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6:真の聖女登場☆

 黒糖水を提出して負けようとしたら、相手が劇薬を作って自滅した。

 今日は、そんな平和な一日について語りたい


「おーっほっほっほ! お待ちなさい、偽物の聖女!」


 私が街の路地裏にある薬屋ガードランドの店で、やる気なく店番をしていた時のことだ。

 店内に響き渡る高笑いと共に、見事な金髪縦ロールの令嬢が乗り込んできた。

 縦ロールというかドリル、ツインドリルである。

 背後には従者のメイドたち。典型的な悪役令嬢さまのお出ましだ。


「……いらっしゃいませ。治療薬なら棚にありますよ」


「誰が客ですか! わたくしはクラーリス・シルバーベルグ! この街の領主の姪の従姉妹であり、真の聖女たる者ですわ!」


 クラーリスと名乗った彼女は、ビシッと扇子で私を指差した。


「貴女ですね? 怪しげな薬で民衆を騙し、聖女のふりをしている詐欺師は! わたくし、許せませんの!」


 おおっ……!

 私は素直に感動した。

 詐欺師!

 偽物!

 そう、その言葉を待っていたのよ!


 最近、どこへ行っても聖女様と拝まれて息苦しかったのだ。

 ここでこの人に負けて偽物認定されれば、堂々と隠居生活に戻れる!


「おっしゃる通りです、クラリス様! 私はただの無能です! では、私はこれで……」

「お待ちなさい! 逃しませんわよ! わたくしと治癒薬対決なさい!」


 そうクラーリスは鼻息荒く宣言した。


「明日の正午、広場にて! どちらが優れた薬を作れるか勝負です! 負けた方は、この街から出て行くこと。よろしいですわね!?」

「わかりました! 喜んで!!」

 

 若干食い気味に返事する私に、クラ―リスはやや引いて、つんと顎を反らした。

 負ける。

 絶対に負ける。

 泥水でも提出して、わたくし無能ですから……と、夜逃げのように街を出る。

 完璧。


 翌日の正午。

 中央広場は、野次馬で埋め尽くされていた。


「これより、聖女決定戦を行う!」


 審判役として司会進行しているのは、隣人だった。

 爽やかな笑顔で私に手を振ってくる。


「チェリさん、頑張ってください! 君の実力を証明する時です!」


 対戦相手のクラーリスは、最高級の錬金釜と、見るからに高価な素材を並べていた。


「ふふふふふん。わたくしが用意したのは、ユニコーンの角の粉末、炎竜のうろこ、そして……マンドレイクの絞り汁! これらを混ぜ合わせれば、伝説を越えたの超伝説の霊薬ができるはずですわ!」


 待って……その組み合わせ、錬金術の指南書なら、絶対にやるなって赤字で書いてあるやつよね?

 胡乱な記憶をたどるために、心の恥ずかしい備忘録を捲るも、特記事項の記載は無い。

 ならいいか。

 一方で、私が用意したのは井戸水と黒糖。 

 これを混ぜて特製シロップです、と提出する予定だ。


「いざ、神妙に始め!!」


 めちゃくちゃ気合の入った掛け声と共に、対決が開始した。


「見ていなさい! この聖なる輝き!」


 クラーリスは豪快に素材を釜に放り込んだ。

 可燃性の炎竜のうろこに、一歩扱いを間違えたら劇物とやるマンドレイク汁を入れ、強火で加熱する。

 錬金術の基礎知識があれば、絶対にやらない自殺行為だ。


 ぽへぽへぽへぽへぽへぽへぇ。

 彼女の釜からは、奇妙な音と共に茶褐色の危険な煙が立ち昇る。

 腐った卵と焦げた靴の底を混ぜたような悪臭が広場に充満した。


「お、おほほ! こ、これこそが聖なる香りですわ!」

「いや、どう見ても有毒では!?」


 私は慌てて自分の口元をハンカチで覆いながら、グラスの井戸水に黒糖を溶かし、その辺で拾った木の枝でカランカランと音を立てながら混ぜる。


「はい、できました」

「はっや!?」


 観客がざわつく中、私は茶色い液体を掲げた。


「ふん、そんな泥水のようなもので勝てると思って? さあ見てなさい、わたくしの秘薬の完成……きゃあっ!?」


 クラーリスの釜が爆発した。

 そして、煙の中から現れたのは、薬ではなかった。


「グギ……グギギ……ニク……ニクヲヨコセ……ワカイニク……ムスメノ……ニクヲ」


 釜の中身が化学反応を起こし、ドロドロのヘドロ状のスライムの亜種が爆誕してしまったのだ。

 しかも、炎竜のうろこが入っているせいで、本体が燃えている。

 クラ―リス何気に、闇の気配の素質あり?

 これは、負けてられない。


「ひいいっ! 何ですのこれえええ!?」

「クラーリス様、お下がりください!」


 アレクシオンが聖剣では普通の短剣を抜いて前に出るが、ヘドロ怪物は物理攻撃を無効化し、触手を伸ばして暴れまわる。


「逃げろぉぉ!」


 広場は大パニックになった。

 怪物はクラーリスを捕食しようと、ズルズルと迫る。


 あのバカ令嬢は何をやっているんだ。

 敵役の悪役令嬢のくせに、御粗末すぎる!

 私は舌打ちをした。

 このままではクラーリスは肉食スライム亜種に喰われて死ぬし、広場にいる人たちも危険だ。

 死人が出るのは寝覚めが悪い。


「く……仕方ない」


 私は手に持っていた黒糖水で満たされたグラスを構えた。

 正真正銘ただの砂糖水だが、投げる瞬間に、私の魔力をほんの少し――浄化の術式を乗せて――その時、古い記憶が蘇り舌が勝手に回り出す。


 三百年前、私が使っていた詠唱の型。


「クク……汚れた魂どもよ、今この手で――」


 あっ、やばい! また中二病出てきてる! と私は慌てて口を押さえたが、魔力が高まりすぎて止められない。


「――邪悪なる魂よ、我の掌の上で踊るが良い。清浄なる光に還れ! 『終末(フィニス)浄化(プルィフ)』!!」


 うわああああ恥ずかしいいいい!!

 

 ぱちゃ。


 私はグラスの中身を、醜いスライム亜種に向かってぶちまけた。

 かつて、不死者の軍勢の心を一撃で掌握した魔女王の浄化が、砂糖水を通して発動する。


 じょわじょわじょわあん。


『ぴギャァァァァ……キ、キレイニナッチャウ……』


 茶色い砂糖水を浴びた怪物は、断末魔と共に真っ白な光に包まれた。

 そして、光が収まると……そこには、美しい一輪の白薔薇が咲いていた。

 さっきまで人を喰らおうとしていたものとは、思えないほど静かに。

 魔物だけが有する悪意が浄化され、ただの植物に変換されたのだ。


 広場が静まり返る。


 今……『終末:浄化』って……言っちゃった……死にたい……。

 ただのお掃除魔法の方でもよかったじゃん……。


「……す、すごい」


 誰かが呟いた。


「魔物を、たった一杯の水で……花に変えたぞ!?」


 誰かが、続けた。


「『終末(フィニス)浄化(プルィフ)』だって! お、俺はいま奇跡をみている!?」


 わぁぁぁぁぁっ!! と爆発的な歓声が上がる。


 や、やめて。

 私が場を取り繕おうとするよりも早く、アレクシオンが私の腕を取って高々と掲げた。


「聖女チェリ様万歳!! 彼女こそが、邪悪なるモノを浄化し、生命を育む真の聖女だ! 『終末(フィニス)浄化(プルィフ)』という神々しい技名までご披露なされた!」


 やめて!

 技名にいちいち触れないで!!


「キーーーッ!  覚えてらっしゃい!!」


 クラーリスは煤だらけの顔で、捨て台詞を残して逃走した。

 残されたのは、歓声を浴びて死んだ魚のような目をしている私と、綺麗に咲いた白薔薇だけ。


 その夜。

 私はやけ酒を煽っていた。


「どうして……どうしてこうなるのよセバスティアン……恥ずかしくて外歩けない……」

「流石でございます、チェリ様。泥水を聖水に変えるなど、全盛期のヴェリタス様もびっくりの御業。そして『終末(フィニス)浄化(プルィフ)』という技名は、実にカッコよろしいかと」

「いちいち繰り返さないで! あんたも浄化するわよ!」


 私の剣幕に慣れているセバスティアンは、軽く肩を竦めただけである。


「しかし、あのクラリス嬢。捨て台詞を吐いておりましたが、おそらく次は何かしら嫌がらせをしてくるでしょうな」

「……え、面倒」

「ご安心を。この出来る執事セバスティアンめが、裏から手を回して、彼女の実家の脱税の証拠を王宮にリークしておきました。遅かれ早かれ失脚するかと」


「いや、仕事が早すぎるでしょ!? もうちょっと手加減してあげて!?」


 こうして、ライバルは自滅し、聖女爆誕疑惑が浮上し、さらに恥ずかしい中二病技名まで街中に知れ渡り、隠居への道はまた一歩遠のいたのだった。



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