地下の国
――これは、あなたが知っているようで知らないおとぎ話。
お転婆と言われる家出姫・ローズは困りました。
一緒に旅をさせてもらっている料理人の少女・アンが風邪で寝込んでしまったのです。
とりあえず、森の中にたまたまあった小屋で休ませていますが、一向によくなりません。
「何か、元気になる美味しいもの食べさせてあげたいけど……」
「作るのはアンだろ?」
アンのプロ級の料理をまだ一度も「美味しい」と言わない、ランプの精・ジンはため息をつきました。
「とにかく、何か、食べさせてあげないと……」
ローズの隣国で、百年眠り続ける王子の魂が宿っているシロネコ・アクアが言いました。
「何か、キノコとか探してくる」
ローズが小屋から出ようとすると、アクアが駆け寄ってきました。
「私も行きます」
心配ですが、ジンにアンのことを任せて、ローズとアクアは食べ物を探しに行きました。
ブドウやキノコなどを採っていると、森の中は怪しい霧で包まれました。
「何だ? 周りが見えなくなってきた……」
「ローズ姫、気をつけて下さい」
アクアがローズに声かけると同時に、ローズは足を滑らせて穴のような所に落ちてしまいました。
「いったー。 何だここ?」
穴の中は広い空間になっています。
ローズは好奇心にかられ、奥へ進もうとしました。
「ローズ姫、ご無事ですか!?」
上からアクアの声が聞こえます。
「ちょっと中が面白いことになってる! 少し調べくる!」
「待って下さい! 一人は危険です」
「大丈夫だって! 私、強いから!」
ローズはアクアの止める声を無視して進みました。
辺りは暗く不気味です。
道がありました。周りには枯れ木があり、生きている植物はありません。
前方に屋敷が見えました。ローズは近寄って、屋敷の周りを一周してみます。すると、中から立派な着物を着た女性が出てきました。
「おやまあ、いらっしゃい。珍しいわね、地上からのお客様なんて」
「いえ、私は客では……」
「いいから、いいから」
女性はそう言って、強引にローズを中に招き入れました。ローズは少し気まずそうにします。
「お嬢さん、お名前は?」
「ローズ……」
「綺麗な名前ねぇ。綺麗な髪に、綺麗な肌」
女性はニタァと笑い、ローズは身震いします。
「ローズは、どうしてここに?」
「食べ物を探していたら、足を滑らせて落ちてしまいました……」
「あら、そうなの。なら、ここの食べ物を持って行くが良いわぁ」
ローズが案内された座敷には、ご馳走が並んでいました。
ローズは目を丸くします。
「まずは、味見をしておくれ」
女性はそう言って、ご馳走を勧めてきました。ローズは箸を持ってみましたが、すぐに下ろしました。
「どうしたのぉ?」
「あっ、いえ……。何か、最近アン……仲間の料理しか食べれなくなってきているので……」
アンなら、逆に未知の料理を食べたがるのかな、と思い、ローズは少し微笑んでいました。
女性は顔をしかめます。
「そう言わず、食べておくれ」
「おなかいっぱいなので……」
「一口でも……」
「いえ、仲間が待っているのでもう帰ります」
ローズが去ろうとすると、女性は舌打ちしました。
「大人しく食べていれば、楽に黄泉の仲間になれたものを! 後悔するが良い!!」
そう叫ぶと同時に、ゾンビが現れました。
「何だ!?」
ローズは襲ってきた一体を剣で切り払います。しかし、すぐに起き上がってやってきます。ローズが切ったところは、もうくっついていました。
ローズはゾッとして、慌てて逃げました。
「さあ、この地下の国から出られるかしらぁ?」
女性の笑い声が響き渡りました。
ローズはひたすら逃げました。剣で切っても切ってもも、ゾンビは緑の液体を口から垂らしながら、復活してすぐに追いかけてきます。
途中ローズがブドウやキノコなどを落とすと、ゾンビ達が食べ出し、時間稼ぎができました。
ローズは自分が落ちてきた穴を探します。アクアの忠告を無視したのを後悔しました。
ローズは、たまに向こう見ずな自分の性格に後悔することがあります。今回も、本当に自分が嫌になりました。
「アクアーー!!」
きっと呆れて戻ってしまったであろう、猫の姿をした王子を呼びます。
「ローズ姫!? 大丈夫ですか!?」
ローズはアクアの声に向かって走り出しました。
ローズは地上に上がり、アクアを抱きしめます。白の毛色が眩しく感じました。
「待っててくれたんだね……。きっと呆れて戻ってるかと……」
「待つのは当たり前ですよ。それに、ローズ姫が行動的なのは承知の上ですし!」
「ありがとう」
震えているローズを見て、アクアは首を傾げます。
「ローズ姫、穴の中で何かあったのですか? ……ローズ姫?」
「……なあ、アクア。ローズと呼び捨てしてくれないか? アクアは王子なのだから、身分は同等だし、命の恩人に姫と呼ばれるのは何となく……」
戸惑っているローズを見て、アクアは笑いました。
「命の恩人なんて大袈裟ですね、ローズ。」
小屋に戻ると、アンは大分回復していました。意外にも、ジンが献身的に看病していたようです。
「遅かったね?」
「穴に落ちて、地下の国に行ってたんだ」
ローズはため息をつきます。
「そうだったんだ? 私達も、地下の国に行ったことあったけど、少し大変だよね?」
「ああ、おにぎりの時のだろ?」
サラリと言うアンと大きく頷くジンに、ローズは目を見開きます。
「少しだけ……?」
「それにアンは、そこの屋敷に住むやつを脅してたし……」
ジンがそう言い、アンは照れた様子です。
「脅してって……」
ローズは、あの不気味な女性を思い出します。あの笑い声が耳に残っていて、また少し震えました。
そしてローズは、この子はただ者ではないと改めて思うのでした。




