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追放された無能令嬢。前世魔王だった黒歴史から卒業して、ひっそり隠居生活を送りたいのに、かつての部下たちまで復活してきて散々です  作者: 水月


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13/27

13:聖剣説得大作戦☆

 三百年前に私の首を斬った剣が、今度は私の味方になってくれるらしい。

 ありがたい、かな。


 翌朝。  

 私は薬屋のカウンターで頬杖をつき、平和そのものの街並みを眺めていた。  

 元部下が次々と復活して中二病を披露するという濃密なイベントラッシュに見舞われたため、今日こそは何事もない一日であってほしいと切に願う。


「聖女様、いつもの傷薬をください!」

「はいはい、毎度あり〜」


 常連客とのやり取りも板についてきた。

 このまま静かに、平穏に時が過ぎればいい。  

 だが、私の平穏への祈りは、勢いよく開かれたドアの音によって呆気なく砕かれた。


「チェリさん! 大変です!」


 アレクシオンが、かつてないほどの慌てぶりで店に飛び込んできた。  

 息を切らし、顔色は蒼白。

 いつものポジティブオーラが完全に消え失せている。


「どうしたの? 魔物がまた出たとか?」

「違います! 聖剣が……カリバーンが!」

「聖剣がどうかしたの?」

「目覚めたんです! そして、暴走し始めて……!」


 私の背筋に、冷たいものが走った。  

 三百年前、私の首を物理的に落とした、あの聖剣が?


「まさか……」

「魔王の邪悪な気配がするって、家中で錆を撒き散らして大暴れしてるんです!」


 やっぱり。



 アレクシオンの邸宅に駆けつけると、そこは台風が直撃したかのような惨状だった。  

 高級そうな花瓶は粉々に砕け散り、カーテンはズタズタに引き裂かれ、羽根枕の中身が雪のように舞っている。  


 そして、応接室の中央で、抜身の白銀の直剣がブンブンと空を切っていた。

 錆びついた鞘を自力で剥がしたのか。


『魔王の気配がする! どこだ! どこに潜んでいる!』


 剣から響く声は、意外にも重厚な老人のそれだった。  

 だが、その殺意は本物。


「カリバーン、落ち着いてください!」  


 アレクシオンが必死に呼びかけるが、聖剣は聞く耳を持たない。


『黙れ小僧! 貴様、勇者の末裔たる自覚があるのか! 魔王の気配を感知できないほど鈍ったか!?』

「鈍ってません! というか、その気配の主は僕の友達なんです!」

『何!? 勇者の末裔が魔王と友達だと!? 世も末じゃ! 嘆かわしい!』


 カリバーンは憤慨し、さらに激しく回転を始めた。  

 もはや凶器のつむじ風である。  

 私は意を決して、一歩前に出た。


「……カリバーン」


 ピタリ。  

 私の声を聞いた瞬間、剣の動きが止まった。  

 切っ先がゆっくりと、私の方へ向く。


『その声は……まさか……』

「久しぶりね、カリバーン。三百年ぶりかしら」


 剣身が、殺気を孕んでギラリと輝いた。


『貴様ぁぁぁぁ! 魔王ヴェリタスぅぅぅ!!』


『よくも! よくも三百年前、私の刀身を欠けさせおって! 研ぎ直すのに百年かかったのだぞ!』  

 

 そこ!? 

 世界経済の崩壊とかじゃなくて!?


 カリバーンが弾丸のように突進してきた。


「待って待って! 話を聞いて!」  


 私は反射的に防御結界を展開する。

 甲高い金属音と共に、聖剣が弾かれた。


『ぬぅ……! 相変わらず生意気な障壁を……!』  


 カリバーンは空中で体勢を立て直すが、ふと動きを止めた。


『……む?』


 剣が、人間のように首を傾げるように揺れた。


『妙だな……貴様の魔力、三百年前のようなドロドロとした怨念がない。なんだ、この……風呂上がりのようなさっぱりとした気配は』


「それはね、私が変わったからよ」  


 私は警戒を解き、ゆっくりと剣に近づいた。


「カリバーン、聞いて。私はもう、世界征服なんて興味ないの」

『……なに?』


「今はただ、静かに暮らしたいだけ。美味しいお茶を飲んで、たまに小銭を稼いで、平和に生きたいの」


 カリバーンは沈黙した。  

 疑念の波動を感じる。


『……信じられん。貴様は三百年前――ククク……我が支配こそが世界の理、愚民どもよ平伏せ~~~、とか高笑いしていたではないか』

「言ってた! 言ってたけど! 思い出させないで!」


 私は顔を覆って叫んだ。

 過去の自分の言動が、最大の敵だ。


「でも、あれは若気の至りなの! 今は本当に反省してるの!」

『ふむ……』


 カリバーンはしばし考え込み、ふわりと地面に着地した。


『ならば……試してやろう。我が試練に挑むのだ』


「それはいいけど……試練って、何をすればいいの?」


『簡単だ。三つの問いに答えよ。貴様の魂の色を見極める』


 カリバーンが厳かに輝き始めた。


『まず一つ目の質問。貴様は今でも、世界を我が物にしたいと渇望するか?』

「しない。管理が面倒くさいし、固定資産税も馬鹿にならないもの」

『ふむ……妙に現実的だな。では二つ目。貴様は今でも、人間を下等生物だと侮蔑しているか?』

「してない。むしろ最近は、商魂逞しい八百屋のおばちゃんとか尊敬してる」

『ほう……意外と庶民派だな。では、最後の質問……』


 カリバーンが言葉を切った。  

 沈黙が流れる。  

 一秒、二秒、十秒。


「……カリバーン?」

『……三つ目は……えーっと……』

「えっ」


 聖剣が小刻みに震え始めた。


『すまん、ド忘れした』

「ええっ」

『いや、三百年も寝ていたからな、寝起きで頭がボーッとして……あれ、何を聞こうとしてたんだっけ……』


 アレクシオンが心配そうに覗き込む。


「カリバーン、大丈夫?」

『大丈夫だ小僧……ああ、思い出した。三つ目の質問は……えーっと……』


 また止まった。


『……やっぱり忘れた』

「おじいちゃん……?」


 私はなんだか、この伝説の聖剣が愛おしく思えてきた。


「カリバーン、無理しないで。ゆっくりでいいから」


『いや、聖剣としての威厳が……! ちゃんと試練を……』  


 カリバーンの声が、急速にフェードアウトしていく。


『……せねば……なら……ぬ……Zzz……』


 すとん。  

 聖剣が、床に倒れた。


『むにゃ……研ぎ石は……もっと目の細かいやつで……』

「寝た!?」  


 アレクシオンと私は顔を見合わせた。


「カリバーン、起きて! 良い所まできてますよ!」  


 アレクシオンが剣を揺すると『んあ!?』と飛び起きた。


『すまん、つい二度寝を……歳は取りたくないものだな』

「聖剣に寿命はないでしょ」

『精神年齢の話だ。……で、どこまで話したっけ?』

「三つ目の質問」

『おお、そうだった』  


 カリバーンは咳払いのような音を立て、改めて私に向き直った。


『問おう。貴様は、なぜ改心したのだ?』


 空気が引き締まる。  

 それは、核心を突く問いだった。


『三百年前、貴様は絶対的な力を持っていた。恐怖で世界を塗り替えることもできたはずだ。なのに、なぜ今は、そんなに無防備な顔で笑っている?』


 私は、窓の外の青空を見上げた。  

 そして、傍らに立つアレクシオンを見た。


「多分……寂しかったからだと思う」

『寂しい?』

「ええ。三百年前の私は、強かったかもしれない。でも、誰も私の隣にはいなかった。恐怖で人は縛れても、心は縛れなかったの」


 私は胸に手を当てた。


「今は違う。叱ってくれる執事がいて、呆れながらも付き合ってくれる仲間がいて、そして……こうして信じてくれる人がいる。 世界征服なんかより、みんなでお茶を飲む時間の方が、ずっと尊いって気づいたの」


 カリバーンは、静かに私の言葉を聞いていた。  

 やがて、その刀身が柔らかく、暖かな光を帯びた。


『……なるほどな』  


 納得したような、優しい響きだった。


『貴様の魂、確かに見届けた。今の貴様は、討伐すべき相手ではない』

「うん」

『貴様は……守るべき……ただの……心優しき娘……Zzz……』


 また寝た。


「カリバーン! いいところだったのに!」


 それから三回ほど寝落ちと起床を繰り返し、ようやく聖剣は覚醒した。


『ええい! 結論を言う!』  


 カリバーンがビシッと浮遊する。


『今日から、貴様の守護剣となる!』

「え、なんで?」

『三百年前は貴様の首を斬ったが、今度は貴様を守るためにこの刃を振るおう! それが、新時代の聖剣の在り方だ!』


 かつての処刑人が、最強のボディガードになった瞬間だ。

 まあ、ものすごく微妙な気持ちなんだけど。


「ありがと、カリバーン」

『礼には及ばん。これも、時代の……流れ……という……むにゃ……』


 四回目。  

 私はもうツッコむのも面倒くさい。  

 アレクシオンは、大人しくなった聖剣を抱え、安堵の表情で微笑んでいた。



 その夜、既に集会所となっている我が屋敷のリビングには、イツメンが顔を揃えていた。


「あの聖剣が味方になったって本当か!?」  


 フレイムベルグが、少年のような目でいまだ睡眠中のカリバーンを見つめている。


「ええ。ただし、燃費が悪いというか、稼働時間が極端に短いのだけど」

「おじいちゃんですね」  


 ネクローゼが苦笑する。


「しかし、これで役者は全て揃いましたな」  


 セバスティアンが、人数分のティーカップに紅茶を注ぎながら言った。


「伝説の聖剣まで加わって。卒倒するような組み合わせです」

「違いない」  


 グラシエルが氷のグラスを傾ける。

 

 かつては殺し合った敵同士。  


「ねえ、みんな。ありがとう。こんな面倒くさいことに付き合ってくれて」


「何を仰います、チェリ様」  


 グラシエルが優雅に微笑む。


「面倒くさいのは、我々の方こそでしょう」

「まったくだ! 俺なんて火事ばかり起こすしな!」  


 フレイムベルグが豪快に笑う。


「僕も、チェリさんの役に立てるなら何でもします!」  


 アレクシオンが力強く頷く。


「さあ、乾杯しましょう。我々の奇妙で、最高な新生活に」


 グラスが触れ合う音が、夜の静寂に溶けていく。


 その時、感極まった私の口が、またしても勝手に動いた。


「集いし絆よ、久遠の彼方まで――」


 あっ、またポエムが!


「――つ、続きますように!」


 無理やり、普通の言葉で締めた。  


「チェリ様、やっぱり出ますね」

「可愛らしいです」

「もう慣れましたよ、その発作も」


 私はやけくそで杯の中身を飲み干した。



◇◇◇

私の作品を読んでくださり、ありがとうございます♪


お話の続きが気になる!面白いかも!?と少しでも思っていただけましたら

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今後の執筆活動の励みになりますので、

なにとぞ、よろしくお願いいたします(,,ᴗ ᴗ,,)ペコリ

◇◇◇

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