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船の上で その2

「『ナナ』ナ」


「777?」


 俺とチイ姉ちゃんが喧嘩している間に立ち直った猫、いや、南方山猫獣人(ファクスリンクス)族の少女は、なぜかこちらにスタスタと歩いてくると、当り前のように俺の背中によじ登ってくる。

 おいおいおい。


「ちょっと待て、コラ。オイ、聞いているのか?」


「『オイ』じゃないナ!! ボクにはナナっていう名前があるナ!!」


「『ナナ』って名前のことだったのか!? パチンコで大当たりとかそういうことかと思っていたよ。 ・・じゃなくて!! なんで人のバックパックにぶら下がっているんだよ!?」


 俺の言葉に南方山猫獣人(ファクスリンクス)族の少女はエヘヘと誤魔化すように笑ってみせる。


 今更だけど、どうやらこいつがずっと背中にへばりついていたせいで目立っていたらしい。

 いったいいつからへばりついていたんだ、こいつ。

 もう、じぇ~んじぇん気がつかなかったわ!!


「だって楽チンなんだもん、いいでしょ?」


「君が楽チンでも俺はちっとも楽チンじゃないわっ!!」


「ソ、そんなに怒らなくても。だってだって、一人旅ってはじめてだから、寂しかったのナ。ヒック、ヒック・・」


 し、しまったキツク言い過ぎた。猫少女は大きな眼にいっぱい涙を溜めてウルウルさせ始める。


「コウくん、わっるぅ。女の子泣かしちゃって、わっるいんだぁ」


「えええっ!? こ、これって俺が悪いのかよ!?」


 俺の肩に乗り事態を見守っていたチイ姉ちゃんが、ちょっと白い目で俺のことを見つめてくる。

 からかっているのが半分だが、もう半分はほんとに非難している色が見えていた。

 俺はそっと溜息を吐き出すと、背中にいる猫少女のほうに視線を向ける。 


「ああ、いや、びっくりしただけで怒ってない、怒ってないからさ、な、な」


「ホント? ホンとに怒ってない?」


 上目使いで俺を見詰める猫。

 俺はほおを引きつらせながら笑ってなだめる。


「ホントホント」


「じゃあ、ここに乗ってていい?」


 う、それは困る。せっかく目立たないようにしてるのに・・


「そ、それはちょっと」


「そうだよね。迷惑だよね。ヒックヒック」


「ウワーーーー、わかったわかった乗ってていいよ、もう!!」


「ホント?」


「ああ」


 大きく深くため息をつく俺と対照的にパーーッと顔を輝かせる猫。

 ホントに表情の豊かな猫少女だな。

 俺の周囲にはいないタイプの女の子なので、そのくるくる変わる底ぬけに明るい表情にちょっと見惚れていた俺。

 しかし、ふと視界にモモンガの姿が映ったことであることを思い出す。

 俺は表情を引き締めて、少しばかり強い視線で猫少女を見つめ口を開いた。


「それはいいとして、君に言っておきたいことがある。今、俺の肩に乗っているのはネズミじゃない。俺の大事な姉だ。その大事な姉に君は危害を加えようとしたわけだが。それについてはどう思う?」


 自分でもかなりきつい口調になってしまったと思うが、これについてはきっちりケジメをつけとかないといけない。

 チイ姉ちゃんが外見と通りの力なき小動物ではなかったが故に事なきを得たが、もしも、そうでなかったら、この子に食われていたのかもしれないのだ。

 そう考えると本当にゾッとする。 

 今後また狙われてはたまらないので、ここできっちり話をつけとかなくては。

 睨みあう俺と猫少女。

 俺の言葉に反発して食ってかかってくるか。

 そう思った俺は、肩の上にいるチイ姉ちゃんをいつでも避難させることができるように身構えた状態で猫少女の反応を待つ。

 しかし、俺の予想に反し、猫少女はすぐに視線を逸らしてしゅんとして顔を伏せた。


「ご、ごめんナ。確かに、ボクの誤解だったナ。お、お腹が空いて気が立っていたんだナ。謝って許してもらえるとは思わないけど、どうか許してほしいんだナ。ボクにできることならなんでもするナ」


 そう言って、ちらちらと俺とチイ姉ちゃんを見つめてくる猫少女。

 その瞳には明らかに後悔の色が見えていたが。

 俺は肩の上にいるチイ姉ちゃんに視線を向ける。

 すると、チイ姉ちゃんは俺の視線の意味を察してにっこりと笑って頷いてみせた。

 どうやら、目の前の少女は本当に心から謝罪してくれているようだ。

 心が読めるチイ姉ちゃんが太鼓判を押しているのだから、間違いないだろう。

 俺は、表情を緩めて改めて、背中の猫少女に視線を向けた。


「わかってくれたならいいさ。とりあえず、今回のことは水に流す。それでいいかな、チイ姉ちゃん」


「いいわよん。私も怪我とかしたわけじゃないし、むしろ、ナナちゃんに思いきり蹴り入れちゃったし」


「あれは効いたナ。姿はネズミなのに、物凄い蹴りだったナ」


「ね、ネズミじゃないわよ!! 私はモモンガなの、森の妖精って言われているんだからね!!」


「そうなんだ。尻尾の大きなネズミかと思っていたナ。モモンガって、みんな物凄く強いのかナ?」


「いや、チイ姉ちゃんは特別だよ。普通のモモンガはそんなに強くはないさ」


「そうなのか」


「えっへん!! 存分に尊敬していいわよ!!」


 やたら偉そうにちっちゃい胸を張るチイ姉ちゃんを興味津津な様子で見つめる猫少女ナナ。

 そんな二人の様子を見つめていた俺だったけど、ふと周囲に視線を向けると、今だに野次馬達が興味深そうにこちらを見つめていて、あまり居心地がよろしくない。 

 正直、もうちょっとこの猫少女と話していた気分でもあったが、これ以上面倒に巻き込まれるもごめんだ。

 チイ姉ちゃんと楽しそうに話を続けている猫少女に俺は声をかける。 


「結構人の目が集まって目立ってきてるからさ、ひとまず今日はここまでにしよう。とりあえず、部屋まで送るよ。君の船室はどこ?」


「センシツって何?」


 キョトンとして俺を見詰める猫。


「君の泊まってる部屋だよ。この船のチケット持ってるんだったら絶対部屋があるだろう? 全部指定なんだから」


「『ちけっと』って何?」


 猫少女の言葉を聞いた俺は、背中に何か薄寒いものが走るのを感じた。

 オイ・・まさか・・


「オイ」


「オイじゃなくて、ナナ。ナナってちゃんと呼んでほしいナ!!」


「そんなことどうでもいい!!」


「どうでもよくないニャ!! ちゃんと呼んでくれないともう口きかないナ」


 イッチョマエに口を尖らせてプイと横を向く猫。コ、こいつは~~~!!

 一瞬拳を握り締めそうになる。

 ふと横を見ると、肩の上のチイ姉ちゃんが俺の様子を見てぷぷっと噴き出しそうになっていた。

 ったく、もう。

 思わずナナじゃなく、チイ姉ちゃんのほうを怒鳴りつけそうになったが、なんとかこらえて何度か深呼吸を繰返し気を静める。

 そして、俺は猫と向き直った。


「わかったよ、じゃあさ、ナナ」


「ボクは名乗ったナ。普通きいたほうから名乗るのが普通なのに名乗らないのは礼儀に反するナ。そんな人とはしゃべりたくないナ」


「く・・」


 こ、こ、こいつ・・落ち着け、落ち着くんだ。

 しかし、どうしよう。

 本名名乗るのはマズイ。

 今はまだ手配されてないけど、どこで誰が聞いてるかわからないし。

 そう思って悩んでいると、先にチイ姉ちゃんがナナに口を開く。


「私は『ちぃ』よ。で、こっちはコウくん」


「『ちぃ』と、『コウくん』?」


 あっけらかんと名前をバラすチイ姉ちゃんに俺は、盛大に文句を言おうとしたが、振り返ったチイ姉ちゃんは、そんな俺に茶目っけたっぷりにウインクの合図。

 そのウインクで、俺の頭は一瞬にして冷える。

 そうか、名前は知られていないんだから、別にそこまで警戒しなくてもいいんだ。


晃司(こうじ)


「ナ? なんナ?」


「だから、晃司(こうじ)。それが俺の名前だ」

 

 チイ姉ちゃんの意図をくみとった俺は、自分の名前だけを口にした。

 苗字を言わなかったのはわざと。 

 『龍乃宮(りゅうのみや)』っていう名前は龍の王族を示す名前だからさ、ただでさえ油断できない街にいくことになるから、そういうところはぼやかしておきたい。


「フーン。コウジっていうんだナ」


「そうだ、名乗ったんだから質問に答えてもらうぞ。君、この船にどうやって乗った?」


「うんとね、うんとね、船の壁を攀じ登って乗り込んだのナ。だってだって、恐いおぢさん達が、入り口に立っていて恐かったの。だから、ナナは黙って壁を登って乗り込んだの。エライでしょう? あれ、どうしたの?」


 あっけらかんと密航している事実を告げる猫の言葉に脱力して膝を突く俺。

 そんな俺の背中から猫が不思議そうに見詰めている。

 あのなあ・・

 ハ!?

 思わず怒鳴りかけた俺の脳裏に更にいやな予感が走り抜ける。

 ま、まさか・・


「ナ、ナナ」


「何ナ?」


「まさかとは思うけど、お金って知ってる?」


 恐る恐る聞く俺の言葉にナナは笑顔で答えた。


「知ってるナ!!」


 よかった。

 安堵のため息をもらす俺。しかし、そんな俺のグラスハートをこの猫少女はいともあっさりと叩き潰してくれるのであった。


「大きな石のワッカでしょう? 小さい時に一度みたことあるナ。でもあれって何に使うのかナ?」


 ど、ど、どこで育ったんだ、君は。

 完全にKOされた俺は船の通路に突っ伏してしまうのだった。

 だ、駄目だ、この子に付き合っていたら俺まで密航者にされてしまうかもしれん。

 俺はバックパックを背中から外し、無言でそこから猫娘をおろすと、さっさとバックパックを担ぎなおす。

 そして、物凄く何か言いたそうなチイ姉ちゃんを内ポケットに強引に詰め込んで蓋をすると、全力でその場から走り出した。

 情に流されてはイカン!! こういう時にも強い心を!!

 俺は少し走り出してチラリと後ろを振向いた。追いかけてこられては困るからだ。

 しかし、これはすべきではなかった。

 ただひたすらに走りぬけばよかったのだ。

 それなのに、俺は振向いてみてしまった。

 道端に捨てられた子猫の悲しそうな瞳と同じモノを。

 其の両ほおを流れる二筋の銀色の線を。孤独に彩られた影を。

 ダ、駄目だ、俺は足を止めまいと自分の心と必死に戦い続ける。

 これ以上関わってはいけない。非情になるんだ、俺!!





 ウワーーーーーーーーーーーーー!!






「そうですか、切符をなくされてしまうとはお気の毒に。まあですけど、こうしてもう一度チケット御購入頂いていますし、部屋も同じ部屋でいいとおっしゃられるわけですから、当方としては問題ありませんよ」


「有り難うございます。船長」


「それにしても大変ですねえ。そんな年端もいかない女の子を連れて御旅行とは」


「はあ、まあ・・」


 にこやかに話す、このフェリーの船長であるマーマン族の壮年の男の言葉に、思わず苦笑する俺。

 なんだよ。

 ああ、そうだよ、俺はお人好しだよ。

 肝心なところで非情になれないバカやろうだよ。

 しょうがないだろう、そういう性格なんだから。

 それにキャリオンクロウラーを退治した報酬が結構あって一人分のチケットくらいどうとでもなったしね。

 結局俺は、ナナを自分の連れということにした。

 チケットは落としてなくしたことにして、もう一枚購入することで穏便に治めることにしたのだ。

 嘘は嫌いだけど、人助けだ。こういうことなら仕方ない。


「コウジ。ごめんね」


 さっきから手を放そうとしないナナが、船長室から出た後、上目遣いに俺を見詰める。


「いいさ、気にするな」


「でも・・」


「ナナ、よく聞いてくれ。君の住んでいたところがどこか知らないけど、普通どこにいってもお金は要るんだ」


「石の?」


「違う。こういうのだよ」


 俺は『阿』大陸で一般的に流通している共通の通貨サクルのコインと札をいくつか出してみせてやった。

 コインは最小単位の一サクルから、五サクル、十サクル、五十サクル、百サクル、そして、五百サクルの六種類。

 札は、千サクル、五千サクル、一万サクル、五万サクル、十万サクルの五種類存在している。

 ちなみに、五万サクル札と十万サクル札は一枚ずつしか持っていません。だって、まだ学生なんだもん、ぐすん。

 でもでも、細かいのは結構持ってるんだぜ。何があるかわからないからさ、今までバイトで貯めた金を銀行からおろして、ある程度は持ってきておいたんだよな。

 当たり前だけど中立地帯でクレジットカードは使えない。ただでさえ腕利きの冒険者が集まるところである。当然それと同じくらい腕のたつ犯罪者も現れるわけで、そんなところでクレジットカードなんぞ使えるようにすれば、カード詐欺し放題されてしまうだろう。


「何に使うの? 食べれるの?」


「ヒョ、ひょっとして物々交換していた?」


「ウン。お魚とお肉交換したり、野菜と果物交換したりしてたナ」


 俺は思わず額を押さえて宙を見上げた。

 そう言えば南洋の諸島都市ではまだそういう文化の地域があるみたいなことを聞いたことがある。しかし、そんなところから何しにやって来たんだ、この子は。


「連夜から聞いたことがあるけど、はるか南方の果てにある地域には、城砦都市を作らずに『外区』でそのまま生活している民族がいるんだって。そこの民族達は奇跡的に『異界の力』を持っていないから『害獣』に狙われることもなく生活できているらしいんだけど、その文化レベルはずいぶん低いって」


「城砦都市を作らずに『外区』でそのまま暮らすなんて、正気かよ?」


「『異界の力』を持っていないなら、十分可能でしょ。ねぇ、ナナ。あなたの住んでいたところって、どんなところ?」


「深い深いジャングルの奥ナ。自然がいっぱいナ」


「やっぱり」   


 チイ姉ちゃんの質問に嬉しそうに答えを返すナナ。

 俺はなんともいえない複雑な感情を胸に抱えて、この不思議な生物をマジマジと見詰めた。

 直立型の獣人族。

 おそらく山猫タイプの種族で、南方山猫型獣人(ファクスリンクス)族と思われる。

 シルエットこそ人間だが、其の姿は紛れもない山猫だ。

 金色の美しい髪の間から飛び出た大きな猫耳、大きく真ん丸な瞳、口から飛び出てる八重歯のような牙、全身を覆う産毛のようなトラジマの毛、そして、何より人間と違うのはお尻から突き出た長く美しいしっぽである。

 え!? 女の子としてはどうかって?

 うーん、そうだなあ、身長は百四十ゼンチメトル・・ないな、ちっちゃい。

 ミニマム。

 だけど、胸は形よく大きく膨らんでるし、お尻も可愛い。

 でもウエストは引き締まってる。

 やっぱり野生の獣だからかなあ。

 まあ、可愛いと思うよ。『人』型種族の俺から見ても。

 なんだよ・・俺の好みの女の子だから助けたんじゃないのかって?

 悪いかよ、なんか妹がいたらこんな感じかなと思っただけだよ。


「ねえねえ、コウジったら、サクルっておいしい?」


「食べちゃ駄目!! いいかい、ナナ、よく聞くんだ。このコインとお札はね、商品を買う為に必要なものなんだ」


「買う?」


「そう。このコインやお札で食べ物や、服や、武器、鎧、本、といったモノは勿論、さっきみたいに船に乗る為の権利とか形のないモノも買うことができるんだ」


「ヘエエエエエエーーーー!! スゴーーーーーーイ!!」


 俺の手のひらの硬化や札をシゲシゲと見詰めて感嘆の声を上げるナナ。ホントにわかってるのかな。


「ところでナナは『オーブシード』に何しにいくんだ?」


「『オーブシード』って何?」


「ハ!?」


 再び硬直する俺の頭脳。

 からかわれているのか? 俺。

 しかし、無邪気な笑顔で俺を見詰めるナナからそんな感じはしない。

 どうやらマジでいってるらしい。

 なんなんだ、この娘は。


「ああ、じゃあ、質問を変えよう。ナナは何でこの船に乗ったんだ?」


「冒険する為!!」


 あっけらかんと答えるナナに対し、俺の顔から冷や汗がながれ始める。


「ボ、冒険? チョ、ちょっと待てひょっとしてナナって、冒険者か傭兵か?」


「うん、そうだよ」


 エッヘンと胸を張るナナ。それに対して燃え尽きて死に掛けている俺。


 オイオイ


「ナ、ナナってお父さんもお母さんもいないの?」


「いるナ」


「虐待されているとか」


父様(トトサマ)母様(カカサマ)もとっても優しいナ。大兄さまも中兄さまも小兄さまも、大姉さまも中姉さまも小姉さまも、みんなみんな優しいのナ」


「チャ、ちゃんと伝えて出て来たのかな?」


「ううん、いってないナ。もうナナは一人前だから必要ないナ」


 キ、気付よ家族・・っていうかこんな馬鹿な考え起こさないようにきちんと教育しろって・・


「ああーーーー!! さてはコウジ、ボクのこと馬鹿にしてるニャ!! ボクこれでも強いんだぞ!! 冒険者学校では実技ナンバーワンだったんだから!!」


 プンプンと怒るナナ、そしてもはや何も言う気が起らない俺。


「よーし、わかったナ!! こうなったら、コウジやちぃと一緒に冒険してナナの実力を認めさせてやるナ!!」


 誰か助けて・・神様!!


「ところで、コウジ、『オーブシード』って何?」


 可愛く小首をかしげるナナ。

 くるくるとよく表情を変えるこの娘を見てるとなんか悩むのがあほらしくなって来た。

 俺は一つため息をつくと、ナナの手を引っ張って甲板へとあがっていった。


「教えてあげるから、とりあえず甲板にいくよ・・」


「ワーイ!!」



 ということがあって冒頭の長い長い説明になるということなのですよ、みなさん。

 しかし、人がない頭を振り絞って説明しているというのに居眠りこかれて見事にぶっちぎられるとは夢にも思わなかったけど・・

 やれやれ。 


「ムニャムニャ・・もう食べられないのナ・・あ、コウジ、その虫はおいしくないナ・・」


「なんの夢を見ているんだか・・」


「コウジって、虫食べるんだ?」


「食べねぇよ!! わかってていわないでよね、チイ姉ちゃん!!」


 グルグルと喉を鳴らして熟睡するナナの寝顔を見詰めながら、俺は苦笑した。

 しかし、どこで間違ったのかなあ?

 孤独な一人旅だった筈なんだけどなあ。

 え!? 結局ナナと一緒に行くのかって?

 しょうがないじゃん。この娘一文無しなんだよ。ほったらかしにするわけにもいかないでしょう。

 まあ、迷宮である程度まとまった金が手に入ったらこの娘にあげて、故郷に帰してやるさ。

 それとも、社会のことがわかってきてから別行動してもいい。とにかく今のままだったら危なくてみてられないからね。

 やれやれ、とんだ野良猫を拾ってしまった。

 俺の修行、ちゃんとできるんだろうか?

 不安だ。


「コウジ・・太股がプニプニーー・・」


「ギャハハハハハ・・バカ、よせ止めろ!!太股もむな!!・・ブハハハッハ、ナナーーーー!!」


「やれやれ、ほんと面白い子ねぇ」

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