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旅立ちの理由 その1

 ここではないどこかの『世界』。


 かつて『世界』にあふれていた天魔、鬼獣、聖霊、魔物、そして、人間といったあらゆる『人』々は、『世界』に元々あらざる様々な力を他の『異界』から取り出す術を発見し、『世界』の理が壊れることも厭わず、自らの気の向くまま欲望のままに使い続けた。

 何千年もの間『人』々は、それらの力を垂れ流し、やがて『世界』そのものを自由に変貌させられるほどの力を持つ者まで現れた。

 そういう者達は、自らを『神』あるいは『魔王』と称し、あたかも『世界』そのものの創造主ですらあるかの如く『世界』のありようを自分の都合のいいように変化させる。

 最早『世界』は元の姿を知る者達からは想像できないほど荒れ果て、『人』々以外の生き物にとっては地獄と言っても過言ではなかった。

 だが、まさに頂点へと達しようとしていたそういう『人』々の傲慢も、ついに『世界』そのものの怒りが爆発するとともに終焉を迎える。


 自らを汚された『世界』が、その怒りの意思を具現化して生み出した恐るべき断罪人・・『害獣』が出現したのだ。

 どんな『異界の力』も全て無効にする能力を持った『害獣』の群れは、我が世の春を謳歌していた全『人』類に襲いかかり、瞬く間にその文明を崩壊させてしまった。


 たった数十年・・


 『害獣』が出現してからたった数十年で、何千年にもわたり隆盛を誇っていた『人』々は、絶滅寸前まで追い込まれることになった。


 だが、『人』々は滅びなかった。


 偶然なのか、それとも『世界』そのものの情けだったのか、『害獣』から逃げ回っていた『人』々の中に、『害獣』が侵入してこない場所があることに気づいた者がいた。

 『異界』の力が流れ込みにくい、あるいは全く流れ込まない場所であったがゆえに、当時の『人』々から開拓されることもなく放置されていた『辺境区』と呼ばれる場所が世界のあちこちに存在しているが、そこには『害獣』の姿が全くなかった。

 生き残った人々はそこに次々と逃げ込んで、堅固な城壁によって囲まれた(勿論『異界』の力ではなく自らの力で作った城壁)城砦都市を作り、その中の安全地帯に隠れるように住むようになった。


 それが五百年近くも前の話。


 それから時が経ち、『人』々の文明がこれまでとは全く違う方向へと進歩していって、今に至る。


 相変わらず『害獣』達は世界中の至る所を闊歩しており、城砦都市から一歩踏み出した外の世界が危険であることには変わりはないが、それでも、偉大な先人達のおかげで、ある程度『人』々は世界を再び自らの足で歩けるようになり、細々とながらも他の城砦都市との繋がりを築き徐々に人口を増やしつつある。


 『害獣』によって支配されたこの世界。


 『人』が生きることを許された場所は極端に狭くなってしまったが、それでも『人』はしぶとく逞しく生き抜いていた。




 もちろん、それはこの俺・・龍乃宮(りゅうのみや) 晃司(こうじ)とて例外ではない。




 『人』類が支配者の座から無様に転落していようが、『害獣』が『外』の世界を我が物顔で闊歩していようが、大物政治家の不正な政治献金が発覚して大騒ぎになっていようが、アイドルがイケメン俳優とスキャンダルを起こそうが、そんなことは知ったことではない。

 ただでさえ難しいことを考えるのは昔から苦手なのだ。

 だから、俺はまず動く。

 己の持てる力の全てを使ってな。


「ウオオオオオオオオッ!!」


 雄叫びをあげて敵のど真ん中へと飛び込んだオレは、片手に持った木刀で次々と群がる兵士達を叩き伏せて行く。

 俺の行く手を阻む衛兵達は、『兵士』クラスの『害獣』の鱗と皮で作りだされた頑丈な鎧兜で完全武装し、手にはギラギラと危険な色に光る青龍刀まで持ってやがる。

 しかもこっちは殺す気がないというのに、向こうはこちらを殺す気満々。

 正直やってられね~と思わないでもなかったが、やらなければ龍族の未来は真っ暗だ、腹を決めてやるしかねぇ。


 全く難儀なことだぜ。


 俺は、溜息をゆっくりと吐きだしてみせながらも、近づいてきた衛兵達に次々と木刀の切っ先を向け、その喉元に突き入れて行く。

 たかが木刀、しかもそれを操っているのは十代半ばの貧弱な少年で、しかもしかも自分達は『害獣』の鎧で喉元どころか全身くまなく完全に守られている。




 そんな攻撃効くわけないだろう? 




 ってな嘲笑を浮かべて俺のことを見つめる衛兵達。

 だが、俺の強烈な突きを食らった衛兵達は、その嘲笑を浮かべたまま一瞬にして絶息して悶絶し次々と床の上へと倒れ込んでいく。

 馬鹿ですか、君達は。

 ただの木刀でこんな白刃の中に飛び込んでくるわけないっしょ?  

 この木刀はこの都市に住むある不敗の剣匠が、北方にある聖なる巨大な霊木の枝から削りだして作ってくれたもの。

 そんじょそこらの武器とはわけが違う。

 特殊ミスリル製の鎧だろうが、『害獣』の素材で作り出された鎧であろうが、関係なく打ち貫いてダメージを与える強烈なスーパーウェポンなのである。

 と、いうことなので、どんな鎧を着ていようがこの木刀の前では一切関係ないね、ちみ達、これだけ仲間がさんざんやられているんだからいい加減気づきたまえよ。

 まあ、油断してくれるおかげでこっちはやりやすいことこの上ないんだけどね。

 間抜けなところが主人そっくりというか・・

 俺は今回の騒動の首謀者である壮年デブの姿を思い出してげんなりとする。


 あ、そうだ、戦っている最中で申し訳ないが、改めて自己紹介するぜ。


 俺の名は龍乃宮(りゅうのみや) 晃司(こうじ)


 城砦都市『嶺斬泊』にある都市立御稜高校に通う今年十六歳になる高校一年生。

 黒髪黒眼で、身長は百七十ゼンチメトルとそこそこ、顔はいいか悪いかは自分ではわからないけど、まあ、ブサイクではない・・と思う。

 一応かなり鍛えているつもりなので、デブではない。

 まあ、筋肉のせいで体重は見た目よりも結構重いんだけどな。

 他に身体的特徴というと何かあったかな。

 ああ、そうだ、頭から突き出た二本の角があるな。

 鹿の角に似てるけど、あれほど大きくはないし形だって立派なんだ、俺の自慢の一つかな。

 ああ、俺って龍の一族なんだよね。


 かつて『超越者』の一つ『神』を何人も輩出し、東方一帯に覇を唱えた上級種族『龍』の一族


 その末裔がオレってわけ。

 異界の力の一つ『神通力』を思うがままに操り、風を呼び、雷を落し、強大な嵐をも作り出したという我が一族は、当時東方に住んでいたあまたの種族の頂点に立ち、我が世の春を存分に謳歌していたという。

 しかし、そんな栄光の日々も『害獣』の出現によってあっけなく終わった。

 同じ『人』の種族に対しては『神』として君臨していた『龍』の一族も、異界の力をこの世界から一掃するために『世界』そのものが生み出した『害獣』を前にしては、他の種族と同じただの獲物の一つにすぎなかった。


 いや、同じじゃねぇな。


 他の種族の『人』よりも圧倒的に強大な異界の力を保持していた龍の一族は、最優先に近い形で『害獣』に狙われるようになった。

 おかげで一時期俺達の一族は滅亡寸前まで追い詰められたこともあったって話だ。

 栄枯盛衰とはいうけど、激しすぎるよなあ。

 でもまあ、それまで龍族は異界の力をほとんど持たない種族の『人』達を奴隷のように扱っていたっていうからさ、因果応報なんだけど。

 それに、今でもそう思ってる一部のバカもいるし、ほんとどうしようもない一族だよ、龍ってやつは。

 ま、そうは言ってもよ、オレがここにいるってことでわかってもらえると思うけど、『龍』の一族は滅亡しなかったんだよな。

 何代目かは忘れちまったが、その滅亡寸前のときに一族を率いていた龍王が、ある決断をしたんだよね。

 それは何かというと、自分達の身体から異界の力である『神通力』を外部に放つことができないようにしたんだ。

 『害獣』は世界のどこにいようとも異界の力が使われる気配を敏感に察知して現れるわけだが、あまりにも強大な力を保持していると、使っていなくてもその力が外に漏れちまって結果的に奴らを呼び寄せることになっちゃうんだよな。


 で、その龍王様は、自分も含めた一族全員にある呪いをかけた。


 今後一切、龍族のものは外的に『神通力』を使うことはできないって呪いを。


 本来『神通力』そのものを消し去るっていう方法もなくはなかったんだけど、長年『神通力』に頼りきって生きてきた龍族にその呪いをかけちまうと、下手をすれば日常生活そのものすらできなくなっちまう危険性があった。

 で、そのときの龍王様は一族の者の体内に封じ込めるだけという呪を選択したっていうわけ。 

 しかし、封じ込めるだけっつってもその呪いはとてつもなく強力で、その呪いを直接かけられた龍族は勿論、これから生まれてくる龍族のものもまた、これまでのような大自然そのものを操るようなことはできなくなっちまったわけなんだけどな。

 もう二度と風を呼ぶことも、雷を落とすことも、嵐を生み出すこともできなくなっちまったのさ。

 だけど、その代り龍族は自由を手に入れた。

 全く全然、完璧に『害獣』から狙われなくなった・・というわけじゃあないが、少なくともそれまでのように目の敵にして追い回されることがなくなった。

 ようやく龍族はマイナスの状態から、他の種族と対等の立場になったわけだ。

 で、そこからさらに数百年の時をかけて、いろいろと龍族は努力して頑張った。

  それはもういろいろと頑張った、頑張って頑張って頑張りぬいた結果、現在龍族は優れた『害獣』ハンターを排出する一族としてその名を世界に轟かせるまでに復活している。

 『害獣』ハンターは今の世の中で最も需要が多い職業。

 しかもそれが優秀であれば当然その価値が高まるのは当然であり、優秀な『害獣』ハンターを数多く抱える龍族は、都市の行政を取り仕切っている中央庁やら、各企業やら、財閥やら、ともかくあらゆる方面からいつもいつも引っ張りだこの状態だ。

 故に都市内外を問わず、龍族の発言力というものは他の種族に比べて非常に大きなものがあるわけである。


 まあ、ともかく俺はそんな龍族に生まれてきちゃったわけだ。


 しかもただの平民龍族というわけじゃない。

 頼んだわけでもないのに、現龍王の子供として生まれてきちゃったわけよ、まあ一応『王子』ってことになるのかな。

 俺の母親は龍族とはいえ王族ではなくて平民の生まれ。

 本来なら妾の子で王位継承権なんて面倒臭いものはないはずだったんだけど、幸か不幸か現龍王の子供は揃いも揃ってそのほとんどが『女性』ばかり。

 時代錯誤もいいところだと思うんだけどさ、男性のみが王位を継げるとか言うしょうもない制度を未だに守っているもんだから、一応俺が第一位王位継承者なんだよね。

 いや本当は俺って第三継承者だったんだけどなあ。

 俺の上には二人ほど王位継権を持つ者がいたわけ。

 いや、死んだわけじゃないよ。

 二人ともばっちり生きてる。

 

 ただ二人ともある事情があって王位を継げない状況になっちゃったわけ。


 一人は自ら王位継承権を放棄し、もう一人はある不祥事を起こしてこの都市から追放されちゃったんだよね。

 そういうわけで、なし崩し的に俺にお鉢が回ってきちゃったのよ。 

 はっきり言うけどいやだっつ~の。

 俺は龍族の誇り高き戦士達同様に『害獣』ハンターになるのが夢なんだ。

 だいたいさ、龍王の血族で、しかも男しか龍王になれないっておかしくねぇ? 

 俺の母親もそうだけど、龍族の女性ってすっげえ優れた『人』材がそろっているんだぜ。

 現龍王の左右を固める右王妃、左王妃もそうだし、あの人達の娘で俺の姉さんや妹達だってそりゃもう俺なんか足もとに及ばないくらい優秀だ。

 王族だけじゃない、王族以外の者にもそれはそれは優れた者達がいっぱいいるしさ。

 戦うことしか能がないオレなんかよりよっぽど一族をうまくまとめられると思うぜ。

 と、常々俺はそう思っているわけなんだが、そう思っていないバカも中にはいるわけよ。

 龍族ってさ、本当に優秀な『人』材の宝庫だとお世辞抜きでそう思うんだけど、まあ、全部が全部そういうわけにはいかないよね。

 言いたくないけど中には本当に心から『どうしようもないな、こいつ』って奴もいるわけ。


『王になるのは純血の龍王の血統を受け継いだ男子でなくてはならない、女や、ましてやどこの馬の骨から生まれたかわからない血筋の者を王位に据えるなぞもってのほかだ』


 なんてことを仰る方がいらっしゃるわけですよ。


 いや、その『人』が優れた人物で、なんらかの事情があってそういうことを言っているというのならいいですよ、でもですねえ、その大バカ野郎様は自分が王位に就きたい一心でそういうことをほざきやがってくれているわけですな。

 龍族に生まれた者達で健康な体を持つ者は、多かれ少なかれみな一度は危険な『外区』へと出て『害獣』と刃を交える。


 それは王族だろうが平民だろうが、男だろうが女だろうが変わらない。


 自分達がどれだけ危険な世界に住んでいるのかを肌で実感するためだ。

 そうすることで、龍族の者達は自分達が住み暮らす場所を日々守ってくれている『害獣』ハンターという戦士達の存在に心から感謝の念を覚える。

 そして、同時に『害獣』ハンターという職業に数多くついている自分達の種族に誇りを持つのだ。

 普通はね。

 ところが、上記にあるふざけたことを仰ってくれやがった大バカ野郎は、王族である特権を利用して一度も『害獣』と戦おうとはしなかった、いや、それどころか、この野郎、一度も『外区』に出たことがないとかぬかしてやがる。


 この大バカ野郎の名前は『龍乃宮(りゅうのみや) 高級(こうきゅう)』、先代龍王の息子で現龍王の兄にあたる王位第三位継承者、現在四十八歳。   

  

 ってか、何この名前、『高級』って、どんだけ『高級』なんよ。

 まあ確かにサークルビッグの高級ハムそっくりの体つきでうまそうだけど、うははははは。

 いやいや、そうじゃなくてね、話を元にもどすけど、このいい年こいたおっさんったら、何をトチ狂ったのか私兵を率いて反乱を起こしやがったのよね。

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