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追放された無能令嬢。前世魔王だった黒歴史から卒業して、ひっそり隠居生活を送りたいのに、かつての部下たちまで復活してきて散々です  作者: 水月


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17:禁呪遺物と観測者☆ 前編

 ネクローゼが魔法学校の教師として採用され、全員が街に落ち着いた頃。


「絶対ろくな一日にならない気がする」


 理由は簡単だ。

 平飼い鶏の生みたて卵を割ったら、黄身が二つでてきたのだ。

 完全な危険信号である。

 人生の経験上、誰かにとっての幸運ぽい現象が我が身に起こると、必ず世界が余計なことをする。


「まあいいわ。今日は洗濯して、昼寝して、アレクシオン様と市場に買い出し行くって約束してるんだっけ――」


 安心安全安寧生活。

 静かに騒がずをモットーとしているのだけれども。


「チェリさーん!! 大変です!!」


 ドアを叩く音と共に、隣家の青年が転がり込んできた。


「今度は何? 鍋が爆発した? それとも鶏が空を飛んだ?」

「い、いえ! 普通に事件です! 町の人たちが次々と寝込んでて……!」


 アレクシオンの言葉に、思わず、スプーンを置いた。


「……具体的な症状は?」


「えっと、頭痛、寒気、倦怠感。あと、なぜか腰に巻いた布から変な音がするって」


「………………」


 脳内で、三百年前の黒歴史帳が自動的に開いた。


 腰……布……音……。


 嫌な予感が、確信に変わる。


「それ、どこで手に入れたって?」


「先日、外国から入って来た商船が持ち込んだみたいで、健康促進の魔導具、として無償で配られてて……」

「外国ってどこよ」

「神聖国アテネインの属領アルバイン島」


 私は思わず天を仰いだ。

 黄身二つの代償は、過去の禁呪遺物が日の目を見て一般人の手に渡ってしまった事だった。


「……あれを健康促進って分類したの誰……」

「まさか、チェリさん」


 ものすごく気の毒そうな顔でアレクシオンが私の顔を覗き込む。


 ちょっと!

 私、今、上向いてるんだけど!

 見下ろされたら、危ないじゃん!

 角度的に!!


 思わず、一歩後ずさると、アレクシオンの向こうで、温かい微笑を浮かべているセバスティアンを目が合った。



 そのまま町へ向かうと、惨状が広がっていた。


「うぅ……この腹巻き、あったかいけど……なんか呻くんだ……」


「昨夜、夢の中で世界の構造を理解しかけました……」


「それ理解しかけちゃダメなやつ!!」


 私は全力で突っ込んだ。

 町の中央広場に、問題の腹巻きが山積みになっている。


 グラシエル、フレイムベルグ、ネクローゼも駆けつけていた。


「チェリ様、これは」


 グラシエルが眉をひそめる。


「俺にも何か嫌な気配が」


 フレイムベルグが腹巻きに手をかけた。

 こら!勝手に触るんじゃない。


「この波動……確か……」


 ネクローゼが目を細めた。


 私は観念した。

 ――正式名称。

 万象最適化補助装置(試作品)。


 三百年前に、人類の生活をちょっと楽にしよう♪という軽いノリで作り、三日で封印した禁呪遺物である。


「なんであんなに残ってるのよぉ……」


 しかも今は、完全に腹巻き扱い。


「……落ち着け。誰も死んでないし。まだバレてない。たぶん」


 そっと手を伸ばし、指先で触れる。

 音にならない声で囁きを落とす。


「封印せし力よ、今こそ解き放て……いや違う、眠りにつけ! 永久:(アエテルナ・)封印(クラウデーレ)!」


 く、技名、言っちゃった。

 次の瞬間。

 ぽこぽん!

 元禁呪遺物が、ただの布へと変質する。


 町の人々は一斉に目を瞬かせた。


「あれ? 体が軽い」

「頭痛が消えたぞ!」

「世界の真理が逃げていった気がする……」


 それでいい。それで。


「たぶん……湿気てたのよ。古そうだし、誰こんなの引っ張り出してきたの」


「湿気で世界の真理が……?」


「あるある」


 その瞬間、アレクシオンが呟いた。


「……もしかして、チェリさんって……」


 私の背筋が凍りつく。

 いま、この場でその会話はノーモア!


「……すごく……健康運がいい人?」


「…………そう!! それ!!」


 私は勢いよく頷いた。


「私、昔からそうなの! たまたま! 本当にたまたま!」


「なるほど……」

「すごいな……」

「ありがたい……」


 納得していく町の人々に引き攣りながら笑みを返し、私は心の中でこっそり勝利の涙を流した。

 アレクシオンはまだ何かを言いたそうな顔をしていたけれども。


「チェリさんって、不思議で、やっぱりかわいいですね」


 そう言って、柔らかく微笑んだ。

 片手に、呪物から無害な腹巻きへと変質した布をぶらさげたまま。

 おねがい、それ持って帰らないで。

 


 セバスティアンが紅茶を淹れながら、ぽつりと言う。


「今日の件ですが」


「聞かないで」


「観測値に微細な揺らぎありという報告が、どこかへ送られたようです」


「観測って誰に……どこかってどこ」


「セバスちゃん1号2号はあまり知的会話能力が高くないので、私にもわかりかねます」


「それ使い魔としては致命的なんじゃ」


 思わずテーブルの上でクッキーを頬袋に詰め込むことに必死になっている、魔法生物の背中を突くと、バタッとその場に倒れた。


「死んだ!?」


「敵に遭遇した際、このように仮死状態になるんですよ」


「いや……使い魔として失格じゃない!?」


「ところで、チェリ様」


 セバスティアンが意味深に微笑んだ。


「――永久:(アエテルナ・)封印(クラウデーレ)

「やめて!! それは聞かなかったことにして!!」

「今日も世界は、無事に平和ですね」


 なお、その裏で「腹巻きで街を救った謎の聖女と騎士団支部長の関係について」という噂が、静かに広まり始めていたことを、当然、私はまだ知らない。




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