大切な存在 SIDE:アルトゥール
俺は無性にイライラしていた。
理由は、ユフィーレが誘拐されたから。
これが囮作戦なのは理解している。
だがそもそも、ユフィーレがこんなことをしなくてもよかった。
ユフィーレは、俺にとって大切な存在だ。
手放すなんて、欠片も考えてない。
何の能力もなくても、ただそこにいてくれるだけでよかった。
こんな危険なことを、しなくてもよかったのに。
だが、ユフィーレの意思を無視したいわけじゃない。
だから仕方なく許可を出した。
……が、やっぱり面白くない!
「ギルマス、その状態で殺気を消しているところはさすがですけど、集中してくださいよ。そろそろ合図が来るはずなんですから。」
「わかっている。」
ロシュアが「わかっていないから、言ったんだ」とばかりにため息を漏らす。
今は深夜。
俺を一般人とみなして殺しにきた連中から情報を絞り出し、オークション会場である丘の上の教会にやってきた。
俺を殺しにきた連中は、今頃仲良く土の中だ。
泣いて喜んでいることだろう。
うちの者には、孤児院の監視とオークションの侵入に別れて配置させた。
オークションが始まれば、オークション会場に潜り込んだやつから合図がくる手筈になっている。
オークションは、もう間も無く始まる。
この町の自警団と、ここら一帯を管理する領主にも密告しておいたから、俺たちとの入れ替わりでここにやってくるだろう。
俺たちのやることは、ユフィーレの救出と、貴族と教会関係者を逃さないようにひと暴れすること。
あいつらには存分に、俺の八つ当たりに付き合ってもらうことにする。
「来ました!」
「行くぞ!」
「はい!」
暗闇に紛れて、教会に侵入する。
地上にいる連中は、気絶させてその辺に転がしておく。
目的地は地下。
司教の部屋の隠し通路を開けて、素早く駆け出す。
まずは地下のホールに集まっている連中の無力化。
俺たちは正規の騎士でも何でもないから、殺しても構わない。
情報を吐けるやつだけ、生かしておけば問題はない。
一部の連中は子どもを人質にしようと、背を向けて別の部屋へ駆け出した。
……が、そんなの許すわけねぇよな?
その背に向かって、毒入りのナイフを放つ。
両手両足に刺さり、刺された奴らは地面に転がって痙攣し始めた。
俺たちに背を向けるなんて、的になりたいと言っているようなものだ。
死んで、詫びとけ。
ホール内を見渡せば、もう間も無く制圧が完了しそうだ。
これなら、あとは任せていいだろう。
俺は痙攣している奴らを踏み越え、舞台脇にある扉の中へ入った。




