ただいま
アルの腕に抱っこされて部屋の外に出ると、通路にはたくさんの人が血を流して倒れていた。
アルはそれを、器用に避けながら歩いている。
元聖女として、人の死について何かを思わないといけないけど、教会での経験でいろいろと麻痺してしまった。
アルとの出会いや優しさに触れて、少しずつ自分の気持ちを知ることができるようになったけど、心が動かないこともあるのだと、この瞬間わかった。
また一つ、自分のことを知ることができた。
ぼーっと眺めていると、アルがわたしの頭を肩に押し付けた。
わたしはそれに逆らわず、倒れている人から視線を逸らした。
そしたらアルが頭を撫でてくれたので、正解だったのかも。
大勢の人の気配と声で騒がしい場所を通り抜け、静かな外に出た。
少し肌寒い風が吹いていたけど、アルの腕の中はやっぱりあったかくてほっとする。
そのあったかさに安心していると、撫で撫でポンポンがやってきた。
これはダメだ。
眠たくなってしまう。
ダメなのに。
まだ……寝たく、ない……の……に……
わたしはいつの間にか、アルの腕の中で眠りについてしまった。
日差しに照らされて、ぱちっと目が覚めた。
いつもの、慣れたアルの部屋。
いつの間に、帰ってきたの?
どのくらい、眠っていたの?
まだはっきりとしない頭でぼんやりと考えていると、部屋の扉が開いて、アルが顔を出した。
「お!起きたな。おはようって言っても、もう昼だけど。」
「おはよう、アル。帰ってきた?」
「ああ。こっちの方が安心して寝れるだろう?(夜通し馬で駆けたことは言わない)」
「うん。確かに安心して眠れた。でも、アルがいれば、どこでも安心して寝れるよ?」
「うぐっ……」
なんだろう?
アルが胸を抑えて蹲った。
「アル?」
「……いや、何でもない。大丈夫だ。(攻撃力がいつもより高かっただけだ)」
怪我してないならいいけど……
不思議なアルだね?
「さて、着替えて食堂に行くぞ。お腹空いてるだろ?」
「ご飯っ!」
わたしはバタバタと急いでベッドから降りると、クローゼットから服を取り出した。
アルは扉の外で待っててくれてる。
「お待たせっ!ご飯!」
「よし、行くか。」
ご飯♪ ご飯♪
鼻歌を歌いながら、アルの手をめいいっぱい引っ張る。
廊下ですれ違った皆んなから、「おかえり」って言ってもらって、余計に嬉しくなった。
もちろん、わたしの返事は……
「ただいま!!」
だよ!
「おかえり」って言ってくれることも、「ただいま」って言えることも、何よりも嬉しいことだって、わたしはもう知っている。
これからもずっと言いたい。
「ただいま」って。




