第11話 やはり日本人ならお風呂に浸かりたいわよね
2人と話し込んでいると1階についたようだ。
扉が開くと待ちわびた冒険者や商人が彼らを取り囲む。
彼らは人波に揉まれあっという間に遠くへと連れてかれてしまった。
ダンジョンの閉館時間はまもなくだ。
冒険者たちがエレベーターの様子を
見にくるくらいで、
ダンジョンに入りたいと
無理強いする人もいない。
ソフィアは書類の束をトントンと均し、
帰る準備満々だ。
「よっ、2人ともお疲れさん」
「シルベーヌさん」
シルベーヌは待機者用の椅子にどかっと座る。
「初日はどうだった?」
「とっても良かったですよ!
皆さん親切ですし、差し入れも貰いました!」
楓は笑顔で答える。
シルベーヌは微笑ましそうに彼女をみる。
「そいつはよかったよ! 今日はお祝いだな」
これから勇者パーティは
バベル付近にオープンした酒場で
派手にパーティをするらしい。
「あっ、でも」
エレベーターから出られない楓を見て、
ソフィアは戸惑う。
「いいのよ。ソフィア。
勇者パーティと話したいんでしょ?」
「うん……」
だが、ソフィアは楓を気にしてか、
その場から動かない。
「ほ~ら。明日もあるし、行ってきなよ」
楓はソフィアをなんとか説得する。
「うん。ごめんね」
ソフィアは頭を下げる。
「すまんな、カエデ嬢。
いつか埋め合わせするからな」
シルベーヌとソフィアは
楓を置いて去る。
2人を見送ると遠くから
喧噪が聞こえてきて少し寂しくなる。
だが、それ以上に胸が高鳴っているのが分かる。
この高揚感はあれだ。
前に勤めていた入社会社の初日の解放感――
「う、ううーーお!」
楓は2人の姿が完全に見えなくなるのと
同時にRFボタンを押す。
扉が閉まる刹那、制服の上着をパッと脱ぐ。
そして笑みを浮かべる
「すまない? 違うんだよ。
シルベーヌさん。私にはこれがあるっ!」
機械室に来た楓はスマホを確認し、
「出よ!お風呂っ!」
ドーン
拡張機能を触ると機械室内の何もなかった壁に
バスルームの扉が現れた。
「それと、これね!」
エレベータショップアプリを開き、追加された
シャンプー、トリートメント、コンディショナー、石鹸、バスタオルを購入。
それらを抱え、バスルームに直行した。
「おお!」
壁に現れたバスルームの扉を開くと、
思わず感嘆が漏れた。
そこには一般家庭にありそうな脱衣所とお風呂が。
バスタブは足を伸ばしても入れるくらい大きい。
既にお湯がはられ、
湯加減の良いお湯が湯気を立てている。
「うわぁ……なんなら住んでいた
マンションより豪華じゃないっ!」
入社したてでお金のない楓の
マンションは1K・ユニットバスだった。
お風呂に入るたびにトイレはびしょびしょ。
ブラック企業生活も相まって、
長らくシャワー生活だった。
「今日から毎日お風呂生活だぁ!」
制服から下着すべてを脱ぎ捨て、
楓はお風呂にダイブ。
「お風呂はやっぱり最高だなぁ……」
楓は久しぶりのお風呂を堪能し、極楽気分だ。
「やはり日本人ならお風呂に浸かりたいわよね」
足を伸ばし、湯船に肩まで浸かる。
そして、冒険者に貰った
アヒルさんを湯船に浮かべた。
湯船から上がり
身体にボディソープを付け、
シャワーを出してみる。
ジャーっという威勢の良い音と
大量のお湯が、泡を流していく。
「これよ。この水圧よ!
やっぱり仮設シャワーなんかじゃ満足出来ない」
全身に水飛沫を十二分に浴びる。
そして、また湯船に浸かるのだ。
お風呂から上がりバスタオルを巻くと、ショップで下着と部屋着を購入した。
自分サイズピッタリな服を着て、
寝袋に横になる。
「うーん。ベッドを優先すれば
よかったかしら……固い」
だがそれでも一日立ちっぱなしの身体は横になるだけで喜んでいる。
「これで動画でも見れたら良いのになぁ……
まあ、とりあえず今日の報酬をっと!」
冒険者から差し入れされたものを地面に広げる。
ポテトチップス2袋、干し肉、(グリズリー)、
ぬるい水、バナナ一房、リンゴ。
これだけあれば今日は十分だろう。
そこに主食としてカロリーフレンドを1個購入。
「いただきます」
カロリーフレンドをバリバリと食べる。
ポテトチップスをバリバリと食べる。
干し肉にシャリシャリとかじりつく。
「うーん。塩気が強いけど美味しいわね……
熊肉って全然いけるじゃない!」
水で口を潤すとバナナを頬張る。リンゴも齧る。
「果物美味しいなぁ。
でもリンゴってこんなに酸っぱかった?」
最後に冷えた水を飲み一息つく。
「ああ~。至福だわ」
楓はゴロゴロし、今日の成果を噛みしめる。
今日は全員無事に帰ってきたし、かなり攻略も進んだように感じる。
もう少しダンジョンのことを知りたいと思い、
マニュアルを覗くが数ページで眠気が来てやめた。
目覚ましをセットし、
欲望のまま目を閉じるのであった。
エレベータの外では
冒険者たちの宴が始まっていた。
その中心にいるのはもちろん勇者であった。
「がはは。さすが勇者殿!
それに砂漠のダンジョンとは驚きだ……」
シオンは冒険者のに囲まれて15階についての
情報を隠さず彼らに教えていく。
「ああ。15層でもボスレベルは
20近くあったはずだ。
攻略の参考にしてほしい」
「それにしても……」
冒険者たちは床に並べられたドロップ品に目を丸くする。
「耐熱の盾……こりゃあ良い仕事してやがる……
王都でもこれを作れる職人は何人もいないぞ」
「うはぁ! 毒サソリのナイフ!?
こりゃ強力だな」
冒険者たちは子供のように目を輝かせて、
アイテムの山を見ている。
「残念ながら僕らに適正の
アイテムはあまりなかったから、
良ければ売買やトレードしてもいいよ」
「まじか!」
それからは冒険者たちのオークションが始まり、
その場はさらに賑やかになる。
「あっちは賑やかね」
イザベラは半分呆れながら、
料理を前にため息を付く。
「どうしましたイザベラ様?
何か料理をとってきましょうか?」
ソフィアは目を輝かせて、聞くが、
「いえ。大丈夫よ。実はあまりお腹が減ってなくて……」
「そ、そうですよね!?
激戦後にそんなお腹に入れられませんものね! 失礼しました!」
ソフィアは謝るが、イザベラは虚空を見つめ思う。
(ああ。あのポテトチップスとかいうお菓子……
もう一度食べられないかしら……)
それぞれパーティたちは攻略の自慢話+
クリアした層の情報交換をしていく。
「そんでよ、あのカエデって子のポーションが
効いて命拾いしたってわけさ」
「なるほど、少し高いけど、効果を考えるとかなり お得ね……そのポーションってまだあるの?」
「残念ながら、ダンジョンから
持ち出したら消えっちまったよ。
ダンジョン専用らしいな」
「重量制限もあるからなぁ。
装備も整えないとなぁ……
お前少しは喰うの控えろよ」
「つ……失礼ねっ!」
色々な会話が飛び交う。
「やあ」
「あら、商談は終わったのかしら?」
「代理に任せたよ。
商人たちもいっぱい来ているからね」
仲介料を握らせ、シオンは商人にオークションを任せたらしい。
中央席ではまだ威勢のいい声が響いている。
商人の参加でオークションはさらに
ヒートアップしているらしい。
シオンとイザベラは離れの
静かな席に座り会話をする。
「それにしてもカエデさんには悪いことしたわね。
独りでいるなんて申し訳ないわ」
「仕方がないさ。だがせめて
差し入れくらい持っていければよいのだけれど……」
シオンはテーブルに並べられた山のようなご馳走を見てため息をついた。
この料理も楓には譲渡不可なのだろう。
「で、昼間のダンジョンのことだけど、
結局、私たちに合う武器は見つけられ
なかったわね」
「ああ。期待はしていたんだが……
だがまだまだ層もあるし、
砂漠もすべて探しきれたわけではないからな」
暗くなった空気を換えるように
イザベラは立ち上がる。
「とにかく明日もトップバッターを
任されているんだから、
宴はほどほどにして宿へ帰りましょ」
「そうだな――
おっ、あっちも終わりにするらしい」
シルベーヌはパンパンと
手を叩き民衆の視線を集める。
「さあ、宴も盛り上がってきて申し訳ないが、
明日のダンジョンの攻略に差し支えるかも
しれないのでな。
ここらでお開きとしよう」
各所でブーイングが起こる。
「それじゃ2次会参加者は町の私の店に来てね❤」
商売上手に色目を振りまいた店主の後を
ゾロゾロと冒険者たちが着いていった。
「ふぁ~。俺らはパスだな。
今日の攻略は満足したし、
しばらくフリーにしようぜ」
攻略済みパーティはお疲れのようで疲労感を
肩に乗せながら宿へと歩いて行った。
「ソフィア。おまえも明日早いんだろ。
片づけは雑用たちにまかせて帰るとよい」
「お気遣いありがとうございます」
ソフィアはお言葉に甘えて、宿に戻ろうとするが、
後ろ髪をひかれ、エレベータへ歩き出す。
エレベータのドアは完全にしまっており、
光さえ漏れていない。
ドアの向こうに楓がいるかすらも
分からない。だが、扉をノックし、
「カエデ~。お疲れ様~!」
そう言い頭を下げ、彼女は宿へと向かって行った。




