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あなたが知ってるようで知らないおとぎ話

地下の国

作者: シャム吉
掲載日:2026/08/08

――これは、あなたが知っているようで知らないおとぎ話。


挿絵(By みてみん)



 お転婆と言われる家出姫・ローズは困りました。

 一緒に旅をさせてもらっている料理人の少女・アンが風邪で寝込んでしまったのです。

 とりあえず、森の中にたまたまあった小屋で休ませていますが、一向によくなりません。


「何か、元気になる美味しいもの食べさせてあげたいけど……」


「作るのはアンだろ?」


 アンのプロ級の料理をまだ一度も「美味しい」と言わない、ランプの精・ジンはため息をつきました。


「とにかく、何か、食べさせてあげないと……」


 ローズの隣国で、百年眠り続ける王子の魂が宿っているシロネコ・アクアが言いました。


「何か、キノコとか探してくる」


 ローズが小屋から出ようとすると、アクアが駆け寄ってきました。


「私も行きます」


 心配ですが、ジンにアンのことを任せて、ローズとアクアは食べ物を探しに行きました。


 ブドウやキノコなどを採っていると、森の中は怪しい霧で包まれました。


「何だ? 周りが見えなくなってきた……」


「ローズ姫、気をつけて下さい」


 アクアがローズに声かけると同時に、ローズは足を滑らせて穴のような所に落ちてしまいました。


「いったー。 何だここ?」


 穴の中は広い空間になっています。

 ローズは好奇心にかられ、奥へ進もうとしました。


「ローズ姫、ご無事ですか!?」


 上からアクアの声が聞こえます。


「ちょっと中が面白いことになってる! 少し調べくる!」


「待って下さい! 一人は危険です」


「大丈夫だって! 私、強いから!」


 ローズはアクアの止める声を無視して進みました。


 辺りは暗く不気味です。

 道がありました。周りには枯れ木があり、生きている植物はありません。

 前方に屋敷が見えました。ローズは近寄って、屋敷の周りを一周してみます。すると、中から立派な着物を着た女性が出てきました。


「おやまあ、いらっしゃい。珍しいわね、地上からのお客様なんて」


「いえ、私は客では……」


「いいから、いいから」


 女性はそう言って、強引にローズを中に招き入れました。ローズは少し気まずそうにします。


「お嬢さん、お名前は?」


「ローズ……」


「綺麗な名前ねぇ。綺麗な髪に、綺麗な肌」


 女性はニタァと笑い、ローズは身震いします。


「ローズは、どうしてここに?」


「食べ物を探していたら、足を滑らせて落ちてしまいました……」


「あら、そうなの。なら、ここの食べ物を持って行くが良いわぁ」


 ローズが案内された座敷には、ご馳走が並んでいました。

 ローズは目を丸くします。


「まずは、味見をしておくれ」


 女性はそう言って、ご馳走を勧めてきました。ローズは箸を持ってみましたが、すぐに下ろしました。


「どうしたのぉ?」


「あっ、いえ……。何か、最近アン……仲間の料理しか食べれなくなってきているので……」


 アンなら、逆に未知の料理を食べたがるのかな、と思い、ローズは少し微笑んでいました。

 女性は顔をしかめます。


「そう言わず、食べておくれ」


「おなかいっぱいなので……」


「一口でも……」


「いえ、仲間が待っているのでもう帰ります」


 ローズが去ろうとすると、女性は舌打ちしました。


「大人しく食べていれば、楽に黄泉の仲間になれたものを! 後悔するが良い!!」


 そう叫ぶと同時に、ゾンビが現れました。


「何だ!?」


 ローズは襲ってきた一体を剣で切り払います。しかし、すぐに起き上がってやってきます。ローズが切ったところは、もうくっついていました。

 ローズはゾッとして、慌てて逃げました。


「さあ、この地下の国から出られるかしらぁ?」


 女性の笑い声が響き渡りました。


 ローズはひたすら逃げました。剣で切っても切ってもも、ゾンビは緑の液体を口から垂らしながら、復活してすぐに追いかけてきます。

 途中ローズがブドウやキノコなどを落とすと、ゾンビ達が食べ出し、時間稼ぎができました。


 ローズは自分が落ちてきた穴を探します。アクアの忠告を無視したのを後悔しました。

 ローズは、たまに向こう見ずな自分の性格に後悔することがあります。今回も、本当に自分が嫌になりました。


「アクアーー!!」


 きっと呆れて戻ってしまったであろう、猫の姿をした王子を呼びます。


「ローズ姫!? 大丈夫ですか!?」


 ローズはアクアの声に向かって走り出しました。



 ローズは地上に上がり、アクアを抱きしめます。白の毛色が眩しく感じました。


「待っててくれたんだね……。きっと呆れて戻ってるかと……」


「待つのは当たり前ですよ。それに、ローズ姫が行動的なのは承知の上ですし!」


「ありがとう」


 震えているローズを見て、アクアは首を傾げます。


「ローズ姫、穴の中で何かあったのですか? ……ローズ姫?」


「……なあ、アクア。ローズと呼び捨てしてくれないか? アクアは王子なのだから、身分は同等だし、命の恩人に姫と呼ばれるのは何となく……」


 戸惑っているローズを見て、アクアは笑いました。


「命の恩人なんて大袈裟ですね、ローズ。」



 小屋に戻ると、アンは大分回復していました。意外にも、ジンが献身的に看病していたようです。


「遅かったね?」


「穴に落ちて、地下の国に行ってたんだ」


 ローズはため息をつきます。


「そうだったんだ? 私達も、地下の国に行ったことあったけど、少し大変だよね?」


「ああ、おにぎりの時のだろ?」


 サラリと言うアンと大きく頷くジンに、ローズは目を見開きます。


「少しだけ……?」


「それにアンは、そこの屋敷に住むやつを脅してたし……」


 ジンがそう言い、アンは照れた様子です。


「脅してって……」


 ローズは、あの不気味な女性を思い出します。あの笑い声が耳に残っていて、また少し震えました。

 そしてローズは、この子はただ者ではないと改めて思うのでした。

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