第9話 バベル始動!
楓は勇者のパーティ、
シオンとイザベラを乗せて
エレベーターを昇降させていた。
目指す階層は15階。
彼らがクリアした2階層より遥か上だ。
3階から攻略すると考えていたのだが
随分の飛躍だ。
シオン曰く、
勇者のパーティはある意味指標となるので、
自分たちが先行で攻略しないと
後がつかえてしまうらしい。
15階までの道のりは片道7分半。
雑談をするのにはちょうど良い時間だ。
その隙に楓は冒険者用のショップを使って
商売を始める。
スマホを掌に置くと空中に映像が現れた。
「へぇ、改めて見るといっぱい商品があるのね」
イザベラは映像を見ながら感心する。
「どれもお手軽な価格だし、
ダンジョンの途中にでも気軽に使えそうだな」
彼らは治癒のポーションと
マナポーションを買い上げた。
アイテムボックスからお金を出し楓に渡すと
お金が消え、アイテムが出現する。
売り上げたお金はデータとなって
スマホ画面に加算表示されるらしい。
どんな仕組みが分からないが、
ゴルド(この世界の通貨)も
EPに変化できるため、
豊かな生活のため、即売しなければならない。
インジケータには14階表示。
そろそろ到着する。
「まもなく15階に到着します」
楓はエレベーターガールを真似て到着を
宣言する。
チーン。
「わっ!」
扉が開くと熱気と眩しい陽光が飛び込んできた。 熱風に混じり砂が飛んでくる。
恐る恐る外を見ると、
見渡す限りの砂丘がそこにはあった。
「うそぉ……」
楓は間抜けに口を開けて砂漠を見る。
「凄いな」
シオンが言う。
「砂漠の階なのね……」
イザベラも絶句する。
カエデも同様だ。
勇者2人はエレベータから降りて見てみる。
「すごーい。熱いし、広すぎ……
」
砂漠だ。
しかも天井があるはずなのに青空が見える。
太陽も存在し暑さを増長していた。
「僕らは少し甘く見過ぎていたかもしれないね」
シオンの額から大粒の汗が流れた。
「カエデさん。
ショップに砂漠攻略用のアイテムは
あったかしら?」
楓は慌ててスマホをスクロールし、
「えっと、これなんてどうでしょう?」
楓は日除けのローブと
冷却のポーションを表示する。
ローブは2万ゴルド、
冷却のポーションは2千ゴルドだ。
「いただくわ」
イザベラは即答える。
ローブ2着とポーション10個、
計6万ゴルドの売り上げだ。
冒険一回で日本円にして60万円も使うとは――
楓は恐る恐る大量の金貨を受け取った。
金貨は楓に渡った途端消え、スマホがピピピピと
音を立てる。
スマホのお金カウンターはもらった金額だけ
増えた。
「あら、このローブ素晴らしいわ。
遮熱機能だけではなく対砂性もばっちりね」
イザベラはローブを纏い、軽く体を動かして、
そんなことを言う。
「冷却のポーションも素晴らしいな。
火山地帯でも難なく歩けそうだ。
しかも、美味い!」
シオンもポーションにご満悦だ。
「もう一本飲んでしまおうかな……」
「やめなさい。震えるわよ」
2人の夫婦漫才的なやり取りを聞き、
楓は小さく笑った。
とにかく初めてのエレベーターショップに
2人は満足してくれて、
エレベーターガールとしても鼻高々だ。
「では、攻略を開始する。行こう」
シオンの言葉を皮切りに
二人はダンジョンの攻略に乗り出した。
楓は2人に手を振りエレベータに乗り込む。
エレベーターが1階に降りるまでに
時間がかかるので勇者のパーティを
モニタリングする。
スマホ画面では早速戦闘が始まっていた。
砂漠で対峙したのは
体長5メートルを超える大百足だった。
ムカデは巨大な身体を生かして
シオンに体当たりをするが、
シオンは難なく剣で受ける。
それに続き、大百足は2人の周囲を動き始める。
「イザベラ。準備はいいか?」
「ええ!」
シオンの合図と共に、
イザベラは呪文を詠唱する。
「アナライズ!」
分析魔法をかけた。
「ダンジョンサンドワーム。
レベルは13!目が弱点よ!」
シオンは身を翻すと弱点の目に剣を突き刺す。
悲鳴のような鳴き声を残し、
サンドワームは倒れる。
「ふう。砂漠の定番とはいえ、センティピードに
簡単に会うとはね」
「戦闘は避けられなさそうだし、周囲に警戒してい
きましょう」
2人はまだまだ余力があるようだ。
楓は安心してモニタリングを切る。
本当は見ていたいのだが、
下に戻ってまた次の冒険者を
ダンジョンに案内しなければならない。
ながらの業務は心証が悪いだろうから。
気持ちを切り替えて次の組みをダンジョンに
運ぼう。
チーン
エレベーターが1階に着くと、
次の冒険者が控えていた。
「次のパーティは高貴な剣です」
ソフィアの声が聞こえ、
男たちがエレベーターに近寄ってくる。
名前の通り三人の男たちは
貴族風な格好をしている。
「お初お目にかかる。レディカエデ」
彼らは優雅に挨拶をする。
「はじめまして! 高貴な剣の皆様」
「ふむ。さて、
勇者のパーティは50階くらいに行ったのかな?」
パーティのリーダー角が
髭をいじりながら質問してくる。
楓は答える。
「いえ、15階です。
15階は灼熱の太陽と砂がある広大な砂漠でした」
「なんと!」
貴族風の男たちは驚く。
「あとはでっかいムカデが居ました。
5mくらいの」
楓は腕を胸の前に広げて大きさを表した。
その話を聞いて、男たちはさらに驚いたようだ。
「ダンジョンワームか?」
「いや、センティピードでは?」
「どうする?」
「果たして、レベルは適正なのか?」
彼らはひそひそと話し始める。
楓は状況がよく分からないので
彼らの会話を黙って聞いている。
しばらくすると男たちは話し終えたようだ。
「うむ。我々は7階へ向かうことにする。
案内を頼めるだろうか?」
彼らは7階に決めたらしい。
「では、エレベータにお乗りください。
7階まで参ります」
昇降中に貴族たちにポーションなどを勧めるが、自前で用意したものがあるため断られてしまった。
楓は少しがっかりするが、仕方がない。
まだまだ評判が足りないのだろう。
チーン
「7階に到着します。
入口が自動で開きますのでご注意ください」
貴族たちは構える。
扉が開くと広々とした草原が目に飛び込んできた。
「おお! ここぞ、まさに我ら高貴な剣の初踏破には相応しい地だ! みなさん。行きますぞ!」
三人の貴族風の男たちは勝鬨をあげ、
草原へと出て行く。
その後も冒険者を4組送り込んで、
お昼の時間になった。
ふぅとため息をつき、一息つく。
「カエデお疲れ様」
「ソフィアもお疲れ~」
お互いを労う二人。
「今のところ、順調ね。
ダンジョンの様子はどうかしら?」
「えっと、みんな順調かな?」
モニタリング画面を確認しながら楓は言う。
攻略組は順調にダンジョンを進んでいるようだ
。
「さすが冒険者たちね。
今日中にみんなクリアできるといいんだけど」
「とりあえず、私たちも休憩しましょ?
カエデはお弁当ある?」
「私は、えっと……これかな」
カロリーフレンドを取り出す。
「あっ。それが噂のカエデの国のお菓子ね。
いいなぁ。お弁当と交換したいくらいよ」
ソフィアは笑いながら言う。
「私もお弁当のほうが食べたいんだけどね。
もう少しの我慢かな」
さすがに3日連続で固形食はツライ。
だが、踏破が出来ればEPも
得ることができるだろうからもう少しの我慢だ。
「さて、私は少し散歩してくるから、
カエデも後でね~」
ソフィアは受付に休憩中の札を置き、
エレベータフロアを後にする。
「じゃあ、私は機械室で
お昼寝でもしようかなぁ~」
伸びをして、機械室へと上がり、
寝袋の中でスマホを操作する。
モニタリングで各パーティの様子を確認後、
少し目を休めた。
幸いスマホの目覚まし機能は生きているので
12時50分にアラームをセットし、目を瞑る。
3時間ほど立ちっぱなしだったので、
足が結構つらい。
前職はオフィスワーク中心だったので
なおさらだ。
せめてエレベータに椅子でも
置ければ良いのにと思うのだった。
ピピピピピ…………
あっという間に休み時間終了だ。
制服を直し、エレベータへと急ぐ。
1階に降りると本日5組目のパーティが
控えていた。
パーティは女性のみで構成されていた。
どうやらこの世界では冒険者の半数は女性で
男女の序列はあまりないのかもしれない。
歴戦の冒険者感のある5人を見て、
楓はそう思った。
5人でここまで来たそうだが、
重量制限のため3人のみがエレベータへと乗る。
残り2人は残念そうな目で見送るのだ。
「申し訳ありません。全員連れて行ければ良いの
ですが」
「ううん。いいよ。前行ったクソダンジョンは
1ヶ月待って1人しか入れなかったからね」
「うんうん。全然マシー」
あははと楓は笑う。
ダンジョン待ちはこの世界ではかなりの
問題なのかもしれない。
「今の攻略中の階はどこかしら?」
「5・7・9・11・15階ですね」
入ったパーティ名を
ダンジョン管理アプリから読み上げる。
「へぇ。では私たちは6階に行こうかしら」
「はい。分かりました。
6階の値段はーーえっと、6千ゴルドになります」
「はいはい」
彼女たちを6階へ見送ると、
ピロリーンというスマホのお知らせ音が鳴った。
『パーティ:うさぎの尻尾が
5階をクリアしました。
初回踏破として1万EPが送られます』
「やった!」
楓は一人エレベータの中でガッツポーズをした。
6組目を8階へと送ったのち、
スマホに表示が出た。
『5階にてエレベータを呼んでいます。
許可しますか』
「おお、これが乗り場で呼ばれた時の
許可表示なんだ。はいっ、と」
エレベータは5階に向かって降下を開始、
チーン
5階で扉が開くと汗だくの男たちが満足そうな顔をして立っていた。
どうやら欠けたメンバーや
大きなケガなどはないらしい。
「おかえりなさいませ」
楓は笑顔で迎える。
男たちは笑顔で答えエレベータへと乗り込む。
「いやぁ、ここまで満足感のあるダンジョンは
久しぶりだったよ。随分儲けさせてもらったよ」
「うふふ。お疲れ様でした」
「これはささやかだが、お礼だ。受け取ってくれ」
男の一人は楓に干し肉の束を渡す。
ダンジョンでのドロップ品らしい。
「おい、女の子なんだからもっと気が利くものあげたほうが良いんじゃ?」
メンバーの1人はそういうが、
「はっ? ダメか?」
「ダメだろ。なあカエデさん」
「いえいえ!嬉しいですよ! 最近は塩味の利いたものを全く食べてなかったので! 助かります」
楓は笑顔で受け取る。
チーン
エレベータは1階に到着した。
彼らはエレベータを降りると、楓に手を振る。
彼らが出てきたのを見て、
フロアからは歓声があがった。
踏破者は一躍ヒーローになるのだろう。
それから踏破通知が連続で来て、
どのパーティも問題なさそうに降りていく。
どのパーティも
上機嫌で楓に贈り物をするものだから、
エレベータは差し入れの山だ。
「えっと、これどうしようか? あっ!?」
拡張機能にアイテムの収納という項目があったのを思い出し。5000EPにて実装する。
少々高いと思っていたが、
初回踏破報酬でEPに余裕はある。
『スマートフォンに亜空間アイテムボックス
機能追加! アイテムボックスに収納したい物を
カメラで撮ってください』
「おっ! アイテムボックスと
カメラのアプリが追加された! どれどれ」
カメラをアイテムに向けると、
アイテム名が表示される。
「ダンジョングリズリーの干し肉……
熊の肉だったのね……」
楓は気のいいおじさんの顔を浮かばせながら
苦笑する。
そりゃ熊干し肉なら仲間から止められるわ。
フォーカスを当て、カメラで撮ると、
干し肉が消え、アイテムボックスに
収納されたようだ。
幸いなことにスマホの重量は変わった気はしない。
それからシャッターを切り、差し入れ品をアイテムボックス内へと収納していく。
こんな機能が現代でも欲しい。そう思う楓であった。




