権威失墜だよ、それどころか激しい世間の非難にさらされて下手をすれば都市から一族全員追放ってこともありえる。

 でもさ、不幸中の幸いっていうべきなのかな。

 奴隷売買の現場を発見し、その王位継承者達一味を取り押さえてくれた人物が龍族にとっては本当にラッキーな人物だったんだよなあ。

 その発見者とは王位継承権を放棄したもう一人の元王位継承者。

 龍族の証である二本の角と逆鱗を自ら切り落とし、一族との関係を完全に断ち切ったその『人』。

 その『人』は頼れる仲間達共に奴隷売買が行われていた現場を急襲、囚われていた人達を見事救出したうえに、悪党達と、その悪党達を護衛していた元王位継承者達を全員拘束したんだ。

 そんで、世間に知れ渡る前にこのことを龍族の王宮にこっそり通報してくれたってわけ。

 一応この都市の行政一切を取り仕切る中央庁には知られちゃったけどさ、いろいろな有力者達が弁護してくれて、なんとか秘密裏に処理する機会を与えてもらえることができた。


 そうそう悪事に加担していたほうの王位継承者についてなんだけど、『害獣』ハンターとして結構名前が売れているほど腕が立つ奴だったものだから、捕まえてくれて本当に助かっちゃったんだよなあ。

 あ、ちなみに悪事に加担していた元王位継承者殿は、中央庁のある御偉いさんと現龍王が相談して、別大陸にある流刑地に島流しにされることが決定。

 それからすぐに都市から連れ出されていったよ。

 騙されて悪事を手伝っていたっていうけどさ、普段でも普通に嫌な奴だったからオレとしてはざまあみろって感じなんだけどね。


 あ、ごめん、話がそれたな。


 まあ、そういうわけで、通報のあとすぐさまその龍族の悪党達を引き取った現龍王親衛隊の皆さんは、諸悪の根源を奴らから速効聞きだした。

 もういうまでもないけど、それが『高級(こうきゅう)』だったってわけ。   

 現龍王は、自分の腕利きの配下達をこのおっさんの捕縛に向かわせた。

 闇の中に始末してしまうにしろ、中央庁に突き出すにしろ、ともかく身柄を拘束しなくちゃ話にならないからさ。

 ところがだ、おっさんただでは捕まらなかった。

 捕まらなかったどころか、どうやって知ったのか、自分が捕縛されることを察知したおっさんは捕縛隊が組織される前に、私兵を率いて逆に王宮に襲撃をかけてきやがったんだ。

 勿論王宮には王を守る一騎当千の親衛隊が控えているわけなんだけどさ、相手は王宮のことをよく知りつくしている腐っても王族のおっさん。

 隠し通路を使って親衛隊の目をくぐりぬけたおっさんは、現龍王の寝床に直接攻撃を仕掛けてきやがった。


 危うし現龍王、果たして現龍王の運命はいかに!?


「ちょっと、晃司、ちゃんと戦ってるのか? なんかそれとなく手を抜いているように見えるのは私の気のせいか?」


 あ、やばい、休んでいることがバレた。

 俺の右横に立って薙刀を振っている少女が、その美しい眉毛をへの字に曲げてこちらを睨みつけてくる。


龍乃宮(りゅうのみや) 姫子(ひめこ)


 俺と同じ都市立御稜高校に通う高校三年生にして、現龍王の正妃の一人『龍乃宮(りゅうのみや) 里奈(りな)』の娘で、俺の異母姉にあたる・・ってことになってる超絶美少女。

 ここだけの話、本当は俺と同じ母親から生まれてきた『人』、つまり正真正銘の実姉。

 腰まである長い黒髪に、黒真珠のような美しい瞳、そんじょそこらの女優やモデルが束になってかかっても勝てないような出るところがばっちりでた振いつきたくなるようなスタイル、一見すれば楚々とした美少女なのであるが、その武術の腕前は俺と同等か下手をすればそれ以上。

 学校での成績は優秀だし、スポーツ万能だし、武術の腕前もすごいし、容姿端麗だし、そりゃあもう学校での人気は凄まじいものがあるらしい。

  ってか、間違いなく最大最強のスーパーアイドルだね。

 いやもう、その人気のすごいことすごいこと、高校の一般生徒達はもちろん、周辺地域にある中学校や大学の生徒達、先生、そして、不良達にまでその人気は浸透していて、凄まじい数のファンがいるんだぜ。

 実の弟として鼻が高いよ、うんうん。

 しかしさあ、世の中ってほんと不思議なんだぜ。

 これだけなんでも揃ってる超絶美少女の姉上なんだけどさ、真剣に恋している相手には全く相手にしてもらえず、全然振り向いてもらえないんだよな。

 いやいや、だからこそ世の中は面白いというか、ざまあみろというか・・あわわ。 


「晃司? なんかさっきから物凄く失礼なこと考えていないか?」


「い、いえなんでもないっす。姉上って相変わらずお美しいなあって思っていたっすよ、ええ」

    

「ほんとうかぁ?」


「あったりまえじゃないっすか、もう超絶的に美しいっすよ。でも、どれだけ美しくてボンッキュッボンッでも連夜さんには振り向いてもらえないみたいですけどね。きひひひ」


「貴様本気でぶっ殺すぞ!!」


 怒りに任せてこちらへと殺到してくる襲撃者達を手にした薙刀の一振りで吹き飛ばす姉上だったが、オレがすぐ横で戦っているというのにその勢いを殺すことなくこちらにまで薙刀をぶんまわしてきやがる。  

 あ、あぶ!! あぶないって!!


「ちょ、待て待て待て、姉上!! 斬られたら本気で痛いんですが!!」


「だったら真面目に戦わんか、この痴れ者が!! 中央庁の特殊部隊の方々が来てくださることになっているといっても数だけ見れば圧倒的に私達のほうが少ないんだからな」


「わかったわかったわかりましたって。ったく、本当にくそ真面目なんだからなあ、姉上は。んじゃ、いっちょ本気でやるとしますかね」


 激怒の咆哮を挙げる姉上に肩を竦めてみせたあと、わざとらしくゴキゴキと肩を鳴らして改めて構えを取り直し、眼前に展開している敵兵達を睨みつける。

 ここは龍族の王宮の中で最も広い面積を持つ東方庭園。

 現龍王の寝所が眼と鼻の先にある場所。

 普段はごく一部のお客さんと、王族の者、そして、それに近しい者しか入れない場所で、非常に静かな場所なんだけど、今、このときばかりは、まあずいぶん賑やかなことになってしまっている。

 許可していないのに、勝手に入ってきた馬鹿者達が大勢いたからだ。

 あ、俺達は違うよ、ちゃんと許可もらってるしね、ってか、そもそも俺と姉上なんて完全にここの関係者だし。

 もちろん、正門から訪ねてきたのなら絶対通されることのなかった連中なんだけど、こいつらったら裏口を使いやがったんだよなあ。

 俺もついさっきまで知らなかったんだけどさ、この庭園の中に祭ってあるご先祖様の霊廟、ここがなんと隠し通路の出入口になっていたんだな、これが。

 そんでこいつらはそこからぞろぞろと這い出して来たってわけ。

 いやもう、『人』が黙って見ていればあとからあとから湧いて出てきやがって、反乱起こしやがったおっさん、いったいどれだけ私兵を隠していたのやら、呆れかえるのを通り越してむしろ感心するね。

 って、感心している場合じゃないよね、本当にそろそろ本気出さないとな。


 え、不意打ちを食らった割にずいぶん余裕そうだなって?


 いやいやいや、それがね不意討ちは食らってないんだよね。

 いくらオレでも完全に不意打ちを食らっていたら、こんな吞気な状態ではいられなかっただろうなあ。

 実は今回のおっさんのこの襲撃だけど、事前に俺達龍族に知らせてくれた者がいたんだ。

 そのおかげでこの襲撃に対して予め備えることができたってわけ。

 まあ、そうはいっても知らせてもらえたのは、奴らが突入してくる三時間ほど前だったので万全と言えるほどの準備はできなかったんだけどな。

 それでも奴らを一網打尽にするだけの準備はなんとか完了してる。


 え、なんで王族の俺や姉上が最前線で戦っているのかって?


 まあ、いろいろとあるんだよな、この王宮最大戦力の親衛隊のほとんどは奥で龍王や王妃さん達を守っているし、衛兵達は王族以外でいま王宮にとどまっている人達に被害が及ばないようにってそっちを守ってくれている。

 って、ことで、俺は俺の役目を果たすとしよう。

 す~っと深く息を一度吸い込んだ俺は、ゆっくりと吐きだすという行為を何度か繰り返したあと、カッと眼を見開いて眼前に立ちふさがる敵の群れを睨みつける。

 そして、気合いの籠った短い咆哮を挙げ、空を斬るようにして手にした木刀を一閃させたあと、一気に大地を蹴って敵に向かって疾駆していく。


「ウオオッ!!」


 迫りくる敵の姿に、襲撃者達は白刃を閃かせながら殺到してくる・・が!!

 遅いよ、遅すぎるんだよ、あんたらはさ!!

 心の中でそう叫びながら襲撃者達の中に飛び込むと、抜く手も見せずに何発もの斬撃を撃ち放つ。 自分の手に伝わってくる確かな手応えを一瞬だけ感知すると、すぐにその場から離れ次の獲物へと向かう。

 後ろで『ドウッ』という『人』が倒れる音が聞こえてくるが、いちいち確かめている暇はない。

 さっき姉上も言っていたが、数だけ見れば向こうのほうが圧倒的に多いのは間違いないのだからさ、さくさくいかないと余計な時間がかかっちまう。


「やっと本気になったか。遅いぞ晃司」


「申し訳ない姉上。どうにもスロースターターでさ。でも、そろそろエンジンかかってきたからさ。いくぜいくぜいくぜぇぇぇっ!!」


 敵陣の真っ只中に突っ込んだ俺をカバーするために突っ込んでき姉上は、俺以上の激しさで敵兵士達を薙ぎ払う。

 そんな頼もしい限りの姉上に余裕の笑みを浮かべてみせた俺は、再び手にした木刀を振う。

  姉上は俺の背中を守り、俺は姉上の背中を守る。

 一対となって一つの嵐となった俺達は、次々と敵兵士を黙らせていく。


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