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逃げ出した


みんなにとって、わたしは、どんな存在なんだろう?


そんな疑問が、頭を離れない。


それでも日々は、過ぎ去っていく。

仕事をして、仕事をして、また仕事をする。

遊ぶ時間なんて、欠片も存在しない。

それがわたしの普通。

みんなと違う、普通。


でも普通って、一般的って言う意味でしょう?

わたしは一般的じゃないのに、普通なの?


考えれば考えるほど、頭は混乱する。


でも、仕事に失敗は許されない。

失敗すれば、ご飯が食べられなくなるから。

お腹が空くのは、とても苦しくてつらい。


寝る時間になって、早く寝ないといけないのに。

朝がつらくなるから、寝ないといけないのに。

頭に浮かぶのは、他の子どもたちのこと。


楽しそうだった。

嬉しそうだった。

喜んでいた。


羨ましい。

羨ましい。

羨ましい。

羨ましい。


どうして、わたしと違うの?


誰も褒めてくれない。

誰も慰めてくれない。

誰も抱きしめてくれない。

誰も抱き上げてくれない。


どうしてわたしは、一人なの……?


考えて、考えて、答えが出なくて、また考える。

そして、やっぱり答えは出ない。


だから、考えるのをやめた。

考えるのをやめて、窓から部屋を抜け出した。

髪の色を変えて、目の色を変えた。


この時間、誰がどこを通るのかなんて、手に取るように知っている。

だってずっと、ずっと覗いていたから。

どこをどういけば捕まらないか、見つからないか、外に出られるかなんて、わたしにとっては簡単なこと。

だって教会(ここ)は、この街は、わたしの庭だから。


通るべき道が、はっきり見える。

音を立てないように、渾身の注意を払って駆け抜ける。

秘密の抜け穴を通って、教会の敷地から逃げ出した。


誰もいない迷路のような路地裏を、正解の道を選んで通り抜ける。

建物の隙間で、少し休んでまた歩く。

踵は血が滲むけど、傷はない。

怪我をした直後から、勝手に治るから。

でも、痛みは無くならない。


痛い……


けど、もう戻れない。

戻りたくない。

だから、前へ前へ進む。


歩いて、走って、歩いて、走って、時々休憩して。


街を囲う壁にだって、穴はある。

子どもたちが、大人に内緒の、冒険に行くための穴。

街の外に出られる唯一の穴。

わたしにとって、鳥籠の中から出られる唯一の出口。

希望の出口。


呼吸を整える。

心臓は、うるさく聞こえるほど、ドキドキしている。


わたしは身を屈めて、穴から這い出した。

立って、下を向いていた視線を、上に上げる。

目の前には何もなかった。

道も建物も人も、何もなかった。

何もないのに、何もないことが、嬉しかった。


目の前には何もない。

わたしだって、何も持っていない。

けれどまっさらな状態で、ここから始められる。


身体の疲れも、足の痛みも、今だけは忘れられた。






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― 新着の感想 ―
よしっ!自由だ!捕まらないように遠くに逃げてー
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