表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放された無能令嬢。前世魔王だった黒歴史から卒業して、ひっそり隠居生活を送りたいのに、かつての部下たちまで復活してきて散々です  作者: 水月


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/27

12:虚無の策士☆ 後編

「アレクシオン様、危ない!」

「死にますよ!」


 私とネクローゼが同時に叫んだ。

 アレクシオンは錆びついた聖剣カリバーンを地面に突き刺し、その聖なる波動で私たちの魔力を強引に中和させた。


「はぁ……はぁ……。二人とも、何やってるんですか!」


 アレクシオンは、私たちを交互に睨みつけた。

 いつもの爽やかな笑顔はない。本気で怒っている。


「え?」


「どっちもすっごくカッコいい、派手な魔法を使ってますけど……全然楽しくなさそうじゃないですか!」


 アレクシオンは、両手を広げて訴えた。


「チェリさん、あなたは穏やかな隠居生活がしたいんですよね? なのに、なんでそんな悲痛な顔でビーム撃ってるんですか!」


「そ、それは……」


「ネクローゼさん、あなただって、チェリさんのために世界征服をしようとしてるんですよね?」


「……その通りです。それが私の忠義」


「なら、話し合いましょうよ! 殺し合う必要なんてないじゃないですか!」


 アレクシオンの、あまりに真っ直ぐで、あまりに正論な言葉。

 私とネクローゼは、毒気を抜かれたように魔力を霧散させた。

 ネクローゼは、呆然とアレクシオンを見ていた。


「……話し合い、だと?」


「そうです! グラシエルさんもフレイムベルグさんも、話し合ったらすぐ仲間になってくれたじゃないですか!」


「しかし、私は絶対悪としての役割を果たさねば……」


「ネクローゼさん、本当はチェリさんが大切なんですよね?」


 アレクシオンの問いに、ネクローゼは言葉に詰まり、視線を泳がせた。

 そして、小さく呟いた。


「……ええ。誰よりも」


「なら、チェリさんの望みを尊重してあげてください」


 アレクシオンは、聖母のような慈愛に満ちた笑顔を向けた。


「それが、本当の忠誠ってやつじゃないですか?」


 この天然ポジティブ勇者には、どんな魔王も敵わない。

 ネクローゼは、パタンと魔導書を閉じた。


「……参りました」


 彼は深くため息をつき、私の前に膝をついた。


「勇者の末裔に説教されるとは。……完全に計算外でした」


「ネクローゼ……」


「三百年前、貴女は優しすぎて、結果的に自分を追い詰めた。今回も同じになるのではと、私は過保護になりすぎていたようです」


 ネクローゼは、憑き物が落ちたような顔で微笑んだ。


「でも、貴女には今、仲間がいる。それも、勇者の末裔という最強の光まで」


 彼はアレクシオンを一瞥した。


「これなら……もう私の絶対悪など不要ですね」


 私は、ネクローゼの肩に手を置いた。


「ありがとう、ネクローゼ……心配してくれて」

「いえ……私こそ、独りよがりな演出で、貴女様を困らせてしまいました」

「じゃあ、これからは一緒に平和に暮らしましょう?」


 ネクローゼは、ゆっくりと頷いた。


「……承知しました。では、私も何か仕事を探すとしましょう」

「魔法学校の教師などはいかがですか?」


 セバスティアンがすかさず提案した。


「貴殿の膨大な知識と、その()()()()()()()()()()調()なら、生徒たちに人気が出るでしょう」

「……教師。悪くない響きですね。検討します」


 ネクローゼは立ち上がり、ふと何かを思い出したように私を見た。


「ところで、チェリ様」

「何?」


「先ほどの『終焉(フィニール・)浄化・(プルィフ・)極大版(マキシマム)!!』……」

「……うん」

「語呂も良く、特殊効果も最高でした。流石です」

「やめて!!」


 その夜。

 私たちの屋敷に、全員が集まっていた。

 グラシエル、フレイムベルグ、ネクローゼ、セバスティアン、アレクシオン、そして私。

 かつての敵味方が入り乱れた、奇妙な晩餐会だ。


「乾杯!」


 グラスが触れ合う音が、心地よく響く。


「それにしても、ネクローゼさんの魔法すごかったですね!」


 アレクシオンが目を輝かせて話題を振る。


深淵(アビザル・)虚無(ヴォイド・)大災厄(カタストロフィ)! 響きがカッコいいです!」


 ネクローゼは顔を覆って悶絶した。


「三百年間ずっと練り上げていたのです……究極の魔法名を……」


「分かるわ……!」


 私は思わず深く共感し、彼の手を握った。


「私も『終焉浄化・極大版』のネーミング、三日は悩んだもの……! なんか・極大版がいまいちしっくりこないんだけど」


「チェリ様とネクローゼは、やはり似ていますね」


 グラシエルが薄く微笑む。


「昔からそうだったぞ。二人で変な作戦名やら技名を考えては、拙者たちに披露してた」


 フレイムベルグがニヤニヤしながら暴露してくれる。


「作戦名:運命の軛よ、今こそ断ち切れ!とか」


「やめろぉぉぉ!!」

「やめてぇぇぇ!!」


 私とネクローゼの絶叫が重なった。

 アレクシオンは、そんな私たちを見て、本当に楽しそうに笑っていた。


「皆さん、本当に仲が良いですね」

「良くない! これは拷問よ!」


 セバスティアンが紅茶を注ぎながら、満足げに呟いた。


「これで、元魔女王軍幹部四天王は全員揃いましたね」


「そうね……」


 私は、騒がしい仲間たちの顔を見回した。


 氷結の騎士グラシエル。

 紅蓮の戦鬼フレイムベルグ。

 虚無の軍師ネクローゼ。

 死霊の操者ザガン(セバスティアン)


 そして、勇者の末裔、アレクシオン。

 世界を滅ぼしかけた魔王軍と、世界を救うべき勇者が、同じテーブルで笑い合っている。


「不思議な光景ね」

「ですが、悪くありません」


 ネクローゼが、穏やかな表情でグラスを傾けた。


 私は思った。

 隠居生活は破綻しかけていたけれど。

 この騒がしくて、恥ずかしくて、温かい日常も……まあ、悪くはないかもしれない。


 窓の外では、月が綺麗に輝いていた。

 私の黒歴史さえも優しく照らすような、穏やかな夜だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ