気づいた
1〜3話は、短編の内容です。
SIDE:アルトゥールから、長編の始まりです。
わたしは聖女、と言うらしい。
名前はユフィーレ。
お父さんとお母さんがつけてくれた、大切な名前。
でも、誰も名前を呼んでくれない。
誰も、わたしの名前を知らないから。
わたしは生まれて間もなく、お父さんとお母さんから引き離された。
わたしが、聖女だからって言う理由だった。
わたしが生まれた時、お母さんが死にかけたんだ。
けど、わたしがお母さんを助けたいと思ったら、お母さんがあっという間に元気になった。
産婆が熱心な教会の信者だったから、その産婆から教会に連絡が入ってしまったんだ。
教会の人がやってきて、わたしを抱いたお母さんから、わたしを引き剥がした。
その時、教会の人がお母さんを殴ったのを見た。
そして、教会の護衛騎士が、わたしを取り返そうとしたお父さんとお母さんを斬った。
たくさん血が出て、止まらなかった。
わたしが治そうとする前に、教会の人の馬車に乗せられた。
きっとあの時、お父さんとお母さんは死んでしまった。
わたしは生まれてまだ1ヶ月も経っていなかったけど、全部知っている。
だって、わたしは全部見ていたから。
わたしは生まれた時からの記憶を、ずっと持っている。
今まで記憶したものは、忘れない。
ずっと、忘れない。
ずっと、覚えている。
だから誰がお母さんを殴ったのかも、誰がお父さんとお母さんを斬ったのかも、全部覚えている。
その人は、何もなかったかのように、今もニコニコとわたしに微笑んでいる。
気持ち悪い。
わたしの大切な存在を奪ったくせに、幸せそうに生きている。
気持ち悪い。
お父さんとお母さんを傷つけた手で、わたしに触れる。
お父さんとお母さんを怒鳴って罵った声で、わたしに優しく話しかける。
許さない。
許さない。
でも、わたしはまだ8歳だから、何にもできない。
やり返すことができない。
反抗することもできない。
だってまだ子どもで、大人がいないと生きていけないから。
わたしは、生きていかなくちゃいけない。
お父さんとお母さんが必死に守ろうとしたわたしを、わたしが守らなくちゃいけない。
わたしの仕事は祈ること、結界を張ること、治療すること、占うこと。
毎日朝5時に起きて、夜1時に寝る。
起きている間はずっと仕事をしている。
仕事は、とても疲れる。
毎日、数えきれない人と会わないといけない。
休憩時間なんてない。
聖女は、休憩が要らないんだって。
食事は1日一回。
味の薄いスープと硬いパン一個。
お腹が空くのは、集中していないから。
眠たいのは、暇しているから。
教会の一番偉い人に、そう言われた。
だから我慢する。
生きるために、我慢する。
でもある日、親子で手を繋いで、楽しそうに笑っている子を見つけた。
外から子どもの笑い声がして、そっと覗いてみたらそこにいた。
どうして、あの子は笑っているの?
どうして、両親と手を繋いでいるの?
どうして、仕事をしていないのに怒られないの?
どうして……どうして……どうして……どうして……
たくさんの疑問が、わたしの中に溢れてきた。
だからわたしは、やってはいけない事だとわかっていたけど、力を使って街の中を覗いてみた。
そこでたくさんのことに気づいたの。
子どもは、守ってくれる大人がいること。
子どもは、可愛がられていること。
子どもは、たくさん寝ていること。
子どもは、仕事をしていないこと。
仕事をしたら、お金をもらうこと。
暗くなったら、仕事をしないこと。
ご飯は、2食以上食べること。
休憩する時間があること。
たくさん、たくさん、気づいたの。
わたしとは全く違うことに、気づいたの。
子どもとも、大人とも違う。
じゃあ、わたしは、何……?
みんなにとって、わたしは、どんな存在なの?




